はじめに

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 (1) 目的

  官庁施設においては、膨大なストックの蓄積の一方で、ストックの老朽化が進行しており、修繕・改修等に要するコストの急激な増加が予測される。また、使用年数の長期化、行政需要の多様化、環境保全、コスト縮減等の要請への対応が急務となっている。しかし、少子・高齢化社会の到来などにより、投資余力の減少が予測されており、より一層効率的な保全の実施が求められている。 そこで、保全計画や保全情報を有機的に連携させて、保全を適正に行うシステムを、マネジメント技術として確立することにより、官庁営繕部による保全指導の充実を図るとともに、官庁施設の一層の有効活用を実現することを目的とする「官庁施設のストックマネジメント技術」について検討するため、「官庁施設のストックマネジメント技術検討委員会」を平成11年10月に設置した。本委員会は、平成11年度、12年度の2ヶ年で検討を行い、本報告書はその検討内容についてとりまとめたものである。 

(2) 検討体制

 建設省に「官庁施設のストックマネジメント技術検討委員会」を設置し、包括的な検討を行うとともに、(財)建築保全センターに分科会を設置し、具体的検討を行った。

官庁施設のストックマネジメント技術検討委員会
委 員 長 沖塩荘一郎 宮城大学デザイン情報学科教授
副委員長 今泉 勝吉 工学院大学名誉教授
委  員 小松 幸夫 早稲田大学建築学科教授
委  員 樫野 紀元 建築研究所第二研究部長
委  員 石神 隆  法政大学人間環境学部教授
委  員 佐藤 隆良 (株)サトウファシリティーズコンサルタンツ 代表取締役
委  員 松縄 堅  (株)日建設計取締役
委  員 後藤 志郎 (社)建築業協会
委  員 梶野 善治 (社)全国ビルメンテナンス協会
委  員 島田 高樹 (社)日本電設工業協会
委  員 遠山 精一 (社)日本空調衛生工事業協会
委  員 守屋 康正 (社)日本ファシリティマネジメント推進協会
委  員 岸本 孝一 郵政省大臣官房施設部建築企画課総括専門官
委  員 山本 康友 東京都財務局営繕部コスト管理室長
委  員 鈴木 正男 (財)建築保全センター審議役
委  員 塩原 壮太 (財)建築コスト管理システム研究所 審議役
専門委員 野城 智也 東京大学生産技術研究所第5部助教授
専門委員 柳瀬 正敏 (株)柳瀬建築総合研究所代表取締役
専門委員 丸尾 聰  日本総合研究所主任研究員 
専門委員 関  幸治 日本IBM(株)FMS事業開発部FMコンサルティング部長
専門委員 吉岡 洋一 日本メックス(株)研究開発部担当部長
専門委員 石塚 義高 明海大学不動産学部教授
専門委員 伊香賀俊治 日建設計環境計画室長
専門委員 本橋 健司 建築研究所維持保全研究室長
専門委員 阿部 絋己 日本建築設備診断機構技術委員長
委託者側委員  野村 敬明 官庁営繕部管理課長
委託者側委員  横井 孝史 官庁営繕部営繕計画課長
委託者側委員  奥田 修一 官庁営繕部建築課長
委託者側委員  坂  智勝 官庁営繕部設備課長
委託者側委員  佐々木 良夫 官庁営繕部監督課長
委託者側委員  圓田 義則 官庁営繕部保全指導室長 
分科会((財)建築保全センターに設置)
  保全計画分科会

 
 
 
 
 

 

主 査 佐藤 隆良  (委員会委員)
委 員 石神 隆   (委員会委員)
委 員 野城 智也  (委員会専門委員)
委 員 柳瀬 正敏  (委員会専門委員)
委 員 土屋 邦男  官庁営繕部営繕計画課建設専門官
委 員 林  理   官庁営繕部保全指導室建設専門官
委 員 岡野 雄   官庁営繕部保全指導室課長補佐
情報化分科会
主 査 沖塩荘一郎  (委員会委員長)
委 員 丸尾 聰   (委員会専門委員)
委 員 中津 元次  (有)中津エフ.エム.コンサルティング代表取締役
委 員 関  幸冶  (委員会専門委員)
委 員 吉岡 洋一  (委員会専門委員)
委 員 山田 稔   官庁営繕部特別整備企画室課長補佐
委 員 大町 徹   官庁営繕部保全指導室課長補佐
保全技術体系化分科会
  主 査 小松 幸夫  (委員会委員)
委 員 石塚 義高  (委員会専門委員)
委 員 伊香賀俊治  (委員会専門委員)
委 員 本橋 健司  (委員会専門委員)
委 員 阿部 紘己  (委員会専門委員)
委 員 川妻 二郎  (社)全国ビルメンテナンス協会
委 員 柊平 健   官庁営繕部建築課課長補長
委 員 鈴木 寿一  官庁営繕部設備課課長補佐
委 員 辻川 孝夫  官庁営繕部保全指導室施設管理官 

