(公共事業評価システム 〜さらなるアカウンタビリティの向上に向けて〜)

(1)これまでの建設省の取組み
 「公共事業はいったん始まると止まることはないのではないか」との公共事業に対する批判があるように、公共事業が本当に必要なところに必要なだけ実施されているのか、一般には分かりにくい点が多い。
 国民の豊かでゆとりある生活を実現する社会資本整備のための事業のうち、限りある財源を元に、どの事業が優先度が高く、どの事業を実施するべきなのかについて、納税者であり、かつ社会資本のエンドユーザーである国民にとって納得のいく形で知らされるべきである。
 建設省においては、国民の理解を得ながら社会資本整備を進めて行くために、1)公共事業の各実施段階を、国民に対してさらに説明性の高いものへと改善を図ること、2)幅広い情報を積極的に国民に提供し共有していくことが必要であり、これが建設省に課せられた「説明責任(アカウンタビリティ)」であると考えている。
 このため、公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るために、平成10年3月に「建設省所管公共事業の新規事業採択時評価実施要領」及び「建設省所管公共事業の再評価実施要領」を策定し、これに基づいて平成10年度(平成11年度予算)より新規事業の採択における費用対効果分析を含む評価と事業採択後一定期間が経過している事業等の再評価を実施し、その結果を公表している。
 費用対効果分析は、ある目的を達成するためのプロジェクトについて、プロジェクトから生じる効果をプロジェクトに要する費用と比較して、プロジェクト投資効果を分析するものであり、平成11年度新規採択事業から原則として全ての事業で実施し、結果を公表している。平成11年3月には、費用対効果分析の信頼性、透明性を一層向上させるため、費用対効果分析を実施するに当たって考慮すべき留意事項、共通化できる数値等についての統一的取扱いを定めた「社会資本整備に係る費用対効果分析に関する統一的運用指針」を策定しており、また、併せて公共事業関係省庁間において「費用対効果分析の共通的な運用方針(試行案)」を策定している。
 また、平成11年8月には、これらの実施要領が実施状況を踏まえて改定されたほか、事業の事後評価についても「建設省所管公共事業の事後評価基本方針(案)」に基づき試行的な実施を始めたところである。
 なお、事業評価においては、費用対効果分析における類似事業の評価方法の共通化等の評価手法の改善や、公表範囲の拡大など、適宜評価システムの充実を図っていくこととしている。

(2)事業の新規採択時評価
 事業の新規採択の際の評価手法は、「建設省所管公共事業の新規事業採択時評価実施要領」に基づいて、各事業ごとに特有の性質や事業を実施する上での課題となる問題について考慮したうえで、費用対効果分析、事業の必要性、効果、事業の熟度、関連する計画との整合性、地元の合意状況等を評価項目としており、これらを総合的に判断している。
 以下、平成12年度に新規採択された事業から、新規事業採択時の評価をどのような視点に注目して行っているのか、具体的に紹介する。

新規事業採択時評価の具体的事例
〈番匠川床上浸水対策特別緊急事業〉
事業の概要
 大分県佐伯市を流れる番匠川の支川である門前川と番匠川の合流する脇津留地区は、平成5年9月の台風13号による出水、平成9年9月の台風19号による出水をはじめ、近年幾度も、河川の水位が増して雨水が河川に流れ込めないという内水被害を受けている地域である。このための対策として、既設の脇排水機場の排水能力を増大させるための事業を実施することで内水被害の軽減を図ることとした。
評価結果
○費用便益比 2.9 (総費用 28億円 総便益 80億円)
○災害発生時の影響は、想定氾濫区域内において、浸水戸数668戸である。
○過去10ヶ年の災害実績をみるに、浸水回数は7回、最大浸水戸数は65戸、交通遮断時間は6時間である。

〈厚木秦野道路(国道246号)〉
事業の概要
 厚木秦野道路は神奈川県央域の連携を強化するとともに、東名高速、第二東名、さがみ縦貫道路(圏央道)と一体となって、広域交流を促進する延長約30kmの地域高規格道路である。事業を実施する区間は、厚木秦野道路の一部を構成する道路であり、厚木市内を通過する延長3.6kmの区間である。
評価結果
○費用便益比 2.8 (総費用 237億円 総便益 662億円)
○評価指標のチェック項目例
・特定重要港である横浜港へのアクセスが改善し、物流の効率化が図られる。
・現道の対象区間に主要渋滞ポイントである交差点が存在するため、事業の実施によって交通の円滑化が図られる。
・現道対象区間が、緊急輸送道路ネットワークに位置付けられている。

〈新川東部流域下水道事業〉
事業の概要
 愛知県豊山町、師勝町及び西春町の地域は、名古屋市の北に位置する名古屋市のベッドタウンとして市街化が進んでいる地域である。しかし、汚水対策の公共施設整備等の環境対策の遅れが問題となっているほか、3町を流れる一級河川新川と、新川の注ぐ伊勢湾の水質保全を図るためにも、下水道による汚水処理が喫緊の課題となっている。このため、本事業においては、3町における下水道整備を県が3町と連携して実施するものである。
評価結果
○費用便益比 1.99 総費用 1,015億円 総便益 2,020億円
○流域下水道で事業を行った場合の総コスト(1,015億円)は、3町が個別に公共下水道で行った場合の総コスト(1,226億円)の約8割であり、流域下水道事業は経済性に優れる。
○当該事業を実施しない場合、伊勢湾、名古屋港、新川等は水質汚濁に係る環境基準が現在未達成又は今後環境基準を達成できなくなるおそれのある箇所があり、水質保全上重要な事業である。