3 「消費者の保護」に関する行政の関与のあり方 3 「消費者の保護」に関する行政の関与のあり方
(1) 行政の関与の理由
 需給調整規制の廃止に伴い、基本的には、事業者が提供しようとするサービスの質、量、水準及び内容については当該事業者の経営判断が尊重されるべきであり、事業計画の内容についても、基本的には事業者が自主的にその内容を決定するべきものである。
 しかしながら、例外的に事業やマーケットの特性によっていわゆる「情報の非対称性」、「自然独占的形態」等の事態が発生する場合には、行政として「消費者の保護」の観点から、手法的には、事前規制から事後的措置への移行に留意しつつ、サービスの内容について必要最小限の審査を行い、利用者の利便が著しく阻害されるような事態を防止することが必要である。また、高齢者、障害者等の移動に制約のある利用者の存在にも配慮する必要がある。
 この場合、いずれにしても交通運輸分野においては、「消費者の保護」に関する行政の関与のあり方について、需要が十分にあって供給者が多数出現するマーケットにおけるものと、需要が少なく供給者の出現があまり期待できないか又は自然独占状態にあるマーケットにおけるものとでは特性が異なるため、行政の関与の度合いも自ずと異なってくることから、その点に十分留意しつつ(2)に掲げるような事項について具体的措置を講じる必要がある。

(2) 「消費者の保護」のための具体的措置

(i) 事業参入に係る制度のあり方
イ. 損害賠償能力
 万一事故が発生した場合には、事業者には被害者への損害賠償責任が発生することになる。その場合、被害者救済の観点から事業者の損害賠償能力が十分に備わっていることが求められる。
 今後、需給調整規制の原則廃止により新規参入が容易となると考えられるが、新規参入者が被害者に対する損害賠償能力を有しているか否かを把握する観点から、行政は、事業者が新規に事業参入する際に当該事業者の損害賠償能力について審査をする等の一定の関与をすることが適当である。
ロ. 運送約款
 交通機関の利用者は不特定多数であり、個々の利用者毎に運送契約の内容を決めることは事実上不可能であることから、事業者があらかじめ定めた内容によって契約が締結されるのが一般的であり、実際には利用者は当該契約について理解できていなかったり、内容に十分満足していない場合であっても、日常生活においては当該交通機関を利用せざるを得ない状況下に置かれていることが多い。
 このため、行政が運送約款の内容の合理性についてあらかじめ「消費者の保護」という観点から審査等の関与を行う現行の仕組みは引き続き存続させることが適当である。
 また、事業者は運送約款の平易化、簡略化に努め、運送約款を利用者の見やすいところに備え付けておくことが必要である。
ハ. 不当な差別的取扱の禁止
 今後、需給調整規制が廃止され、免許制から許可制に移行した後も、公共交通機関である以上、事業者が利用者を不当に差別的に取り扱うことがあってはならず、何らかの形でこれを禁止するための方策が必要であろう。
ニ. 運賃面での配慮
 需給調整規制の廃止は、市場における公正かつ自由な競争を促進し、事業者の創意工夫等を通じた事業活動の効率化・活性化を図ることにより、利用者の利便の増進を図ろうとするものであることから、運賃についても、原則として、事業者がその経営上の判断により、自由に設定できるような仕組みとすることが適当である。
 しかしながら、事業者が非競合路線において一般利用者に過度な負担を強いる運賃を設定したり、他者を市場から排除するような略奪的な運賃を設定する等により、大きな社会的問題が生じるおそれがある等の指摘もあることから、参入についての仕組みや公的支援措置等との整合性を考慮しつつ、運賃などの価格について、利用者の利益が損なわれないための必要最小限の措置が必要である。
 また、各交通モードごとに運賃制度を検討する場合には、モード毎の事業特性や市場構造の違い(自然独占的性格の濃淡、他の代替的輸送手段の有無、サービス供給実態等)を十分に踏まえることが必要である。

