PPG.1

 多自然居住地域の創造に資する異分野連携による新たな交通サービスの提供方策

  〜「多自然居住地域の創造」のために〜


T.中山間地域における交通問題

1.中山間地域と交通サービスの役割

 平成10年3月、「21世紀の国土のグランドデザイン −地域の自立の促進と美しい国土の創造−」と題する新しい全国総合計画が閣議決定されました。この計画では、中山間地域等を21世紀の新たな生活様式を可能とする国土のフロンティアと位置づけ、豊かな自然環境を活かした自立的な圏域として「多自然居住地地域」を創造すると位置づけています。

 しかしながら、現在、中山間地域の生活と交流を支える交通手段は、自家用車に大きく依存しており、公共交通については、都市部とのサービス水準の格差が大きくなりつつあります。このことが、高齢者をはじめとする交通弱者の社会参加や都市部との活発な交流・連携活動を困難にし、地域活性化に対する障害となっていると考えられます。

 新しい全国総合開発計画においても、中山間地域の活性化には、交通を通じた活発な交流と連携が重要であると述べており、多自然居住地域の創造のためには、効率性の高い公共交通サービスを確保することが極めて重要であるといえます。

2.中山間地域の交通現況

(1)中山間地域の現況

 中山間地域は、農林水産省の定義する「中間農業地域」と「山間農業地域」を合わせた用語で、山あいの農山村地域を指しており、平坦地が少なく、傾斜地と林野で占められた耕作にも不利な条件にある地域をいいます。耕地面積が約42%、森林面積が約81%であり、日本の国土のおよそ70%を占めています。

 この中山間地域には、現在、日本の人口の15%が暮らしていますが、過疎化と高齢化が深刻な問題となっています。

 毎日の生活には、主としてマイカーが利用されていますが、車を運転することができない高齢者や子供たちにとって、バスやタクシーが、欠くことのできない交通手段となっています。

(2)厳しい状況が続く公共交通

 しかし、今、生活の足となるバスもタクシーも、厳しい現状に直面しています。

 まず、乗合バスの利用状況を見ますと、輸送人員についてはマイカーなどの普及により、昭和45年をピークに、その後減少を続けていますし、乗車密度についても、昭和40年の22人をピークに減少を続け、現在は12人とほぼ半減となっています。利用者が減れば、収益も減少し、事業者はバス路線の運行本数を減らさざるをえません。しかし、これによってバスの利便性が低下すると、利用者はますます減少せざるをえません。バス交通は、このような循環構造に陥っているといえます。

 

 

 次に、地方の乗合バスの決算状況を見てみますと。実に8割以上が赤字経営となっており、多くの不採算路線を抱えていることがわかります。

 さらに、この赤字は慢性化しており、赤字額が減る兆しが見えないでいます。

 

 

 一方、中山間地域に生活する人々にとって、タクシーは、ドア・ツー・ドアの交通手段として、バスと並ぶ大切な交通手段です。しかし、タクシーも厳しい経営状況にあり、輸送人員をみても、乗合バスと同様、ここ10数年間、減少傾向が続いています。

 

 

 ところで、バス交通に対し、自治体や事業者は、どのような意識を持っているのでしょうか。平成9年末に、国土庁が実施したアンケート調査によると、中山間地域の市町村のうち、7割以上は、「バスは公共性が高く、存続させたい事業である」と答えています。また、民間事業者も、6割以上が「存続させたい」と考えています。しかし、その一方で、事業者の4分の1は「赤字が増大すれば、廃止せざるをえない」と答えており、そのジレンマがうかがえます。

 

 

(3)バス路線維持に向けた取組

 しかし、こうした厳しい状況の中で、事業者をはじめ関係者によるバス路線維持のための真摯な取組が行われています。

 事業者においては、他の路線の収益で内部補助することによって、地方の赤字路線を運行しているわけですが、経営の合理化・効率化を図るために、分社化・子会社化を進めています。

 一方、路線を維持するための助成制度として、「地方バス路線維持費補助金」があります。各路線の乗車密度や運行本数に応じて、国、都道府県、市町村が助成を行っています。この制度でカバーできない場合には、地方自治体が単独で補助を行うケースも見られます。

 

 

 また、道路運送法などの法制度の運用面でも、地域交通の維持がしやすいように、柔軟な対応が図られています。例えば、昭和60年に「乗合タクシー」が実験的に導入されました。タクシーは、道路運送法において、「定員10人以下の自動車を貸し切って運送する」と定められています。しかし、乗合タクシーは、その名の通り、タクシー事業において乗合が認められたもので、一般のタクシーと乗合バスとの中間的な輸送手段といえ、機動的かつ安定的なサービスを提供します。特に、乗合バスの成立しにくい過疎地域において導入されているものを「過疎地型乗合タクシー」と呼んでいます。

