第2部 海上交通をめぐる現状・課題と政策的対応
(ii)平成9年度の海運大手5社の経営状況
(A)概況〜経常利益が大幅に拡大〜
 平成9年度の海運大手5社の業績は、昨夏以降タイの通貨下落に端を発したアジア経済の混乱の影響を受けたアジア向け荷動きの減少に加え、運賃水準の下落の影響があったものの、平成7年秋以降の円安基調が持続したこと、各社の企業努力や経費の節減効果もあって、業績は前年度に引き続き順調に推移し、従来の1社に加え2社が復配するなど比較的明るいものとなった。同年度の損益状況は、図表2-1-32のとおりである。


図表2-1-32 外航海運大手5社の損益状況推移
 営業収益は、アジア経済の混乱の影響による荷動きの減少、運賃水準の下落があったものの、好調な自動車輸出に支えられた自動車専用船部門が活況を呈したことに加え、円安による増収効果により、1兆7,960億円と1,170億円(対前年比7.0%)の増収となった。
 営業費用は、各社の費用削減努力が寄与して一般管理費が19億円(対前年比▲2.3%)減少したが、稼働の増加、円安による各費用、借船料の増加により、1兆7,359億円と1,104億円(対前年比6.8%)の増加となった。しかし、営業収益の増加額が費用の増加額を上回ったことから、営業利益は601億円と66億円(対前年比12.3%)の増益となった。
 また、営業外損益の赤字幅も改善したことから、経常利益は358億円から458億円と100億円(対前年比27.9%)増加し、前年度に引き続き増益となった。
 一方、特別利益も前年度に比し増加したが、昭和海運(株)が本年10月1日の日本郵船(株)との合併を控え特別損失に273億円を計上したことから、税引後当期損益では5社中4社が黒字となったものの、5社計では151億円の損失を計上することとなった。
(B)主な部門別営業収益


図表2-1-33 海運大手5社の部門別営業収益推移
(単位:億円)
区分 平成6年度 平成7年度 平成8年度 平成9年度
金額 対前期
比伸び
率(%)
金額 対前期
比伸び
率(%)
金額 対前期
比伸び
率(%)
構成比
(%)
金額 対前期
比伸び
率(%)
構成比
(%)




定期船 5,455 ▲1.8 5,465 0.2 5,883 7.6 35.0 5,831 ▲0.9 32.5
不定期船
・専用船
5,187 ▲2.1 5,351 3.2 5,814 8.7 34.6 6,810 17.1 37.9
油送船 478 6.8 502 5.0 598 19.1 3.6 665 11.2 3.7
11,120 ▲1.6 11,318 1.8 12,295 8.6 73.2 13,306 8.2 74.1
貸 船 料 2,832 ▲3.5 3,013 6.4 3,399 12.8 20.2 3,617 6.4 20.1
そ の 他 1,066 4.7 1,095 2.8 1,095 0.0 6.5 1,033 ▲5.7 5.8
合 計 15,018 ▲1.5 15,426 2.7 16,790 8.8 100.0 17,960 7.0 100.0
○各社の決算資料をもとに運輸省海上交通局作成
(注)端数処理のため、末尾の数字が合わない場合がある。
 (a) 定期船部門 〜コンテナ船基幹航路で競争激化〜
 定期船部門全体の営業収益は、円安の影響があったものの、運賃水準の下落や、アジア経済の混乱による荷動きの往復航におけるアンバランスが影響し、過去2年の増収傾向が反転し、前年度の5,883億円から5,831億円と52億円(対前年比▲0.9%)の減収となった。
 (b) 不定期船・専用船部門 〜自動車輸送部門は好調に推移〜
 上半期の不定期船の市況は、日本・欧州の堅調な粗鋼生産に支えられたものの、下半期に入りアジア経済の混乱、我が国経済の低迷による荷動きの減少に加え、新造船の供給圧力等もあり、市況は弱含みに推移した。一方、好調な自動車輸出に支えられ自動車専用船部門は活況を呈し、また円安が部門全体に寄与し、平成9年度の不定期船・専用船部門の営業収益は、過去2年の増収傾向がさらに拡大し、前年度の5,814億円から6,810億円と996億円(対前年比17.1%)の大幅な増収となった。
 (c) 油送船部門 〜VLCCは堅調に推移〜
 アジア経済の混乱の影響を受け石油製品船部門での荷動きが低迷したが、VLCC部門は高品質船指向等もあり用船需要も比較的タイトに推移したため、市況は堅調に推移した。また、円安の効果もあり、平成9年度の油送船部門の営業収益は、前年度の598億円から665億円と67億円(対前年比11.2%)増加した。
 (d) 貸船部門 〜円安効果で増収〜
 平成9年度の貸船部門の収益は円安効果もあり、前年度の3,399億円から3,617億円と218億円(対前年比6.4%)と増加し、過去2年と同様に増収となった。
(C)海運大手5社の財務状況 〜自己資本比率低下〜
 平成9年度末における海運大手5社の財務内容は、図表2-1-34のとおりである。


