国土交通省が進める地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の一環として実施された「配車アプリ乗降実績データ標準化プロジェクト」。前編では、公共ライドシェア等のデマンド型交通の普及が進む一方で、配車アプリ事業者ごとにデータ仕様が異なり、自治体による分析や政策活用が難しくなっている現状を紹介しました。
後編となる本記事では、アクセンチュア株式会社が取り組んだ乗降実績データの標準仕様案の設計プロセスを振り返ります。事業者ごとに異なるデータをどう整理し、自治体が分析に利用しやすい形へと再設計したのか。標準化の成果と課題、そして全国展開に向けた展望を探ります。
背景と狙い
ばらばらの配車データを、政策に活かせる形へ
近年、地域交通では公共ライドシェア等のデマンド型交通など、新たな移動サービスの導入が各地で進んでいます。配車アプリを通じて蓄積される乗降実績データは、利用状況や需要を把握する重要な情報源となり得ます。
しかし実際には、配車アプリ事業者ごとにデータ項目や定義が異なり、自治体側でデータを統合・分析するには個別の変換作業が必要となるケースが少なくありません。その結果、十分な分析や比較が難しく、政策立案や施策検討にデータを活かしきれない状況が生まれていました。
ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ シニア・マネジャーの増田暁仁さんは、プロジェクトの狙いを次のように説明します。
「本プロジェクトでは、こうした状況を改善するため、乗降実績データの標準仕様案を整理し、自治体と事業者の双方が扱いやすいデータ連携の枠組みの構築を目指しました」
モデルケースとして、別府市で実証運行を行っている公共ライドシェアを対象に検討を進めました。2026年度以降は公共ライドシェアに限らず、タクシー等のデマンド型交通全般へと検討範囲を広げ、地域や事業者を横断してデータを活用できる共通基盤の構築につなげていく考えです。
要件定義と設計プロセス
自治体の分析ニーズと事業者の制約をどうすり合わせるか
本プロジェクトでは、乗降実績データの標準化に向けて、自治体と配車アプリ事業者の双方にとって実務的に成立する仕様を設計することが大きなテーマとなりました。
検討にあたっては、次の3点を主要な目標として設計しました。
- 既存システムを前提に、事業者ごとに異なる乗降実績データの仕様を整理し、共通化可能な範囲について標準仕様案を定めること
- 自治体が複数の配車アプリ事業者から提供を受けたデータを簡易に統合処理し、地域全体のデータとして分析に使えること(2025年度は別府市)
- データ仕様だけでなく、データ提供に関わる法的な論点を整理し、自治体への円滑なデータ提供を実現すること
アクセンチュアは、自治体の政策検討・評価に必要なデータと、事業者が実際に保有しており、負担が少なく提供可能と思われるデータを標準仕様として整理する役割を担いました。
まず、自治体がどのような目的でデータを活用するのかを整理し、政策検討・評価や運行改善のために必要となる指標を明確化しました。一方で、配車アプリ事業者に対しては、現在保有しているデータ項目やシステム仕様、運用上の制約についてヒアリングを行いました。
こうした情報を基に、自治体の分析ニーズと事業者側の技術的・運用的制約を踏まえ、標準仕様として定義すべき範囲を検討しました。
また、本検討には自治体、配車アプリ事業者といった立場の異なる関係者が参加しており、それぞれの目的や制約を整理しながら議論を進める必要がありました。
ソング本部の鎌谷果凜さんは、検討プロセスを次のように振り返ります。
「自治体、事業者と、それぞれ立場や関心が異なる中で議論を進める必要がありました。そのため、『自治体がどのような目的でデータを活用したいのか』、『事業者が現実的に提供可能なデータは何か』といった点を整理しました。結果として、各者の立場を踏まえながらあるべき標準仕様として方向性を整理することができました」
技術的特徴と開発内容
事業者ごとのデータを「共通仕様」として再設計
本プロジェクトでは、配車アプリ事業者ごとに構造や定義が異なる乗降実績データを整理し、自治体が分析に活用できる標準仕様案としてまとめました。
主なポイントは次の3点です。
- データ項目の整理と標準フィールド定義の設計
まず、各事業者が保有する乗降実績データを一件明細レベルで整理し、データ項目の意味や粒度、データ型などを確認しました。そのうえで、項目の定義や形式ルールを整理し、標準として定めるフィールドを定義しています。 - 政策評価に用いる指標の算出ロジックの整理
