国際分業でグローバル化の進む物流

 

第5回『国際分業による企業活動を支える国際物流の課題』

 


 円高の影響やアジアの経済成長・インフラ整備の進展から、我が国企業の生産活動は世界各地に広がっている。これに伴い、物流についても、海外と国内ばかりでなく、海外どうしの物流までが重要になっている。
 そこで今回は、交通インフラの問題から、生産拠点が海外へ流出するのを防ぎつつ、望ましい国際分業のあり方を議論した。
 

 

[背景]

§空港や港湾の国際競争力の確保

 アジアで形成が進む国際ハブ港湾・空港に対抗する国際競争力を確保することが求められている。このため、中枢・中核国際港湾を中心とした重点化を推進する施策が進行中である。

 

§輸出入貨物についてのアクセシビリティの向上

 国際物流においても一部を占める国内発着地間の国内輸送の割高な費用の是正や、港湾・空港の通過に要する時間短縮等により、物流サービスの水準を国際的に遜色ないものとすることが求められている。以下の施策等により、一貫輸送の促進が図られつつある。

・国内陸上輸送   ISO規格コンテナ通行可能な道路の整備・改良

・国内海上輸送   輸送コスト削減に向け、外貿バースに隣接した内貿フィーダーバースの整備

 

§わが国の外航海運の国際競争力の強化

 輸出入貨物の安定的な国際海上輸送を維持していくために、わが国外航海運の国際競争力を強化することが必要である。

 

わが国の輸出入における積取比率の推移(%)


 


 1980年


 1990年


 1997年


わが国商船隊による積取比率 (輸出)
              (輸入)


  20.3
  37.4


   6.6
  27.5


   1.9
  16.5


わが国航空企業による積取比率(輸出)
              (輸入)
 


  34.7
  39.7
 


  38.3
  37.8
 


  36.1
  39.6
 

出典:数字で見る物流1999

 

 

論点:

 

 ・今後の国際分業は、どのように展開するか?
 ・時間短縮、コスト削減、小ロット化、サービス対象地域の広がり、環境問題等のニーズに対応して、どのような取組が見られるか?
  今後さらに強まるニーズはどれか。
 ・物流EDI化と手続きの簡素化、国際複合一貫輸送の進展、国際ハブ港湾、ハブ空港の形成、サードパーティロジスティクスの出現等の要因により、国際物流はどう変わっていくか。

 

 

[ゲストスピーカー]






 


 企業活動のボーダーレス化・グローバル化は著しく、今や国境はほとんど意識されていない。そこで、このように国際展開している我が国の主要産業である自動車業界と、国際物流事業者の業界の代表的企業から、以下のお二方をお招きした。 
 






 

 














 


村上 章二(むらかみ しょうじ)
(日本郵船株式会社
 物流グループ
  アジア・オセアニア物流チーム課長)
 入社後、欧州や香港の物流現地法人、アジア・オセアニア地域の物流現地法人の管理・営業支援等を担当している。
 今回は、アジア・オセアニア地域における物流の現状を踏まえた今後の物流ニーズ等のお話をしていただいた。
 














 


山本 貴士(やまもと たかし)
(日産自動車株式会社
 物流統括部 物流管理グループ
             主査)
 海外向けの物流企画、経費管理担当部に所属し、CKDの海外物流に関する企画・立案などに従事している。今回は、東南アジアの現地生産を支える物流のお話をしていただいた。


 














 

 


国際分業の進展とそれを支える物流業の実態(話題提供:村上氏)
 

 

●日本郵船の概要

 日本郵船は約115年という長い歴史を持つ会社であり、主要事業は、@定期船事業、A不定期船事業、B物流事業である。海運産業は成熟産業であるという認識のもと、20年前に策定した「NYK21」という中期経営計画からは、国際総合物流事業を積極的に展開していくこととしている。

 物流グループの事業は、「ロジスティクスを最適化し、アウトソースする」という顧客(メーカー等)の要請への対応が中心であり、海上輸送はあくまでもロジスティクスの一部にすぎない。自社の船をどう使うかではなく、顧客の要求に対応した物流を構築するのが、今の当グループのコンセプトである。

 

●今後の物流の方向性

 物流最適化の方法例としては、@バイヤーズ・コンソリデーション(バイヤーに代わって調達国・消費国間の物流を担当し、業務の一元化や、情報伝達・流通加工等の高付加価値サービスを提供することによって、コストやリードタイム、在庫の低減等を実現する)、Aミキシング・オペレーション(複数のサプライヤーや購入者の物品をまとめて保管管理し、コストを低減する)、B非居住者在庫(非居住法人である日本本社が海外在庫を一元的にコントロールするしくみ。現地工場、現地法人にかかる負担・コストを軽減し、自社ロジスティクスの最適化を実現するシステムとしてトレンドになっている。)、CIPO業務(部品サプライヤーの供給した部品をサードパーティ(物流会社)が代行してまとめた上で、メーカー工場に供給する)などがある。(参考資料参照)

