国土交通省
 I 東京圏の現状と将来展望
ラインBack to Home

1 東京圏の現状

 (1)社会経済の現状

 東京圏は、政治、経済、文化等の面で我が国における中心であるとともに、世界の中でも中枢的な役割を担っている。この東京圏においては、戦後の復興期から高度経済成長期に人口及び諸機能が著しく集中し、東京中心部への一極依存構造を有する巨大な都市圏が形成された。諸機能の集中に伴う過密は、増大する人口の外延化等と相まって、通勤混雑、長時間通勤、交通渋滞、環境問題等の大都市問題を引き起こしてきた。
 そこで、東京圏においては、これらの大都市問題に対応するため、東京中心部における諸機能の過度な集中を是正し、その適正な配置を図る必要があるとの認識のもとに、副都心や自立性の高い地域の形成に向けて横浜・川崎、浦和・大宮、千葉等の業務核都市等の拠点整備に取り組んできたところである。これら業務核都市等の整備については、今日までに一定の効果を上げているが、その一方で、近年は、一部に業務機能等の東京中心部への回帰の動きもみられるところである。

 (2)人口の現状

 東京圏の夜間人口について、第7号答申では、高度経済成長期に比べ増加が鈍化傾向にあること、東京中心部においては減少が顕著であること等の認識の下に、1980年(昭和55年)の約2,968万人から2000年(平成12年)は14%増の約3,370万人になると予測し、地域別には、千葉県、埼玉県及び茨城県南部の人口の伸びが顕著で、これらの地域で圏域全体の増加数の約80%に当たる約320万人の増加を予測していたところである。
 一方、東京圏の夜間人口は、この間における国際中枢都市としての社会経済活動の活発化等により、1995年(平成7年)の時点において既に約3,407万人と第7号答申時の予測を上回っている状況にあり、また、地域別には、神奈川県、埼玉県及び多摩地域における増加率が当時の予測を上回っており、依然として人口の外延化傾向が進んでいる状況にある。なお、東京都区部では、近年の住宅価格の下落等もあり、わずかではあるが流入超過傾向にある。

 (3)鉄道輸送の現状

 東京圏においては、これまで第7号答申に基づき着実な鉄道整備が進められており、鉄道利用者の利便性向上や都市機能の強化等に大きな成果が得られているところである。一方、通勤・通学目的の都区部への流入等に係る鉄道利用者数は、夜間人口の増加等により、第7号答申時点の予測を上回る結果となっている。このため、東京圏の鉄道ネットワークは相当程度概成しつつあるものの、その鉄道サービスについては、以下のような問題がある。
 東京圏の主要31区間(注1)のピーク時1時間当たりの平均混雑率は、各鉄道事業者による輸送力増強への取組み等により、1985年(昭和60年)の第7号答申時の212%から1998年(平成10年)の183%にまで改善されている。しかし、1992年(平成4年)の運輸政策審議会第13号答申で大都市圏における長期的な目標とされている150%(注2)はもとより、第7号答申における目標である180%(注3)にも達していない状況にある。また、個別路線ごとにみると、比較的混雑率が改善されている路線がある一方で、依然として混雑率が200%(注4)を上回る路線が多数あり、混雑状況の二極分化が進んでいる。
 東京圏の夜間人口が引き続き外延化していること等により、鉄道を利用した通勤・通学の平均所要時間は増加傾向にある。また、路線の中にはピーク時において線路容量の限界に近いダイヤを設定しており、ピーク時の表定速度が著しく低下するとともに、ダイヤが乱れた場合の回復に長時間を要する等の問題がある。
 広域連携拠点である業務核都市等に係る鉄道サービスが十分でない場合や、鉄道利用が不便な地域が存在している。
 空港、新幹線等へのアクセスについては、所要時間、乗換回数等の面において、利便性が十分に確保されていない地域が広範囲にわたっている。
 東京圏においては、稠密な人口及び土地利用の下に、多数の事業者により多様な交通モードによる交通ネットワークが形成されているが、乗換回数が多い等、鉄道相互の乗継ぎ利便性は必ずしも十分ではない。

(注)1  主要31区間: 運輸省において昭和30年から継続的に混雑率の統計をとっている東京圏の主要な混雑区間。
 混雑率150%: 肩が触れ合う程度で、新聞が楽に読めるような状態。
 混雑率180%: 体が触れ合うが、新聞は読める状態。
 混雑率200%: 体が触れ合い相当圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読めるような状態。


2 東京圏の将来展望

 (1)社会経済の将来展望

 今後の東京圏においては、高齢化の進行、国民の価値観の多様化、グローバル化の進展といった社会経済情況の変化や地球環境問題の解決が国際的な課題になっていること等を踏まえ、高齢者や女性の雇用をはじめとする社会参加の促進等による活力ある社会の実現や、国際的に十分な水準を有し、かつ、環境負荷の小さい都市基盤の整備等を目指すとともに、ゆとりや快適性の重視、時間価値の高まり、地域間の連携・交流の拡大等に適切に対応していくことが重要になると考えられる。
 また、東京圏の地域構造については、1999年(平成11年)3月に決定された首都圏基本計画において、東京中心部の一極依存構造の是正を図り、東京中心部と近郊地域が適切な機能分担と連携のもとに都市機能の再配置を進めることにより「分散型ネットワーク構造」を目指すこととしている。このため、東京中心部では都市再開発等による居住機能等の回復も含めた都心部の再編整備とともに、新宿、渋谷、池袋、錦糸町、臨海副都心等の副都心機能の充実により多心化等を図ることとし、また、近郊地域では、広域連携拠点となる横浜・川崎、浦和・大宮、千葉等の業務核都市を業務、商業、居住等の機能がバランスよく配置された自立性の高い地域として重点的に育成・整備することにしている。

