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移転先地の選定基準

新首都はどこへ。古くは明治時代より折りにふれて提起されてきたテーマであり、特に昭和30年代以降は、具体的な地名を挙げて議論されたこともあった。しかし、これらの首都機能移転の議論が結果的に実現まで至らなかったのは、首都機能移転の是非やその内容を議論する前に、地名を挙げられた地域の善し悪しが議論の中心となり、また、東京と地名を挙げられた地域以外では関心も薄く、全国民レベルに浸透した議論とならなかったことや、現実的な移転のプログラムについての議論が少なく、あたかも空中都市のように一夜にして別の都市に首都機能が移転するかの如く考えられていたことなどが原因であろうと考えた。そこで当調査会では、移転先地の議論の前に、今なぜ首都機能移転が必要かという首都機能移転の意義と効果、新首都に移転する機能の範囲と移転のプログラム、都市としての新首都のビジョンと都市づくりの手法など、首都機能移転に関する普遍的な事項の議論を行い、これ以上は具体的な移転先地が想定されなければ詰めることができないというところまで、議論を深めてきたところである。
そして、再び新首都はどこへ。「国会等の移転に関する法律」第7条では、移転先地の選定に関して、次の点に配慮することとされている。

  • 災害に対する安全性
  • 地形の良好性
  • 水の供給の安定性
  • 交通の利便性
  • 土地取得の容易性

当調査会では、これらの事項のプライオリティや新たに加味すべき事項を検討し、次なる具体的な移転先地の選定作業に円滑に移行できるよう、可能な限り具体的な選定基準づくりを試みた。
まず、新首都づくりの基本理念とその都市像、移転のプログラム等の観点から、新首都の立地に関して求められる基本的基準として、次の5項目を考えた。

  1. 開かれた新首都--成熟した民主主義社会における国民の参加という観点から、日本列島上の位置に関し、配慮すること。
  2. 政経分離--東京との機能分担と連携が必要であること、また、建設段階において比較的長期間、東京と二都構造となるという観点から、東京とは一定の距離を置きつつも、連携の確保できる位置であること。
  3. 国際政治都市--国際社会への能動的貢献の場という観点から、国際的な空港が確保できる場所であること。
  4. 緑の中の小都市群--「国会都市」を中心に、小都市群が豊かな自然的環境の中に展開する新しい都市形態という観点から、広大な用地の迅速かつ円滑な取得が可能であること。
  5. 危機管理--首都機能の危機管理と国の災害対応力の強化という観点から、地震等の壊滅的な災害に対する安全性があること。

さらに、新首都の都市づくりに関して特に考慮すべき基準として、次の4項目を考えた。

  1. その他の自然災害に対する安全性に配慮すること。
  2. 地形等の良好性に配慮すること。
  3. 水の供給の安定性を確保すること。
  4. 既存都市との適切な距離に配慮すること。

1.新首都に求められる基本的基準

(1) 開かれた新首都--成熟した民主主義社会における国民の参加という観点から、日本列島上の位置に関し配慮すること。

新首都は、わが国の歴史上の首都(政治の中心地)が為政者の交替に伴い、国土の統治と威信の象徴として建設されてきたのとは異なり、初めて、成熟した民主主義社会の下で、より公正・透明な新しい政治・行政システムへの変革と、一極集中的な国土構造の改編を目指して建設されるものであり、新時代にふさわしい国民に開かれた新首都像が求められている。

新首都は、全国の人々の交流の場であり、国政に参加し直接見聞することができる場、新しい多様な文化を創造する場とすべきことを考慮すると、国内のより多くの地域から容易に来訪できる場所であることが望ましく、新首都の日本列島上の位置について、配慮する必要がある。このようなことから、国内各地から新首都へアクセスする時間や費用などに極めて大きな不均衡が生じる場所へ移転することは、国民的なコンセンサスの形成という点で問題があると考える。

(2) 政経分離--東京との機能分担と連携が必要であること、また、建設段階において比較的長期間、東京と二都構造となるという観点から、東京とは一定の距離を置きつつも、連携の確保できる位置であること。

