※「クリーム・スキミング」とは、「牛乳から美味しいクリームだけをすくい取ること」より転 じて、ある分野のうち利潤の多い部分にのみ参入することを意味する。英語表記では、 “skimming the cream”。 |
(ii) 退出についての仕組み
需給調整規制の廃止により参入の自由化が図られる場合には、退出についても事業者の自由な判断に委ねられることとなるのが基本である。しかし、生活交通からの退出については、必要な生活交通サービスの維持を図る観点から、参入についての仕組みや公的支援措置等との整合性を考慮して、一定の調整等の適切な仕組みを設けることを検討する必要がある。
なお、この場合においても、その基準・要件の明確化や手続の透明性の確保について十分配慮する必要がある。
(ii) 併せて、事業経営上の創意工夫を発揮させ、コストの圧縮を促進するための適切な規制緩和を引き続き推進するとともに、市場に関する情報提供等を通じ常に新たな参入への意欲を持たせることに努めることが望ましい。
また、離島や過疎地域をはじめとして交通に対する需要が少ない地域における生活交通の維持を図るに当たっては、前述の各種の方策や経営効率化を促進するための措置と併せて、観光振興をはじめとした地域の活性化を通じた交通需要の喚起が重要であり、このための各般の施策が今後とも引き続き推進されることが望ましい。
(ii) このような視点に立って考えると、海上交通については、離島住民の生活必需物資の輸送の大部分を担っていること、空港が整備され航空が利用できる離島は限られること等の事情から、これが離島における基本的かつ普遍的な交通手段であると考えられ、したがって、国は、そのサービスの確保について一定の責任を有し、かつ、その責任は、航空との関係では相対的に大きいと考えられる。
(iii) 他方、航空については、別途海上交通という基本的な交通手段が存在するという事情にかんがみれば、航空サービスの確保に関する国の責任の程度は相対的に低いと考えられるが、近年及び将来における時間価値の高まり等を考慮すれば、一定の要件(離島と日常生活に必要不可欠な拠点都市との間を結ぶ路線であって、海上交通によることが著しく時間を要する場合等)を満たす離島航空路線については、国は、そのサービスの確保につき一定の責任を有すると考えられる。
(iv) 以上のような離島交通に係る海上交通、航空それぞれのモードの相違・特色を考慮しつつ、政策的に維持すべき生活交通の範囲、離島航空の維持のための運航費補助を含む生活交通維持のための方策等について、1から4までに述べた基本的な考え方に基づき、今後、制度設計の段階で具体的な基準、措置等を検討することが適当である。
(ii) バスについては、地域内の交通手段として主として自家用自動車を利用できない住民の貴重な足として機能すること等を考えると、これが陸上生活交通における一般的かつ最低限の公共交通手段であり、国は、そのサービスの確保について一定の責任を有すると考えられる。この場合において、廃止バス路線の代替運行等既に市町村がその維持について役割を担っている生活交通の分野があることを念頭に置く必要がある。
また、現在のバスサービスの実態が真に地域の利用者の需要に適合しているかについて疑問の声もあり、バスという従来のモードにとらわれずに、より小規模の需要に応じた新たなサービス形態の出現を視野に入れたり、あるいは、地域のスクールバス、福祉バス等他の行政目的で提供されている交通サービスとの連携を図ることについても、今後検討する必要がある。
(iii) 鉄道については、利用者が少なく収支採算性が悪化しているローカル線について、鉄道事業者が当該路線の維持に最大限の努力を払うことが期待されている。
それにもかかわらず採算の確保が困難な路線は、交通需要が少なく鉄道のもつ優位性を十分に発揮できない状況にあり、また、コスト面でもバスなどの自動車交通の方が経済的であると考えられる。このような場合には、本来、より適切なモードへの転換を図ることが適当であるが、当該路線を廃止した場合に、代替交通機関による適切な輸送サービスの確保が困難で、かつ、その鉄道輸送サービスが継続されないと地域住民の日常生活に著しい障害が生じる路線については、地域における生活交通サービスの確保を図る観点から、より適切なモードによる輸送が可能となるまでの間の輸送サービスの確保について、国は、一定の責任を有すると考えられる。
(iv) 以上のようなバス、鉄道それぞれのモードの相違・特色を考慮しつつ、政策的に維持すべき生活交通の範囲、生活交通維持のための方策等について、1から4までに述べた基本的な考え方に基づき、今後、制度設計の段階で具体的な基準、措置等を検討することが適当である。
(v) なお、バスによる生活交通の維持方策については、
イ. 全国の広範な地域において、民営・公営合わせて約4万の系統から成るネットワークにより面的なサービスが供給され、その輸送人員も年間56億人に達しており(平成8年度)、都市部、地方部を問わず、その大半が現に生活に不可欠な交通サービスとして重要な機能を果たしていること。
ロ. しかしながら、その経営実態をみると、全系統の約7割が赤字という状況にあり、民営事業者については、その赤字をごく一部の優良路線の収益や国・地方公共団体による公的補助等で埋め合わせることにより、かろうじてそのネットワークが維持されているというのが現状であること。
という固有の事情を考慮しつつ、政策的に必要なバスサービスの維持に支障をきたすことのないよう、引き続き自動車交通部会において具体的な検討がなされる必要がある。