1.官庁施設の保全の現状と課題


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1.1 保全の現状

(1) 現状の保全の仕組み

 
 国家機関の建築物等の保全については、「官公庁施設の建設等に関する法律」第9条の3において、「各省各庁の長は、その所管に属する建築物及びその附帯施設を、政令で定める技術的基準に従い、適正に保全しなければならない」と規定している。この政令で定める技術的基準に相当するものとして、昭和57年に「国家機関の建築物等の保全に関する技術的基準」(「保全基準」)を定めている。
これらに基づき、建設省は各省庁に対し保全指導を行っており、また保全の実施に必要な技術基準類は、(財)建築保全センターが出版等の普及活動を行い、各省庁の施設管理者や保全に関する技術者を支援している。


(2) 保全指導行政の経緯

 
 保全指導行政は、筑波研究学園都市完成後の施設管理が課題となってきた昭和50年代前半より、新たな展開をしており、昭和52年には、「官庁施設の保全のための方策について」を建築審議会に諮問し、答申を昭和54年に得ている。これに基づき、昭和57年に各省庁へ上記「保全基準」が通知されている。
昭和59年から昭和61年にかけて「保全の適正化に関する研究会」(委員長:白山和久筑波大学教授)を行い、「保全基準」を実施するための基準類の体系的整備を進め、保全業務共通仕様書(昭和62年)をはじめとする主要な基準類が整備されている。
 一方、昭和58年より、霞ヶ関地区を含む全国各地区において、保全連絡会議を開催し、各省庁に対し情報提供と意見交換を行っているほか、昭和62年より保全実態調査を行い、保全の現況の把握に努めている。
しかしながら、現在の保全の状況は、未だに改善を要する現況であり、今日の社会的要請も踏まえた新たな対応が必要となっている。


(3) 官庁施設の現状と将来予測

 
 官庁施設のストックは平成11年3月末現在において約8,989万uとなっており、その大部分は、戦後の高度経済成長期以降に整備されている。建設省官庁営繕部においては、所掌施設(約4,700施設、約1,300万u)に対して官庁建物実態調査を行い、施設の老朽・狭隘の状況等を把握している。この調査結果に基づき所掌施設のストックの推移を図1.1に示すが、過去のピークがほぼそのまま推移しており、近い将来、保全のための経費が大幅に増加することが懸念される。

官庁施設のストックの推移
図1.1 官庁施設のストックの推移


(4) 保全の実施状況

 建設省官庁営繕部では、所掌施設(約4,700施設、約1,300万u)を対象に表1.1に示す内容の保全実態調査を行っている。この調査では、保全の実施状況を点数化して評価しており、60点以上を概ね良好と判断している。調査結果を図1.2に示すが、施設数では大多数を占める小規模庁舎を中心に、全体としてまだ改善を要する状況であると判断している。
 

保全責任者、設備概要、管理要員
保全業務実施状況
 (記録整備、定期点検、測定、衛生、清掃)
保全状況および措置状況
 (測定値、劣化状況、衛生・清掃状況)
保全関連経費
 (維持管理費、光熱水費、修繕・改修費)
表1.1 保全実態調査項目

保全実態調査結果
図1.2 保全実態調査結果

(5) 施設管理者の現況

 全国各地区における保全連絡会議等を通じて行った調査結果(図1.3)から、官庁施設の施設管理者の実態は、「保全業務の経験がほとんどない事務職が、他の業務のかたわら保全を担当し、経験も少ないために、保全に関する知識が十分でなく困っている。」という一般像が浮かび上がっている。
技術職と事務職の割合 保全業務の経験年数 担当業務における保全業務の占める割合

図1.3 施設管理者の現況

1.2 保全を取り巻く社会的背景

(1) 財政動向

 現在の我が国の財政状況は、景気回復の諸施策に伴う歳出の増大や大幅な減税により、公債依存度が高まっており、平成12年度末の国と地方自治体をあわせた長期債務残高は645兆円に達すると予想されている。歳出については、経費の一層の合理化・効率化・重点化が図られ、官庁施設の保全に対する予算はますます厳しい状況になるものと考えられる。

