(2)建設マネジメント技術について
イ 公共工事のコスト縮減
1) コスト縮減対策の概要
厳しい財政事情の下、限られた財源を有効に活用し効率的な公共事業の執行を通じて、社会資本整備を着実に進め、本格的な高齢化社会到来に備えるには、早急に有効な諸施策を実施し、公共工事コストの一層の縮減を推進していくことが必要である。
平成9年4月に、政府の「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」及びこれに基づく建設省の「公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」(以下、行動指針等という)が策定され、地方、民間の主体的取組みを含めて、各省庁が一致協力して総合的にこの課題に取り組んできた。
行動指針等における主要なポイントは、以下の通りである。
1)全省庁の参加を得た検討を通じて、規制緩和的施策を含む総合的施策を展開
2)計画・設計段階にさかのぼり、幅広い段階における施策を推進
3)所要の施策を3年間で実施し、その効果による公共工事のコストを、少なくとも10%以上縮減することを目指すという数値目標を設定
4)下請や労働者へのしわ寄せや品質低下等を生じさせず、様々な体質改善的施策の実施を通じてコスト縮減を図ることを明確化
2) 具体的な取組み
行動指針等における具体的取組みとしては、社会資本の整備に当たって、現状のサービス水準が適切か等の計画手法の見直し、公共工事担当省庁が所管する施設の技術基準に関する見直し、「設計VE(Value Engineering)」等のより幅広い視点から設計内容を検討するシステムの導入、技術提案を受け付ける入札・契約方式(VE方式)の導入を推進、各種規制緩和施策の推進等がある。
平成11年度は、行動指針に基づく3年間の取り組みの最終年度となっており、これらの施策を幅広く実施する。今後は、結果等を踏まえて、公共工事コスト縮減を推進する。
ロ 公共工事積算の改善
1) 新土木工事積算大系整備の推進
建設省では、公共土木工事の契約・積算に関して、透明性及び客観性の確保、国際化への対応など、契約上の改善を図るとともに、発注者・受注者双方の実務担当者の業務の簡素化・容易化を図ることを目的として「新土木工事積算大系」の整備を推進している。新土木工事積算大系は、調査設計から維持管理に至るまでの公共事業執行の各プロセスに密接に関連する契約・積算について、これに係る制度・体系及び関連する基準図書類、さらには積算システムなどを総合的に体系付け、入札・契約制度の改革を実務面で推進するものである。
平成11年度までに、工事目的物の明確化を図るため「工事工種の体系化」の段階的整備を推進するとともに、工事工種の体系化に沿った、対話型積算システム「新土木工事積算システム」の改良・開発を進めてきたところであり、工事工種の体系化については、建設省直轄工事で実施されるほとんどの分野で概成されたところである。平成12年度は、積算基準についても体系化に対応した編成内容に整備を進めるとともに、積算実績をデータベース化し一層効率的な積算を可能とするための検討を行っていくものである。
また、公共工事の積算を取り巻く様々な課題を踏まえ、学識経験者からなる「建設コスト評価委員会」を設け、公共工事のコスト縮減や、公共事業の説明責任(アカウンタビリティ)向上等の検討を行い、公共工事の積算の透明性、客観性及び妥当性の確保等について努めているところである。
一方、公共事業発注のより一層の透明性・客観性などを確保するため、各発注機関の積算基準についての情報交換・調整を図る場として、平成8年6月に「公共土木工事積算連絡調整会議」を設置した。平成11年度までに、建設省、農林水産省、運輸省等を含めた公共土木工事発注機関の積算基準の諸経費について基本的な整合を図ったところであり、今後も、公共土木工事の積算に関する事項について、当会議の中で関係機関の情報交換や必要な調整を行うこととしているところである。
2) 積算技術の充実
建設事業を適正かつ円滑に執行するとともに、建設業の健全な発展を図るためには、建設工事の技術革新及び建設事業を取り巻く社会情勢等建設市場の実状に対応した積算を行うことが必要である。
