1) 計画の実施

 Q8−1 計画の実施に当たって、留意すべきことは何か。

実証運行の成果を本格運行に反映させること。
ニーズがなければ無理に本格化させないこと。
複数の交通モード間の連携を図ること。
沿線のまちづくりとの連携を図ること。

 実証運行を行うケースでは、実証運行の成果を本格運行に反映させることが基本であるが、利用者のニーズがなければ無理に本格化させないといった姿勢も重要である。
 運行頻度拡大の社会実験を行ったものの、実験期間中のアンケート調査で、「税金を使ってまで、これ以上サービス水準を上げる必要がない」という回答が多かったため、本格運行に至らなかった事例もある。
 また、交通施策を実施するにあたっては、単独で実施するよりも、複数の交通モード間の連携や、中心市街地活性化や観光振興などその他のまちづくりとの連携を図ることにより、相乗効果や効果の早期発現を図ることが重要である。


 Q8−2 実施に当たっての経費は、どのようにして確保すればよいか。


国等の補助制度を活用するほか、企業協賛金、住民協賛金も考えられる。


 国土交通省の支援制度は「X.支援制度」を参照のこと。
 また、国等の支援以外にも、運行費用に企業協賛金、住民協賛金などを運行費用に充当したり、公共交通マップの更新等情報提供に要する資金として企業からの広告料を充当している事例もある。



2) モニタリングの目的、内容

 Q8−3 モニタリングを何故行う必要があるのか。


当初、取組の成果が現れなくても、見直すことで、徐々に成果が出てくることもある。
地域交通に対するニーズや、利用者のターゲットなどが変化している可能性もある。


 計画の実行性を高め、取組の効果的な推進を図るためには、進行管理が重要である。継続して調査することにより、何らかの変化を見ることができる。当初、取組の成果が現れなくても、ダイヤやルート等を見直すことで、徐々に成果が出てくることもある。
 また、取組の実施直後と、一定期間を経た後では、地域交通に対するニーズや、利用者のターゲットなどが変化している可能性もある。
 これらのことから、取組の実施後も、定期的に見直しを行っていくことが重要である。本調査で実施したアンケート結果からは、モニタリングを実施し、その結果をもとに取組の見直しを実施することにより、当初の期待を上回る効果をあげる傾向がある。





 Q8−4 モニタリングでは、何を行えばよいのか。


検討中や社会実験時の調査結果との比較を行うことから、同様の調査を行うこと。
改善点を発掘するためのデータを収集すること。


 モニタリングでは、検討中や社会実験時の調査結果との比較を行うことから、同様の調査を行うことが重要である。
 また、事前事後の比較評価だけでなく、ニーズの変化や取組に対する満足度など、改善点を発掘するためのデータを収集することも重要である。



3) モニタリングの手法

 Q8−5 モニタリングは、どのような方法で行えばよいのか


利用者数調査、利用者へのヒアリング調査、地域住民へのアンケート調査などがある。
また、定期的に利用者の意見を把握するためのモニター制度も考えられる。


 市町村の限られた財源の中で、今後の高齢化の進行による交通弱者の増加に対応するためには、すべての地域交通サービスを税金だけでまかなうことは困難であると考えられる。
 このため、生活に密着した地域交通サービスについては、自治体が一定の支援を行いながらも地域住民が主体となって構築し、支えていくことが重要である。





4) 効果の把握

 Q8−6 把握すべき効果は、どのようなものがあるのか。


把握すべき効果は、検討時に設定した達成目標に基づいて測定する(Q5−4)。



 Q8−7 効果の把握は、どのような方法で実施するのか。


効果の把握は、利用者数の把握やアンケート調査、その他統計指標の分析などにより把握。





  マクロな分析によりモビリティマネジメントの効果を把握

・モビリティマネジメントの効果は、取組以外の要因を排除することが難しいため、利用者数の推移によるマクロな分析を実施している。利用者数の減少トレンドを見ると、減少に歯止めがかかりつつあり、一定の効果が現れていると評価している。(大分市)


@ 利用者数のカウント(実績)調査

 Q8−8 利用者数の調査で、何が分かるのか。

取組の実施効果、見直し効果が出ているか。

 取組の実施効果、見直し効果を把握するためには、その前後で利用者数を比較することがわかりやすい。ただし、利用者数といった量的指標だけで評価するのではなく、利用者の満足度など質的指標からの評価も合わせて実施することが重要である。
 また、交通機関の乗降を詳細に把握する場合は、バス停・駅間、路線間の利用者数など基本的なデータが取得でき、これを基にダイヤの再検討や路線の見直しなどが可能となる。