(2) 人口動向

 我が国の人口は、出生率の低下傾向から、2007年をピークに減少傾向に転ずると予測されているが、一方で平均寿命は延びていることから、かつてない少子・高齢化社会を迎える。あわせて、労働力人口の減少と高齢化が進むため、これまでのような経済成長は望むことができない。したがって、これまでに整備されたストックを有効な資産として21世紀へ引き継ぎ、次世代の経済的負担を低減することが大きな意味を持ってくる。

(3) 地球環境問題我が国のCO2排出量における建築関連の割合

 地球環境問題はいまや全世界に共通の課題であるが、特にCO等の温室効果ガスは、1997年のCOP3京都議定書において、削減目標が定められた。しかし、その達成は困難視されており、また、図1.4に示すように我が国のCO排出量における建築関連の割合は高く、建築物の運用段階における削減対策を率先して実行する努力が求められている。   

1.3 課題

以上の問題点をまとめると次の3点である。
 @ 官庁施設の膨大なストックと老朽化の進行
 A 厳しい財政状況と地球環境問題等の社会的要請
 B 施設管理者は、技術的知識に乏しく、良好な保全に対する動機付けも少ない。
 このような問題点と課題に対応する新たな保全システムとして、下図のように「官庁施設のストックマネジメント技術」を構築するものである。

官庁施設のストックマネジメント技術

2.ストックマネジメント技術の体系


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2.1 ストックマネジメント技術の体系

(1) 体系図保全業務サイクル

 官庁施設の保全に関する課題に対応して、ストックマネジメント技術の体系は、保全計画の立案・実行システム、保全情報システム、保全技術体系から構成される。この体系では、保全に関わる各機関等の役割分担と、継続的な保全のためのサイクルを重視している。
@ 各機関等の役割分担は次のとおりである。
 ・保全指導を行う「国土交通省」  
 ・各省各庁において              
 ・施設(群)の保全に責任を有する「施設保全責任者」
 ・各施設を直接管理する「施設管理者」   
 ・業務を実施する「外部業者・コンサルタント等」 
A 計画的、継続的な保全を行い、かつ状況の変化への対応も可能にするためには、図2.1に示すようなサイクルで保全が行われる必要がある。          
 官庁施設のストックマネジメント技術の体系図を図2.2に示す。図中、網掛けの部分が今後充実しなければならない業務である。
 
 

ストックマネジメント技術の体系
図2.2 ストックマネジメント技術の体系

 この体系は、各機関が、計画、実施、評価・改善の各段階でどのような役割を果たすべきかを「保全計画の立案・実行システム」として示し、同時に、そのシステムを円滑に実行するために必要な「保全情報システム」と「保全技術体系」の位置づけを示したものである。 

(2) 保全計画の立案・実行システム

 保全計画の立案・実行フローは図2.2に示す。

国土交通省は各省庁に対し、次の保全指導を行う。

 ・保全指導方針の周知、徹底
 ・業務を実施するために必要な技術基準類の整備、提供
 ・各省庁における評価結果に基づく、官庁施設全体の建物状況、保全状況の評価
各省庁は、次の保全に関する業務を行う。
 ・保全計画の立案
 ・保全業務を実施するための委託、記録整備
 ・所管施設の建物状況、保全状況の評価
外部業者、コンサルタント等は、施設管理者からの委託を受け、次の支援を行う。
 ・保全計画の立案の支援
 ・保全業務の実施
 ・建物状況、保全状況の評価支援
(3) ガイドライン・マニュアル類の位置付け
 
 このシステムを円滑に実行するには、誰が担当となっても、各機関における役割分担と、各段階における業務内容が把握できるようになっていることが不可欠である。そのため、図2.3に示すような、関係各機関の役割を示すガイドラインと保全の各段階における業務の内容を示すマニュアル類を整備した。

ガイドライン、マニュアル類の位置付け
図2.3 ガイドライン、マニュアル類の位置付け


2.2 国土交通省の果たすべき役割

 
 建設省は、従来より各省各庁の所管施設の保全の状況を把握し、必要に応じて指導を行う役割を担ってきたところであるが、今後ストックマネジメント技術に基づき計画的な保全を推進するに当たり、その役割を明確にするため、保全指導ガイドラインを作成した。
これは、保全指導を行う立場の国土交通省職員(本省及び地方整備局)が行う業務を網羅的に解説したものであり、保全指導に関することと施設保全責任者・施設管理者の支援に関することから構成される。(図2.4)
 
2.3 各省庁の果たすべき役割
 
 計画的な保全の実行に当たって、各省各庁の果たすべき役割は幅広いものがある。個別の施設を適切に保全することはもとより、複数の施設を所管する省庁にあたっては、所管する施設全体の保全状況を把握し、限られた予算を最も効果的に配分するとともに、個々の施設管理者の指導により、施設群としての保全の向上を図る役割がある。その役割を明確にするため、保全業務ガイドラインを作成した。
保全業務ガイドラインは、各省各庁の施設管理に携わる者(施設保全責任者及び施設管理者)が行う業務を網羅的に解説したものであり、「施設保全責任者用保全業務ガイドライン」、「施設管理者用保全業務ガイドライン」の2種類を設定している。
ガイドラインの構成を図2.4に示す。


