資料4−2

産業構造転換の動向と都市への影響


1.産業構造転換の動向

(1)これまでの就業人口や生産額の推移

 これまでの就業者人口の推移をみると、産業別では、第三次産業の割合が一貫して高まっているのに対し、1970年以降は第二次産業の割合が微減しており、同時に職業別でも、「事務・技術・管理」に従事する者の割合が高まる一方で、「生産・運輸」に従事する者の割合が微減に転じている。
 また、生産額の推移をみると、サービス業等が伸びているのに対し、1990年以降は製造業その他の第二次産業の生産額は停滞している。

<1-1-1>産業別就業者数の構成比の推移

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  資料:国勢調査

 <1-1-2>職業別就業者数の構成比の推移

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  資料:国勢調査

  <1-1-3>産業別・国内総生産の推移

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  資料:国民経済計算報告

  <1-1-4>産業別・国内総生産構成比の推移

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  資料:国民経済計算報告

(2)これからの就業人口や生産額の動向

 これからの就業者数の動向については、製造業、商業、建設業等の就業者が停滞又は減少するのに対し、サービス業の就業者数の伸びが著しいと予測されている。
 生産額については、商業・サービス業の伸びが著しいと予測されているが、第二次産業の中でも、機械製造業など引き続き成長するものもあると予測されている。

<1-2-1>産業別の就業人口産業構造の展望

就業数

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  生産額

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  資料:産業構造審議会総合部会基本問題小委員会報告書

 

 また、特にこれからの社会のニーズに対応した新規・成長分野としては、情報・通信、生活文化、新製造技術、流通・物流、環境、ビジネス支援、医療・福祉等の分野が就業人口及び市場規模ともに伸びると予測されている。

 

<1-2-2>発展が期待される新規・成長産業

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  注)それぞれの分野の詳細についてはこちらを参照

  資料:産業構造審議会総合部会基本問題小委員会報告書

(3)各産業の質的変化

 就業人口や生産額にみられる産業構造の大きな変化とあわせて、既存の各産業においても、技術開発やニーズの変化を背景として、生産性の向上や高付加価値化が図られている。
 また、産業を担う企業は、国際競争の中で経営の効率化・低コスト化を図るため、専業化や多角化、分社化やアウトソーシング、海外への進出などを進めている。

<1-3-1>工業の生産性の推移

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  資料:工業統計表

  <1-3-2>製造業の海外生産比率の推移

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  資料:通商産業省「海外事業活動動向調査」

 

2.産業構造転換が都市に及ぼす影響

(1)産業別の土地利用動向

 全国の宅地面積の約1割を占める工業用地の動向を業種別に見ると、事業所あたりの敷地規模が大きく工業用地全体に占める割合も大きい鉄鋼、化学が、1970年代以降敷地面積がほぼ横ばいであるのに対し、電気機械、輸送用機械が敷地面積を伸ばしてきている。
 また、新規工場立地のための用地取得の動向を見ると、1970年代半ば以降多少の変動はあるもののおおむね増加傾向にあったが、1989年以降は減少が続いている。

<2-1-1>用途別の宅地面積(平成9年/単位:万ha)

全 国 三大都市圏 地方圏
住宅地 105 35 70
工業用地 17 11
その他の宅地 53 17 36
合  計 174 58 116

資料:平成10年度土地白書

<2-1-2>産業別の工業用地面積(平成8年)

基礎素材型産業(木材、紙、化学、石油、鉄鋼、金属製品等) 80,869ha
加工組立型産業(一般機械、電気機械、輸送用機械、精密機械等 44,241ha
生活関連型産業(食品、繊維・衣服、家具、印刷、その他) 22,981ha
  合  計      148.091ha

注)調査対象は従業員30人以上の事業所           資料:工業統計表

<2-1-3>主要製造業の敷地面積等の推移

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資料:工業統計表

<2-1-4>工場用地取得面積の推移

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資料:工場立地動向調査

 これから発展が期待される新規・成長産業についてみると、情報・通信、生活文化、ビジネス支援など、あまり事業スペースを必要とせず、しかも顧客や事業協力者との近接性や創造的な都市環境などを求めて既成市街地に立地する産業が多い。
 一方、新製造技術、流通・物流、環境など比較的まとまった事業用地を必要とする産業もあるが、これらの中には生産設備をコストの安い地方都市や海外に展開する可能性があるものも少なくない。
 また、環境分野の廃棄物処理・リサイクル産業や、医療・福祉分野のうちのバイオ医薬品産業など、周辺との関係で立地に制約がある産業もある。

