第2部 海上交通をめぐる現状・課題と政策的対応
第2節 内航海運(貨物)政策(物流効率化、地球環境問題への対応)

1.内航貨物輸送活性化への取り組み(船腹調整事業の解消等)

(1)船腹調整事業の解消

(i)船腹調整事業の解消に向けたこれまでの取組み
 内航海運においては、昭和41年よりスクラップ・アンド・ビルド方式による 船腹調整事業 が実施されてきており、これまで船腹需給の適正化、内航海運業者の経営安定、船舶の近代化等の推進という役割を果たしてきていた。しかし、平成7年の海運造船合理化審議会答申において、「船腹調整事業については小規模な事業者を中心に同事業への過度な依存体質を生んでおり、このことが事業規模拡大等による経営基盤強化に向けた構造改善が進まない要因の一つになっていること、同事業の下では、意欲的な者の事業規模の拡大や新規参入が制限されるため、内航海運業の活性化等の支障になっていることなどの弊害が生じていることから、内航海運業の活性化及び構造改善の推進を図るため、船腹調整事業の計画的解消を図り、市場原理をより強く働かせるべきである」との指摘がなされた。また、平成7年12月には、行政改革委員会が「船腹調整事業の計画的解消に向けて直ちに取り組む」との意見を取りまとめた。同答申及び意見を踏まえ、運輸省は、平成8年及び9年には、船腹調整事業を計画的に解消していくこと、解消時期の前倒しを検討することなどについて閣議決定がなされた。

(ii)船腹調整事業を解消する場合の問題点
 船腹調整事業が長期に渡り継続実施される中で、船舶建造の際に新造船のためのスクラップとして引き当てられる既存船の引当資格(一種の営業権)が取り引きされることとなり、この結果、引当資格が財産的価値を有するものとして認知されることとなった。また、この引当資格は、企業会計上資産として評価されるとともに、税務上も相続等の際課税対象とされ、金融機関からも融資の際に担保又は含み資産として評価されることとなった。
 したがって、船腹調整事業を解消する場合には、引当資格の財産的価値が消滅することとなるため、内航海運業者の事業経営に多大な影響を与えることとなり、社会問題化するおそれがあるとともに、内航海運業や中小造船業等が基幹的産業となっている地域においては、急激な地域経済の地盤沈下が起こることも予想された。

藤井運輸大臣(左)に報告書を提出する海運造船合理化審議会の宮本内航部会長 (iii)内航海運暫定措置事業の導入
 このような状況の下、海運造船合理化審議会内航部会は、平成10年3月に船腹調整事業の解消問題について、船舶を解撤する転廃業者等に対し解撤する船腹量に応じ交付金を交付するとともに、船舶を建造する者から建造する船腹量に応じ納付金を納付させるという方式(以下「内航海運暫定措置事業」という。図表2-2-15)を導入することによって、引当資格の財産的価値について所要の手当てを行いつつ、現在のスクラップ・アンド・ビルド方式による船腹調整事業を解消すべきであるとの報告書を運輸大臣に提出した。

 これを踏まえ、「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月閣議決定)において以下のとおり決定された。
 内航海運業における船腹調整事業については、できるだけ短い一定期間を限って転廃業者の引当資格に対して日本内航海運組合総連合会が交付金を交付する等の内航海運暫定措置事業を導入することにより、現在の船腹調整事業を解消する。
(実施予定時期 平成10年度早期)

 これを受けて日本内航海運組合総連合会は、平成10年5月に内航海運暫定措置事業を導入し、船腹調整事業を解消した。
 内航海運暫定措置事業の導入により、引当資格の保有の有無にかかわらず一定の納付金を支払うことにより船舶を建造することが可能となるため、船舶建造の自由度が高まり、また意欲的な事業者の事業規模の拡大や新規参入が促進されることになるため、今後、内航海運の構造改善や活性化が推進されることが期待される。
 また、内航船の建造需要の拡大、内航海運へのモーダルシフトの推進を図るためには内航海運暫定措置事業の円滑な実施を進める必要がある。したがって、政府の総合経済対策の一環として、平成10年度第1次補正予算において、物流効率化のための基盤整備としての内航海運活性化緊急対策を盛り込むこととし、運輸施設整備事業団が内航海運暫定措置事業に係る必要な資金について日本内航海運組合総連合会に融資すること、運輸施設整備事業団の船舶共有業務を弾力化すること等の支援措置を講じた。


図表2-2-15 内航海運暫定措置事業の概要
(2)内航海運の運賃協定の見直し

 従来より、荷主の優位性が強い内航海運においては、沖縄航路運賃同盟をはじめとした8つの運賃同盟を締結し、適正な運賃水準の確保を通じた内航の安定輸送の確保を図っていたが、運賃同盟は価格競争を制限するものであることから、内航海運の活性化への支障が指摘されるようになった。このような状況を受け、平成8年3月の「規制緩和推進計画の改定について」において、以下のとおり閣議決定された。

・沖縄航路運賃同盟及び先島航路運賃同盟については、デイリーサービスの確保の観点から実施されている共同運航関係の協定に限って引き続き適用除外を認める。
・内航タンカー運賃協定、内航ケミカルタンカー運賃協定については、平成10年度末までに廃止する。
・その他の運賃協定については平成8年度末までに廃止する。

 これを受けて、平成8年11月末までに北海道定期航路運賃同盟等6協定が廃止され、沖縄関連の航路についても、デイリーサービスの確保の観点から、平成8年10月に阪神/沖縄航路共同運航協定及び沖縄本島/先島航路共同運航協定が締結されたことに合わせて運賃同盟が廃止された。
 内航海運の運賃協定の見直しを行うに際しては、併せて荷主の優越的な地位の濫用を防止し、公正な取引関係を構築していくための新たな措置を講じることが不可欠であることから、運輸省の意見も踏まえ公正取引委員会では、平成10年3月「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」をとりまとめた。これにより、荷主の優越的な地位の濫用の防止が図られるものと期待される。



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