1) 調査内容・項目

 Q4−1 取組を進めるために、何を調査すればよいのか分からない。

まず、既往の資料を収集し概観するとともに現地調査により実態を把握。そして既存の統計データを活用した現状分析、アンケート等による移動に関する実態やニーズ把握。

 地域交通の現状の把握にあたっては、地域の課題や上位計画を踏まえて改善するべき交通を巡る問題に対して交通施策を検討するために必要となるデータを挙げ、既往資料の中からそのデータを収集するとともに、まず担当者が現地を見て、その中で課題とされている箇所等を確認することから始めることが重要である。バスや鉄道に乗り、問題点や改善点を体感することで、何を調べるべきかといった目的も明確になる。
 一方で、地域交通を取り巻く現状や地域住民の移動実態、移動ニーズを客観的、定量的に把握することも重要である。調査の内容としては、以下に示すような項目が考えられる。
 なお、地域住民の移動実態、移動ニーズは、既存の統計では把握できないことから、そのための実態調査、アンケート調査が必要になるが、パーソントリップ調査など既存の調査結果がある場合には、改めて調査を行うのではなく、既存データを活用することもできる。




 本調査で実施したアンケート結果から、取組の内容と検討時の調査内容の関係を見ると、全体的な傾向として「住民へのアンケート調査」と「利用者数調査」が多いことがわかる。
 また、取組の内容別に見ると、運行本数の増便では、「利用者数調査」が多いことがわかる。需要を喚起するための運賃の値下げでは、実際に公共交通を利用している「公共交通交通機関の利用者へのアンケート調査」を実施する割合が高くなっている。




 Q4−2 アンケート調査は、何を聞けばいいのか。

何を聞くべきかは目的や仮説による。
(例)改善の方向性は何か:地域交通サービスの利用頻度、利用目的・理由、評価(満足度)など。
   ○○○を実施したらうまくいくか:取組を導入した場合の評価、利用条件など。
   地域交通を政策の重点課題に据えたい:自治体が地域交通に投資することへの評価など。

 アンケート調査の実施にあたっては、「どのような情報がさらに必要なのか」や「○○○のニーズがあるのではないか」など調査の目的や仮説等を明確にしておくことが重要である。
 地域交通サービスの利用実態として、利用頻度や利用目的・理由、サービスに対する評価(満足度)を把握するほか、サービスを利用しない人の理由を把握することが考えられる。これらにより改善の方向性が抽出される。
 また、取組の内容について、仮説等(「運行頻度を上げればよいのでないか」、「運賃を下げれば良いのではないか」など)がある場合や、具体的な交通サービスのイメージがある場合には、取組を導入した場合の評価(「利用したいと思うか」など)や、取組内容の水準(運賃水準や運行頻度水準に対するニーズ)を把握することが考えられる。
 さらに、自治体が地域交通サービスに行う(税金を投入する)ことなど、政策の方向性についての評価を聞くことも考えられる。






 Q4−3 目的によって調査の仕方にも差があるのか。

動機・背景によって調査の仕方が異なる。

 本調査で実施したアンケート結果から、取組選択の背景となった課題と検討時の調査内容の関係を見ると、全体的な傾向として「住民アンケート調査」と「利用者数調査」が多いことがわかる。
 また、課題別に見ると、市町村合併に伴う地域間の不公平感の解消では、「住民へのアンケート」を実施する割合が特に高い傾向がある。




2) 調査の手法

 Q4−4 利用者のニーズを把握するためには、どのような調査を実施すればいいのか。


既存の交通サービスに対するニーズ:利用状況や満足度などアンケート調査が一般的であるが、より掘り下げてニーズを把握するためには、ヒアリング調査も有効。
潜在的なニーズ:アンケートで把握することが難しく、ヒアリング調査を行うことが一般的。ただし、ヒアリング調査は調査対象者数に制約があるため、アンケート調査との組み合わせで実施することが有効。
新たな交通サービスに対するニーズ:利用意向や利用条件などアンケート調査が一般的であるが、より掘り下げてニーズを把握するためには、ヒアリング調査も有効。
また、ニーズの把握は、継続して行うことが重要。

 利用者のニーズとしては、既存の交通サービスに対するニーズ、潜在的なニーズ(当該交通サービスをあまり利用したことがない人の意識下に埋もれているニーズ)、新たな交通サービスに対するニーズがある。

■既存の交通サービスに対するニーズ
 既存の交通サービスを利用しない(できない)理由や、現行のルート、ダイヤ、運行頻度、運賃水準などに対する満足度、評価を把握する。既存の交通サービスに対するニーズ把握にあたっては、アンケート調査を行うことが一般的であるが、より掘り下げてニーズを把握するためには、アンケート調査後に論点や仮説を明確して、ヒアリング調査を行うことも有効である。

