資料4−3

産業構造の転換に対応した都市政策のあり方に関する主な論点(案

〜今後の検討に向けての主に大都市地域を想定した論点整理〜


1.都市政策の基本的な方向について

論点1:産業構造の転換・社会経済情勢の変化に対応した新しい都市のあり方はどのようなものか。また、その具体化に向けて都市政策(注1)はどうあるべきか。

仮説:産業構造等の転換に対応し、今後は、都市内の遊休地等を活用しながら既成市街地の再編を進め、職住近接のコンパクトな都市を形成していくことが必要であるが、個別の地区における将来の土地利用を即地的に全て計画することは困難であるため、現実に具体化されるプロジェクトに対して、適切かつ柔軟に対応していくことが重要ではないか。

・従来、都市政策は、土地利用規制とインフラ整備とを主要な政策手段としながら、基本的には、工業化の進展とそれに伴う人口・産業の都市への集中による旺盛な土地需要に対応するため、良好な住環境を備えた新市街地の形成と産業立地の受け皿整備を主要なテーマとして取り組んできた。

・しかし現在では、少子高齢化の進展による人口増のストップ、産業構造の変化による企業の土地需要の減少、経済のグローバル化に伴う国際的な都市間競争の激化など都市をめぐる状況は大きく変化している。

・とりわけ、産業構造について言えば、交通・情報手段の発達、省力化等により製造業の立地が都市を前提としなくなったことに加えて、経済の牽引車がかつての製造業から第三次産業、特にサービス業に移行し、都市政策に対して製造業を想定した職住分離の施策から、立地自由度の高い新しい成長産業を育成しうる職住近接型の都市づくりが求められるようになっている。この結果、人口増のストップと相まって、都市政策の主たるテーマは、かつての新市街地整備から既成市街地の再編・整備に移っている。

・21世紀の活力ある経済社会を築いて行く上では、経済、文化、交流等の諸活動が都市を舞台として活発に展開されるような環境整備が重要であり、このため、コンパクトで職・住・遊のバランスがとれ、かつ地域固有の歴史、文化等を反映し、市民共有の資産として世界に誇りうるような都市を形成することが必要であるが、この観点からも、既に一定の機能集積のある既成市街地の再編・再構築が重要であり、特に産業構造の転換等に伴って発生する土地供給を適切に活用していくことが必要ではないか。

・しかしながら、こうした既成市街地内の土地の供給は、量的にも時期的にも予測が難しく、土地に対する需要も変動が大きいことから、あらかじめ将来の土地利用を即地的に全て見通し、既成市街地の再編のための事業を計画しておくことは困難ではないか。

・したがって、将来の都市のあり方を念頭に置きつつ、様々な形で発生する市街地内の遊休地・低未利用地についてニーズに応じてプロジェクトが具体化した場合に、個別的に適切かつ柔軟に対応していく仕組みを整えることが必要ではないか。

注1)ここでは、都市計画、公共施設整備、市街地整備など建設省が所管する比較的狭義の「都市政策」を念頭に置く(以下同じ)。

論点2:産業構造の転換に対して、都市政策はどのような役割を果たすことができるか。

仮説1:都市型の新産業等(注2)の発展のための環境整備などを通じて産業構造の転換に寄与することができるのではないか。その際、産業構造の転換に伴って発生する工場跡地等遊休地の適切な活用が必要となる場合があるのではないか。

・かつて都市政策は、産業政策と連携し、工業団地の造成や工業系用途地域の指定、関連道路の整備など工業が発展するための基盤づくりに一定の役割を果たしてきた。

・同様に、現在わが国が直面している産業構造の転換をスムーズに進めることが、将来において活力ある経済社会を構築していく上で重要な課題だとすれば、都市政策として、産業構造の転換に対して何らかの寄与をすることが必要ではないか。

・特に、今後成長が期待される都市型の新産業は、従来のような都市の中心部から離れた場所に立地し、広大な土地や水を必要とするものではなく、既成市街地の物的・社会的なストック(注3)を基盤として成立するため、人為的な立地誘導になじみにくく、むしろ良好な都市環境を志向して自然発生的に生まれることが多い。

・したがって、新産業等の発展に必要なインフラとしての魅力的な都市環境整備、良好な生活環境整備が重要であり、いわば都市の総合力を上げていくことが要請されるのではないか。このため、特に既成市街地の再開発による居住環境改善が重要なのではないか。