(ii) 事業運営に係る制度のあり方
 (i)に掲げた事項については、事業参入後も継続的に担保されるべきものであるが、加えて、事業運営に当たっては以下の措置を講じる必要がある。
イ. 意見・苦情への対応
 旅客に対する取扱いその他の交通運輸サービスに関する意見・苦情への対応は第一義的には事業者において行うべきである。事業者は、利用者に自ら提供する交通運輸サービスについての相談窓口を設け、その周知を図るなど、利用者が気軽に情報にアクセスできる環境づくりを行うことが重要である。
 こうしたなかで、例えば、交通運輸サービスについて意見・苦情がある場合、利用者がその意見・苦情について事業者にアクセスし易くするためには、各事業者に連絡先の明記を義務づけることを含め、意見・苦情の対応責任者の明確化を義務付けることも検討に値する。
 なお、行政が利用者から収集した意見・苦情については、その内容を当該事業者に送付し、措置状況を一般に公表するシステムの整備を検討する等により、事業の改善等に反映されるようにする。
ロ. 事後的是正措置
 利用者からの苦情が特に多い等の状況が見られる事項については、当該事業者から事情等についてヒアリングを行い、利用者の利益・利便を害しているという事実があると認められる場合には、理由を付した上で改善の勧告又は命令を行うなど事後的な是正措置が必要である。

(iii) 利用者への情報提供のあり方
 利用者の自由な選択を促すためには、利用者の判断の基礎となる情報公開の促進、情報へのアクセスの容易化等情報の偏在を是正することが求められる。また、情報公開の促進により、競争の効果を十分に引き出すことが可能な市場環境を整備し、より一層の競争促進を図ることができることになる。
 このような情報公開は事業者及び行政が各々の役割に基づき、透明性と公平性の考え方を徹底させながら実施していくことが適当であるが、基本的には各事業者がその事業展開の中で自主的に行っていくべきものである。
 しかしながら、事業者による情報だけでは利用者が事前に十分に情報を得ることができない場合等には、社会的に必要な情報を行政自らが収集、整理、公開するようなシステムも考慮されるべきである。
 なお、事故、積雪、車両故障等により運行が中断又は中止を余儀なくされたときには、事業者は中断の事情、今後の見通し等について利用者に的確な情報を提供し、説明を行い、情報欠如等から生ずる利用者の混乱等の防止に努めることが適当である。

(iv) 高齢者、障害者等への対応
 高齢者、障害者等が、安心して交通運輸サービスを享受できるようにすることは、高齢化社会への対応、高齢者や障害者の社会参加の促進等を図っていく上でますます重要であり、事業者及び行政はその点に十分配慮する必要がある。
 また、日本語や地理に不案内な外国人等についても、安心して交通運輸サービスを享受できるようにすることは、訪日外客の来訪促進や相互理解の増進等を図っていく上で重要であり、その点にも配慮する必要がある。


4 その他の論点

(1) 中小企業への対応
 需給調整規制の廃止に伴い一時的・部分的に中小企業の経営に影響を及ぼすことも懸念されるが、これに対しては、近代化の促進等による経営基盤の確立・強化や事業の多角化・転換等が円滑に行われ、経営の効率化・活性化が図られるよう、融資制度や税制特例等、中小企業に対する様々な支援措置について、行政が周知・あっせんを図る等その活用が図られるよう努めることが必要である。
 また、その際には、各モードごとの事業特性を踏まえつつ、関係省庁、地方公共団体等とも連携を図りながら、過渡的な措置として各モードごとに必要な対策を講じていくこととすべきである。

(2) 雇用の確保
 需給調整規制の廃止に伴い一時的・部分的に雇用状況に影響を及ぼすことも懸念されるが、これに対しては、雇用の流動性確保にも配慮しつつ、雇用保険、職業紹介、職業訓練等雇用の安定を図るための様々な支援措置について、行政が周知・あっせんを図る等その活用が図られるよう努めることが必要である。
 また、その際には、各モードごとの事業特性や雇用状況を踏まえつつ、関係省庁、地方公共団体等とも連携を図りながら、過渡的な措置として各モードごとに必要な対策を講じていくこととすべきである。


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