ガイドラインの構成

図2.4 ガイドラインの構成

3.施設の現況評価と保全計画の立案 


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3.1 施設の現況評価

(1) 既存の現況評価手法
 

国土交通省では、施設の現況評価として、「官庁建物実態調査」(建物の物理的劣化状況について、調査・診断を行い、評価を行うもの)及び「保全実態調査」(施設管理者等の行っている保全の実施状況について調査を行い、評価を行うもの)を実施している。
 
(2) 現況評価手法の提案
 
施設現況の評価手法については、既存の手法を活かしつつ次のようにとりまとめた。
@建物状況の評価(建物の物理的劣化状況等の評価)
A保全実施状況の評価
B施設の性能評価(施設の性能水準の設定と評価)
@、Aについては、現行の「保全実態調査」を改善するとともに、「官庁建物実態調査」との統合を検討した。
また、Bについては、上記のほかに施設が本来備えるべき性能に対し、現況を評価する手法として、今回新たに「施設の性能水準設定・評価手法」を検討した。
さらに、官庁施設全体のマネジメントを行うためには、各施設の状況をマクロに把握することが必要となる。これについては、上記@〜Bをもとに、次の観点から全官庁施設に対する実態調査項目を検討した。
@建築物の概要を把握するための項目
A「保全基準」及び関係法令に規定される保全項目
Bライフサイクルコストの把握に必要な項目
C施設の性能レベルをチェックする重点的な項目
 
(3) 性能水準設定・評価手法

a.必要性

 
 施設の機能を良好に維持し、有効に活用していくためには、保全指導を行う者、施設保全責任者、施設管理者のそれぞれが、本来有すべき性能の水準と、現在有している水準のかい離を認識し、施設の改善に向けて適切な保全計画を立案し、修繕改修工事を実施する必要がある。そのためには施設が備えるべき性能水準の設定と、それに対する状況の評価手法が必要となる。
なお、この評価指標は、安全性やコストの面など様々なものが想定されるが、施設管理者が責任をもって評価が可能となるレベルに設定する必要がある。


b.評価項目及び評価基準の設定
 

 評価項目は、安全、環境、品質(機能、コストを含む)の3つの観点から、重点的に管理すべき7つの項目を「重点管理項目」として定め、それごとに具体的な評価項目を設定した。(表3.1)なお、この項目は、その時代の施策や社会的要請によって必要に応じて見直すことが必要である。
評価基準は、法令に準拠した基準値や実態調査等に基づく平均値等により設定し、また専門的な知識を有しない施設管理者が、簡便に実施することが可能なように「代替評価基準」も設定した。表3.2にチェックシートを示す。 
表3.1 重点管理項目と評価項目
種別  重点管理項目        評  価  項  目
安全

  

安全性
 
外壁の剥落防止、漏水防止、
アスベスト、PCB等への対策、耐火、防火、防災
耐震性 耐震診断の実施、耐震改修の実施
環境
 
省エネ・省資源
 
省エネ・省資源、廃棄物の削減、
電気使用量、燃料使用量、ガス使用量、水道使用量
品質
 
 
 

 

室内環境
 
光環境、熱環境、空気環境、衛生環境
情報設備設置環境
バリアフリー
 
建築物の出入口、廊下、スロープ、階段、エレベータ
便所、駐車場、構内通路、サイン
利用状況 狭隘度、利用度、満足度、アクセス、使いやすさ
コスト 維持管理費、光熱水費
 

表3.2 重点管理項目チェックシート記入例

重点管理項目チェックシート記入例

3.2 保全計画の立案

(1) 概要

 保全計画は、各施設の立地・用途・規模・特殊性等を考慮して、ライフサイクルにおける目標設定、長期的な修繕・改修計画、各年度ごとの点検保守計画を立案する。

@「ライフサイクル(LC)計画」
 各施設ごとに設定する施設性能水準とその施設の目標耐用年数を明記し、ライフサイクル的視野に立った計画目標を立案するものである。性能の項目は「国家機関の建築物及びその附帯施設の位置、規模及び構造に関する基準」及び「官庁施設基本的性能基準(案)」に基づき表3.3に示す項目を設定した。しかし、この各性能についてすべて水準を定め、それに対する施設の状況を把握することは多くの手間を必要とするところから、保全に際して重点的に考慮すべき項目として、性能項目に、利用状況、コスト等を加えた重点管理項目を設定し、それを基にLC計画を立案することとした。 