・また、現在産業構造転換に伴って大量に発生すると予想される工場跡地等の適切な処理が求められているが、こうした企業の遊休資産の処理とそれによる企業経営の改善そのものは、産業政策の視点から本来とらえられるべきものであり、都市政策としては、発生した遊休地や低未利用地を活用しつつ、いかにして都市構造の再編を図り、魅力的な都市環境整備をしていくかが論じられるべきであって、両者を混同してはならないのではないか。

・したがって、工場跡地等の活用に当たっては、当該土地の立地条件、周辺の状況、地価等を勘案して個別に論じられるべきではないか。

・また、産業構造転換が進むといっても、依然製造業は我が国経済の中に重要な地位を占めており、地域によっては引き続き製造業が地域経済の中心となる場合も多いことから、活力を維持している製造業等を生かしながら、都市づくりを進めるという施策も必要ではないか。

注2)ここでは、情報、福祉、環境、バイオ等のいわゆる新産業に限らず、熟練労働者を必要とするクラフト的生産技術を基礎としたモノづくり産業も含まれる(以下同じ)。

 3)社会的なストックとは、担い手となる人々の居住や様々な形での交流、さらには、それを支える都市の雰囲気等無形のものを含む

仮説2:これからの都市づくり(都市の再構築)そのものが、「都市づくり産業」とも呼ぶべき新たな産業クラスターを成長させる可能性も考慮すべきではないか。

・これからの経済社会に対応して都市の再構築・都市構造の再編が進められていく中で、従来の建設業や不動産業というカテゴリーにとどまらない幅広い産業クラスターとしての「都市づくり産業」を成長させるという側面もあるのではないか。

・具体的には、都市づくりに関する企画・調整、都市づくりの新たなファイナンスやソフト開発、既存建物のリニューアル、地域のまちづくり会社やまちづくりNPO、さらにはそれらの活動を支援する団体など、広範な都市づくりの新たな担い手を育成し、そうした力を結集していくことが、今後の都市づくりには必要となるのではないか。

補論:都市づくりの担い手を育て、またそうした力を集め、コーディネートしていくために、公共セクターはどのような役割を担うべきか。

 

2.工場跡地等の取扱いについて

論点1:工場跡地等の遊休地の利用の方向はどうあるべきか。

仮説1:工場跡地等の遊休地は立地条件や規模などに応じて、利用可能性が異なるのではないか。

・一括りで論じられることの多い工場跡地等の遊休地・低未利用地についても、立地条件や規模、周辺環境によりその利用可能性が全く異なるものではないか。

・例えば、既成市街地内の独立した工場跡地と臨海部の工場地帯では、都市づくりにおける位置付けや利用の可能性が大きく異なり、工場跡地等の利用の方向については、その位置、規模、周囲の土地利用や交通アクセスの状況に応じて個別に検討がなされるべきではないか。

・なお、バブル期に取引された土地など比較的最近取得された簿価の高い土地と、相当以前に取得された工場跡地やグラウンド・社宅跡地など簿価の低い土地では開発ポテンシャルに大きな差があるのではないか。

仮説2:既成市街地内の工場跡地等には、都市の防災性の向上や良好な都市環境の形成等の視点から公共的な利用をまず検討すべきものがあるのではないか。

・利用可能性の高い遊休地は、マンション供給など民間による土地利用転換が進められているが、例えば密集市街地内にある一定規模の工場跡地など、防災公園の用地や周辺を含む面的整備の種地として公共的な利用をより優先的に考えるべきものがあるのではないか。

・また、例えば地元自治体の構想において新たな都市拠点形成地区等としての位置付けがある工場跡地等は、当該構想に添った土地利用転換が図られるよう再開発地区計画等による誘導を行うべきではないか。

仮説3:民間による土地利用が進められる遊休地についても、都市政策の側から一定の関与が必要な場合もあるのではないか。

・既成市街地の再編・再構築に当たっては、民間活力による都市開発が重要な役割を担うものであり、遊休地等の土地利用転換についても民間による開発が基本となるのではないか。

・ただし、工場地帯において一部の工場跡地にマンションが立地することにより、低劣な居住環境の都市を惹起し、また、既存工場の存立を脅かすおそれがある場合など、何らかの形で政策的関与が必要となる場合があるのではないか。

・なお、工業専用地域にある大規模遊休地などは、廃棄物の処理・再生、バイオテクノロジーなど居住系の土地利用とは相容れない産業や、他の工場の新規立地や移転立地のために、産業政策の観点から工業系用地として引き続き確保すべき場合があるのではないか。