政治・行政機能をはじめ、経済機能やその他の諸機能が極度に集積した東京圏から離れた場所に、政経分離を目指した新しい政治・行政都市を建設し、21世紀へ向けた国政全般の改革や国土構造の改編への契機とすべく首都機能の移転を行うことに鑑み、東京圏から日常的に通勤が可能となるような範囲や、また、新首都の圏域が東京圏と連坦した圏域を形成するような範囲に移転したのでは、移転の効果が十分に発揮できないものと考えられる。

一方、新首都の建設段階で、比較的長い期間にわたって、新首都と東京に分立する首都機能の円滑な運営を確保する必要があること、その後も政治・行政の拠点としての新首都と経済・文化の拠点としての東京が並立し、相互の機能分担と連携の確保が必要であることなどを考慮すると、新首都と東京との間の距離は、日帰りで十分用務を果たせる範囲であることが必要である。

ところで、現在の国会や中央省庁等には、毎日約10万人の来訪者が訪れており、このうち現在の首都圏内からだけでも約7万人の来訪者がある。首都機能の移転による政経分離、地方分権などの進捗に伴い、来訪者の数が大幅に減少することは予想されるものの、相当数の来訪者が現在の首都圏から新首都を訪れることになり、この輸送力を空路のみで定常的に確保することは困難とみられるため、新首都と東京の間の主たる公共交通機関としては、鉄道を利用することが望ましいと考える。

鉄道による日帰り可能範囲については、東海道新幹線の開通以来、東京〜新大阪間の約3時間が社会通念として定着しているが、モーレツな仕事ぶりが必ずしも歓迎されない現代社会において、先方で十分に時間的余裕をもって執務できる範囲としては、新幹線等の乗車時間は2時間程度までが適当であり、その距離は現在では概ね300km(キロメートル)程度である。

災害や事故等により、鉄道や道路等のルートが途絶した場合も想定し、新首都と東京を結ぶ交通ルートは、相互に代替できる複数のルートを選択できる必要がある。また、複数の交通機関が選択できることも必要である。例えば、概ね300km(キロメートル)程度の距離であれば、日常的には主として鉄道を利用するとしても、目的に応じて、自動車利用も可能な範囲である。

さらに、「国会等の移転に関する法律」第1条により、国会等を東京圏(概ね60km(キロメートル)圏)以外の地域へ移転させることを前提としていることから、新首都と東京の距離は、概ね60km(キロメートル)から300km(キロメートル)程度の範囲であることが適当である。ただし、この範囲内にある地域についても、新首都が建設された場合、その圏域が東京圏と連坦した圏域を形成する可能性の高い地域は避けることが望ましい。

新首都の建設は、第一段階として、建設開始から10年程度を目途に、国会の移転とともに最初の街びらきを行うこととされていることから、新首都と東京の間の主たる公共交通機関は、今後10数年以内に確実に供用開始が見込まれることが必要である。

(3) 国際政治都市--国際社会への能動的貢献の場という観点から、国際的な空港が確保できる場所であること。

新首都の空港は、国際政治都市の玄関口として、各国元首等の専用機などが離着陸するため、特に航続距離の長い欧米主要各国への便にも対応できる規格の滑走路を備える必要がある。

新首都の街びらきにおいては、日本の新首都を全世界に披露し、国際交流の場を世界に提供するイベント等が行われることが予想され、また、国内遠隔地からも空路が主たるアクセスルートになることから、新首都の空港を、新首都の第一段階の街びらきに合わせて供用開始できることが必要である。

空港の整備は、新首都の場所により、既存の国際空港を利用する場合、既存あるいは計画中の空港を拡張して利用する場合、空港を新設する場合が考えられるが、いずれの場合にも、そのアクセスルートも含め、今後10数年以内に確実に供用開始が見込まれることが必要である。

また、都心部から空港までの所要時間は、各国の主要空港の多くが20〜40分程度であることから、新首都の空港も、都心を出発して概ね40分以内で到達できる範囲にあることが望ましい。

(4) 緑の中の小都市群--「国会都市」を中心に、小都市群が豊かな自然的環境の中に展開する新しい都市形態という観点から、広大な用地の迅速かつ円滑な取得が可能であること。