表3.3 施設の性能項目

1社会性
 
1-1 地域性 
1-2 景観性 
2 環境保全性
 
2-1 環境負荷低減性 
2-2 周辺環境配慮性 
3 安全性

 

3-1 防災性 
3-2 機能維持性 
3-3 防犯性 
4 機能性
 

 

4-1 利便性 
4-2 バリアフリー 
4-3 室内環境性 
4-4 情報化対応性 
5 経済性

 

5-1 耐用性 
5-2 保全性

A「長期保全計画」
 「LC計画」に基づき、各施設の20年間の修繕・改修・更新計画を立案するものである。 

B「年度保全計画」
 「長期保全計画」に基づき、年度ごとの維持管理、点検保守計画を立案するものである。保全計画書書式イメージを表3.4に示す。

表3.4 保全計画書書式イメージ

(2) 保全計画作成指針

 以上の計画の具体的な立案・作成方法を示したものとして保全計画作成指針(案)を作成し、合同庁舎等について保全計画立案の試行を行った。試行は各庁舎の施設管理者に地方建設局の営繕職員が協力して行ったが、保全計画を作成するためのデータの整理や修繕・更新時期の設定には、建築及び建築設備に関する技術的背景のあるインハウス技術者の関与が欠かせないことが明らかになった。
保全計画書 書式イメージ

(3) 簡便な長期保全計画作成手法の提案簡便な長期保全計画作成手法の概念

 膨大なストックである官庁施設の長期保全計画を多くの施設について早急に整備し、全体像を把握することが今後の保全の適正化に重要なデータとなる。したがって、より簡便な手法を用意し、膨大なデータを早急に整理する必要がある。

 この手法は、標準庁舎の長期保全計画を基礎データとして、手持ちの限られたデータにより各施設の特性を反映した補正を行なうもので、施設の部位、部材等の詳細データがなくても長期保全計画を作成できるものである。
 図3.1に、この手法の概念を示す。
 
(4) 劣化状況評価指標の検討
 
 以上述べてきた評価指標では、施設の劣化状況についてマクロ的あるいはコスト的な把握が困難と考えられる。それを補うものとして、建築物の物理的劣化状況を総合的、定量的に評価する指標である「残存不具合率」(FCI:Facility Condition Index)という概念を官庁施設に対して適用する可能性について検討した。この指標が有効である可能性はあるが、施設の重要度等の考慮や算出のためのデータ整理等についてさらに検討する必要があるという結論に達した。


 
3.3 修繕優先度判定手法

 
 保全計画に基づき各施設の修繕計画が立案されるが、重点的な投資を行うためには複数の修繕工事の優先度を判定する手法が必要である。この手法は簡便かつ定量的な判定が可能なように次のような判定式とした。


    優先度P= 評価点Q + 評価点R × 係数K 

 
 ここで、優先度Pは当該工事の優先度、評価点Rは、当該工事に含まれる部位・機器の劣化故障時の被害損失の度合い及び係数Kは劣化・緊急度である。
 
 この手法は、国土交通省が実施する大規模な修繕(「施設特別整備」)に対する適用を想定しているが、実際の優先度判定には、中長期計画との整合性、政策的な判断、修繕費用と全体予算の関係、当該施設における保全計画と実施状況などを加味して総合的に行われる必要がある。

4. 保全業務の実施と評価


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4.1 保全業務の実施
 

 保全の実施段階において施設管理者等に求められるのは、適切な業務委託、業務の管理、業務の監督・検査、業務の記録である。これらが確実に実施されるよう、その手順や実施方法等をまとめた「施設保全マニュアル」を作成した。このマニュアルには、業務内容の説明とともに各種書類の項目や書式を記載しており、保全の実務に関する基礎知識を施設管理者等に提供できるよう構成している。また、このマニュアルは一般的な内容となっているので、各施設に関する個別のマニュアルを作成する必要がある。
 
表4.1 施設保全マニュアル構成
施設保全マニュアル A庁舎保全実施マニュアル
第1章「保全業務」
 施設管理者が実施段階で行う保全業務について解説
 施設概要の把握/保全実施計画の立案/保全業務の委託/保全業務の監督・検査/保全業務の記録
施設管理者は、左記に基づき、保全を実施する。
第2章「保全の手引き作成要領」
 各施設について作成する「保全の手引き」について解説
左記に基づき「A庁舎保全の手引き」を作成する。
第3章「保全台帳作成要領」
 各施設について作成する「保全台帳」について解説
左記要領に基づき「A庁舎保全台帳」を作成する。

