リレートーク

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坂口 祐(物語を届けるしごと / デザイナー)

坂口 祐

自然と文化と経済の調和、田園都市

こんにちは、高松市エリアデザイン・アーキテクトの坂口祐です。曽祖父が高松の出身で、私は神奈川県茅ヶ崎市で育ちました。日本と英国で都市計画やランドスケープデザインを学び、帰国後、2010年に高松市に移住し、デザインや写真を通じて四国・瀬戸内の魅力を世界に発信する『物語を届けるしごと』をしております。

私が住む香川県高松市は、山と街と島の距離が近いコンパクトな街です。瀬戸内海には138、香川県には24の有人島があり、高松港からは6つの島に船で渡ることができます。最も近い島だと高松駅からたった30分で島に渡り、白砂青松の美しい風景を愛でることができます。ターミナル駅からこれほど容易に島に行くことのできる都市は、世界的にも非常に希少です。私は、毎日のように瀬戸内海の多島美を眺め、休日にはカメラをもって山や海にでかけ、地域の祭りや食文化に触れ、多くの感動を頂いております。これらの文化を支えてきた地域の皆さんには尊敬の念が堪えません。

私が住んでいるのは、高松駅から自転車で30分、南に10kmほどいった春には黄金色の麦畑が広がる地域です。近所には、現存する日本最古級の水車で、高松藩の御用水車の『高原水車』があり、国の登録有形民俗文化財に指定されています。

岸田文雄首相が掲げている『デジタル田園都市国家構想』は、デジタル技術で地域課題を解決し活性化を目指す構想です。そのルーツは、1898年にエベネザー・ハワード(Ebenezer Howard)が提唱した『田園都市(Garden city)』で、その後、香川県出身の大平正芳元首相が提唱した『田園都市国家構想』が基礎になっています。大平さんが夢見た田園都市とはどんなものだったのか、ひょっとしたら讃岐平野の麦畑と街がコンパクトに調和しているこんな風景だったのだろうかと妄想しています。

その一方で、都市化が進み、こうした長閑な田園風景は失われつつあることにも留意が必要です。例えば、高付加価値の農作物を加工し、越境ECなどで世界で売っていく。稼げる一次産業を創造することが日本の美しい田園風景を次世代に伝えるためには不可欠です。

これまで、農家や漁師、文化を牽引している地域の方々を取材してきました。お世話になったお年寄りが毎年、亡くなっていきます。お年寄りの持っていた知恵のバトンが次の世代に渡される前に、文化が目の前で消えていく瞬間をみることもあります。祭りの復活をしたいと青年部が立ち上がった時には、口伝で伝わってきた神楽のリズムを知る老人が亡くなった後だったことがありました。その度にもっと取材を通して、お話を聞いておけばよかったなと、自分の無力さを痛感します。

総務省統計局によると、日本の総人口は毎年60万人以上も減少しています。高松市の人口の1.5倍の人口が毎年日本から消滅しているのです。将来、人口が少なくなって山間部や島嶼部のインフラを維持するのが困難になることが想定されます。人口減少時代に、コンパクトに街を創り変えながら、地域固有の文化的景観を活かして外貨を稼ぐことのできる都市を創造することが求められます。文化と経済の両輪をどのように回していくか。それが今後の大きな課題だと感じています。自然と文化と都市の調和がとれた、持続可能な地域づくりが、瀬戸内から発信できればと思います。
高松市『FACTプロジェクト』では、官民連携によるまちづくりを進め、魅力的なエリアを創造していきたいと考えています。まずはサンポートエリアにて公共空間の一部を市民の皆さんに利活用していただくための社会実験を行います。市民の声と土地の文脈に耳を澄まし、そこに暮らす人々に愛され、多くの観光客にも訪れていただける場所となることを目指しています。

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