このため平成11年度は、標準歩掛の改訂において、1日当たりの標準的な数量を示すなどの積算の合理化、簡素化を進めるほか、市場での取引の実勢を的確かつ機動的に反映する「市場単価方式」の適用工種の拡大等、積算基準の合理化を推進するとともに、施工形態の変化等を連続的・総合的に把握するための「施工実態動向調査」(歩掛モニタリング)を全工種実施した。また、工事費の主要要素の一項目である建設機械等損料については、経済状況等建設機械を取り巻く環境の変化に対応するための改正を行った。平成12年度は、工事工種の体系に基づいた工事目的構造物ごとの歩掛とりまとめ及び生産性の向上、障害等の要因を抽出することを検討するなど、積算技術の充実を推進することとしている。
ハ 共通仕様書及び施工管理基準の改定等
各建設作業の順序、施工方法等工事を施工する上で必要な技術的要求、工事内容を説明した「土木工事共通仕様書」及び契約図書に定められた工事目的物の出来形の規格値等を定めた「土木工事施工管理基準及び規格値」については、工事契約に関する問題発生を未然に防止し、一層確実に発注者の要求する品質出来形を確保するために、「1)契約上の各者の権限の明確化」「2)契約条件の明確化」「3)事務処理手続きの明確化」を目的に改定を重ねており、平成12年度版においては、「契約条件のさらなる明確化」を主な目的とし改定を行った。
また、施工管理する上で撮影する工事写真について、電子媒体で提出する際の規定として写真の画素数、ファイル形式等を定めていたが、この内容に加え、工事写真の属性情報、フォルダ構成、ファイル仕様等の標準仕様をとりまとめた「デジタル写真管理情報基準(案)」を策定した。本基準(案)の策定により、電子媒体に記録された工事写真について、発注者と受注者が同じ仕様のソフトウェアを使用することが可能となり、受発注者相互で工事写真の属性情報を含めたデータの共有が可能になるとともに現場での事務の合理化が期待される。
一方、多量の公共事業を限られた人員で実施するため、設計の標準化、自動化も進めているところであり、土木構造物の標準設計については、昭和40年に側溝類の標準図集を作成して以来、現在までに側溝類、暗きょ類、擁壁、樋門樋管、立体横断施設(横断歩道橋、横断地下道)、橋梁下部工並びに橋梁上部工について全27巻の標準図集を作成している。
「公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」を受け、資材量ミニマムから工事コストのトータルミニマムの思想に基づく標準設計の見直しや設計作業の効率化に資するシステム整備を進めてきている。
トータルミニマムの思想を取り入れた「土木構造物設計ガイドライン」を平成8年度に策定し、さらに、その具体的内容を定めた「土木構造物設計マニュアル(案)─土木構造物・橋梁編─」を作成し、平成11年11月1日以降に発注される設計業務に適用を始めたところである。
ニ 技術基準の国際化対応等
様々な技術基準に基づき住宅・社会資本は整備されているが、近年ISO等においては資材・機材等に関する規格(製品規格)にとどまらず、構造設計に関する規格(方法規格)及び生産プロセスに関する規格(システム規格)等、多様な国際標準の整備が進められている。
これらの国際標準については、世界貿易機関(WTO)における「政府調達協定」及び「貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)」に基づき、その遵守が求められているところであり、住宅・社会資本を整備していく上で、その影響は無視できなくなっている。
このような広範な国際標準の制定に関しては、国際標準の先進技術等については「1) 国際標準に国内基準類を整合化、若しくは導入」し、一方日本の優れた技術等については「2) 我が国の技術的蓄積を国際標準に反映」する活動が必要である。このような背景のもとに平成9年度に土木学会において「ISO対応特別委員会」が設置され、建設省もこの組織と連携を図りながら技術基準の国際化への対応を行っている。
また、日本国内における土木建築にかかる技術基準は、学術的知見等に基づき歴史的経緯も踏まえ、それぞれ独立して定められており、必ずしも整合化したものとなっていない。このことが、土木、建築及び構造物全般にわたる共通的な考え方を基礎として議論がなされる国際標準策定の場では、我が国の立場を不利にする可能性がある。そこで、土木・建築分野の諸基準の基本的考え方の整合を図るため、行政的判断・意志決定を行う行政委員会を平成10年11月に設置するとともに、学術的・専門的検討を行う学識者専門委員会を平成11年1月に設置したところである。
