第2部 海上交通をめぐる現状・課題と政策的対応
自動車専用船
(2)外航海運カルテルの独禁法適用除外制度の見直し
 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)」においては、事業者間の価格協定等のカルテル行為は原則として禁止されている。しかしながら、外航海運事業においては、航路安定化による貿易物資の長期的・安定的輸送の確保と、協調配船、施設の共同利用等による事業経営の合理化・効率化を図る観点から、外航海運事業者間における協調・提携が必要不可欠であるため、従来から海上運送法第28条に基づき独禁法の適用除外が認められている。また、このような適用除外制度は我が国のみならず、米国、EU等においても認められている。
 しかしながら、近年、伝統的な外航海運カルテルである海運同盟に加え、複数の外航海運企業により、協調配船等世界的規模での協調・提携を図るためにコンソーシアム(企業連合)が形成され、また、アジア諸国の新興海運国等の海運企業による盟外船(海運同盟に参加せず、独自の賃率表等によりサービスを提供する外航海運企業)のシェアの増大を背景に、同盟・盟外の別にとらわれることなく、航路の安定化について協議を行うための協議協定が出現するなど、現行制度の制定時と比べて外航海運を取り巻く状況は著しい変化を遂げてきている。
 更に、外航海運カルテルの独禁法適用除外制度については、個別法に基づく独禁法適用除外制度の見直しの一環として、「規制緩和推進計画の再改定について」(平成9年3月閣議決定)において、制度の在り方について、国際的な海運政策の動向、海上輸送の実態等を踏まえた上で見直しを行い、平成10年度末までに具体的結論を得ることとされた。
 これを受けて、公正取引委員会と運輸省との間で見直しの検討を行った結果、貿易物資の安定輸送のための航路安定化の必要性は現在においても何ら変わることはなく、また、世界経済のグローバル化を背景に、海運企業間の協調・提携による合理化・効率化の必要性は益々高まっていること、また、外航海運事業の国際的な性格に鑑み、適用除外制度の国際的な整合性を図る必要性があることから、引き続き、独禁法の適用除外制度自体は存続させることとするが、以下のとおり、適用除外を認めるに際しての手続きを整備していくことが決定された。

○「新たな規制緩和推進三か年計画」(平成10年3月閣議決定)
「海上運送法に基づく海運カルテル(外航)については、適用除外制度に係る手続規定を整備することとし、改正法案を平成11年の通常国会に提出する」

 具体的には、現在、海上運送法上、外航海運事業者が相互に協定の締結や共同行為を行おうとする場合には、事前に運輸大臣に当該協定等を届け出れば足りることとされているが、今後は、届け出られた協定等が利用者の利益を不当に害するものではないかなどについて事前に審査をし、問題のある協定等の実施を未然に防止できるようチェック機能を強化する方向で、審査に係る手続規定を整備していくこととなる。
 このため、運輸省においては、関係者からの意見を聴取しつつ、改正法案の策定作業を行っていくこととしている。

2.国際競争力の強化

 すでに述べたとおり、外航海運は厳しい国際競争にさらされており、先進国をはじめとする各国外航海運企業はコスト削減をはかるため、船舶の海外置籍を進め、途上国の低廉な労働力を活用している。我が国においても、日本籍船及び日本人船員が減少しており、平成9年には、日本籍船は182隻、日本人船員は4,561人となっている。
 しかしながら、前述の通り日本籍船及び日本人船員は大きな意義を有していることから、自国籍船・自国人船員の確保策を講じている欧米各国の例も参考に、我が国においても、平成8年に海上運送法を一部改正し、安定的な国際海上輸送の確保上重要な一定の日本籍船を「国際船舶」と位置付け、その海外譲渡等について届出・中止勧告制度を設けるとともに、これに対する登録免許税及び固定資産税の軽減措置を講じることを内容とする「国際船舶制度」の一歩を踏み出した。
 さらに、8年3月より海運造船合理化審議会海運対策部会において、新たな国際経済環境に対応した外航海運対策について審議が行なわれ、9年5月に報告書が取りまとめられた。
 同報告では、我が国外航海運の活動は、我が国経済や国民生活さらには世界経済の発展に多大な貢献をしてきており、今後ともその役割を担っていくことが必要であるため、経済合理性に立脚した運営を基本としつつ、自国籍船、自国船員の確保策を講じている諸外国の情勢にも鑑み、我が国においても引き続き所要の施策を講じていくことが必要であるとしている。
 これを踏まえ、具体的には以下の施策を講じている。