新首都は、国会等が立地する「国会都市」を中心に、豊かな自然的環境の中に小都市群が展開しているという、20世紀の都市とは全く異なる、人と自然とが近接している都市像を描いている。

新首都の開発面積は、第一段階だけでも約2,000ha(ヘクタール)と想定されている。さらに最終的には、段階的に整備された小都市群を合わせると、最大限人口60万規模を擁する都市群を形成することが可能な広大な開発適地が存在することが必要であり、すべて新規に開発する場合、その合計面積は最大9,000ha(ヘクタール)程度と想定されている。特に、第一段階の約10年間で国会の移転と新首都の街びらきを実現するためには、これらの用地の円滑な取得が極めて重要なポイントであり、また、土地取得の過程で生じるおそれのある土地投機を防止し、移転先の地域社会との調和や、従前の土地所有者の生活に与える影響を極力少なくすることを配慮すれば、土地利用の密度が低く、可能な限りまとまった規模の国公有地等が活用できることが望ましいと考える。

(5) 危機管理--首都機能の危機管理と国の災害対応力の強化という観点から、地震等の壊滅的な災害に対する安全性があること。

首都機能自身が被災した場合、応急対策の指揮・統括機能に支障が生じるばかりか、長期間にわたって内外の社会経済に大きな混乱をきたすおそれがある。

都市活動に支障を与える自然災害に対しては、可能な限り回避、克服する努力をすべきであるが、その中で、特に広域的に壊滅的な被害をもたらすおそれがあり、かつ人知で克服できない要素を多く持つ、地震、火山等の災害については、移転先地の選定段階から配慮すべき要件であると考える。

新首都を、地震、火山等の大規模な災害に対して安全性の高い地域、東京と同時に被災する可能性の少ない地域に建設することは、国土の安全性を高めると同時に、万一東京が被災した場合の混乱を防止し、立ち上がりを早め、東京の安全性の向上へも寄与するものと考える。

地震災害に対しては、今後、地震予知や耐震設計等の技術の進展は期待できるものの、未だに人知を超える部分は多く、また、日本国内では地震に対して100%安全なところは皆無といっても過言ではないが、移転先地の選定に当たっては、大規模な地震が発生した場合に著しい地震災害が生じるおそれが強い地域は避けること、東京と同時に被災する可能性の少ない地域であることが必要である。さらに、新首都自体が壊滅的な被害に至らぬよう、各小都市の間に適切な間隔を設け、広範囲に連坦した市街地の形成を防ぐことが必要である。

わが国には、離島部を除き、約50の活火山がある。火山の性質は、個々の山体により著しく異なるため、類型化は難しいものの、過去の噴火記録などによると、溶岩流や火砕流、山体崩壊などにより、人命に直接かかわるような被害を受ける可能性のある区域は限られており、こうした壊滅的な災害が予測される区域は避ける必要がある。

2.新首都の都市づくりに関して考慮すべき基準

(6) その他の自然災害に対する安全性に配慮すること。

わが国では、台風、豪雨などによる水害や土砂災害等の自然災害により、毎年多くの人命・財産が失われている。新首都には、国内各地や海外からも毎日多数の来訪者や滞在者が想定され、またその都市活動も、高度に発達したライフライン、情報通信システム、交通機関等に支えられており、そこで一旦災害が発生すると、たとえ一時的、局所的なものであっても、従来の自然災害とは様態の異なる都市型災害として連鎖的に拡大する危険性を有している。

新しく建設される新首都においては、今後の防災技術等の向上により、ある程度の災害は回避、克服することが可能となろう。また、新首都の圏域の中に局所的に危険な区域が存在したとしても、そこを避けて都市を建設することも可能であろう。災害により都市活動に著しい支障を生じないよう、十分に配慮する必要がある。

(7) 地形等の良好性に配慮すること。

新首都の建設のための造成工事や、そこへ至るアクセスルート等の建設工事の工期やコスト等を考慮すれば、極端に標高の高い山岳部や急峻な地形の多い場所は避けることが必要である。