@従来の運行形態

◆ 一般旅客自動車運送事業(免許/第4条)

 

イ 一般乗合:路線を定めて定期に運行する自動車により、乗合旅客を運送するもの

 ○定時刻定路線の乗合バス/定期観光バス/高速バス/空港バス/デマンドバス

 

ロ 一般貸切:イおよびハの旅客自動車運送事業以外の一般旅客自動車運送事業

 ○貸切観光バス/貸切チャーターバス

 

ハ 一般乗用:一個の契約により乗車定員十人以下の自動車を貸し切って旅客を運送するもの

 ○タクシー/ハイヤー

◆特定旅客自動車運送事業(許可/第43条)

 特定の者の需要に応じ、一定の範囲において旅客を運送するもの

 ○スクールバス/企業の送迎バス

◆無償旅客自動車運送事業(届出/第44条)

 無償で旅客を運送するもの

 ○福祉バス/患者バス

A法改正によるもの

◆郵便物の運送(第82条)

 一般貸切旅客自動車運送事業者は、旅客の運送に付随して、少量の郵便物、新聞紙その他の貨物を運送することができる(平成元年追加)。

B法規上の例外規定を用いたもの

◆貸切バスの乗合運送許可(許可/第21条)

 一般貸切旅客自動車運送事業を経営する者は、次の場合を除き、乗合旅客の運送をしてはならない。1.災害の場合その他緊急を要するとき、2.一般乗合旅客自動車運送事業者によることが困難な場合において、運輸大臣の許可を受けたとき

 ○廃止路線代替バス(貸切バス事業者による委託)

◆自家用バスの有償運送(許可/第80条)

 自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。ただし、災害のため緊急を要するとき、または公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であって運輸大臣の許可を受けたときは、この限りではない。 

 ○廃止路線代替バス(自治体による運営)

C通達等によるもの

◆デマンドバスの運行

 デマンドバスに関しては、昭和53年9月の運輸省の通達「デマンドバス運行の取り扱いについて」において、迂回部分についてはコールポストを道路運送法上の停留所とすることで「一般乗合」として取り扱うことが指導された。

◆過疎地型乗合タクシーの運行

 運輸省通達「過疎地域における乗合タクシーの導入について(1988年3月)」によれば、一般乗用旅客自動車運送事業者による乗合旅客運送は、1973年(昭和48年)以来、大都市周辺の深夜交通手段としてタクシーを活用するべく許可が行われてきている。

 過疎地型乗合タクシーの運行については、1985年(昭和60年)7月22日の臨時行政改革推進審議会において、地域の実情に応じ、乗合タクシーを導入することが指摘され、同年9月「当面の行政改革の具体化方策について」(閣議決定)において昭和62年度を予定時期として措置することとされた。また、1986年(昭和61年)からは、実験的導入が図られている。通達においては「今後も乗合バスと一般のタクシーとの中間的な輸送手段として、小型バス等とともにタクシーを活用することも適当な場合もあると考えられるため、各地域の実情に応じて弾力的に乗合タクシーの導入を図ること」とされている。

(4)後を絶たないバス路線廃止

 このような関係者の努力にも関わらず、バス路線の廃止は後を絶ちません。廃止路線件数は、平成3年の635件から、平成7年には795件と増加しているのです。

 

 

 バス路線廃止後の地域交通の様子をみると、民間事業者が廃止した路線について、民間事業者に代わり、地方自治体自らが運営主体となり、バスサービスが提供される場合が主体となっており、これを「廃止路線代替バス」といいます。

 しかし、平成7年度にバス路線が廃止された地域のうち、「廃止路線代替バス」へ移行した地域は25%にとどまっており、乗合タクシーが導入された地域は1%にすぎません。残る74%の地域では、運行が取りやめられたままとなっているのです。

 

 

(5)規制緩和の動き

 こうした厳しい現状がある一方、将来の地域交通のあり方をめぐって規制緩和の議論が進められています。現在、運輸政策審議会において、「交通運輸における需給調整規制廃止後に向けて必要となる環境整備方策等について」審議が進められていますが、需給調整規制廃止後は、原則として各路線への参入も撤退も自由となるわけで、これまでの内部補助制度からの転換を図るものです。ただ、路線からの撤退の自由を認める場合には、生活路線の維持方策を確立することが前提とされており、審議会で鋭意審議が進められています。これから、公共交通の維持方策を考えていく上では、こうした規制緩和の動向も踏まえる必要があります。

 

 

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