4.2 保全業務委託

(1) 保全業務委託のあり方

 
 官庁施設の保全業務については今後民間委託が一層進展すると予想される。その中で、ストックマネジメント技術がより有効に機能するためには、保全業務の受託者が意欲的に業務に取り組めるような環境整備が必要不可欠である。しかしながら、現状においては表4.2に述べるような問題点と検討課題が存在する。
 
表4.2 保全業務委託における問題点と課題
問題点 対応策 検討課題
現行制度の厳格な運
用による単年度契約
複数年度にわたる契約や数年間の随意契約の実施 会計法等の弾力的運用の検討
 
参加資格に制限をつ
けない一般競争入札

 

業者の技術力を参加資格要件に取り入れた競争入札の実施 競争入札における資格要件の設定の検討
業者の技術力評価の実施 業者の技術力評価手法の検討
要求される性能が曖
昧な仕様による契約
と不十分な履行評価
 
要求性能を明確にした仕様書の確立 現行仕様書の見直し
 
確実な履行評価の実施 履行評価手法の検討
コスト縮減における
長期的視点の欠如
ライフサイクルコストなど長期的視点を考慮した業務委託の実施 施設管理マネジメント業務の検討
 

 
(2) 施設管理マネジメント業務施設管理マネジメント業務
 

 今後の施設管理においては、長期的視点におけるコスト縮減や地球環境保全等を考慮しながら、効率的な実施が課題である。特に大規模、高度な機能を持つ庁舎においては、高度な専門的・技術的能力が必要であり、施設管理者を支援する中立的、技術的立場から総合調整、改善提案を行う専門家の活用が必要である。そのために「施設管理マネジメント業務」の導入を提案する。
 施設管理マネジメント業務の位置付けは、図4.1のように示される。また、施設管理マネジメント業務の主な業務内容は
@施策立案業務、予算管理業務、情報管理業務の補助
A保全計画作成、外注業者管理、各保全業務の管理
4.3 保全業務の評価

(1)保全業務評価の目的

 
 保全業務委託において、業務が的確に行われているかどうかの評価が満足になされていないのが現状であるため、保全業務の評価手法を検討した。発注者がこの評価手法を利用することによって、委託契約内容の履行確認のみでなく、不良・不適格業者の排除、優良業者へのインセンティブを与える効果も期待できる。
 
(2)評価手法
 
 今回の検討では、設備(運転・監視、点検、保守)と清掃の保全業務を対象として、図4.2に示す業務評価フローに基づき、各評価段階のチェックシートを作成した。これらは、保全業務監督検査要領としてとりまとめた。

業務評価フロー
図4.2 業務評価フロー

5.保全情報システムの整備


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5.1 概要

 保全情報システムは、情報を取り扱う立場から設定した情報カテゴリーに、必要な業務支援システムとデータベースのネットワークを対応させることにより、図5.1に示すように整理できる。

保全情報システムの全体像
図5.1 保全情報システムの全体像

5.2 保全情報システム

(1)システム形式 

 保全情報システムを構成するネットワークは、個別施設のコンピュータがそれぞれネットワークにつながって機能し、保全情報センターによってシステムの開発、運用、アプリケーションの更新等を行う統括型が想定される。図5.2にシステムの構成イメージを示す。
 保全情報センターは、システム全体の運用・管理を行うだけでなく、施設運営上の指標となる、設備機器の更新周期、光熱水量、LCCO2などのベンチマークを提供する機能や、ネットワークにつながっている個々のコンピュータに組み込まれているアプリケーションのバージョンアップの対応を一括して行う、アプリケーションサービスプロバイダー的な機能を持つ。     
              

保全情報システム構成イメージ
図5.2 保全情報システム構成イメージ

(2)業務支援システム

 官庁施設の保全に関わる者(組織)の業務分析を行い、保全業務の実施を支援する業務支援システムを整理した。保全情報システムに含まれる業務支援システムを、表5.1に示す。各業務支援システムは、図5.3に示すように、複数の関係者にまたがって利用され、利用者によって、保全指導支援情報システムと施設管理者支援情報システムに分類する。
 これらの業務支援システムとデータベースが、インターネットを含む省庁間ネットワークによってつながり、保全情報システムを構成することになる。

表5.1 業務支援システム

業務支援
システム
T 保全計画策定支援システム U 維持管理支援システム V 保全状況評価支援システム W 共通システム X 長期修繕需要予測支援システム
主な機能 ・LC計画/長期保全計画策定支援機能
・修繕優先度判定機能
・スケジューリング機能

