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独自VPSとPLATEAUで創る都市のデジタル広告がグランプリ。未来のプロダクトアイデアをスタートアップ8社がプレゼン

「PLATEAU STARTUP Pitch 02」レポート

「PLATEAU STARTUP Pitch」の第2弾が2024年1月19日、東京渋谷のPlug and Play Shibuyaで開催された。当日はスタートアップ8社が集結し、ビジネス領域で3D都市モデルをいかに活用できるか、新たなサービスやプロダクトのアイデアを競った。

文:
大内 孝子(Ouchi Takako)
編集:
北島 幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
撮影:
平原克彦(Hirahara Katsuhiko)
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昨年に続き開催された「PLATEAU STARTUP Pitch #02」では、データサイエンスや音声ARなどさまざまな領域からスタートアップ8社が集結。3D都市モデルを活用した新たなビジネスのアイデアを持ち時間6分間のプレゼンテーションで競った。

審査員は、長野泰和氏(株式会社ANOBAKA 代表取締役社長/パートナー)、佐藤文昭氏(東急不動産ホールディングス株式会社 企画戦略部 グループリーダー)、桜井駿氏(株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナー)、内山裕弥氏(国土交通省 総合政策局 情報政策課 IT戦略企画調整官 / 都市局 都市政策課 デジタル情報活用推進室)の4名。今回は以下の5点で評価が行われた。

(1)3D都市モデルの活用
(2)プロダクトアイデア
(3)課題解決力
(4)ビジネスとしての可能性・期待度
(5)ピッチの魅力、プレゼン力

なお、当日の進行は田原彩香氏(ビジネスタレント協会 代表)と、古橋大地氏(青山学院大学 地球社会共生学部 教授)が務めた。

青山学院大学 地球社会共生学部 教授 古橋 大地氏(左)
ビジネスタレント協会 代表 田原 彩香氏(右)

PLATEAUのデータとARを利用し都市空間を広告に!
広告配信のプラットフォーム「Spatial Ads」(株式会社palan)がグランプリを受賞

今回グランプリを受賞したのは株式会社palanが提案した、都市空間を広告配信のプラットフォームにする「Spatial Ads」だ。

「Spatial Ads」は空間を拡張する新しい時代のOOHサービス。OOH(Out Of Home)とは看板・大型ビジョンといった街中の広告をはじめ、電車内や駅構内の交通広告、チラシなど、人が行動する動線上に置かれる屋外広告の総称だが、「Spatial Ads」ではPLATEAUとARを活用して広告を都市空間上に展開する。

2月に米国でApple Vision Proが発売されたが、物理世界と仮想情報をさまざまな情報をスキャンすることで重ね合わせ、デジタルコンテンツにより直感的にアクセスできる「Spatial Computing(空間コンピューティング)」という概念が注目を集めている。株式会社palanのCEO齋藤瑛史氏が狙うのは、同社が提供するAR作成サービス「palanAR」にPLATEAUの3D都市モデルを取り込んで現実空間と位置合わせを行い、都市の空間に広告を配信しようというもの。

株式会社palan CEO 齋藤 瑛史氏

齋藤氏は、屋外広告のデジタル化、すなわち「OOHからDOOH(Digital Out Of Home)」へ移行していくとみており、「Spatial Ads」はDOOH実現に伴う空間的な制約や物理的なコストを解消するものになるという。例えば、新宿東口駅前広場のクロス新宿ビジョンに登場した3Dの巨大な三毛猫はデジタル屋外広告としてよく知られている。しかし、どこでもそのようなDOOHが可能かというと、設置場所や機材の問題からそれは難しい。「Spatial Ads」ではPLATEAUの位置精度をもとにデータと実際の空間をマッチングさせ、AR広告のコンテンツを表示することで、DOOHを実現する。

都市空間を広告配信のプラットフォーム「Spatial Ads」
ARコンテンツの配信例(代々木駅前)

