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「国土と環境を考える委員会」提言

自然と共存しうる循環型国土の形成に向けて

2.環境面から見て望ましい地域の姿
  〜コンパクトで美しい都市づくり、中山間地域等における豊かな自然の保全とそれを支える地域づくり、
     積極的な自然環境の保全・回復等
 1.のような行政区画にとらわれないまとまりを重視した地域づくりを行っていく中で、各地域において、当該地域の地理的・自然的条件や個性・固有性を踏まえつつ、これを活かした省資源、省エネルギー型で、良好な生活環境を備え、自然と共存した環境負荷の小さい地域像を描き、(複数の)地方自治体や住民、NPO、企業、国等が役割分担、協働して地域づくりに取り組む。
 各地域にある程度共通する一般的な地域づくりのイメージとしては、
(1) 環境負荷の小さいコンパクトで美しい都市づくり
(2) 中山間地域等における豊かな自然の保全とそれを支える地域づくり
(3) 都市内を含めた地域全体における積極的な自然環境の保全・回復
(4) リデュース、リユース、リサイクルのための具体的システム(物流、ストックヤード、加工施設、処理施設等)づくり
等があげられる。
(1) 環境負荷の小さいコンパクトで美しい都市づくり
 都市の環境負荷を小さくする観点から、それぞれの地理的・自然的条件を踏まえつつ、土地の有効高度利用により住、職、遊など都市生活のための様々な複合的機能を集積するとともに、都市内及び周辺における自然環境の保全・回復等を図ることにより、都市中心部に人口の集積を回復し、省資源、省エネルギー型の自然と共存した職住近接型のコンパクトな都市づくりを進めていくことが重要である。また、地域の歴史や文化を生かした、住民が誇りを持って長く住み続けたいと思うような、落ち着きのある美しい都市景観を形成していくことが重要である。これまで、わが国の都市は需要追随型で拡大せざるを得ない面があったが、今後、人口減少の局面を迎えることが予想されることから、このような取組みを一層推進すべきである。
 また、大都市と地方都市の密度(人口、活動、土地利用、建築空間)の違いを踏まえた総合的な環境質の向上と、それぞれのケースに応じた多様な取組みが必要である。
 なお、コンパクトで美しい都市づくりにあたっては、土地利用や景観等に関し国民の私有財産権の制限を伴わざるを得ない場合もありうる。最終的には憲法上の議論になるが、現在の都市計画法や建築基準法等の制度によってもある程度の私権の制限は行いうることから、住民の意識の啓発や対話を通じて、現行の制度の的確かつ積極的な運用を図るとともに、必要に応じて制度を見直し、環境と調和した美しい都市づくりを推進すべきである。
 環境と調和した美しい都市づくりに向けた具体的な方向性、方策の提言は、以下のとおりである。

1 省資源、省エネ型のコンパクトな都市づくり
 人口減少も見据え、適切な土地利用規制・誘導の工夫も行い、高密度の集中地区と周辺のオープンスペースの適正な配置などによるコンパクトな都市を目指すべきである。
 その際、当該オープンスペースや都市周辺において都市的土地利用の需要も農地としての需要も小さくなった土地などに自然環境を回復すること、さらには、建築物の屋上壁面や人工地盤上の緑化など都市の施設の多機能利用により生物が生息・生育できるような環境を整備していくことにより、都市内においても積極的に自然環境を保全・回復するべきである。
 さらに、都市活動に伴う排水、廃熱、廃棄物等の未利用資源・エネルギーを積極的に活用し、省資源、省エネルギー、温暖化ガスの排出抑制を図ることも必要である。
 以上のような自然環境の保全・回復や省資源・省エネルギー型の都市づくりは、都市の生活環境や都市気候への影響が近年特に問題となっているヒートアイランド現象の抑制にも効果がある。

2 美しい都市景観の形成
 屋外広告物等に係る適正な規制のあり方について良好な景観の形成の観点から検討することや、田園的土地利用と人工的土地利用の境界領域においてやや距離のあるところから見た風景の保全を図っていくことが必要である。観光地については、地域の財産でもある良好な景観の確保に特に留意すべきである。
 電線類の地中化や水辺空間の整備等を進めることが必要であるが、良好な景観の実現は、景観形成に配慮した市街地整備と建築物の形態等の規制誘導が一体となって初めて形成されるものであり、地方自治体と地域住民とが協力して取組みを実施していくことが重要である。
 さらに、美しさをトータルで求めるためには、都市計画の中に景観の保全・改善を含めることの検討が必要である。
 なお、100年住宅など、長期耐用型建築という施策を講じること自体が周辺の景観や文化の形成・保全といったものにもつながるという意識が必要である。