 Q8−9 利用者数の調査は、どのような方法で実施するのか。

コミュニティバスや乗合タクシーの場合、運転手がバス停ごとに乗車・降車を記録。
ICカードを導入しているケースでは、自動的に記録。
バスに調査員が乗り込んで調査。

 中・小型車両を用いたコミュニティバスや乗合タクシーの場合、運転手がバス停ごとに乗車・降車を記録しているケースが多い。
 ICカードを導入しているバスのケースでは、乗車・降車時に、自動的に乗降データが記録され、バス停別・系統別の利用者数などが自動で蓄積される。中には、利用者の属性別(通勤・通学・高齢者、定期・定期外など)の細かい乗降データ(ODデータ)を把握できるシステムもある。初期投資としてはある程度の費用を要するが、モニタリングのための特別な調査が不要となり、低コストで効果的なPDCAサイクルを実践できるなど、長期的に見ればメリットが大きい。
 また、ICカードには、公共交通機関だけでなく、商店街や大型店などでの買い物等でも使えるものもある。(地域商業や中心市街地の活性化に繋がっている事例はQ7−27を参照)
 そうでない場合は、バスに調査員が乗り込んで調査するケースなどがある。乗降実態調査を独自に行っているバス事業者へのヒアリングでは、1週間もサンプリング調査をすれば、概ねの傾向はつかめるという指摘がある。

  低コストで効果的なモニタリングを実施するためICカードシステムを導入

・日立電鉄交通サービス(茨城県)では、日立市内の路線バスの利用者が、平成3年から平成19年の間に、約1/4にまで減少した。このため、バスの利用者が激減した原因を把握するため、バスの利用実態を細かく把握したいと考えていた。また、これまでのシステムが老朽化により更新の必要が出てきたことから、ICカードを使い、利用情報が詳細に把握できる新しいシステムの導入を検討した。
・システムの開発にあたっては、社内において、現場を熟知する運行計画部門と情報部門が連携し、どんな情報が必要かを固めた上で、システム会社と連携して開発を進めてきた。なお、100台のバスへの導入コストは、総額で約1億円程度である。




A 利用者等の意見の把握

 Q8−10 意見の把握は、どのような方法で実施するのか。

利用者等の意見は、アンケート調査による把握のほか、運転手や現場のスタッフが苦情等の利用者の声を集めることも有効。

  マーケティング手法を活用したバス路線の最適化

・イーグルバス(埼玉県)では、運行ダイヤ最適化によるコストと品質の改善を目指して、@路線バス事業の「見える化」、Aデータを利用した収支と品質の改善、B定量的評価と継続的改善を、それぞれ@マーケティングの導入、AITによるバスデータの取得・分析・評価、BPDCAサイクルによる改善によって進める取組を実施している。
・路線バスの最適化の手順は、マーケティング手法を活用し、利用者がバスサービスの現状をどのように評価をしているのか、何か問題点があるのか、新たな潜在的ニーズがあるのかを、アンケートで取得する。これにバスの運行データ、収支のデータ(コストの制約条件)を勘案して新たな運行ダイヤを作成し、これを運行して、また利用者に評価してもらうことを繰り返し実施している。




  利用者の声を集める目安箱の設置により迅速に対応

・高松琴平電気鉄道(香川県)では、利用者の意向を密に、かつ常に把握するため、利用者の意見を集める「IruCaボックス」を設置した。
・寄せられた意見は全て公にし、全てに対して回答を行うことを徹底するだけでなく、社長も必ず朝の出社後に目を通している。
・また、月に1度、サービス改善委員会を開催し、社長出席のもとで現業の社員も会議に参加して、寄せられた意見について議論を行っている。現場を知っている者が参画していることから、マニュアル的な対応ではなく、現実に即した対応がより可能になるなど、効果が大きかったと評価されている。




5) 結果の活用

 Q8−11 モニタリングの結果は、どのように利用すればよいのか。

ルート、ダイヤ、運行本数の見直しなどに反映する。


  モニタリングを通じてよりよい地域交通サービスや地域住民の意識喚起を実現

・コミュニティバスの運行から3ヶ月後に利用者アンケート調査を実施し、その後6年後に、同じ調査項目で利用者アンケートを実施した。アンケート調査の結果を受け、停留所を増設するとともに、コミュニティバスと鉄道との乗継を改善するような時刻の調整を実施した。また、乗降調査の結果を受け、路線についても、一部ルートの変更等を実施した。(茨城県龍ヶ崎市)
 ・コミュニティバス導入直後(翌年)と6年後にアンケート調査や、OD調査、バス停での乗降数調査など現状の認識に力点を置いた利用実態調査を実施した。導入直後の調査で、運行時間帯に不満があるとわかり、新たな路線の開設の際には、その結果を反映させた。また、経由する施設についての見直しも実施した。(東京都台東区)
・運転手が何人乗車したのかを運行日誌に記録し、時刻表の見直しなどに対応させている。本格運行の1年後は、その結果を踏まえ、路線の利用状況に応じて便数の増減などを行った。また、目標として1便当たり2名以上としているので、それを下回る場合には、当該路線の住民に利用状況を報告して、これ以上の低迷はサービス水準の低下等につながることを指摘している。このあとに利用が増加する傾向が見られる。(富山県南砺市)
・アンケート調査は実施していないが、スタッフが利用者の声を聞くよう努めている。バス停の増設や路線の延長は、利用者の要望から出てきたものである。(NPO生活バス四日市(三重県))