(コミュニケーション型行政)
建設省では、国民との対話を重視し、社会資本整備を国民との協働、共創作業として展開していくコミュニケーション型行政を、地方建設局等を含めた全省で推進しているところである。
この結果、コミュニケーション型行政の意義として掲げた 1)国民の満足度の把握、向上、2)社会的合意の円滑な形成、3)行政に携わるものの意識改革が徐々に効果を示しつつある。このような動きを地方公共団体を含め、いくつか紹介する。
(1)「出前講座」の全国展開と地方公共団体、地域住民への波及
建設本省の課長補佐等が、教育機関や地方公共団体等の依頼を受けて直接講義に伺う建設本省「出前講座」は、平成11年2月に開始されて以来、平成12年6月時点で123講座、実施件数175件、延べ聴講人数は18,000人に上っている。現在、地方建設局、研究機関等を含め全国展開を図っているところであり、建設省全体の講座数は、1,074講座である。
出前講座を受講した茨城県等の地方公共団体でも、地域住民向けに新たに講座を開講するところも出てきた。また、講座を受講した地域住民の側にも、まちづくり、地域づくりに対する意識に変化がみえ始めた例もある。
また、教育カリキュラムの弾力化にも対応し、地域に身近な地方建設局の職員が、小中学校での出前講座を担当する事例も多くなっている。少子化の日本を担う、創造的で好奇心、公共心に満ちた「明日のヒトづくり」にも、可能な限りお役に立ちたいと考えている。
〈岩手県東和町の例〉
岩手県東和町では、約20年前に決定された都市計画街路事業がなかなか進展せず、既存商店街は衰退の一途をたどっていた。しかし、このような状況を打開していくため、地元住民を中心とした委員会が結成され、現実的な推進を図りたいという気運が次第に盛り上がるようになってきた。
そこで、現状と事業の意義を再確認し、今後の活気あふれるまちづくりのきっかけにしたいと出前講座の依頼があり、平成11年10月、多数の地域住民の参加の下に「まちづくりのコミュニケーション」をテーマにした出前講座が開催された。
出前講座実施後は、町内で各種会議、会合が以前に比べ活発に開催されてきており、町役場と住民とのワークショップも設けられ、住民側の積極的な発言も目立つようになってきている。
出前講座に参加した、東和町の地元商店主の声
「建設省の出前講座開催後、地元住民、行政の双方に明らかに意識の変化がみられるようになりました。今まで発言することがほとんどなかった住民からも、「今までは役場からの情報を待つだけだったが、まちづくりは他人任せではできないので、地域住民の主体的な参加が不可欠。」といった声が多く聞こえるようになってきました。
「出前講座は国の知恵を利用して、まちづくり(本町の中心市街地活性化問題)を進める上で、私たちと町役場のコミュニケーションづくりを進める発想の転換になった」と考える住民もいるようです。
また、それまでは住民説明会といっても行政側から情報が一方向で伝わったままになることも多かったのですが、いろいろな角度から、住民への説明や意見交換を重視するようになったり、中堅職員が積極的に住民にアプローチして必要な情報を提供し、お互いに問題意識を掘り下げられるようになってきたことも大きな変化だと思います。」
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(2)ネットを通じた新たなコミュニケーション
近年のIT技術の進歩、インターネットの普及に合わせ、地域づくりの面でも、電子媒体を有効活用したコミュニケーション事例が増えてきている。国民のライフスタイルが多様化している現代では、直接コミュニケーションを図る場を設定し、多くの地域住民が一堂に会すことは難しくなってきているため、自宅にいながら都合のよい時間にアクセスのできるネットを媒介とした新たなコミュニケーション手法が注目されている。
東京や横浜のベッドタウンである神奈川県大和市では、夜間帰宅後の自由な時間にまちづくりに参加できるよう、インターネットのホームページ上で、都市計画に対する意見募集等を行った。また、市民がパソコンや電話、ファクシミリを用いて、いつでも行政にアクセスできる「どこでもコミュニティ」を展開中である。このシステムは、電話やファクシミリの情報をインターネットに掲載するなどのメディア変換技術を駆使しているため、パソコンを使いこなせない層でも、気軽にアクセスできるところに特徴がある。
東京都世田谷区では、地域の身近な情報や防災情報等を番組として随時提供する「インターネットチャンネル」を開設した。この番組内では、区民交響楽団の演奏を入れる等、地域コミュニティ団体の活躍の場を提供するとともに、将来は住民にシステムを開放し、住民参加のまちづくりツールとして活用していく予定である。
ネットを介したコミュニケーションという点では、ホームページ上で自由に意見を交換できる公開討論の場も増えてきている。霞ヶ浦トークフォーラムでは、霞ヶ浦の諸問題についてみんなで考えていくという趣旨から、様々な情報を提供しつつ、「多自然型護岸へのゴミの投棄を考える」「霞ヶ浦の水質改善」等のテーマで公開討論が行われた。
これらの動きは急速に全国に広まりつつある。
また、建設省でも、国民からの「道」に関する相談に対し、電話、ファクシミリ、インターネットいずれかの手段でワンストップ・サービスで対応する、「道の相談室」を平成10年度より開設しており、現在、全都道府県への展開を進めているところである。
「道の相談室」においては、建設省職員自らが国民の問い合わせや要望・苦情等に対応することにより、職員自身の国民へのサービス・マインドの醸成も図っている。
(3)建設省職員の自己変革(ミッションに従った発想と行動)
建設大臣官房政策課では、コミュニケーション型行政の考え方に沿った行動を課単位でいち早く実施するため、平成10年7月に政策課の「ミッション(役割と信条)」を組織全員で作成した。
ミッション策定に先立ち、政策課は省内の他の部局や地方建設局、都道府県等にどう見られているかというCS(Customer Satisfaction(顧客満足度))調査と、課員自身が政策課の仕事に満足しているかというES(Employee Satisfaction(従業員満足度))調査を行ったところ、CSは2割程度、ESは3割程度という結果が明らかになった。
政策課への満足度は内外ともに低いことが確認されたことにより、これを高めていくための課のミッションを組織全員で討議の上決定し、それに沿った行動計画も策定した。
○政策課のミッション
(役割)
(1)高いアンテナになること
(2)新しい分野に挑戦する基盤を準備すること
(3)異なる視点を持つ異端児であること
(4)建設省を語る言葉をつくること
(信条)
(1)国民の立場から施策の質を直視する
(2)意見の違いの中に価値を見出す
(3)組織内外とのコミュニケーションを大切にする
(4)プロ意識で行動し専門性を高める
(5)忙しさには業務の価値をおかない
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課員はこのミッションを意識し、常に国民の立場に立った発想、行動を心がけている。平成10、11年度は、国民の立場からの建設行政に対する率直な意見を吸い上げるため、出張時に地方公共団体の首長に率直な意見を伺う「ガバナーインタビュー」等を実施した。
この様に、職員の意識や行動の変革を原点としてスタートしたコミュニケーション型行政も、地域住民の理解と協力の下、社会資本整備について、共に考え、共に創っていく共創型の取組みへと繋がりつつある。
例えば、個別の事業においても、事業の計画・実施の過程で、関係する住民や国民一般に情報を公開した上で、広く意見を聴取し、それらに反映するPI(パブリック・インボルブメント)方式が、一般国道3号植木バイパス(熊本県)の整備、一般国道9号玉湯(島根県)改良等で導入され、共創型の活動として効果を上げている。