3 大都市、地方都市の実情に応じた環境の向上
 自動車交通による環境負荷の低減のため、自動車単体対策に加え、大都市では公共輸送機関をできるだけ活用することなどによる都心部への自動車流入の調整・抑制、地方ではバス等の公共輸送機関とマイカーのバランスを考慮するなど、大都市、地方都市の実情に応じた交通体系を考えていくことが必要である。   
 また、大都市の大深度地下を、物流、静脈物流、廃棄物処理施設等に活用することが、地上の環境汚染を食い止めるためにも重要である。
 さらに、工場跡地等の土壌汚染については、汚染された土地の再生が課題となっていることから、土地利用用途に応じた浄化のあり方、調査・対策の費用分担のあり方、汚染された土地の有効活用について具体的に検討すべきである。
(2) 中山間地域等における豊かな自然の保全とそれを支える地域づくり
持続可能な社会の基盤となる循環型国土を実現するためには、都市の環境負荷を小さくするだけでは不十分であり、中山間地域等を、自然と共存しうる循環型国土の先進空間で、かつ、国土保全上も重要な地域であると位置付け、その豊かな自然の保全に努めるとともに、それを支えるコミュニティの形成を図ることにより、国土全体として都市と中山間地域等が共存する国土構造を形成することが不可欠である。
 このため、基礎的な医療・福祉、教育、消費等のサービスが円滑に提供されるよう、都市等との連携・交流を確保するための交通基盤、情報通信基盤等の安全で健康的な生活のための基盤整備が必要である。
 さらに、地域が有する自然環境、文化等の資源を再発見し、これを活用した独創的な地域づくりを進めるとともに、良好な景観を保全・形成していくことは、観光面を通じた地域の活性化を図る観点からも重要である。
(3) 都市内を含めた地域全体における積極的な自然環境の保全・回復
 かつては身近であった生物までもが貴重種として扱われるようになったり、また、健全な水循環の確保や浄化作用等の生態系が有する機能が低下している。このため、都市内の自然、里山、水辺など身近な自然の保全・回復を図るとともに、生物の移動性にも着目し、都市レベル、地域レベル、ひいては全国レベルの多元的な「エコロジカルネットワーク」、「エコ回廊」注1といったものを計画的に形成していくことが重要である。
 なお、生態系の回復については、慎重な計画にもとづきながらもある程度の試行錯誤を許容する「順応的管理(アダプティブ・マネジメント)」注2手法の導入が重要である。
 また、都市化の進展に伴う水質汚濁、地下水位の低下などの弊害を除去して人間の持続的な活動の基盤である健全な水循環系を確保し、失われた水辺空間を復活させるとともに、内分泌かく乱化学物質(いわゆる「環境ホルモン」)等の微量有害化学物質のリスクの適切な管理を進めるなど、健全な水環境の保全、回復を図ることが必要である。

(注1)「エコロジカルネットワーク」、「エコ回廊」
 生物の多様性の確保や生態系の保全・回復を目標として、生物生息空間である緑(自然環境)のエリアを量的・質的に確保するとともに、それぞれの空間相互を生物の移動を容易にする緑の回廊(生態的回廊)でつなげ、地域レベル、広域レベル、国土レベルのネットワークを形成すること。

(注2)「順応的管理(アダプティブ・マネジメント)」
 生態系管理を行う場合、生態系が複雑であり不確実性が大きいことから、当初想定通りに行えるとは限らない。そのため、生態系管理の有効性や影響を監視(モニタリング)しつつ、改善を図る観点から、逐次、新たな生態系管理のための試みを行っていくこと。
(4) リデュース、リユース、リサイクルのための具体的システムづくり
 各地域において、リユースやリサイクルを推進するための静脈物流のポイント、ストックヤード、リサイクル加工センター、廃棄物処理場の配置等を具体的に空間スケールで検討することや再利用に関する市場を整備していくことが必要である。また、産業廃棄物に関する情報を共有できるようなシステムや、廃棄物のリデュース、異なる産業間でのリサイクルが可能となる技術の開発を推進することが重要である。

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