・維持管理実施記録支援機能
 

・建物状況評価機能

・保全業務評価機能
 

・建物台帳ファイル管理機能

・定型グラフ・帳票作成支援システム

・施設群の長期修繕計画策定支援機能

 

 保全情報システムの利用者と施設管理支援情報システム
図5.3 保全情報システムの利用者と施設管理支援情報システム

5.3 保全情報システムにおける業務分析

 保全情報システムが、官庁施設の保全に携わる様々な立場から利用されるシステムであることから、保全計画の立案・実行システムとも対応させて各機関(担当者)の扱う情報を各々の立場から4つに分け、図5.1に示す情報カテゴリーとして設定した。 各情報カテゴリーごとに業務分析を行い、業務支援システムの検討に反映させた。
 
5.4 データベース

(1) データベースの位置づけ

 データベースを整備するに当たって、データの入出力を誰が行うか、どこからデータを取り入れるかを検討するために、データベースに含むべきデータ項目ごとに次の項目との関係を整理した。対応表を表5.2に示す。
   ・保全関連業務
   ・データの登録・更新、入力代行及び参照をする者
   ・原データの所在(データの入手元) 
 データ項目には、1次データを加工して得られる情報や、定期的な調査によって得られるものがある。今後は、その算出方法及びデータ収集のしくみについて、建設省で実施している官庁建物実態調査及び保全実態調査の拡充を含めて検討する必要がある。 

(2) データの入力

 今後新築される施設については、施設整備を担当する国土交通省が、施設管理に必要なデータを整備して、竣工時に施設管理者に引き渡す必要がある。一方、膨大なストックとなっている既存施設については、大規模改修工事を実施した際に、順次必要なデータを整備していく。また、個別の施設で発生する保全データは、日常業務を遂行する中で無理なく自動的にデータが蓄積される仕組みを取り入れ、データ入力の省力化を図る必要がある。


表5.2 データ項目の整理表

5.5 施設管理支援情報システム

 個別施設の施設管理者が利用する情報システムを、施設管理支援情報システムとして位置づけ、情報システムの仕様書を作成した。
 施設管理支援情報システムは、保全計画の作成を支援する機能、日常の維持管理業務を支援する機能、施設台帳を管理する機能等を持つ。また、主な利用者は、個別施設の施設管理者と保全業務を受託した業者である。(図5.3参照) 仕様書では、システム構成、支援システムの機能、操作メニュー、入出力項目等を規定した。

6.保全技術の体系化


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6.1 保全技術の体系

  保全計画の立案・実行システムに対応して、保全の各段階(計画、実施、評価・改善)において必要となる技術・手法を体系的に整理した。(表6.1)体系化にあたっては、上記の各段階をさらに分類し、それぞれの技術・手法の利用者との関係を示した。
 

表6.1 保全技術体系表
保全技術体系表





 既存の技術についてみると、保全業務の実施のための技術は必要性も高く、よく整備されているが、保全計画の立案に必要な技術や、評価・改善に必要な技術は一部を除き、ほとんど整備されていない状況である。

 このため、今回の検討目的に照らし、未整備の技術・手法については優先度を設け、段階的に整備していくこととした。特に優先度の高い技術は、第一にストックマネジメント技術を有効に機能させるよう保全業務サイクルの定着に寄与する技術であり、第二にコスト縮減に寄与する技術であるため、表に■で示す技術の開発を本検討の中で行った。
これらの技術については、既存の基準類とあわせて、保全指導に関する基準類として整理し、計画的に整備していく必要がある。
 
6.2 保全水準の設定

(1) 目的及び検討対象

 官庁施設においては、機器の点検・保守、清掃などの頻度や点検方法等は「建築保全業務共通仕様書(保全共仕)」に示されているが、施設の重要性や部屋の利用状況等に関係なく規定されている。このため、本検討では、施設の重要度、部屋の利用状況等に基づいた複数の水準を設定し、選択を可能とすることにより、限られた予算を適切に配分し、コスト上昇を抑えつつ保全レベルの底上げを図るため保全水準の設定の検討を行った。検討対象は、「運転・監視及び点検・保守」と「清掃」とした。
 
(2)運転・監視及び点検・保守

 保全水準の設定にあたっては、個々の施設の重要度や部位・機器の故障の影響度等に応じて、各部位・機器別の「保全方式」を導入することとした。 保全方式の選択の流れは次による。
 ステップ1:施設の重要度(T〜W)を設定
 ステップ2:部位・機器の劣化・故障時の被害損失の度合い(A〜D)を評価
 ステップ3:重要度の設定、被害損失の度合いの評価から各部位・機器をa〜cに分類
 ステップ4:コストや労力、劣化・故障の発見の容易性を判断基準に保全方式を選択