 

●国際分業の実態

 家電や事務機メーカーの事例を紹介する。A社の場合、中国・タイ・マレーシアが生産の中心である。これらアジア各地の工場で作られた製品は、欧米・日本などの大口の消費地には直送されるが、その他の小口消費地の場合、ハブ(シンガポール)でまとめられた上で出荷される。シンガポールがハブに選ばれたのは、これまでマレーシアが主な生産拠点であったことに由来しているが、現在、南中国に生産がシフトしていることから、今後香港などにハブが移行する可能性がある。

 こうした事例から、アジアのハブポートには、生産立地・コスト・制度(規制など)等の条件に加え、通信・金融・人材面のインフラ整備が必要なことがわかる。現在、ハブの機能面コントロール力では、香港、シンガポールが秀でているが、この2つはコストが日本並みになりつつあるので、今後はこれらに近いシェンチェン(中国広東省)やパシールグダン(マレーシア)にシフトする可能性もある。

 

●今後の国際物流業者の課題

 @SCM(サプライチェーンマネジメント:Supply Chain Management)の進化に伴い「見える物流(visible logistics)」を実現できること、Aグローバルなネットワークを持つこと、Bロジスティックを最適化するソリューション(解決方法)を持つこと、Cインテグレーター(総合物流事業者)としての強みを持つこと、Dグローバルな物流を提案、マネジメントできる経営体制の充実などが必要となる。

 


アジアで進む新たな国際物流の実態(話題提供:山本氏)
 

 

●日産自動車の概要と世界展開

 日産自動車の総生産台数275万台のうち、108万台は海外生産である。国内の主要工場は、横浜・いわき(ユニット)、追浜・栃木・九州・村山(車両組立)にあり、海外出荷拠点は、本牧(従業員560人、コンテナ能力で約3000本/月)と九州(同130人、720本/月)があるが、来年3月には本牧に統合する予定である。

 海外生産工場は、世界18カ国に拠点がある。資本100%の生産拠点は米国、メキシコ、英国、スペインの4つ。また、イラン以外はすべてコンテナ化している。

 コンテナ本数で見た海外生産部品出荷実績は、米国4600本、メキシコ3700本、ヨーロッパ3800本、アジアで4800本である。

 

●CKD(Complete Knock Down)方式の実態

 アジア向けCKD出荷台数は1996年がピーク。98年は通貨危機の関係でかなり落ち込んだが、99は若干回復している。メインはタイ・台湾で、7〜8割を占めている。

 現地生産の比率は年々高まっており、現地生産83%、CBU(完成車)17%となっている。

 

●アセアンにおける相互補完物流の実態

 アセアン地域内の工場における相互補完とは、各国の市場が小さく、1国のみでは採算がとれなかったり、国産化規制・輸出義務・排気安全規制などがある中で、各国ごとに部品生産を分担して集中生産し、それぞれ生産した部品を相互調達するといった相互補完戦略を持つことである。(BBC、AICOスキームを利用した輸入税軽減など)

 アジアでは、台湾・タイ・フィリピン・インドネシア・マレーシアが相互補完している。このほか、米国・メキシコ間、ヨーロッパ域内、アフリカなどが相互補完を行っている。

 アセアン相互補完の実績としては、1991年のBBCスキーム開始以来、93年サニー11品目、アジア専用車189品目、94年サニー75品目追加など。なお、2000年新型サニーからAICOスキーム適用を開始する予定である。

 


[コラム:BBCスキームとAICOスキームとは]
Brand to Brand Complementation/Asean Industrial Cooperation Scheme
 AICOスキームとは、産業を限定せず、企業内での貿易を行う場合に、域内での関税引き下げを前倒しで適用する構想で、1996年に発効した。最終目標がAFTA(ASEAN自由貿易地域)で、ASEAN域内の関税率を2003年までに、対象品目について0%から5%の自由貿易地域にすることを目指す。
 一方、BBCとは、AICO以前にあったもので、ASEAN域内で自動車の部品を補完し合う制度。

 

 