■潜在的なニーズ
 交通サービスの活性化を図る上では、現在、利用されているニーズだけでなく、潜在的なニーズを把握することも重要である。当該交通サービスをあまり利用したことがない人にとっては、交通サービスそのものが未知であり、自分自身がニーズを認知していないことが考えられる。このようなニーズは、アンケートで把握することが難しく、グループインタビュー等のヒアリング調査を行うことが一般的である。
 一方、ヒアリング調査では、調査対象者が限られるという制約がある。このため、一定のサンプル数は確保できるが、具体的なニーズを把握しにくいアンケートと、具体的なニーズは把握できるが、調査対象者数に制約があるヒアリング調査は組み合わせて実施することが重要である。例えば、アンケート調査で仮説や論点を抽出し、それをヒアリング調査でさらに深く検討することが考えられる。

■新たな交通サービスに対するニーズ
 導入を検討している新たな交通サービスがある場合は、その利用意向や利用条件(ルート、ダイヤ、運行頻度、運賃水準など)を把握する。新たな交通サービスに対するニーズ把握にあたっては、アンケート調査を行うことが一般的であるが(Q4−2参照)、より掘り下げてニーズを把握するためには、アンケート調査後に論点や仮説を明確して、ヒアリング調査を行うことも有効である。

 また、ニーズの把握は、継続して行うことが重要である。移動ニーズは不変ではないため、定期的な見直しを行う上でも繰り返し行うことが重要である。


  ニーズ把握は繰り返し行うことが重要

・イーグルバス(埼玉県)は、マーケティングの手法を導入してバス路線のダイヤの最適化を図っている。
・利用客が、現在のサービス水準をどのように評価しているのかを知るために、沿線地域の住民を対象にしたアンケート調査を実施した。
・アンケート調査の実施後に、ダイヤの改善を行い、その結果に対する満足度を把握するために再度アンケート調査を実施している。
・継続してアンケート調査を実施する中で、自由記述の欄において、利用者の本音が出てくるなど効果も現れている。



 Q4−5 アンケート調査と運行した実績を比較すると、利用者が想定より少なかったという話を聞くが、そのようなことを無くすためにはどうすれば良いか。

単にニーズを把握するだけではなく、実際の移動実態(交通行動)を把握。
交通サービスを利用する可能性がある属性(移動制約者)に絞った調査。
調査の目的・背景(自治体の財政状況等)の丁寧な説明による安易な回答の抑制。


 アンケート調査では、ニーズがあっても実際にはバスに乗らない可能性があることに注意する必要がある。このため、単にニーズを把握するだけではなく、実際の移動実態(交通行動)も把握することが重要である。
 また、車を利用できる層などは、そもそも交通サービスを利用しない可能性が高いため、交通サービスを利用する可能性がある属性(移動制約者)に絞ったアンケートを行うことが有効である。
 安易な回答(選択)を防止するためには、調査の設問において、調査の目的・背景(自治体の財政状況等)をしっかり説明することも有効である。



 Q4−6 地域交通の現状を把握しようにも、交通事業者のデータが入手できない。

交通事業者が検討の場に参加することはデータの提供を受ける上でも重要。
自治体からの補助を受けているバス路線は、補助額の算定のために乗車密度を把握している。


 検討体制・組織に交通事業者がメンバーになっていなかったために、地域交通の現状に関するデータを得ることが難しかったという事例がある。この点からも、交通事業者が検討の場に参加することは重要である。
 なお、自治体からの補助を受けているバス路線は、補助額の算定のために必要な乗車密度が把握されている。また、自治体がバスに乗り込み、独自にカウント調査を行っている事例もある。



 Q4−7 施策の目的に応じて対象者を絞って調査を行うことは妥当か。

施策の対象(ターゲット)が定まっている場合は、その属性に絞った調査を行うことが必要。
当該施策の対象ではない人からのニーズは、実施段階で顕在化しない可能性がある。


 アンケート調査では、ニーズがあっても実際にはその交通サービスを利用しない可能性があるため、利用する可能性がある属性(移動制約者等)に絞ったアンケートを行うことが有効である。



3) 調査結果の分析

 Q4−8 調査によって得られた情報の分析により、どのようなことが分かるのか。


ターゲット、ルート設定、サービス水準など具体的な事業計画を策定する上で貴重な情報が得られる。


 本調査で実施したアンケート結果から、取組の検討時に調査分析を行った場合と、行っていない場合について、取組の効果の有無を比較してみると、取組の検討時に調査分析を行った事例では、「取組の効果が期待以上」及び「取組の効果が期待通り」となる割合が高いことがわかる。
 また、取組の検討時における分析結果の中で、取組の内容を検討する際に最も有効だった情報を見ると、全体的な傾向として「利用者の属性・利用者ニーズ調査」が多くなっている。
 一方、取組の効果が「期待以下」であった事例について、その原因を見ると、住民の移動実態の把握が不十分であったり、適切な需要把握が行われなかったりするなど、検討時の調査分析が十分でなかったことが反省点として挙げられている。