表6.2 保全方式の設定

       保全方式      略称    具体例

方式1
   
常時監視又は定期点検を行い、
不具合を未然に防止する。  

「定期点検・未然防止」
           
24時間稼動の
設備機器

方式2
   
常時監視又は定期点検を行い、
不具合の発見を早期に行う。

「定期点検・早期発見」
 
受変電設備、屋根
防水層、外壁タイル

方式3
    
不具合に対する迅速な対処体制
を整えることによって、点検を
省略できるもの。

「点検省略・迅速対処」
照明器具
建具類

方式4
不具合が生じても、
迅速な対処を要しないもの。 

「点検省略・適宜対処」
 
人目につかない
外壁の汚損
 
 
 この方式に基づき、保全共仕に規定されている各項目を分類し、3,000u程度の標準的な事務庁舎を対象に保全水準の設定を行った。それにより、保全共仕による保全方式とコスト比較を行った結果、一部の部位・機器の保全水準を下げることにより、約16%のコスト削減が可能との試算結果となった。今後、望ましい保全方式の適用を図りつつ実態と整合するよう検討を行うとともに、設定水準の妥当性を検証し、保全共仕の改定に反映させることとする。


(3) 清掃
 

 清掃における水準設定においては、作業内容を保全共仕をもとに「清掃作業仕様」として示した上で、作業回数の多い順にa〜cの3水準を設定した。(表6.3)
 水準の選択は、対象室の重要度(汚れの許容限度)と利用頻度(汚れる可能性)により行うこととした。また、水準の設定は、窓口官署とそれ以外、共用区域(廊下、玄関ホール等)と専用区域(事務室等)により4つの区分に分けて設定例を示した。(表6.4)
 この妥当性を検証するために、全国の合同庁舎等の清掃実態を調査し、比較を行った。共用区域においては、設定例とほぼ合致している一方、専用区域においては、官署により条件が異なっていることもあるため、今後検討を行い、標準的な清掃水準を設定し保全共仕の改定に反映させることとする。

表6.3清掃仕様の設定例

清掃仕様の設定例
表6.4 清掃水準の設定例
     室の利用頻度
  窓口官署 窓口官署以外
室の重要度
 

共用区域
 
玄関ホール T
廊下 T
階段 U
便所、洗面所 T
駐車場、車路 V
屋上 W

6.3 保全効果の定量評価

(1) 目的

 良好な保全を行うことにより、損失や危険の回避によるメリット、機器の効率の確保・延命によるメリットが考えられるが、保全を良好な方向に導くためには、保全の費用対効果を定量的に評価することが効果があるため、定量化の試みを行った。 

(2) 定量評価の結果

 今回試みたのは以下の3点である。
@機器の故障による執務能率低下の評価
 機器の故障を想定し、それによる不便・不都合などをCVM(仮想市場法)を基本としたアンケート調査により行った。調査対象は、建設省職員と名古屋市内の設計事務所職員100名程度ずつとし、機器の故障による業務能率の低下の度合いで評価した。調査結果は、停電によるパソコン等の使用が不可能になった場合の業務低下率が75%、夏場の空調機器の故障の影響が48%という数字で表すことができた。
A機器の運転効率低下によるエネルギーロスの評価
 保守状態が悪いために機器の運転効率が落ちた場合の想定では、空調機器の搬送動力のロスを対象とした。学術論文によるデータを用いると、一般的な庁舎で10年間で90.5kWh/uのエネルギーロスとなった。これは3,000u級の施設で500万円弱の電気料金に相当する。
B機器の延命効果
 機器の寿命に関するデータは種々発表されているが、実際は使用状況により大きくばらついている。標準的とされている寿命に対し、しっかりした管理により寿命が30〜50%延びた場合の効果を3,000u級調査をモデルに試算した。庁舎の供用期間を65年としてその期間トータルの更新及び修繕費用の低減率を求めると、13%という数字が得られた。

7.まとめ

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(1) 成果のまとめ

 
 本報告書においては、「官庁施設のストックマネジメント技術」として官庁施設における今後の新たな保全のシステムとそれを有効に機能させるための様々な手法を検討し、提案した。この技術は、すべての官庁施設を適用対象としたものであるが、地方公共団体等の公共建築全般に適用できるものと考えている。


(2) 今後の検討課題

 
 この報告書で示した新たなシステムの円滑な運用を推進するとともに、各手法については、これまでの基準類とあわせて国土交通省の保全指導に関する基準として整理し、普及・啓蒙を図る必要がある。
保全業務委託に関しては、入札契約制度や受託業者側の体制整備など、良質な業務を実施するための環境整備が必要である。