第2部 海上交通をめぐる現状・課題と政策的対応 第2部 海上交通をめぐる現状・課題と政策的対応



第1章 外航海運

第1章のポイント
<現状分析>

○世界における動向
・97年後半からのアジアにおける通貨危機や政治不安による為替レートの低下等により、これらの国からの輸出が伸びる一方、輸入は減少もしくは伸び悩んでいる。
・定期コンテナ船市場について、アジアを中心に見ると、北米航路、欧州航路、アジア域内航路で世界のコンテナ荷動き量の約6割を占めている。このうち北米航路の往航運賃を見ると、船腹供給増や、海運企業の競争激化により低水準で停滞していたが、アジア発の輸送需要増を受けて従来の低落傾向に一応の歯止めがかかっている。
・北米航路等の主要コンテナ航路においては、複数の企業がコンソーシアム(企業連合)を形成して共同で定期運航を確保しているが、近年の大手海運企業の合併等を契機として、コンソーシアムの更なる再編が行われている。
・不定期船で運ばれるばら積み貨物については、海上荷動き量と船腹供給量との需給バランスを基礎としつつ、世界の政治・経済上の要因や、天候、季節的要因によりその運賃水準が絶えず変動する点が特徴であり、その荷動きを見るとアジア向けの荷動きが多く、アジアにおけるエネルギー需要増加等に伴い、荷動き量は順調に増加してきている。

○日本の外航海運企業の状況
・我が国商船隊の輸送量は、定期コンテナ船部門で三国間輸送の割合が大きくなっており、不定期船部門では引き続き輸入貨物の輸送の割合が大きい。
・9年度の外航海運の業績は、アジア向け荷動きの減少に加え、運賃水準の下落の影響はあったものの、円安基調の持続や懸命な合理化努力により、引き続き順調に推移した。しかし、アジア諸国の景気や為替の動向等不安定要素もあり、経営環境は依然厳しい状況が続くものと予想される。
・日本籍船及び日本人船員の減少には依然歯止めがかかったとは言い難い。
・外航クルーズ日本人利用者数は、不況のため企業・団体等によるチャータークルーズ利用者数が減少し、個人客主体のレジャークルーズ利用者数が伸びている。

<政策>

・我が国は「海運自由の原則」に基づき、国際交易を支える自由で公正な国際海運市場を形成するべく、WTO・OECD等の国際機関における活動に積極的に貢献するとともに、必要に応じて二国間協議を行っている。
・外航海運カルテルの独禁法適用除外制度を見直し、利用者の利益を不当に害するおそれのある外航海運事業者間の協定等の実施を未然に防止できるよう、事前に審査するための手続規定を整備していく。
・重要な意義を有する日本籍船及び日本人船員を確保するため、「国際船舶」における日本人船長・機関長2名配乗体制の導入を図るとともに、若年船員養成プロジェクトの実施に向けた取り組みを進めている。
・マラッカ・シンガポール海峡における航行安全対策の充実のため、従来より同海峡の船舶通航をめぐる諸問題についての検討を行っており、航路標識の整備等適切な協力を行っている。
・客船クルーズ事業を振興させるための方策について「客船クルーズ事業振興懇談会」において検討が行われ、新規顧客の開拓を行う等の方策が必要であり、それらの方策を実施すれば平成20年に我が国のクルーズ人口を100万人にすることが可能であると提言された。

第1節 外航海運の現状
1.世界における外航海運の動向

 近年、韓国、台湾、香港、シンガポールといったNIEs(Newly Industrializing Economies:新興工業経済地域)から、ほぼアジア全域にまで拡大したアジアの経済発展を背景に、アジア域内やアジア―欧米諸国間の貿易が拡大した結果(図表2-1-1)、アジアにおける巨大な海運市場が形成されてきた。しかしながら、1997年後半からのアジア諸国の通貨危機や政治不安の影響で、荷動きに変化が見られており、今後の動向が注目される。
 以下、世界の外航海運の動向を定期船部門と不定期船部門に分けて概観する。


図表2-1-1 アジアの対地域別貿易額の推移
(1)定期船部門
(i)世界の主要航路の動向
 まず、世界の定期コンテナ船市場について、アジアを中心に見てみると、アジア発着の3航路−すなわち、(i)アジアと北米を結ぶ北米航路、(ii)アジアと欧州を結ぶ欧州航路、及び(iii)アジア域内航路−で世界のコンテナ荷動き量の57%(1996年)を占めており(図表2-1-2)、この割合は90年には50%、94年には54%、96年には57%と近年着実に増加してきている。また、これらアジア発着航路に就航しているコンテナ船の船腹量は世界全体の43%にのぼり(図表2-1-3)、港湾におけるコンテナ取扱量を見てもアジアの港湾が世界全体の46%を占めている(図表2-1-4)。


図表2-1-2 世界のコンテナ海上荷動量(1996年)


図表2-1-3 コンテナ船の航路別就航船腹量


図表2-1-4 世界の港湾のコンテナ取扱量
 また、最大の基幹航路である北米航路においては、アジアと北米間の貿易実態から、従来より往航(アジア発)と復航(アジア着)の荷動き量に大きな差(往航が多い)があり、海運企業においては空のコンテナを長期間手元に滞留させたり、空荷のままコンテナを回送せざるを得ないといった問題を抱えている。
 このような中、97年後半のタイの通貨危機に端を発したアジア経済の混迷や政治不安により、韓国、タイ、インドネシアといった、アジア諸国の通貨価値が下落した(図表2-1-5)結果、これらの国からの輸出が伸びる一方、輸入は減少もしくは伸び悩んでいる(図表2-1-6)。
 このため、北米航路においては往航、復航の荷動きのアンバランスが更に拡大し、空のコンテナが不足するため荷物を輸出できない等の問題が深刻化してきている(図表2-1-7)。
図表2-1-5 アジア各国の為替レートの推移(1ドルあたり)
図表2-1-6 アジア各国の貿易額の推移
図表2-1-7 北米航路(アジア〜米国)のコンテナ荷動量推移


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