両委員会の検討を通して、土木、建築及び各分野(鋼構造、コンクリート構造、地盤、地震)間で「考え方の基本」を整合し、今後基準の整合化を図っていくとともに、建設省の技術基準作成に反映していくものである。
ホ 建設工事における安全対策
我が国の建設工事における建設労働災害は、平成8年までは死亡者数が1千人を超える状況にあり、平成10年には平成8年の約7割となるまで減少しているが、全産業に占める割合は約4割と高く、なお一層の対策の推進が望まれている。また、直轄工事においても、依然重大事故が発生している状況にある。
建設省では、平成4年7月に「公共工事の発注における工事安全対策要網」を策定し、その後、「事故データベース」の構築、「土木工事安全施工技術指針」の策定、「安全教育」に関する検討等を実施してきた。
このうち、「土木工事安全施工技術指針」については、平成9年3月に蒲原沢土石流災害を受けて、土石流に対する対策を示した章を追加するなどの一部改正を行った。また、「事故データベース」に関して、蓄積された全国の事故データ等を基に事故の再発防止に向け、安全に関わる技術的分析を通して、請負者の安全管理推進の支援、必要な環境整備等を検討するために平成12年2月に「建設工事事故対策検討委員会」を設置した。なお、本委員会の検討結果は、再発防止の観点から広く広報するとともに、特に現場の安全担当者に周知されるよう努めることとしている。
一方、建設工事に係る死亡事故原因の約2割を占める建設機械に着目して、技術上の留意事項をとりまとめた「建設機械施工安全技術指針」を平成6年に策定するなど、施工現場における工事安全の充実を図っているところである。
また、建設機械の操縦レバーの配置、操作方式等は、これまでメーカーごとに様々であり、建設機械の保有形態が自社保有からリースレンタルへ移行している状況では、操作方式の不統一は、施工性及び安全性に問題を引き起こしていた。このため、操作方式を統一し、使いやすく安全で快適な建設機械の普及を図るため、「標準操作方式」を定め、これに合致した建設機械を推奨している。
へ 社会資本の耐久性維持・向上
コンクリートの構造物は、住宅・社会資本を形成する主要な構成要素であるが、コンクリート構造物について、信頼性を損ねかねない事例が発生しており、従前以上に適切な建設・維持・管理を行っていく必要がある。また、一方でコンクリート標準示方書の性能規定化が進められるなど、コンクリートの品質向上に関わる新しい取組みがされている。
このような状況を踏まえ、コンクリートの信頼性を確保し、より良い住宅・社会資本を提供することを目的として、特に、コンクリートの耐久性を維持し、向上する観点からコンクリートの製造から施工までの建設プロセス及び維持管理の今後のあり方についての検討を行うため、平成12年8月に建設省、運輸省、農林水産省による委員会を設置し、平成12年度末に提言を行ったところである。
ト 建設事業の通年施工化技術の研究等
積雪寒冷地の冬期間においては、厳しい自然条件などにより、建設生産活動が低下し、それに伴い、地域社会全般にわたる経済活動の停滞や出稼ぎによる家庭環境への影響等、種々の社会問題を生じており、その対策が強く望まれている。
このため、建設省では、これらの諸問題に対処し、均衡ある国土の発展を推進するために必要な、建設工事の冬期施工技術の研究開発並びに経済等諸制度上の有効な対応策や体制の整備に関する調査・研究等を進めることを目的として、昭和51年に「通年施工化技術研究協議会」を発足させ、諸活動を展開している。
これまで、関係諸外国の実態等も勘案し、国情にあった方策を確立するため、「スーパー仮囲い」「雪寒仮囲い」「冬期コンクリート品質確保」「冬期アスファルト舗装」「コンクリート工場製品の活用」などのモデル工事を実施し、これらの技術基準、歩掛等の整備を図ってきたところであり、これまでに開発した技術の普及を進めるとともに、作業環境改善、生産性向上、コスト縮減等の新たな視点から通年施工化技術の検討を進めているところである。
チ 機械施工の高度化
建設工事の機械化は、これまで人力作業では不可能な作業を可能とし、工費の縮減、工期の短縮、品質の向上と均一化、過酷な直接労働からの解放など、建設生産の進歩に重要な役割を果たしてきた。21世紀の本格的な高齢化社会の到来を目前に控えて、社会資本整備をより効率的に推進するため、生産技術の高度化を図り、環境との調和、安全性の向上などについても考慮しつつ、建設生産の革新による生産効率の向上を推進する必要がある。このため、新機種、新工法の調査、開発、導入、機械の改良を進め、機械施工の高度化に努める一方、環境に配慮し、ユーザーニーズを反映した安全で使いやすい機械の開発、普及を推進する諸施策を展開している。