図表2-1-34 海運大手5社の貸借対照表
(単位:億円)
区分 平成8年度 平成9年度
金額 構成比(%) 金額 構成比(%)

流  動  資  産
固  定  資  産
有形固定資産
船舶
建設仮勘定
その他
無形固定資産
投資・その他資産
繰  延  資  産
4,722
11,913
5,452
3,456
431
1,565
62
6,399
7
28.4
71.6
32.8
20.8
2.6
9.4
0.4
38.5
0.0
5,601
11,896
5,820
3,269
610
1,941
62
6,014
7
32.0
68.0
33.3
18.7
3.5
11.1
0.4
34.4
0.0
資 産 合 計 16,641 100.0 17,503 100.0

流  動  負  債
固  定  負  債
社   債
長期借入金
負債性引当金
そ  の  他
5,704
6,409
2,184
3,851
218
156
34.3
38.5
13.1
23.1
1.3
0.9
5,456
7,706
2,775
4,544
220
167
31.2
44.0
15.9
26.0
1.3
1.0
負 債 合 計 12,113 72.8 13,162 75.2

資   本   金
そ   の   他
2,113
2,415
12.7
14.5
2,121
2,220
12.1
12.7
資 本 合 計 4,528 27.2 4,341 24.8
  負債・資本合計 16,641 100.0 17.503 100.0
○各社の決算資料をもとに運輸省海上交通局作成
(注)端数処理のため、末尾の数字が合わない場合がある。
 資産の部では、前年度末と比べ流動資産で18.6%増加し、固定資産は横這いとなっており、資産合計では、前年度末と比べ862億円(対前年比5.2%)の規模拡大となっている。主な要因は流動資産のうち「短期貸付金」が子会社等への貸付等のため前年度末の108億円から634億円と526億円(対前年比387.0%)増加したことによる。
 負債の部では、前年度末に比べ流動負債で4.3%減少し、固定負債が20.2%増加しており、負債合計では、前年度末と比べ1,049億円(対前年比8.7%)の規模拡大となっている。特に、固定負債のうち「社債」については、前年度末より591億円増加し、「長期借入金」については、前年度末より693億円増加している。
 資本の部では、資本金は、前年度末とほぼ同額であったが、その他(資本準備金、利益準備金、その他の剰余金)は195億円減少したため、自己資本比率は前年度末より若干低下した。

(D)外航海運企業の為替変動の影響 〜円安による利益拡大〜
 営業収益、費用ともドル建て比率が高まっているが、平成9年度の収支におけるドル建比率の乖離幅は、図表2-1-35のとおり前年度の8.0%から7.2%へと縮小した。


図表2-1-35 営業収益、営業費用に占めるドル建て金額の割合の推移
(外航海運大手5社)

(単位:%)
区  分 平成6年度 平成7年度 平成8年度 平成9年度
営業収益 64.6 66.7 69.4 72.2
営業費用 57.5 60.3 61.4 65.0
求離幅 7.1 6.4 8.0 7.2
○各社の決算資料をもとに運輸省海上交通局作成
 同年度における為替変動の影響額は図表2-1-36のとおりであり、営業損益ベースで対ドル1円当たり13.7億円と、前年度より1.5億円増加した。また、前年度に比べ10.66円の円安となったため、外航海運大手5社全体で約145億円営業利益が拡大した。


図表2-1-36 平成9年度における対ドル為替変動の営業損益に与える影響
(外航海運大手5社)

(単位:億円)
区  分 9年度実績額 為替変動による
影響額
対ドル為替
変動による
影響額
(1円当たり)
営業収益 17,960
(16,790)
1,107
(1,694)
103.8
(104.1)
営業費用 17,359
(16,255)
962
(1,497)
90.1
(91.9)
営業損益 601
(535)
145
(197)
13.7
(12.2)
○各社の決算資料をもとに運輸省海上交通局作成
(参考)5社の実績平均レート: 平成8年度 1ドル=111.85円
  平成9年度 1ドル=122.51円
(注) 1.為替変動による影響額は、平成9年度実績額のうちドル建収入・費用について試算した額である。
  2.カッコ内は平成8年度の数字。
(E)平成10年度の展望 〜経営環境は予断を許さず〜
 世界の景気動向を見ると、米国は拡大し、欧州では総じて緩やかに改善しているが、アジア地域は我が国を含めの景気は後退ないしは停滞し、厳しい経済状況にある。
 このような情勢の下、今後、定期船部門の運賃修復の動き等好材料もあるものの我が国及びアジア諸国の景気の動向、不安定な為替の動向、不定期船の新船竣工による過剰船腹化と荷動きの減少による運賃下落への懸念があり、本年10月に予定されている日本郵船(株)と昭和海運(株)の合併等に象徴されるように我が国外航海運企業を取り巻く経営環境は依然として厳しい状況が続くものと予想される。


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