ユーザー(広告主)はAR作成サービス「palanAR」を使ってWebブラウザベースのARコンテンツを作成し、どこに広告を表示するのかを設定する。コンシューマーはスマートフォンを使って提供されるURLをクリックし、ARコンテンツを楽しむという形になる。

長期計画としてアドネットワークを構築し、マルチデバイスかつマルチプラットフォームで可能な空間広告を配信することも考えている。例えば、商業ビルの特定の区画にあるドリンクの広告を出す――それを自社プラットフォームだけでなく、プラグインやSDKを提供することで他社のプラットフォームでもAR広告として組み込んでもらい、さまざまなデジタルツインプラットフォームの建物に表示する、といった世界観だ。

このとき、PLATEAUの建物IDや、空間ID(3次元空間を仮想的に複数のボックスに切り分け、一意に位置を特定できるようにする規格)などと組み合わせることで、各プラットフォーマーに広告のフィーを還元できる。またその際、高精度なARの位置合わせが必須となるが、そのためのVPS(Visual Positioning System)を独自に開発しているという。

構想しているアドネットワークの概要

すでにWeb AR領域で2000社以上の実績があるという株式会社palan。VPSの研究開発を行いつつ、単発で空間上に広告を出すという案件を数社と進めている。アドネットワークに関しては、近く独自VPSを形にし、2025年以降にSDKとセットで展開していくという構想だ。

審査員の内山裕弥氏は、授賞の理由として「3D都市モデル、PLATEAUのデータを理解している」「黎明期である、新たな位置情報技術VPSの独自開発に挑んでいる点」を挙げた。

国土交通省 総合政策局 情報政策課 IT戦略企画調整官 / 都市局 都市政策課 デジタル情報活用推進室 内山 裕弥氏

内山氏VPSはGPSに代わるような位置測位の技術だとされていますが、今、ほぼ欧米の技術がメインになっています。Geospatial APIとかいろいろありますが、まだどこも覇権をとっていない黎明期で、そういった領域で国産の技術を作りたいという意欲自体が非常にすばらしいと思います。国の技術政策としても、これから一般化してくるような新しい技術を、ぜひ、この勢いのあるスタートアップのみなさんに開発していただき、社会実装してもらいたい。その応援の意味も込め、グランプリを贈らせていただきました。

palan齋藤氏は受賞の喜びを次のように述べた。

齋藤氏:PLATEAUに本格的に触れたのは今回が初に近いのですが、その中で非常に可能性を感じています。一方で、VPSの文脈ではなかなか競合との差別化の難しさも感じています。けれども、その中でビジネスとしてどうやって大きくできるかというところをずっと考えてきたので、今回、高い評価をいただけてとてもうれしく思います。日本発のサービスとして、PLATEAUと一緒に大きく広げていきたいと思っております。

審査員特別賞は「長距離無人航空機による広域デジタルツイン」(株式会社テラ・ラボ)

審査員特別賞は「長距離無人航空機による広域デジタルツイン」(株式会社テラ・ラボ)が受賞した。

株式会社テラ・ラボは、災害発生時に空間情報を迅速に計測して提供することを追求するスタートアップ。「長距離無人航空機による広域災害情報支援システム」について研究開発を進めてきた。これは地理空間情報の中でも、中高度・広域レイヤー部分でのデータ収集を目指すという位置づけになる。

株式会社テラ・ラボ 事業企画部長 村松 忠久氏

一般的な地理空間情報の収集元は、主に観測衛星・航空機・ドローンだが、個々のソースの特性によっては「うまく計測できない部分が出てしまう」と、同社事業企画部長の村松忠久氏は言う。

例えば、観測衛星の場合は比較的広域をカバーできるが、地上分解能は低い。また時間分解能は高度によって異なるため一概には言えないが、あくまでその衛星が来たタイミングになる。ドローンが担う領域の場合、高度が低いぶん分解能は高くなるが、バッテリータイプのものでは一度の飛行時間は15分から20分であり、撮影範囲は2、3ヘクタール程度で広い範囲は撮影できない。こうした現状に対し、観測衛星とドローンの中間ということで新たな飛行機を使えないかと考えたという。