1) 建設機械の開発及び整備
建設事業の効率化を図るため、建設機械及び施工技術に関する各種の技術開発に取り組んでいる。平成11年度は、維持管理の効率化・省人化・安全性の向上を目的とした建設機械及び施工技術開発に関する課題、災害対策の効率化を目的とした建設機械及び施工技術開発に関する課題、除雪作業の効率化を目的とした建設機械開発に関する課題の合計11課題に取り組む。平成12年度は、引き続き維持管理、災害対策、除雪作業の効率化を図るための技術開発に取り組む他、河川・道路から発生する植物廃材の作業現場内におけるリサイクル活用、環境負荷の少ない処理等に関する技術開発を行うことにより、一般廃棄物として処理される植物廃材の低減を図ることを目的に、刈草リサイクル手法に関する調査等新規課題4課題を含む合計11課題に取り組む。
これらの技術開発成果を反映した河川・道路の建設・維持管理用機械、除雪機械及び災害対策用機械の増強・更新を実施しており、平成11年度末現在直轄で約5,500台、除雪機械を対象とした補助では約9,000台の保有体制を整備している。特に災害対策については平成10年度に引き続き、内水が頻発する未対策地区における緊急対策として、内水が頻発する未対策地区における緊急対策として、従来よりも小型・軽量で機動性を向上させたものや大容量化を図った排水ポンプ車及び排水ポンプ車の夜間作業をバックアップする照明車を本格的に全国各所に緊急増強した。また、近年の鉄道トンネル内のコンクリート剥離事故等から従来以上の詳細なトンネル点検作業へのニーズが高まっている現状を踏まえ、新規に作業性に優れたトンネル点検車を全国に緊急導入した。
また、都市部における大気環境の改善、地球温暖化防止に資することを目的として「国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組みの率先実行の行動計画」(平成7年6月13日)が閣議決定され、政府としても低公害車の率先的・計画的な導入に努めることとされている。このことを踏まえ、近年都市部においてエコステーション(低公害車用の燃料やエネルギーの供給施設)等のインフラ整備が進展していることを受けて、平成12年度においては、道路維持管理用車両に低公害車であるCNG(Compressed Natural Gas:圧縮天然ガス)車を関東・近畿・中部の三大都市圏に率先して本格導入する。
2) 環境対策の推進
イ)排出ガス対策
建設機械の排出ガス対策として、平成3年度に建設機械の排出ガス基準値を定め、この基準値を満足した「排出ガス対策型建設機械」の普及促進に努めている。そして、さらなる排出ガス低減を進め、2010年に建設機械の窒素酸化物排出総量を現状より3割削減することを目標として排出ガス第2次基準値(案)を策定した。
ロ)騒音対策、振動対策
建設工事における主な騒音・振動の発生源となっている建設機械の騒音・振動対策を推進するため、建設機械の騒音・振動基準値を策定しており、この基準値を満たした建設機械を「低騒音型・低振動型建設機械」として型式指定している。平成9年10月には、騒音基準値を騒音規制法と整合させ、測定方法を国際規格と合わせる等「低騒音型建設機械」の指定基準を全面改正した。これにより「低騒音型建設機械」を使用する建設作業は騒音規制法の特定建設作業から一部除外されることになっている。
3) 建設工事現場における高度情報化の推進
建設事業においては、建設技能者の就労・安全管理、建設機械の管理などについて、日々多くの情報が発生している。これらの情報の管理には多くの労力と時間を要しており、その省力化、迅速化は早急に行われなければならない。このため、建設現場の共通データキャリアにICカードを利用した建設ICカードを導入することにより、情報収集・活用の円滑化を推進し、情報管理の効率化による現場管理費の低減に努めている。
