(3)都市が直面する課題と基本的方向
イ 既成市街地の再構築による都市構造の再編
都市政策に限らず、地方公共団体の施策はそのほとんどが人口の増加、産業の成長、所得の増大といったいわゆる右肩上がりの成長を前提として組み立てられているが、今後、そうした施策の多くが転換を余儀なくされるものと考えられる。
都市政策についても多くの都市で人口の減少局面に入る可能性があり、今後の都市づくりの共通的課題は、既成市街地の再構築とこれを通じた都市構造の再編に移っていると考えられる。
都市の中心市街地が空洞化し人口がその外周部に拡散していくことは、都市が本来備えるべき都市機能を効率的に集積することを困難にすると考えられ、徒歩圏あるいはこれに準ずるエリアに日常生活に必要な機能を集積したまちづくりが重要性を増すと考えられる。
また、今後の成長が見込まれる情報、通信、生活文化、医療福祉、ビジネス支援などの産業は、顧客や事業協力者との近接性や創造的な生活環境・都市環境を求めて立地する傾向もあることから、これらの新たな産業の活動の場としても、「住」機能、「職」機能、「遊」機能等の諸機能が融合した都市の整備が重要である。
また、都市計画マスタープランにおいて「住」や「遊」に関する様々な機能や、環境及び景観に関する事項を積極的に位置付け、都市の住民が快適かつゆとりある充実した生活を営むことができる都市のイメージを明確にしていくとともに、その具体化を図ることが必要である。
既成市街地の再構築を進めていくためには、民間投資が適切に行われることが重要であり、そのためには、必要なインフラ整備を計画的に行い、これと民間投資を結びつけていくことが肝要である。こうした観点から、既成市街地の再構築に向けた整備の基本的考え方と公共施設の整備スケジュールを明確にすることが必要である。
また、大都市の都心部においては、既に一部その傾向がみられる都心部への人口回帰を促進することが必要である。また、複合的な街づくりのため、既成市街地内において、各種の面的整備事業を進めるとともに、戦略的な整備が必要な地域について事業の立ち上げを支援することが重要である。
既成市街地の再構築をより効率的なものとするため、都市郊外部の開発は基本的に抑制する方向で臨むことが求められる。また、地方公共団体の財政上の制約が強まっているという観点からも、都市整備の財源は既成市街地の再構築に集中させることが望ましいと考えられる。
ロ 都市中心部の求心力の回復
近年、大都市、地方都市を問わず、都市の中心部では、都市の拡大の一方、モータリゼーションの進展への対応の遅れ、商業を取り巻く環境の変化、人口の減少と高齢化などを背景に、その活力がなくなり、地域の活力が失われてきている。都市の中心部は、いわゆる都市の歴史が凝縮した「街の顔」であり、既存の都市機能が集積した都市構造上重要な地域であって、既成市街地の再構築を進めていくに当たっては、中心市街地を既存のストックも活用しつつ再活性化し、その求心力を回復することが重要である。
このため、中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律を活用するなど、商業等の活性化のための事業との連携に配慮しつつ、市街地の整備改善等に資する事業を重点的に推進することが必要である。
その際、次の事項にも配慮することが重要である。
1)良質な住宅の供給による住機能の強化
2)住機能を支える良好な住空間、都市空間を形成するため、都市施設整備等の整備
3)公共的施設の既成市街地への誘導
4)地域の自然や歴史的文化を生かし、観光施策と連携した魅力づくり
5)住民のまちづくりへの積極的参加を促す仕組み作り
ハ 美しい景観を備えたまちづくり
都市景観は、伝統、文化に根ざし、都市の歴史の中で長期間にわたって形成されてきたものであり、良好な景観は、都市を魅力あるものとしている。したがって、良好な景観を形成するため、都市のアイデンティティを明確にした上で、次の施策を推進することが重要である。
1)電線類の地中化の推進
2)建築物の外観や屋外広告物についての適切な規制誘導等
3)都市内の緑地の適切な保全
4)公園、街路樹、植栽帯の整備
5)ビルの屋上や公共公益施設の緑化
6)良好な水辺環境の創出等
また、良好な景観形成のためには、地方公共団体、民間事業者、地域住民の間で、「景観」に対する共通の認識を共有することが不可欠であり、啓発活動を進めていくことも必要である。
ニ 都市間競争に耐え得る個性的な都市の育成
産業構造の転換、情報化の進展により、国境を越えた都市間競争の時代を迎え、都市のあり方が我が国の将来の盛衰を左右する時代となっている。
特に大都市においては、国際競争力を持った都市に再構築していくことが内政上も重要な課題であり、都府県を超えた広域的な都市づくりという観点も踏まえ、国として積極的に関与していく必要がある。
具体的には、まず、都市における様々な経済活動、ビジネス活動が円滑に行い得るような環境整備が必要であり、次の施策が重要である。
1)国際空港、港湾の整備と、これらへのアクセス整備