●相互補完物流の方向性

 アジアの補完物流量は、2001年計画としては97年比でタイ9倍、アセアン全体で

4.3倍を予定している。

 補完を成り立たせるための前提条件は、QCD(quality,cost,delivery)を日本並みの水準にすることである。

 アセアン相互補完物流を改善していくためには、@生産出荷体制の再構築(QCD現地マネジメント力の強化。量産体制への対応検討)、A包装仕様の変更・確立支援(屋外タイプから屋内補完タイプに切り替えることによるコスト減など)、B海上運賃低減(本社指導による船社選択)があげられる。

 


ディスカッション再録:国際的な大競争時代における我が国の役割と
           それを支える物流のあり方

 

 

●物流アウトソーシングの先進事例

Q:物流マネジメントには、例えばハブにする地域の選定まで含まれるのか。

A:フェデラルが自社のコンピュータ・インフラによるソリューションを提供したケースもある。商社系の物流会社には、物流のほかに部品メーカーの開拓までパッケージして提案する例などもある。

 

Q:物流合理化が進む中で、売り手主導と消費者主導で進むのでは、どちらがより廉価な供給を実現すると考えるか。

A:物流面で一番進んでいるのは米国だが、ここではバイヤー主体で価格等すべてが決まっている。

 

●アジアにおける中国の重要度

Q:東南アジアに生産拠点が移っているという話だが、人口の多さや日本とのつながりを考えた場合、今後いきつくところは結局中国ではないのか。

A:現在でも、当社の欧米主要航路における日本の物流量は20%で、中国・香港は40%と一番多くなっている。物量面でみると、すでに日本よりも重要度は高い。

 

Q:今後、香港より北の青島や内陸部に物流拠点が移ることは考えられるか。

A:家電・事務機に関しては、部品コストの比率が高い。現在、部品メーカーは南寄りに多いので、北には行かないと思う。

A:当社の場合、中国に鄭州日産の工場があるが、天津から約700qの内陸部に位置しているため、物流インフラは十分整っていない。

 

Q:品質の面で日本の競争優位性はある、ということか。

A:アジアとの比較ではそういえるが、今後欧米も加わってくると競争は激化するだろう。

 

●我が国の物流の高コスト性について

Q:日本の物流コストは高いというが、コストの内訳はどうなっているのか。

A:立地コスト、港湾関連費用などが高い。

A:港湾経費が高いというが、香港も高いのではないか。もっとも、香港は強いから高いといえる。日本は弱いのに高いのが問題で、それは規制があるからである。

物流コストにしても、中国の内陸部などを考えれば、日本はトータルでは安いと思う。

 

●ハブ拠点の形成について

Q:ハブの立地については、かなり合理的に位置が選定されているようだが、例えばある場所が有利になったという場合、従前の場所からスムーズにハブを移転することができるものなのか。移転にかかる制約や規制はあるのか。

A:そもそも自由度が高い場所を選んでいるので、移転の障壁は特にないだろう。

 

Q:日本にハブポートを置こうとした場合、実現の可能性はあるか。例えば生産拠点が東南アジアに移ってしまっている点やコストの高さがネックになるのか。

A:確かにそれらも影響するだろうが、そのほかにもいろいろな要素が考えられる。

A:いろいろな要素を考えていくと、最終的にはやはり中国が中心になっていくのではないか。今後、物流拠点が日本以外に移った場合に、横浜や神戸港などは危機感を持つかもしれないが、それでも日本はアジア経済の7割以上を占めている。稼ぐ内容が違うのであって、雑貨で稼ぐ地域と高度経済で稼ぐ地域があるのだ、という認識にたてばよいのではないか。

 

Q:倉庫立地の持つ重要性は、どの程度あるのか。

A:ケースバイケースであり、まったく倉庫を使わないケースもある。

 

●国際物流事業者から我が国政策への要望

Q:国際物流業者として、現状の改めるべき点や要望・提案等はあるか。

A:東京・神戸の主要港には、シンガポール並みのインフラサイズ(港内・背後圏とも)がない。道路などの国内輸送費も高い。地方港が使われるのは競争力があるからではなく、陸上輸送費が高いからではないか。

A:欧米で主流となっている45Fコンテナが使用できれば、効率的に物が運べるし、また、環境負荷も小さいと思う。

 


(研究会を終えて)
 今後のアジア地域の国際分業は、メーカー等にとって最適なコスト・技術等の組み合わせを求めて、中国方面等にさらに進展していくことが予想される。
 物流は、こうした生産分業体制構築の中の一要因となるが、他の条件の下で物流業者の方が最適解を提示する必要がある。また、物流を統合するハブ拠点の立地は、こうしたさまざまの要因に基づいて選定されている。こうした現状を踏まえた施策展開が必要なのではないか。
 

 

 

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