また、施工についても、他の産業で、近年、著しい進歩がみられる電子情報技術を活用した生産性の向上を参考にし、電子情報技術と建設生産との融合を図ることで、次世代の施工の中核となる情報化施工の促進に努めている。ここでいう情報化施工とは「建設事業の調査・設計・積算・施工・維持管理という実施プロセスの中から施工に注目し、各プロセスから得られる施工に関連する電子情報や各作業から受け渡される電子情報を活用し、建設機械と電子機器、計測機器の組み合わせによる連動制御、あるいはそれら機器の電子ネットワーク化による一元的な施工管理等、個別作業の横断的な連携、施工管理の情報化を行い、施工全体として生産性の向上を図る電子情報化技術に立脚した建設生産システム」であり、品質・安全性の向上や省力化が期待される。
リ 機械設備に係る技術の向上
河川やダム、道路トンネルなどの土木構造物が有効に機能するために、堰、水門、揚排水ポンプ設備、トンネル換気設備・非常用施設等の機械設備は不可欠で、重要な役割を果たしており、その設置台数は、約19,000台に上っている。これらの機械設備は、土木構造物のなかで長い年月にわたりその機能を十分に発揮する信頼性が必要である。さらに計画・設計段階より将来の運用、維持管理を考慮し、経済性に優れたものでなければならず、一層の高度化が求められている。このため、新素材、新技術の開発導入に加え、ライフサイクルコストなども考慮し、機械設備技術の向上に努めている。
平成11年度は、維持管理の効率化や信頼性確保を目的とした管理施設の遠隔監視操作制御技術や排水機場運用管理CALSの検討等、維持管理における情報通信技術の活用や建設コスト縮減を目的とした揚排水機場における高流速吸込水路及び高速・高流速ポンプの検討やポンプ駆動設備への新型ガスタービン(立型、L型)の導入等を行った。
また、建設省、農林水産省、運輸省他関係6公団による「公共工事機械設備技術等各省連絡協議会」において、機械設備工事の積算基準を平成12年2月に整合・統一した。
平成12年度は引き続き検討を行い、機械設備に係る技術の向上を推進する。
ヌ 公共工事の品質確保と向上について
1) 公共工事の品質確保等のための行動指針の策定
公共工事の入札・契約手続きは、平成6年度より一般競争入札方式を本格的に採用するなど、透明性・客観性・競争性の高い制度へと改革が行われた。平成8年1月からWTOの新たな「政府調達に関する協定」が発効し、建設市場の国際化によって、外国企業による公共工事への参入の時代を迎えた。また、公共工事の建設費縮減に対する国民の強い要請を受け、平成9年4月には「公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」を策定した。
こうした公共事業を取り巻く環境変化に伴い、コスト縮減と同時に公共工事の品質確保が極めて重要となったことから、平成8年9月、建設省内に「公共工事の品質確保等のための行動指針検討委員会」(委員長;技監)を設置し、発注官庁である建設省として行動指針を作成することとした。
本委員会では、発注者と民間の有する技術力の結集等について議論を重ね、発注者自身の役割を「発注者責任」として整理するとともに、個別施策等を取りまとめた「公共工事の品質確保等のための行動指針」(平成10年2月)を策定した。
2) 発注者責任研究懇談会の設置
国民の代理人である発注者自ら、「公正さを確保しつつ良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達し提供する」という国民から求められる発注者責任を果たすことが最も重要である。このような認識のもと、発注者責任の概念を原点に立ち返って整理し、公共事業の執行方式の改善策を検討するために、平成10年4月に、農林水産省、運輸省、建設省が共同して「発注者責任研究懇談会」(委員長:近藤次郎東京大学名誉教授)を設立し、以下の課題を中心に討議を行い、平成11年4月に「中間とりまとめ」を行った。
I 総論:発注者責任に関する課題
II 各論:入札・契約方式、企業評価と施工体制、発注者の体制等、地域産業育成・保護に関する課題
例えば、入札・契約方式については、価格だけの競争ではなく技術力を含めた総合的な価値による競争を促進するため、技術提案総合評価方式や、発注者と建設業者の間で価格や技術を交渉して契約を結ぶ交渉方式など、多様な手法を整備する必要性等を提言している。
建設省では、中間とりまとめで打ち出された課題解決の方向性を踏まえ、具体的な施策の立案に向け検討を進めていたところであり、平成12年1月に再開した当懇談会において、発注者責任を果たすために必要な新たな制度づくりに向けた具体的な施策のあり方について議論を行った。この結果を踏まえ、平成12年4月に「発注者責任を果たすための具体的施策のあり方(第一次とりまとめ)」を取りまとめた。