<2-1-4>新規・成長産業の立地特性に関する考察

  これから発展が期待される新規・成長産業分野に含まれる業種について、その主な事業拠点の立地特性に応じて「既成市街地型(スペース小/顧客との近接性重視等)」、「跡地・郊外型(スペース大/顧客との距離も考慮して工場跡地や郊外部に立地)」、「田園・海外展開型(一般にスペース大/立地のコスト重視して都市から離れた田園地帯や海外に展開)」に分類を試みた。(分野の下のカッコ書きは2010年の市場規模予測)

分   野 既成市街地型 跡地・郊外型 田園・海外展開型
住宅
(39.8兆円)
●中古住宅流通サービス
●住宅リフォーム
   ●居住関連機器
●住宅新建材等
医療・福祉
(12.4兆円)
●在宅医療支援サービス
●医療機関支援サービス
●健康管理支援サービス
   ●高度医療機器
●バイオ医薬品
生活文化
(38.2兆円)
●クラフトデザイン・インテリア
●クリエイティブ系アバレル、ファッション
●音楽等のソフト関連
●スポーツ・芸術・文化活動参加の家庭支援サービス
●教育・学習サービス 
スポーツ・健康増進・余暇関連施設等 ●健康・安全等に配慮した製品
都市環境整備
(4.4兆円)
(●超高層ビル建築、地下開発等)      
環境
(29.1兆円)
   ●廃棄物処理・リサイクル
(●環境修復)
●環境調和型製品
エネルギー
(6.0兆円)
●コージェネレーション等 ●太陽光発電システム
●再生エネルギー利用
  
情報・通信
(120.6兆円)
●情報創造・提供サービス
●情報ネットワーク活用型
生活関連サービス
●ネットワーク・インフラ
提供サービス
   ●ハードウェア
流通・物流
(35.2兆円)
   ●ディスカウントストア
●通信販売
●パレットプールシステム
●物流システム関連機器
人材
(12.6兆円)
●労働者派遣
●有料職業紹介
●リカレント教育
   
国際化
(3.0兆円)
●コンベンションサービス
●日本語学校等の国際交流
支援
●FAZ関連施設   
ビジネス支援
(11.0
兆円)
●研究開発、情報収集・分析等の支援サービス
●セキュリティサービス
●リスクマネジメント
●ベンチャーキャピタル
●グリーンレンタル   
新製造技術
(36.4兆円)
      ●IMSプログラム等による新製造システム
●新素材・材料及びそれを用いた高機能部品

資料:産業構造審議会総合部会基本問題小委員会報告書をもとに整理

(2)遊休地の発生状況と土地利用転換の動向

   @遊休地の発生状況

 産業構造転換に伴う企業のリストラ等によって発生する遊休地は、大小様々な規模の工場や資材置き場の跡地だけでなく、比較的小規模な営業所、保養所、社宅等の敷地、大規模なリゾート開発予定地など多様であり、その現況も、更地のほか遊休化した施設が残っている場合や駐車場等として暫定利用している場合などがある。
 また、立地場所についても、既成市街地内に単独であるもの、臨海部の工場地帯に集団的に立地するもの、都市郊外に立地するものなど様々であり、こうした遊休地の総量を正確に把握することは困難であるが、これまでにも全国で大量の遊休地が発生し、今後もさらに発生するものと考えられる。

<2-2-1>遊休地の従前用途別・規模別の件数

従 前 用 途 件  数 面 積(ha)
工場・発電所等 85(10.8) 1,036(37.8)
倉庫・資材置き場等 44( 5.6) 97( 3.5)
事務所・営業所等 105(13.3) 35( 1.3)
保養所・社宅・駐車場等 207(26.3) 69( 2.5)
未利用地(工場予定地) 45( 5.7 452(16.5)
未利用地(その他)・農地等 194(24.7) 694(25.3)
その他・不明 107(13.6) 363(13.2)
合  計 787(100) 2,743(100)

※カッコ内は%

資料:「遊休地実態調査」(資料4−1からの再掲)

<2-2-2>東京湾沿岸域において土地利用の再編が想定される地区

  面積計 東 京 湾 沿 岸 域
面積計 土地利用の変化が想定される土地 用途未指定の未利用地・未竣工地
東京圏(1都3県) 135.06万ha 2.45万ha 1,500ha 1,600ha
近郊整備地帯 67.34万ha 2.45万ha 1,500ha 1,600ha
既成市街地 9.59万ha 1.18万ha 900ha 1,200ha
東京区部 6.26万ha 0.57万ha 600ha 1,000ha