4) 調査経費

 Q4−9 調査には経費が必要で、予算がないのでできない。


自治体の職員自らが作業を行ったり、地域の多様な機関との協働作業を行っている事例もある。
調査に活用できる国の支援制度がある。


 効果的な施策を講じるためには、地域のニーズを的確に把握・分析した上で、それに合った計画を策定することが必要である。これを怠ると、逆にコスト高になってしまうリスクがある。従って、地域のニーズを的確に把握するための調査は必要不可欠と言ってもよい。そのための経費については、職員自らが作業をすることで必要最小限にする努力を行っている事例もある。
 地域住民や市民団体が主体的に参画しているケースでは、集計作業に地域住民が携わった事例や市民団体が自らアンケート調査を実施している事例もある。
 なお、これらは、単に経費の節減ということだけでなく、地域交通を自らが支えているという意識醸成や問題意識の共有の面から有効な事例であり、経費面の効果は派生的な効果であることに留意すべきである。((3)予算を参照のこと)
 また、調査に活用できる国等の支援制度がある(「X.支援制度」を参照のこと)ことから、財源の一つとして活用することができる。


  大学と連携して調査・分析を実施

・イーグルバス(埼玉県)は、マーケティングの手法を導入してバス路線のダイヤの最適化を図っている。
・イーグルバス鰍ヘ、送迎や観光バス等の経験はあったが、路線バス事業は未経験であり、教科書もなく、手探りの状態であったため、埼玉大学の久保田研究室と連携することとした。
・利用客がどのように現在のサービスを評価しているのかを知るために、沿線地域の住民を対象にしたアンケート調査を実施した。
・アンケートの設計、配布・回収は埼玉大学が行った。専門的なアドバイスを受けることができたほか、回収率を高める上でも、バス事業者が配布するより、大学の名前で配布することが効果的であった。

・また、京都府京丹後市では、丹後海陸交通鰍ニ共同運行を行っている「上限200円バス」のマーケティング調査として、産官学が連携して、市内の現地フィールドワーク調査を行った。
・学生及び大学機関による新たな提案を受け、それを施策に活かしていくことを前提として取り組んでおり、それぞれが真剣に協力し合った。
・龍谷大学の辻田准教授ゼミの市内高齢者へのアンケート調査では、車の免許返納に関して、施策実行にあたっての裏付けデータを調査・分析していただき、さらには、市内での同ゼミによる調査研究報告会では、観光施策との連携の必要性を、京阪神在住者の視点で提示していただき、今後の施策のバックデータとなっている。
・また、土木学会(関西支部)、近畿大学、神戸大学など、専門家のアドバイスを吸収し、まちづくりの観点で産官学の連携強化を図っている。


  地域住民や学生がアンケート調査

・市が住民バスの運行計画を策定するために、アンケート調査を実施したが、住民に「地域の交通は地域で支える」という意識をもってもらう趣旨から、アンケートの配布集計作業に住民が参加した。(新潟市)
・高校生や大学生が研究活動の一環として、アンケート調査や乗降調査を行っている。(和歌山電鉄(和歌山県))
・大分大学と連携してモニタリングのアンケートを実施した。この結果から、バスに乗ることが高齢者の社会参加機会になっていることがわかった。(大分県宇佐市)



 Q4−10 調査費用は、どれくらいかかるのか。


ケース・バイ・ケースであり、一概に言えないが、参考となるような類似事例の自治体に問い合わせることで把握できる。


 調査費用は、内容によりケース・バイ・ケースであり、一概に言えないが、参考となるような類似事例の自治体に問い合わせて、調査内容(仕様)やコンサルタント等の委託先との役割分担、委託金額を把握することが考えられる。
 また、コンサルタントへの委託の項目(仕様)としては、例えば以下のような内容が挙げられる※。項目によって、自治体と委託先(コンサルタント等)との役割分担を行うことにより、委託費用を縮減することができる。





5) 現状を的確に踏まえた課題の整理・具体化


 Q4−11 現状の把握によって、取組の方向性はどこまで明らかになるのか。


現状の把握によって、仮説を立てることができる。


 現状の把握によって、仮説を立て、その仮説を検証するための調査を行うなかで、何が必要なのか、何から優先的に実施しなければならないのかといった取組の方向性が明らかになる。


  現状調査→仮説設定→検証の過程を経て有効な成果を得る

・埼玉県三郷市では、路線バスの再編案を検討するに当たり、4つの調査を行った。
・1つ目は、無作為抽出による調査であり、バスに対する市民の考え方を伺った。
・2つ目は、利用者調査であり、「公共施設循環型のバスは必要なのか」(公共施設を「はしご」的に利用するニーズは本当にあるのか)を検証するために行った。
・3つ目は、自転車駐車場の利用者調査である。これは自転車からバスへの転換率を調べるために行ったものである。この調査では、45%の方が「バスがないため自転車を利用している」ことがわかった。
・4つ目は、グループインタビューである。主婦層、子供、高齢者の3パターンに分けて行った。
・このような過程を経て、各コミュニティ内をきめ細かく回り、高頻度で、短いルートで最寄りの鉄道駅にアクセスするバス、1路線だけでなく複数路線運行し、相互に連絡することによって、全体として一つの公共交通サービスを展開するシステムという方針にたどり着いた。








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