株式会社テラ・ラボの目指す「長距離無人航空機による広域災害情報支援システム」

同社が模索を始めているのが、複数の航空写真をもとにした3D画像の作成だ。村松氏は、この試みがPLATEAUの3D都市モデルの精度向上に貢献できると提案する。スライドでは約10cmレベルの地上分解能のものが紹介されたが、こうしたものを採用することでPLATEAUの情報の精度がより向上するという。また今後、PLATEAUを使って展開されるサービスの多様化にもつながるだろうとした。

航空写真をつないだ3D画像

株式会社テラ・ラボでは、データの更新頻度を高めるため、このような計測を安価に継続的かつ定期的にできるような仕組みづくりを進めている。航空測量という分野で考えると飛行機の手配の問題、費用の問題など多くの課題があるが、長距離をゆっくり飛べるような飛行機を複数飛ばしておくことができれば、突然の災害時にもすぐに対応できるのではないかとする。

現在は、自社設計の無人航空機の実用化を進めながら、モーターグライダーを使って実験を行っている段階だ。従来の航空測量は飛び方や精度が決まっているが、目的に適した飛び方を探るという意味で、データの取り方を研究しはじめているという。

次世代無人航空機

審査員の長野泰和氏は受賞の理由として、次のように述べた。

長野氏:審査員の中で激論を交わしての授賞になりました。やはり希少性のあるデータを継続的に取得し続けるという、このビジネスは非常にスケーラビリティがあるなというところで表彰させていただきました。

株式会社ANOBAKA 代表取締役社長/パートナー 長野 泰和氏

テラ・ラボ村松氏の受賞コメントは次のとおり。

村松氏:PLATEAUのできあがったデータを使うというよりは、PLATEAUを支えるデータをどのようにメンテナンスして、継続的に利用していけるような環境を提供できるかという文脈でお話をさせていただいたので、まさか賞をいただけると思っていませんでした。我々が作ろうとしている無人航空機は、あのサイズのものはまだ国産ではありませんので、そこにもチャレンジしていきたいと思います。さらに、能登半島地震があった地域の上空から精緻な地理情報を取ることができないかと検討し調整している段階です。PLATEAUの下支えも含めて、今後もさまざまなところで貢献していきたいと思います。

駐車場での自動運転、謎解き✕PR、音声ARのナビガイド、
空間情報シェアリングなどユニークなアイデアがスポンサー賞を受賞

続いて、今回の協賛企業である株式会社PRTIMES、SOLIZE株式会社、東急株式会社、日本電気株式会社から贈られたスポンサー各賞を紹介する。

SOLIZE賞:パーキングサイエンス株式会社「UPDATE PARKING」

SOLIZE株式会社 福島 康弘氏(左)
パーキングサイエンス株式会社 代表取締役 社長 井上 直也氏(右)

SOLIZE賞は、パーキングサイエンス株式会社の「UPDATE PARKING」が受賞した。駐車場業界が抱える課題として「駐車場の価値向上」「駐車場事業のDX」「自動運転時代への準備」が挙げられる。パーキングサイエンス株式会社はこれらを解決すべく、創業百周年を迎える相模石油株式会社から、"駐車場が好きなメンバー"が集まって2020年に設立されたスタートアップだ。

代表の井上直也氏は、社会課題のひとつとして「駐車場内の交通事故」を挙げた。実は交通事故の30%は駐車場内で起きているという。これを「駐車場をアップデートする」ことで解決しようというのが、「UPDATE PARKING」ということになる。