自治体が運行評価や政策検討に用いる「配車マッチング率」や「移動に関する需要と供給」といった指標についても、算出方法を整理しました。どのデータ項目を用いて指標を算出するのかを明確化することで、自治体が事業者ごとに異なるデータ仕様を個別に読み解く必要がない形を目指しました。 - 既存システムを前提とした標準化設計
多くの事業者が既存の配車システムを運用していることから、本プロジェクトでは大規模なシステム改修を前提とせず、既存データから実現可能な範囲で標準化を進めました。
また、複数事業者が公共ライドシェアを運行している地域では、データ仕様の差異が大きいケースもあります。そのため、本仕様では完全な統一を目指すのではなく、共通項目と事業者ごとの差異を許容する項目を整理することで、実務的に運用可能な標準化の形を検討しました。
こうした設計により、自治体は事業者ごとに個別のデータ加工を行わなくても分析に着手でき、事業者にとっても継続的に提供可能なデータ連携の形を示すことを目指しました。
フィールド実証・テスト
別府市をモデルとして検証
本プロジェクトでは、大分県別府市をモデルとして検討を進めました。期間は2025年10月から2026年3月までです。
別府市では2024年から公共ライドシェアサービス「湯けむりライドシェアGLOBAL」を運行しています。複数の配車アプリ事業者がパートナーとして参画されており、既にデータ仕様の違いが顕在化しています。そのため、今回の標準仕様案が実務的に整理可能かどうかを検証するフィールドとして選定されました。
検討には、自治体の担当者や配車アプリ事業者などが参加し、実際の運行データを前提とした仕様整理が行われました。
自治体側からは、政策評価や効果測定に必要なデータを標準化された形で取得できることや、整合した基準で分析が行えることへの期待が示されました。また事業者からも、今後新たに公共ライドシェアを導入する自治体とのデータ仕様の調整や説明の負担が軽減される可能性があるとの声が寄せられました。
今回の検証は、一つの自治体と限られた事業者を対象としたモデルケースですが、標準仕様案の実用性を検討する第一歩として位置づけられます。
成果と課題
データ統合作業の大幅削減の可能性
本プロジェクトの成果は、自治体が政策検討・評価や運行分析に用いる乗降実績データについて、どのような形式で提供されるべきかを整理できた点にあります。特に、配車アプリ事業者がすでに保有しているローデータを前提に標準仕様案を設計したことで、事業者側の負担を極力増やすことなく、自治体が分析に活用できるデータ形式を示すことができました。
今回整理された仕様案を前提とすれば、自治体が行うデータ統合・加工の作業は、鉄道やバス分野のデータ標準化と同程度、既存業務から8〜9割程度削減できる可能性があると見込まれています。
一方で、今回の検討は限られた事業者を対象としたモデルケースです。そのため、全国展開を見据えると、他の自治体や配車アプリ事業者の仕様を踏まえたさらなる検討が必要となります。今後は、より多くの自治体や事業者のデータ仕様を取り込みながら、公益性・公共性・公平性を担保した全国版の標準仕様へと発展させていくことが課題となります。
今後の展望
全国版の乗降実績データ標準仕様へ
本プロジェクトでは、別府市の公共ライドシェアサービスをモデルケースとして、乗降実績データの標準仕様案の整理を進めてきました。今後はこの成果を基に、対象を公共ライドシェアに限らず、タクシーなどのデマンド型交通全体へと広げながら、全国版の標準仕様の策定を目指していく予定です。
そのためには、今回の検討に参加した事業者に加え、他の自治体や配車アプリ事業者など、より多くの関係者を巻き込んだ議論が必要になります。地域ごとの運行形態やシステム仕様の違いも踏まえながら、自治体と事業者の双方にとって扱いやすい仕様へと整理していくことが求められます。
ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループの大八木 啓さんは、今回の検討の意義について次のように話します。
「公共ライドシェアの導入が広がる中で、自治体が政策検討・評価や運行改善を行うためには、事業者が保有する乗降実績データを活用できる環境が重要になります。今回整理した仕様はその出発点となるものです。今後、より多くの自治体や事業者と議論を重ねながら、さらに使いやすく価値があるものへと発展させていきたいと考えています」
地域交通の持続可能性が課題となる中、データを基にした政策検討・評価や運行改善の重要性は今後さらに高まると考えられます。乗降実績データの標準化は、自治体と事業者が地域交通の実態を共有し、より効果的な施策を検討するための基盤づくりとも言える取り組みです。今回の検討成果を起点として、地域や事業者を横断したデータ活用の環境が広がっていくことが期待されています。
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