 (2)人口の予測

 東京圏の夜間人口は、2010年(平成22年)頃にピークを迎えた後減少に転じ、2015年(平成27年)においては1995年(平成7年)に比べて、約4%増の3,535万人となると見込まれる。これを都県別にみると、東京都区部においては約8%減少、多摩地区は約4%の増加となり、また、周辺各県においては神奈川県約5%増、埼玉県約12%増、千葉県約7%増、茨城県南部約10%増と、いずれも夜間人口は増加すると見込まれる。これを年齢階層別にみると、65歳以上の高齢者の割合は1995年(平成7年)において約12%であったが、2015年(平成27年)には、これが約24%に増加し4人に1人は高齢者という高齢社会が急速に到来する。
 このような高齢化の進展によって15歳から64歳までの生産年齢人口は減少するが、女性や高齢者の就業人口が増加するため、東京圏全体の就業人口は現在とほぼ同程度の1,801万人と見込まれる。また、就学人口は、少子化傾向を受けて大幅に減少すると見込まれる。

(付表1)

 (3)鉄道輸送需要の予測

 2015年(平成27年)における東京圏の総交通流動を1995年(平成7年)と比較すると、通学は1日当たり120万人減少するものの、通勤が1日当たり61万人増加すること、私事が1日当たり65万人増加すること等により、全体では1日当たり8,921万人となり1995年(平成7年)に比べ微増になると見込まれる。
 総交通流動に占める鉄道流動の割合は、現在整備中の常磐新線の開業等に伴う鉄道ネットワークの充実等により、現在の約26%から2015年(平成27年)には約27%へと微増するため、1日当たり鉄道流動は、全体では1.5%増の2,369万人に、またピーク時混雑率と関連する鉄道利用による都区部への流入交通量は約6%増加して484万人になると見込まれる。なお、鉄道流動の予測に際し、少子高齢化、テレワークの進展等を考慮したが、鉄道流動量に与える程度は軽微であると見込まれる。
 一方、航空や新幹線といった幹線交通の利用旅客数は、今後とも順調な増加が予測され、2015年(平成27年)においては、1995年(平成7年)に比べて約35%増加の81万人になると見込まれ、これら幹線交通の拠点への鉄道によるアクセス需要も、これとほぼ同程度増加すると見込まれる。

(付表2)

 (4)東京圏の高速鉄道を中心とする交通体系のあり方

 東京圏の鉄道は、通勤・通学輸送の基幹的な交通機関であるとともに、豊かで快適な都市生活を営む上で、また首都圏及び国際的な中枢都市としての機能を支える装置として、さらには、環境負荷が小さく、安全な交通体系の形成という観点からみても、基幹的かつ必須の交通機関である。
 前述のとおり、東京圏の鉄道ネットワークは相当程度概成しつつあるものの、通勤・通学時の混雑緩和、速達性の向上、都市構造・機能の再編整備等への対応、空港・新幹線等へのアクセス機能の強化、乗継ぎ利便性の向上等、早急な対応を求められている課題はなお多くある。
 また、鉄道においては、今後の人口の急速な高齢化の進展等に対応して、利用者の相当数を占めることとなる高齢者等のニーズに適切に対応することにより、その積極的な社会参加等を支援し、活力ある社会を実現する必要がある。そのためには、鉄道駅等のバリアフリー化を促進すること等により、高齢者、障害者等が安心して、快適に利用できるよう措置していくことが必要であり、このことは同時に全ての利用者にとっても質の高い公共交通サービスが確保されることを意味している。
 このように、これからの鉄道サービスに対する期待は、高齢社会の急速な進展や近年における国民の価値観、生活様式の大きな変化等を背景に、その量的な充実に加えて利用しやすさの質的向上に重点が置かれるものと考えられる。特に、国際中枢都市である東京圏においては、グローバル化が進展する中で、国際的にみても魅力ある都市環境の整備が求められているが、ラッシュ時の混雑状況、空港等へのアクセス状況等をみると必ずしも十分なサービス水準にあるとはいえず、その面からも、鉄道サービスの質的向上を図ることが重要な課題となっている。
 さらに、1997年(平成9年)の気候変動枠組条約第3回締約国会議において採択された京都議定書を受け、我が国の二酸化炭素の総排出量の約2割を占める運輸部門においても、2010年度(平成22年度)までに1990年度(平成2年度)比で約40%もの排出量の伸びが予測されるところを17%の伸びに抑えることが必要となっており、そのためには二酸化炭素排出量やエネルギー消費効率面で極めて優れた大量公共交通機関である鉄道を中心とした公共交通機関の利用促進を図ることがますます重要となっている。
 また、近年、地球環境問題への対応、道路交通混雑の緩和等の観点から、規制的な手法を含め道路交通を需要面から管理しようとする「交通需要マネジメント(TDM=Traffic Demand Management)」への関心が急速に高まってきており、鉄道等の公共交通機関は、その際の受け皿として、積極的な役割を果たすことが期待されている。
 東京圏においては、これらの諸課題に適切に対応するため、長期的な展望に立った鉄道の整備を推進することにより、効率的かつ利便性の高い高速鉄道を中心とする交通体系の形成を図る必要がある。

ライン
All Rights Reserved, Copyright (C) 2001, Ministry of Land, Infrastructure and Transport