(IT(情報技術)の活用による国際競争力の確保)
現在国際競争に欠かせないインフラとして世界的に注目を集めているものがIT(情報技術)である。IT産業自体の市場規模の拡大やそれによる他産業への波及効果といった直接的に経済に与える影響だけでなく、ITの活用によって企業経営が効率化され生産性を向上させるという効果を生み出すことが期待されている。実際、「ニュー・エコノミー」とも呼ばれる最近の米国経済の長期拡大はこのITが牽引したと見られており、2000年大統領経済報告によれば、1995年から1998年において、コンピュータや情報通信産業の国内総生産(GDP)成長率への寄与率は2〜3割にも達しており(図表2-1-16)、また、この間企業の生産性も上昇している。また、次に紹介する例をはじめとしてアジア諸国においてもITに焦点を当てた国家的プロジェクトが推進されているところであり、我が国が国際競争力を確保するためにはこの分野で遅れをとることは許されないと言えよう。
なお、我が国の取組みについては、「第2 国土建設施策の動向」の「
II 高度情報化の推進」を参照されたい。
〈シンガポール・ワン計画(シンガポール)〉
シンガポールでは早くから世界の情報通信ハブ化を目指した取組みを行っているが、1996年から、情報通信基盤整備や情報通信関連企業に対する税制優遇措置等の施策を「シンガポール・ワン計画」として包括的に推進している。
〈マルチメディア・スーパー・コリドー計画(マレイシア)〉
マレイシアでは、世界最先端の情報技術産業都市をつくるという「マルチメディア・スーパー・コリドー計画」を1995年に発表し、クアラルンプール市内に高度情報化に対応した施設等の建設とともに、外国のマルチメディア企業の誘致を推進している。
それでは、インターネットに代表されるITの進展は我々の社会経済にどのような影響を及ぼすのであろうか。新たな産業革命とも言われるITの進展・普及は経済構造や経済活動から個人の生活様式まで様々な局面に影響を与えることが考えられ(図表2-1-17)、今後労働力の減少が見込まれる我が国にとって不可欠な生産性向上の鍵を握るものとして、ここでは「国際競争力の確保」の観点からITの進展の影響を概観したい。
まず、先のアメリカの例のようにIT関連産業そのものの発展が我が国の経済成長を牽引する可能性がある。特に、IT関連のベンチャー企業といった新規分野の起業の増加は、ソフトウェア分野等の今後成長が見込まれる都市型産業の興隆を通じて、雇用や投資をはじめ、我が国経済に活力を与える。
次に、企業の経営のあり方を変えていく可能性が高い。市場が世界全体となった現在、企業が競争力を有するためには、顧客の一層の確保や徹底的なコスト管理が求められるからである。現在でも、インターネットによる販売や安価で良質な資材調達手段の採用、ITを活用した業務の効率化などによる競争力向上への取組みが、サービス業や製造業等で進んでいるが、今後は建設業や不動産業でも活発となろう。
前述した国際交流人口の拡大についても、ITが大きな役割を果たすようになっている。インターネットにより海外へ現在の情報をビジュアルに提供することが可能となっており、観光の分野を中心として積極的にその利用が拡大しつつある。
また、ITの進展は、仕事の内容によっては在宅勤務・SOHOを促進させ、今後のまちづくりに対して大きな影響を与え得ると考えられる。ITを活用しサテライトオフィスや自宅で遠隔勤務するテレワークは女性の就業意欲を高めるという調査結果もあり(図表2-1-18)、女性の労働力化に資すると考えられるほか、現役時代の「経験知」は豊富であるが長距離通勤等には負担の大きい高齢者を労働力として活用でき、「知恵」の分野における労働力の確保が図られる。また、テレワークの進展により大都市の通勤混雑が緩和されるなど、都市の効率性・快適性を高めることも期待でき、我が国の大都市の魅力の向上にもつながる。テレワークの進展による東京都23区内への通勤形態の変化を試算したところ、2025年には約53万人(東京都でいえば杉並区又は八王子市の人口、大阪府でいえば東大阪市の人口に匹敵。)が週1回以上テレワークを行うものとの結果が得られ、これらテレワーク従事者がサテライトオフィス勤務や自宅勤務を行うことにより、東京都の通勤混雑が緩和されるものと考えられる(図表2-1-19)。今後、このように職住一体又は近接の生活様式が普及することになれば、居住者を引きつける生活環境が整っていることが重要となるため、地域の活性化の観点からも、生活環境に配慮したまちづくりを行っていくことが求められる。
最後に、社会資本に対する影響について考えてみたい。光ファイバーの敷設による道路、河川、下水道などの高度な管理や、地理情報システム(GIS)の活用による災害対応や環境管理など、ITの果たす役割は大きく、最近では神奈川県大和市のように都市計画マスタープランの策定過程においてインターネットを活用して住民の意見を募るなど、公共事業への住民参加の手段としても重要になっている(図表2-1-20)。特に、国際競争に対応した物流システムの構築等に資する道路の高機能化についてはITS(高度道路交通システム)として世界各国でその技術開発・整備が行われており、我が国でもETC(ノンストップ自動料金収受システム)をはじめ計画的に取り組まれているところである。このETCの技術に関しては、安全性や汎用性の高さ等から無線通信方式に関して国際電気通信連合(ITU)の国際標準を獲得しており、我が国のETC関連機器メーカーの競争力向上につながることが期待されている。このように、国際標準の確保が我が国産業の国際競争力に大きく影響する状況になっており、今後もITS技術の分野に限らず、積極的に国際標準を獲得していくことが望まれる。