資料:(財)日本開発構想研究所調べ

  A保有企業の意向と土地利用転換の動向

 遊休地を保有する企業では当該土地を売却したいとする意向が強いが、マンション建設に適した既成市街地内の土地やショッピングセンター開発に適した郊外部のまとまった土地については、民間ディベロッパーから買取りや賃借の申し入れがあり、実際に土地利用転換が進んでいるものの、臨海部の大規模な遊休地等については、交通アクセス等の条件に恵まれた土地以外、一般的にはそうした引き合いも少ない状況にある。
 このため、遊休地を当面は駐車場や資材置き場として暫定利用するという企業も多い。また、遊休地の自社開発を検討している企業もある。

<2-2-4>工場跡地等の活用方針(保有企業78社の方針)

売却する 56社(71.8%)
暫定利用する 23社(29.5%)
自社で別途開発する 21社(26.9%)
その他 10社(12.8%)

資料:「遊休地実態調査」(資料4−1からの再掲)

(3)都市への影響

 都市をめぐる状況は、これまでみてきた産業構造の転換のほかにも、少子・高齢化
の急速な進展、経済のグローバル化と都市間競争の激化、環境問題の深刻化と市民の関心の高まり、情報・交通ネットワークの高度化、国及び地方の財政状況の変化など近年大きく変化してきている。
 特に、人口・産業の都市への集中によって都市が拡大する「都市化社会」から、都市化が落ち着いて産業、文化等の活動が都市を共有の場として展開する成熟した「都市型社会」への移行に伴い、都市政策の主たるテーマも、かつての新市街地整備から既成市街地の再編・整備、すなわち「都市の再構築」に移ってきている。
 こうした中で、産業構造の転換がこれからの都市や都市政策のあり方に及ぼす影響としては、当面、次の2点が重要である。

 @大量の遊休地の発生
 A新しい都市型産業の成長

  @大量の遊休地の発生

 産業構造の転換に伴って使われなくなる事業用地が大量に発生するが、それに対応する新たな土地需要が見込めないことから、これらの事業用地のかなりの部分は、円滑な土地利用転換ができず遊休地化するものと予想される。
 このような遊休地の発生は、用途地域等において想定している土地利用のあり方と矛盾するほか、放置すれば、市街地の荒廃や既存の都市インフラの不効率化をもたらすおそれがある。また、他用途への土地利用転換が行われる場合にも、例えば都市郊外の工場跡地への大型店の進出が中心市街地の衰退に拍車をかけたり、工場地帯への無秩序なマンション立地が周囲で操業中の工場の存立を脅かすなど、土地利用の混乱を招くおそれもある。
 しかし一方では、密集市街地における防災公園等の確保や遊休地を種地とする面的な市街地整備、大規模な遊休地を活用した新たな都市拠点の形成など、都市再構築を進めるうえでの貴重な空間資源として遊休地が活用できる可能性も考えられる。

  A新しい都市型産業の成長

 産業構造の転換の過程において生まれている新しい産業の成長を図ることは、新たな雇用機会の創出や、産業や生活への新しいサービスの提供を通じ、都市の競争力維持や個性づくりにおいて重要である。
 しかし、これからの新規・成長産業の中には、事業用の土地や建物そのものはあまり必要とせず、むしろ既成市街地の物的・社会的・文化的なストックを基盤として成立するものが多い。すなわち、例えばサービスを求める顧客に近いこと、創造的な都市環境や人材の集積があること、事業活動や生活に便利でコストが安いことといった条件が整っている場所に、業務ビルに限らずマンションの一室や空き倉庫を利用しながら自然発生的に立地する傾向がある。
 このようなタイプの新規・成長産業を従来の都市政策で誘導することは難しいが、新規・成長産業を発展させることができるかどうかは、その都市の成長に大きく影響する課題であると考えられる。
 また、廃棄物処理・リサイクル産業、バイオテクノロジー産業など、居住系の土地利用とは相容れない種類の新規・成長産業もあるが、こうした産業に対してどのように対応するかも重要な課題である。
 そのほか、超高層ビルの建築、地下開発、新エネルギーの供給といった都市づくりに直接関係する新規・成長産業もある。
 さらには、少子高齢化社会が進展する中で、元気で経験豊かな高齢者がその知識や技術を若い人に伝えながら働くことのできる環境や、子育て中の親が働きやすい条件を整えることが重要になるが、新規・成長産業に限らず従来型の産業においても、こうした観点からの事業所立地が必要になり、職住近接型の都市形成のニーズはますます高まると考えられる。

  Bその他

 なお、上記@及びAのほかにも、産業構造の転換が、例えば企業城下町における工場閉鎖等による地域の雇用機会の減少、消費の落ち込み、地元自治体の財政状況の悪化などを通じ、当該都市そのものの衰退をもたらす可能性や、例えば長期的に経済・社会システムや市民意識等に大きな変化をもたらし、都市のあり方に根本的な変容を迫る可能性も考えられる。

 


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