「UPDATE PARKING」が掲げるのは3つの事業によるシナジー効果だ。1つは駐車場検索。ユーザーにとっての利便性を数値化し、それによって駐車場の価値を向上する。もう1つは、駐車場事業のDXを推進する駐車場事業専用分析システムだ。さらに、これらの事業で収集した情報をデータベース化することで、駐車場内の自動運転の実現を目指している(2025年に自動運転の実証実験を開始する予定)。今回、PLATEAUの3D都市モデルを用いることで、駐車場データベースを3D化できるのではと提案を行った。

3つの事業で駐車場をアップデートする
UPDATE PARKINGのビジネスモデル

SOLIZE株式会社の福島康弘氏は授賞理由を次のように述べた。

福島氏:利活用ポテンシャルの高いデータを集めていることが、そのまま「ユニークな強み」になっていると思います。ビジネスとしてはまだ課題はありますが、一緒に良いものを考えられるのではないかと思い、選出しました。

パーキングサイエンス井上氏の受賞コメントは次のとおり。

井上氏:すごい技術を持っているスタートアップのみなさんの中で、こういった賞をいただけることに、本当に感動しています。このビジネスをどんどん成長させたい、良いビジネスにしていきたいと思います。

PR TIMES賞:SphereMystica株式会社の「交差するパラレルワールドの謎 〜3D都市からの脱出〜」

PR TIMES賞は、SphereMystica株式会社の「交差するパラレルワールドの謎 〜3D都市からの脱出〜」が受賞。国内市場400億円規模に広がっている「謎解き」を使ったプロジェクトだ。

株式会社PRTIMES 高田 育昌氏(左)
SphereMystica株式会社 謎解きクリエイター 大谷 宜央氏

「謎解き」とは、プレイヤーが物語の主人公になって謎を解き明かしながらゴールを目指す、体験型のエンターテインメントだ。SphereMystica株式会社が得意とするのは、そこにデジタルをかけ合わせること。AR、IoTなどを謎解きに取り入れ、例えば、特定の場所に行くとAR上にヒントが表示され現実世界の情報と併せて謎を解いていく。あるいは、デバイス上のアプリ内で魔法の杖を振ると妖精が目の前に現れヒントをくれたり、アプリに答えを入れると現実世界の宝箱が開くといった形だ。

今回提案したのは、現実とバーチャル世界を行き来しながら、楽しんで謎を解いていく周遊型の謎解きイベントだ。例えばバーチャル世界で東京タワーに入るためのトークンを手に入れたら、現実世界で実際に東京タワーに入れて新しい情報が手に入る、といったイメージだ。こうしたアイデアの中で、PLATEAUの3D都市モデルを活用することで屋外・屋内の環境をバーチャル上に再現し、リアルとバーチャルのシームレスな行き来を実現したいと提案した。

リアルとバーチャルを行き来する周遊型謎解きイベント
導入までのスケジュール

株式会社PRTIMESの高田育昌氏は授賞理由を次のように述べた。

高田氏:事業拡大をしていく中で、プレスリリースの配信機会も、いろいろと広がり、さまざまな内容で出していただけそうだという確信もあり、選ばせていただいた。素敵なプレスリリースの配信を期待しています。

SphereMystica株式会社 CEO 大谷宜央氏の受賞コメントは次のとおり。

大谷氏:謎解きというエンターテインメントとPRというところで、かなり相性が良いと思います。P2C(Person to Consumer)として、より大きなマスにしてもらえるようにたくさん活用させていただきたいと思います。

東急株式会社賞:LOOVIC株式会社「空間認知を解決する、無人ナビガイド」

東急株式会社賞は、LOOVIC株式会社の「空間認知を解決する、無人ナビガイド」が受賞。独自の音声ARにナビゲーション機能を備えた無人のガイドで、ユーザーの移動モチベーションを引き出すことも特徴とした街歩きコンシェルジュサービスでもある。PLATEAUと連携し、プラットフォームの構築を目指す。

東急株式会社 佐藤 雄飛氏(左)
LOOVIC株式会社 代表取締役 山中 享氏(右)