なお、わが国の都市の中心部の標高の事例としては800m(メートル)を超える例は無く、また、造成前の土地の平均勾配としては、一例として、地域振興整備公団の中核工業団地造成事業において、各団地の平均勾配が、概ね8%台以下となっている。

景観は、首都機能の円滑な運営や、安全かつ機能的な都市活動という観点からは第一義的なものではないと考えられる。しかし、山紫水明の自然景観を誇るわが国が建設する新首都として、また、自然的環境と共生する新時代の都市の景観として、いわば一国の応接室としてもふさわしい景観にも配慮する必要がある。

(8) 水の供給の安定性を確保すること。

人口約60万の都市群の出現は、地域によっては、水の供給に大きな変容を与えかねない。渇水は、都市の日常生活に大きな支障を与えるだけでなく、水系を共にする農業や工業などの産業に与える影響も大きい。今後、水のリサイクル等の技術の導入も期待され、節水型の都市の建設を目指すことは、新首都だけではない普遍的な課題であるが、少なくとも、ある地域に総人口60万の都市群が出現したと仮定した場合、その地域の水需給が、現在の首都圏の水需給より逼迫(ひっぱく)するおそれのある地域は避けることが必要である。

(9) 既存都市との適切な距離に配慮すること。

新首都が、自然的環境の中に小都市群が展開する都市形態をとるとすれば、都市的な開発区域のほかに、従前の自然的景観や土地利用と共存する区域を確保する必要がある。これらを考慮すれば、新首都の圏域は、総人口約60万を前提として、数百km2(平方キロメートル)(数万ha(ヘクタール))の大きさになると想定される。

この圏域の中や、これに接して既存の市街地が存在する場合は、既存の都市集積と新首都の集積が相乗してスプロールが拡大するおそれがあるため、政令指定都市級の大都市の圏域からは、相互に影響を及ぼさないよう十分な距離を保つことが必要である。一方、新首都の近傍にその他の中規模な都市が存在する場合は、新首都の建設段階や街びらき後の初期の段階に移転してきた居住者の生活の利便と楽しさなどを考慮すれば、相互に連続して一体となった市街地を形成しない範囲で、母都市としても依存できることが望ましい。また、小規模な都市や集落が、新首都の圏域の中に存在することは、新首都が日本国内のどこへ立地したとしてもあり得るであろう。

こうした既存都市と新首都との位置関係については、個別の条件について十分検討する必要がある。

1から9までの9項目の選定基準を掲げたところであるが、東京からの距離が概ね300km(キロメートル)程度の範囲を超える遠隔地については、その他の選定基準に照らして、極めて優れた長所を有する場合には、検討の対象に加えることとする。

以上をもとに国民の間でより具体的な観点から議論が喚起され、移転先地の選定の過程を通じて、多くの人々の間で関心が共有されることにより、国民全般の合意形成に向けて一歩前進することを期待するところである。

3.配慮事項

以下の項目は、新首都の地理的な立地条件を直接規定する基準ではないが、移転先候補地の選定の過程だけでなく、新首都の建設段階においても配慮されるべき事項であると考える。

(1) 新首都建設等にかかわる経済的効率

新首都の建設に当たっては、自然的環境との調和や21世紀の都市づくりをリードする質の高いストックの形成にも配慮するとともに、その事業費を国民経済に過度な負担を求めない範囲に抑える観点から、用地費及び工事費を含めた総合的な低廉性や新首都の運営段階における効率性等に配慮して、可能な限り経済的効率を追求することが望ましいと考えられる。

(2) 自然的環境等への影響

人口数十万規模の都市は、わが国の都市の人口のランキングでもかなり上位に相当し、数千ha(ヘクタール)に及ぶ都市開発が周辺の自然的環境等へ与える影響は決して少なくないと考えられる。
したがって、新首都は、豊かな自然的環境の中に小都市群が展開する都市構造とし、また、その建設過程においても、大規模な都市が忽然として出現することを避け、小都市群を段階的に整備するプログラムとしているが、さらに、新首都における都市活動の様々な場面で、省資源、省エネルギー、リサイクル等の先導的な新技術を導入するなどにより、新首都の周辺の自然的環境へ及ぼす負荷を極力小さくすることに努めることが必要である。

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