(1)日本人船長・機関長2名配乗体制の導入

 我が国外航海運企業において、人件費の安価な外国人船員の配乗等によるコスト削減の観点から、日本籍船を海外に移籍する、いわゆるフラッギングアウトが進んでいることはすでに述べた通りである。こうした流れに歯止めをかけるためには、日本籍船にも相応のコスト競争力を持たせることが必要であり、そのための方策として我が国では、いわゆるマルシップ方式による日本人船員と外国人船員の混乗等を行ってきた。
 しかしながら、こうしたコスト削減方策も、それを上回る国際競争の激化や円高の進行により、結果として日本籍船減少に歯止めをかけるには至らなかった。
 このため、日本籍船についてさらなるコスト競争力の強化を図るため、先の海造審報告書では、安定的な国際海上輸送の確保上重要な一定の日本籍船である「国際船舶」の配乗体制については、国際競争力を確保していくとともに、船内管理、輸送の質等を考慮し、基幹職員である船長及び機関長は日本人船員であることを原則とする混乗体制で運航できるようにすることとし、船長及び機関長以外の職についての外国人船員に対する 海技資格 の付与等の実施に向けて、検討を進めることとされた。
 これを受け、運輸省では、外国人船員に対する海技資格の付与等の方策について検討を進め、船舶職員法一部改正法案を国会に提出し、本年5月同法案が可決したことにより、 STCW条約 締約国の発給した資格証明書を受有している者であって、運輸大臣の承認を受けたものは、海技従事者の免許を有しなくても船舶職員として日本籍船に乗り組むことができるとする制度が創設された。
 今後はその施行に先立ち、承認の具体的な方法等について詳細な検討を進めていくこととしている。

(2)教育訓練スキームの確立

 すでに述べたとおり、日本人外航船員は、日本商船隊を船舶の安全、円滑かつ高いサービス水準等といった運航面及び船舶管理面から支える重要な役割を担っており、また一方で、こうした大きな役割を担う日本人外航船員は、一朝一夕に養成することは困難であることから、将来を見据えた確保・養成が不可欠である。特に、今後、国際船舶における日本人船長・機関長2名配乗体制が導入されることにより、日本人船長・機関長には高い指揮監督や業務遂行等の能力が従来にも増して必要となってくる。さらに、我が国外航船員は、高齢者層の占める割合が高く、将来にわたって貿易物資の安定輸送の確保等を図るため、これまでの船員養成に比し、より実践的な能力を有した船員を早期に養成するスキーム作りが求められている。
 このため、運輸省では、今後船長・機関長の職を担うことになる若年船員等を対象に、実践的な教育訓練を行う教育訓練スキームである「若年船員養成プロジェクト」を平成10年度より実施することとした(図表2-1-45)。


図表2-1-45 若年船員養成プロジェクトフロー図
 本プロジェクトは、(財)日本船員福利雇用促進センターが主体となって実施するものであり、2年間の訓練期間中に座学及び乗船訓練を実施することにより、即戦力として活躍できる能力を身につけた若年日本人船員を早期に養成することを目的としている。本プロジェクトの訓練生は、実践的な技能を会得するとともに、訓練期間中に2級海技士資格の取得を目指すこととなる。
 現在運輸省では、関係者からの協力を得つつ、平成10年10月からの実施に向け、カリキュラムの内容等詳細な検討・調整を進めている。


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