プレゼンではスズキ株式会社と実証実験を行っている様子の動画が紹介された。ナビガイドを地域の人がみずからの声で作ることができ、利用者はディスプレイなどを見ずに周りの景色を目印にしながら目的地に向かえる。地域住人や利用者の身近にいる人が地域情報とともにナビゲーションを担当することで、その人の行動範囲や特性に合わせた地域情報の案内ができたり、目的地までの風景を楽しむ機会を提供できるという。

無人ナビガイドによるナビのイメージ

LOOVIC株式会社 代表取締役の山中享氏が目指すのは「人が一緒に歩いているような体験」だ。地図アプリは便利な半面、目的地に到着することに意識が向きがちで、移動する道中に見られるそこに住む人や街の個性といった情報が抜け落ちてしまっていると指摘する。それを埋め合わせるのが、このナビガイドということになる。

東急株式会社の佐藤雄飛氏は授賞理由を次のように述べた。

佐藤氏:公共交通事業者として、アクセシビリティをどう改善するかという切り口が、一番刺さりました。最終的な決め手はそこです。特に、パーソナルモビリティはこれから増えていくでしょう。私自身、電動キックボードや自転車のシェアサービスを普段使っていますが、スマホで地図を見ながら移動するのは非常に危険です。音声案内に進化していくべきだと思っていました。今後パーソナルモビリティはシェアする乗り物として公共交通になっていくと考えており、公共交通事業者として裾野を広げることにつながるアクセシビリティ改善の観点がとても興味深いと思いました。

LOOVIC山中氏の受賞コメントは次のとおり。

山中氏:指向性スピーカーがあるので、モビリティでも耳にイヤフォンをつけるのではなく、走りながらでもしっかり音声が聞こえるというところを含めて開発をしています。XRなどの技術のキャッチアップも行いながら、これからもがんばります。

NEC賞:株式会社DATAFLUCTの「SpatialLink(仮) - 空間情報シェアリングサービス -」

NEC賞は株式会社DATAFLUCTの「SpatialLink - 空間情報シェアリングサービス -」が受賞。「SpatialLink」は、空間IDとPLATEAUを使って、現実世界の場所をデジタル化しユニークなURLを生成するシステムだ。

日本電気株式会社 山本 直志氏(左)
株式会社DATAFLUCT 代表取締役CEO 久米村 隼人氏(右)

空間IDとは3次元空間内の位置を一意に特定できるようにする規格であり、ロボットやドローン、モビリティなどによるタスクの安全な遂行を可能とする。

空間IDはロボットやドローン、モビリティの移動や作業を容易にする

こうした空間IDに関して、位置情報ではないところでの活用にイノベーションの可能性を考えていると株式会社DATAFLUCT 代表取締役CEOの久米村隼人氏はいう。空間IDには情報を軽くして使いやすくするメリットがあるが、そのデータをさらに分析することによって一歩先の未来を予測できるという。結果として、自律走行モビリティ、ドローン、IoT活用の生産性が高まっていくと見ているのだ。

具体的には、この空間IDの中にさまざまな情報を入れていくわけだが、そこには気象情報、気流、空調、照明など時系列に変化している動的な属性を持たせられる。それに対し、DATAFLUCTが考えるのはデータ基盤側で処理をするアプローチだ。予測情報を持たせた空間IDによって、ロボットとの協調もより進むと考えているという。実際にDATAFLUCTでは竹中工務店とともに、デジタル庁が進める実証実験に参加し、建物内のデータを空間IDに統合して、混雑予測、ロボットの走行最適化を実現するという取り組みを行っている。

空間ID(統合データ基盤)のあるアーキテクチャ。その中でもAI予測エンジンの活用に大きな可能性を感じているという
空間ID構築事例

しかし空間IDはあくまでロボット(マシン)のためのものであり、人が認識するためにはPLATEAUのような仕組みによる視覚化が必要となる。そこで提案した「SpatialLink」は、屋内のマシンに対して、人間が空間情報を活用して指示をしたり活用したりするためのデータ基盤でPLATEAUを利用する仕組みだ。