3) 設計・コンサルタント業務等入札契約問題検討委員会の設置
今後の公共施設整備に当たっては、従来にも増して多様化、高度化する国民のニーズを反映する必要があり、特に、公共施設整備プロセスの重要な部分を担当する設計・コンサルタント業務等の一層の充実が求められている。
建設省では、平成11年10月に「設計・コンサルタント業務等入札契約問題検討委員会」(委員長:中村英夫武蔵工業大学教授)を設置し、今後の社会的要請を踏まえた設計・コンサルタント業務等のあり方や役割分担の考え方を明確にした上で、入札契約プロセスにおける一層の競争性、透明性の確保を念頭に置きつつ、より技術的に質の高い業務成果を得るため、今後目指すべき設計・コンサルタント業務等の発注のあり方について基本的な考え方を整理するとともに、業務の種類や発注者の体制等に応じた適切な入札契約制度のあり方について検討を進めてきた。2度にわたりインターネットによる意見公募を行い、平成12年4月に「中間とりまとめ」を公表した。
建設省としては、中間とりまとめに示した改善策をもとに、可能なものから早急に実施を図るとともに、さらなる検討が必要なものについては、引き続き議論を進めていく予定にしている。
4) 民間の技術力を活用する入札・契約方式の導入
民間において技術開発の著しい分野や固有の技術を有する分野の工事については、民間の技術を一層広く活用することにより、機能や品質の確保とコスト縮減の両立を図ることが可能となってくる。
建設省では、設計から施工に至る各段階で、発注者の技術力に加えて、建設業者、設計者等の民間の技術力を一層広く活用するため、平成9年度よりVE(Value Engineering)方式を試行的に導入している。建設工事におけるVEは、実施する段階に応じて、以下の方式に分類できる。
設計VE :設計時にVE検討組織を設置し、代替案の提案、検討を行う方式。
入札時VE:工事の入札時に入札希望者の技術提案を受け付け、技術提案が発注者の事前審査で承認された場合、その技術提案をもとに入札することができる仕組み。
契約後VE:工事の契約後に受注者からの技術提案を受け付け、採用された場合、当該提案に従って設計図書を変更し、受注者には縮減額の一部を支払う方式。
平成10年度からは、上記に加えて、工期、安全性などの価格以外の要素を総合的に評価して落札者を決定する技術提案総合評価方式の導入に取り組んでおり、11年6月に公共工事としては初めてとなる工事の発注を行った。また、従来、総合評価方式の採用に当たっては、大蔵大臣との個別協議を必要としていたが、平成12年3月に適用範囲や評価方法等について包括協議を取りまとめたことにより、大蔵大臣との個別協議を実施しなくても総合評価方式を活用できる環境が整った。
本方式を活用することにより、技術力を有する建設業者を選定することができるため、建設業者の品質確保・向上や技術開発に対するインセンティブになると考えられる。平成12年度は、総合評価の方法や結果の公表等、手続きの透明性を確保しつつ採用の拡大に努め、ガイドラインの策定等により円滑な導入に必要な措置を講ずることとしている。
ル ISOマネジメントシステムの取組みについて
入札・契約制度の改革、WTOの新しい政府調達協定発効に伴う建設市場の国際化、建設費縮減の要請、地球環境問題への対応等、公共事業を取り巻く環境は大きく変化している。このような背景のもと、建設省では、品質マネジメントシステムに関する国際規格であるISO9000シリーズ、環境マネジメントシステム(EMS)の国際規格であるISO14001等、マネジメントシステムの公共事業への適用を検討している。
1) ISO9000シリーズによる品質マネジメント
ISO9000シリーズは、製品又はサービスを造り出すプロセスに関する規格であり、供給者が需要者の要求事項を満足する製品やサービスを継続的に供給するためのシステムを備えているかどうか、また、その実施状況が適切であるかをチェックするためのものである。
建設省では、平成8年度から約50件に及ぶISO9000シリーズ適用パイロット事業を実施し、公共工事に適用する場合の効果、課題等について検討してきた結果、公共工事へのISO9000シリーズの適用は、基本的に公共工事の品質保証水準を向上させる仕組みとして有効に機能する可能性が高いとの報告を得ている。また、平成11年度には、品質管理に係る受発注者間の役割分担のあり方等についても検討を実施した。