補論:そうした場合に、遊休地化した土地を将来に向けて確保することは可能か。また、そのためにどのような手法があり得るか。

・また、従前の用途に関連して土壌汚染のおそれがある場合など土地利用転換により新たな環境問題を生じるような場合には、土地利用転換そのものをコントロールしたり、土地利用転換に併せて対策を講じる必要があるのではないか。

論点2:既成市街地内など利用可能性の高い土地について、適切かつ円滑な土地利用転換を進めるためには何が必要か。

仮説1:公共部門で確保すべき土地については、地元自治体による土地の取得が困難な場合にも、土地所有者の負担を軽減する措置を講じる等により、土地の確保を図るべきではないか。また、こうした取組みに対して国も積極的な支援を行うべきではないか。

・防災上の観点などから公共部門で確保すべき土地については、基本的には地元自治体等により取得すべきものであるが、財政上の制約等から取得が困難な場合にも、借地方式やPFI方式による公共施設整備等の工夫が必要ではないか。

・当面地元自治体により直ちに取得することが困難な場合には、土地所有者の負担を軽減するため、地元自治体による管理費への補助、固定資産税の減免、期間を限定した暫定的な土地利用の許容等の措置を講じるべきではないか。

・また、国は、こうした取り組みを支援するため、地元自治体に対する財政的支援や土地所有者に対する税制上の優遇、公団等の参画によるプロジェクトの実施などの措置を講じるべきではないか。

仮説2:民間による土地利用転換が進められる土地については、具体のプロジェクトに応じ、土地利用制限の変更や関連公共施設の整備等に関してより柔軟に対応すべきではないか。また、都市政策上戦略的に開発を進めるべき場合には、公団の参画等公共部門の支援を適切に行うべきではないか。

・既成市街地の再編・再構築が都市政策の重要課題であるとの観点に立てば、民間による土地利用転換を進められる土地については、具体的な事業構想が出てきた段階で、プロジェクトごとにその適否を個別に判断し、再開発地区計画の活用等による土地利用制限の柔軟かつ迅速な変更、関連公共施設の整備等による支援などを講じるべきではないか。

・具体的には、現行諸制度の活用に加えて、土地利用転換に必要な行政手続きの簡素化やスケジュールの明確化、特例許可制度の柔軟な運用、開発に必要な関連公共施設整備の段階的対応などを図るべきではないか。

・また、戦略的に開発を進める必要がある地区における新たな都市拠点の形成や都心居住のための住宅建設など公共性が高い計画について、民間主体のみによっては都市開発事業の具体化が困難である場合には、公共部門の事業参画も含めたによる支援が必要となるのではないか。

・この場合、特に、地方公共団体の要請を受けて、土地所有者等の協力を条件に、都市基盤整備公団等が積極的に都市開発に関与していくことが必要となる場合があるのではないか。

論点3:当面土地利用転換が見込めない遊休地については、どのように取り扱うべきか。

仮説1:当面土地利用転換が見込めない遊休地については、暫定的な土地利用を柔軟に許容すべきではないか。

・公共部門に確保する必要性が少なく、かつ民間需要が見込めないなど当面土地利用転換が見込めない場合には、一時的に店舗、遊園地、ゴルフ練習場、倉庫、駐車場、資材置き場等として暫定的な需要があれば、暫定的な土地利用を認めてよいのではないか。

・特に、暫定利用の用途が既定の土地利用制限に適合しない場合であっても、利用計画を個別に判断して特段の支障がない場合には、暫定期間中に限り制限を一部緩和すべきではないか。

・なお、暫定期間中については、施設の耐久性についても緩和することを検討すべきではないか。

・工場地帯等で周辺も含めた全体的な地域の土地利用転換が進むと見込まれない場合における一部の工場跡地等の土地利用についても、こうした暫定的な土地利用の可能性があるのではないか。

仮説2:暫定的な土地利用が見込まれない場合にも、遊休地の管理については適切に行われるような措置を講ずるべきではないか。

・暫定的な土地利用が見込まれない場合であっても、遊休地や遊休施設を放置しておくことによる問題の発生を防止するため、管理については、適切に行われるよう措置すべきではないか。

・このため、土地所有者により、例えば、緑地、公園、空地等への暫定転用が見込まれ、それが都市環境の改善に寄与すると考えられる場合には、そうした対応を積極的に誘導することも必要ではないか。

・税制上の優遇措置や低利融資なども含めて、公共支援を検討する必要があるのではないか。

 


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