日本電気株式会社の山本直志氏は授賞の理由を次のように述べた。

山本氏:PLATEAUの価値をどう上げていくかというところで、今日、ピッチを聞いた中でその価値を一番に提供されるのはDATAFLUCTだと思いました。もともとデータ解析、データ分析の領域ですでに信頼感があるうえ、さらに空間情報の部分でも広がっていくという非常に期待できるプレゼン内容でした。

受賞した久米村氏のコメントは次のとおり。

久米村氏:DATAFLUCTはデータで社会を支えていくということにずっと取り組んできた会社ですが、こういったプレゼンでなかなか賞をもらえないので、今回の受賞はとてもうれしいです。空間IDの話をしましたが、空間IDはPLATEAUの活用をどんどん促進していくコア技術のひとつであると信じているので、ぜひみなさまと一緒に何かできたらなと思います。

「PLATEAU × 陣取りゲーム」や「PLATEAU × SNS」でコミュニケーションや交流を促進するアイデアも

「PLATEAU×AR陣取りゲーム」(株式会社Nefront)

株式会社Nefront 代表取締役の今村翔太氏が提案したのは、PLATEAUの3D都市モデルとGoogle GeoSpatial APIを活用したARの陣取りゲームだ。PLATEAUのモデルが塗られていく状況を見て、自分たちはどこに行けばいいか、まだ塗られていないところをチェックしたうえで実際にその場所に出向いていく。

チーム対抗で陣取りゲームを行う

株式会社Nefrontでは、建物内において画像認識から位置を特定して案内を実施したり、ARコンテンツを表示したりする基盤システムとなる屋内ARクラウドを開発している。今回は屋外でPLATEAUとARを掛け合わせた、AR陣取りゲームを提案した。

ARでPLATEAUの都市モデルへ塗り絵をしたり、街にコメントを残したり、都市空間✕ARを活用してコミュニケーションや移動、交流が発生する場としたいという。ビジネスモデルとしては、街への回遊ニーズの創発だ。ARによるこうした体験が一般的になっていくと、実際にこのPLATEAUのモデルを一般の人たちが広く認識する、PLATEAU自体の認知度の向上にもつながると考えたという。

PLATEAU×AR陣取りゲームのビジネスモデル

審査員の長野氏からは「コンシューマ向けのARはいまかなり厳しいビジネスになっています。ヒントとしては、しっかりIPを作り上げるというところを事業のセンターにおくことが重要だと感じます」とアドバイスがあった。

「PLATEAU × SNS」(株式会社ウィーモット)

株式会社ウィーモット 取締役の後藤剛文氏が提案するのは、コミュニケーションをもっと楽しくする、新たなSNS。PLATEAUを使ったAR空間の中にコメントを表示できるサービスだ。

SNSのメッセージを3D空間に表示し、コミュニケーションをリアルにする

Xのような個人から全体への投稿、待ち合わせなど特定のフレンドとのコミュニケーション、あるいは商業施設の集客といった活用を想定している。メッセージは現地で確認できるほか、自宅からブラウザで確認することもできる。将来的には車載GPSやAirTagなどを使って移動するもの(宅配トラック、AirTagなど)も表示できるようにしたいという。

現地でスマホから確認したり、自宅でブラウザから確認したりできる

既存のSNSサービス(XやLINE)との連携を前提にし、このサービスの中では独自のGeoタグ(座標データ)だけを持つ。マネタイズは、個人の投稿はすべて無料とし、企業に関してはコメント投稿は無料でターゲティング広告等は有料とする。

司会の古橋氏からは、SNS投稿者の位置情報に関する取り扱いの難しさが指摘された。後藤氏は、プライバシーの問題はARが普及していく先でユーザーも納得できるセキュリティの担保方法を考えていかなければならないだろうとした。