これらの検討を踏まえ、平成12年度からは公共工事の品質保証水準の一層の向上を目指す観点から、これまでのパイロット事業を一歩進め、一定の範囲の工事等においてISO9000シリーズの認証取得を試行的に競争参加資格として適用しながら、さらに適用の効果を検証するとともに、受発注者間の役割分担のあり方等についても検証する予定である。
2) ISO14001による環境マネジメント
ISO14001とは、組織の環境に与える影響項目を調査し、そのなかから論理性をもって重大環境影響項目(例えば廃棄物、CO2の排出)を抽出し、これらの改善策を目的・目標に定め、達成するための環境マネジメントシステムを構築し、継続的な改善を実施するシステムである。
環境マネジメントシステムは、企業が社会的責任を果たすため主体的に取り組むべき性質のものであり、公共事業の執行者である発注者自らも積極的に関与すべきであるとの観点から、建設省では、平成9年度より6つの直轄工事事務所においてISO14001モデル事業の実施に着手した。平成11年度においてはモデル事業を全地建の計12事務所に拡大し、ISO14001に沿ったEMSの構築を終えた3つの事務所においてモデル事業対象の工事を実施している。平成12年度においても引き続きモデル事業を展開するとともに、実態調査を行い、EMS導入の効果や課題を把握する予定である。
ヲ プロジェクトマネジメント(PM)について
大規模な公共工事においては、限られたコスト、人員で効果的かつ効率的に事業活動を行っていく必要があり、品質や環境のマネジメントシステムのみならず、コスト(費用)、スケジュール(工程)、リスク等の多くの要素を統合し、プロジェクトをトータルにマネジメントしていくシステム(プロジェクトマネジメント)を導入することが望まれる。
建設省では「プロジェクトマネジメント研究会」を設置し、プロジェクトマネジメント(PM)の公共事業への導入について検討している。平成11年度には、社会的背景や公共事業の現況、将来像等を踏まえ、我が国の公共事業へのPM手法導入に関するビジョン(PMビジョン)を策定した。また、平成16年度に公共事業へPM手法を導入することを目指し、PM手法導入の環境を整備するための具体的な検討スケジュールを定めたアクションプログラムを作成した。
ワ 公共事業支援統合情報システム(建設CALS/EC)について
建設省は、平成7年度より「公共事業支援統合情報システム(建設CALS/EC)研究会」を設置し、公共事業支援統合情報システム(建設CALS/EC)構築に向けての検討を進めている。
CALSとは、Continuous Acquisition and Life-cycle Supportの頭文字を取ったもので、開発から資材調達、生産、流通、保守に至る製品等のライフサイクル全般にわたる各種情報を電子化し、ネットワークを通じて企業間で情報を交換・共有する環境と、これによってもたらされる仕事の流れの変化を表すものである。また、調達の電子化はEC(Electronic Commerce、電子商取引)として取り組まれていることから、建設分野では両方を含めて建設CALS/ECと表現している。
建設CALS/ECは、従来、伝票、図面、仕様書等の「紙」でやり取りしていた膨大な各種情報の標準化・電子化を図り、ネットワーク上で情報を共有することにより、1)業務の効率化、2)コスト縮減、3)品質の向上、等の効果があるとされている。
平成8年度には、建設CALS/ECの整備の方向性を示すものとして「建設CALS整備基本構想」を策定し、平成9年度には、建設省直轄事業において平成16年度までに建設CALS/ECを実現することとし、実際に整備すべき具体的内容を明らかにした「建設CALS/ECアクションプログラム」を策定した。また、平成8年度より、各地方建設局の工事事務所において、電子化の効果や課題を把握することを目的として、電子情報により業務を実施する、実証フィールド実験を行っており、平成11年度には、全工事事務所に実施を拡大している。平成12年度には、13年度からの実施を予定している成果品の電子納品、一部の工事等を対象にした電子入札に向けて、システム整備、基準類の整備を引き続き実施する予定である。