2)環状道路整備等による都市内通過交通の排除、物流の効率化
3)情報通信インフラ整備の推進
4)産学協同型の研究開発
また、これらの都市基盤とあわせ、良好な景観の形成や潤いのある都市環境の整備等により、魅力のある快適な都市空間の創造を図ることが重要となってきている。
さらに、諸外国の都市に比べて劣っているとされる住環境の整備を進めることも都市としての魅力を増す上で重要であり、次の施策を進める必要がある。
1)職住近接型の国際レベルの良質な住宅の供給と、緑あふれる快適な居住環境空間の提供
2)老朽化した木造賃貸住宅など劣悪な居住環境の更新
3)生活基盤施設や病院、各種福祉施設、文化施設等「住」に関連する様々な機能の向上
また、地方中枢都市においては、東京等に依存せずに国際交流を図る拠点として各種国際交流機能の充実を図る必要がある。その他地方中核都市においても、アジア各国との交流及び競争、環日本海圏交流などを十分に意識し、都市の整備を行うことが重要である。
地方都市においては、特に製造業への依存度の高い都市で工場の海外移転等により地域経済が大きな打撃を受けている。しかし、情報化の進展により企業の立地自由度は高まっており、新たな産業の立地により都市の活力を高めていくことが重要である。この場合、他の都市との競争という視点に立った地域の歴史的、文化的資源等を活用した個性ある街づくりを進め、都市の魅力を高めていくことが重要である。
ホ 都市内の低未利用地の有効活用
都市内においては、不良債権に係る不整形の低未利用地や産業構造の転換に伴い発生した工場跡地等の低未利用地、遊休地が発生している。
こうした低未利用地の発生は、これを活用した都市開発事業を具体化し都市の再構築を進めていくチャンスとなるものであるが、この場合、低未利用地の属性に応じて施策を講じていくことが必要である。
1) バブル崩壊に伴って発生した不良債権に係る低未利用地
バブル崩壊に伴って発生した不良債権に係る低未利用地については、既成市街地内の比較的ポテンシャルの高い地域にあることが多いが、地価の下落に伴い、時価が簿価を大幅に下回っていること、また、権利関係が輻輳した不整形の土地が多いことから、これらの権利関係の整序及び土地の集約、整形化が重要である。
こうした土地については、多くの場合、民間のみによる開発が困難であり、公的主体の関与、民間事業者による土地の集約化に対する支援が必要である。
2) 都市内において、企業のリストラ等により発生しつつある社宅、グラウンド等の企業保有地
都市内に社員の福利厚生用の社宅、グラウンド等を所有する企業について、昨今のリストラ等経営の転換を背景に、用地を処分する動きが出てきている。これらの用地は、相当以前に購入され含み益が期待できる場合が多く、企業自らが開発売却できることも多い。
こうした土地は基本的には良好な都市環境が形成されるよう配慮しながら適切な開発を誘導していくことが望ましい。企業のグラウンド等のうち災害時の広域避難地として指定されているものは、公的利用を優先することを検討すべきである。
3) 既成市街地内における相当規模の工場跡地
既成市街地内において発生しつつある大規模な工場跡地については、その遊休化がその地域の経済にも大きな影響を与えることが多く、関連企業への影響等を通じて、雇用問題等を引き起こすことも多い。一方、その周辺部の産業基盤施設としての道路等のインフラ整備が整っていることが多い。このため、これらの土地は、地域の経済の拠点として、新産業や研究開発型産業を誘致するポテンシャルがあるものと考えられ、敷地内における基盤整備を行いつつ、地元の地方公共団体が中心となって、住民、企業との連携を図り、将来の産業の拠点として整備を進めるため積極的な検討を行う必要がある。また、都市防災上オープンスペースとして確保すべきものについては、防災公園等への利用を優先することを検討すべきである。
4) 臨海部において、産業構造の転換に伴い発生しつつある大規模な工場跡地等遊休地
産業構造の転換に伴い、大都市の臨海部等で発生しつつある大規模な工場跡地等については、その多くが工業専用地域等の用途規制があること、交通アクセス条件の整っている地域が少ないこと、また、一の工場の敷地が遊休化したとしても、周辺の工場等が操業中である等他の用途への転換が容易ではない場合が多い。
この場合、段階的な土地利用転換を認める再開発地区計画制度を活用するとともに、土地の有効利用が可能となるよう基盤整備を進めることが重要である。また、開発リスクが大きいため用途の定まらない土地については、一定期間の間、商業施設等集客施設等を設置するなど暫定的な土地利用についても検討すべきである。
ヘ 高齢者にやさしいまちづくり(少子高齢化への対応)
急速な高齢化社会の進展に対応し、全ての人が安心かつ健康的に生き甲斐をもって生活ができるようなまちづくりを進めることが重要である。
このため、高齢者等が公的、私的を問わず、様々なサービスが容易に受けられるよう、自動車交通に頼らない「歩いて暮らせる」コンパクトなまちづくりを進めるとともに、高齢者等の活動のあらゆる場面でバリアフリー化を進めることが不可欠である。この際、様々な世代が交流しながら暮らせるよう配慮する必要がある。