登壇各社がそれぞれの切り口でPLATEAUと向き合ったピッチイベント
PLATEAUにもさらなる広がりが期待される

最後に審査員講評を紹介する。

佐藤氏:登壇した各社様、それぞれいろいろな切り口でPLATEAUと向き合い、プレゼンしていただいたと思います。私は不動産事業者として、PLATEAUに街のデータなどを提供しながら、自分たちも新しいサービスを作っていかなければと思っています。私たちのフィールドを使ってできること、PLATEAUを使ってできることがあれば、積極的に取り組んでいきたいと思いますので、どんどんご提案いただければと思っています。みなさん、お疲れさまでした。

東急不動産ホールディングス 企画戦略部 グループリーダー 佐藤 文昭氏

桜井氏:一言、本当にすごかったと思います。登壇された8社のみなさんへのリスペクトしかありません。これだけのアイデアが集まること自体がすばらしいと思います。また、この会場には、まちづくりや不動産、コンシューマサービスを含め、さまざまな領域の方々が集まっている。こうした場を生み出しているPLATEAUも、本当にすばらしいと思います。登壇した8社のみなさんをはじめ、会場の方々も、私たちも含め、今後いろんな連携させていただきたいと思っています。

株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナー 桜井 駿氏

長野氏:私は、自分の事業に熱狂できる、そういう人が最終的に成功するという気持ちを込めて株式会社ANOBAKAという社名にしています。今日登壇された8社のみなさんは全員、自分の事業に没頭して熱狂されているのだと思います。とことん熱狂して、ぜひ成功していただければと思います。

株式会社ANOBAKA 代表取締役社長/パートナー 長野 泰和氏

内山氏PLATEAU STARTUP Pitchは今回が第2回でしたが、大変レベルの高いピッチイベントになったと思います。前回のピッチイベントでは、PLATEAUを聞いたことあるという人は半分ぐらいだったかと思いますが、いまは知名度も上がってきていて、実際にプロダクトにする人も増えてきています。みなさんの知らないところでPLATEAUが結構使われだしてきていますので、ぜひ、今日初めて知ったという方もPLATEAUのデータを使って何か作ってみてください。今日はありがとうございました。

国土交通省 総合政策局 情報政策課 IT戦略企画調整官 / 都市局 都市政策課 デジタル情報活用推進室 内山 裕弥氏

司会を努めた古橋氏は、全体を振り返って次のようにコメントし、今回のPLATEAU STARTUP Pitchを締めくくった。

古橋氏:PLATEAUコンソーシアムが2023年12月に立ち上がり、私はアドバイザリーボードの座長を務めています。これまでのコンソーシアムの会議でも、PLATEAUがどのように使われるようになるだろうかと議論を繰り返してきました。ユーザーのことを考えたら人間の目線、あるいはモビリティであればドローンの目線に落とし込むという形で、誰が(何が)エンドユーザーなのかを明確にしたうえで、ある意味、主観的な使い方になっていくだろうという話を2、3年前からしていました。本日の登壇者の方々のプレゼンを見ると、やはりそうなってきたなと実感しているところです。

一方で、今回は空間IDの話もありました。空間IDも日本発のオープンスタンダードな、任意の3次元領域(ボクセル)を指定するユニークなIDとして定義されたものです。実際、私たちもアイデアを提供をしながら、本当にビジネスの世界で使ってもらえるだろうかと半分疑問もあったのですが、今日は「やはりいけるな」と手応えを感じられて非常にうれしく思ったところです。また、もっとPLATEAUが使いやすくなる世の中がどういうものなのかということが、こうしたピッチイベントから生まれてくると良いのではないかと思っています。

青山学院大学 地球社会共生学部 教授 古橋 大地氏
イベント終了後の会場では、登壇者や来場者との展示交流が行われた