このため次の施策の推進が重要である。
1)住宅のバリアフリー化及び福祉施策と連携した生活支援サービス付住宅の供給
2)福祉施設の適切な立地の推進
3)円滑な移動を確保する街のバリアフリー化の推進。特に鉄道駅とその周辺等については交通バリアフリー法(「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)、不特定多数の者が利用する公共的性格を有する建築物についてはハートビル法(「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」)の活用。
4)職住近接で子育てしやすい都心居住の促進及び子育て支援施設等の整備の推進
ト 都市の防災性の向上
我が国は、地震災害、水害といった自然災害が生じやすい国土であり、これまでも防災機能の向上のための多くの努力が払われてきたが、依然として、自然災害の脅威に対して、我が国の都市の防災性は不十分である。
都市の地震災害、水害に対する安全性を確保するためには、
1)オープンスペースの確保による避難地・防災活動の拠点となる防災公園、避難路・緊急輸送路の整備
2)老朽木造住宅棟の密集した市街地における面的整備等の推進
3)道路、河川等の公共施設の耐震性の向上
4)建築物の耐震改修の促進に関する法律に基づく不特定多数の者が利用する建築物の耐震改修の促進
5)河川水位より低位な市街地について、スーパー堤防、地下放水路等の整備、都市河川の改修、雨水を速やかに排除、又は貯留・浸透により流出を抑制するための下水道整備
を進めることが重要である。
チ 環境問題への対応
国民の環境問題に対する関心はいわゆる公害問題から、身近な緑の保全、さらには地球環境問題にいたるまで急速に広がっている。
都市整備の実施に当たっては、緑の保全・創出等の都市環境整備を図るとともに、より広い観点から環境問題の解決に資するよう取り組んでいくことが求められる。
1) 都市環境の改善
自然とのふれあいへの要求の高まりに対応し、ゆとりと潤いある都市生活を実現するため、身近な緑の保全・創出・活用、都市内水面の確保、下水道の整備等、総合的な対策を行うことが必要である。
2) 公害の防止等
都市内の道路交通に起因するSPM、NOx等による生活環境への影響を解決するため、自動車が集中することのないよう、道路の整備等を推進するとともに、必要に応じ関係機関と連携して交通需要マネジメント(TDM)施策や高度道路交通システム(ITS)ほか交通を誘導する施策を推進していく必要がある。また、渋滞による排気ガスの発生を抑えるため、街路整備や踏切等ボトルネック解消等を進めることも重要である。
さらに、下水道の整備及びその処理の高度化をさらに進め、河川の水質をさらに向上させるとともに、環境ホルモンなどの化学物質についても、下水処理過程における挙動の把握、技術開発の推進等も含め、適切な対応を行う必要がある。
3) 地球環境問題
自動車交通等の運輸部門におけるエネルギー効率の向上のため、コンパクトなまちづくりを進めるとともに、バイパス・環状道路の整備等により交通渋滞の緩和を推進する。また、路面電車・新交通システム等の整備、公共交通機関の利用促進、自転車利用に配慮した道路、自転車駐車場等の整備により、自動車交通の抑制を図ることが重要である。
また、住宅・建築物及び公共施設についても省エネルギー化を推進するとともに、下水処理水等未利用熱の活用、下水汚泥の消化ガス利用、ゴミ処理発電、地域冷暖房導入の推進、太陽光等自然エネルギーの活用等を進めることが重要である。
さらに、都市におけるヒートアイランド現象の軽減、CO2固定の促進等のため、緑地の保全及び緑化の推進、都市内の水面の確保、雨水の地下浸透を推進し、都市内の水(都市河川、都市下水路)と緑(公園や河川緑地)のネットワーク化を図るとともに、地球環境問題を含め環境問題への取組みについて都市計画マスタープランに明示し具体の都市計画への反映を図ることも重要である。
4) 廃棄物問題
廃棄物の処理施設については、必要十分な数、規模、能力の施設が確保されなければ、都市環境の保持に重大な支障をもたらすおそれがある。このため、各種リサイクル法に基づき、行政、事業者、住民が協力してリサイクルを推進することにより、ゴミの減量化を図るとともに、都市計画のマスタープラン及び都市計画にリサイクル施設、廃棄物処理施設、処分場を積極的に位置付け、その整備を図ることが必要である。また、下水汚泥についても減量化及び有効利用の一層の推進を図ることが重要である。
リ 情報化への対応
我が国の情報化は急速に進展しており、特に今後、企業間、企業と消費者間のインターネットを利用したいわゆる電子商取引が急速に広まっていくものと考えられ、我が国の産業に大きな変革をもたらし、立地に左右されない新たな産業形態も生みだされてくるものと考えられる。こうした変革を支えるためには、高速で大容量の情報を処理することが可能な光ファイバ網の整備が不可欠である。