(2)課題への対応
イ 都市再生推進懇談会
人口の大半が居住し、経済活動の大部分が営まれている都市のあり方は、我が国の経済活動、国民生活の質のあり方と密接に関係している。都市を再生し、21世紀にふさわしい都市構造を形成、再構築していくことは、我が国経済を新生し、夢と活力に満ちた次世紀をつくり上げていくためにも喫緊の課題である。
このため、都市再生の具体化を重点項目として盛り込んだ経済戦略会議の意見具申等を踏まえ、内閣総理大臣の指示に基づいた建設大臣の懇談会として「都市再生推進懇談会」を開催している。本懇談会は、今後の都市構造のあり方や都市再生の実現のための方策などについて、地方公共団体、経済界、有識者など、官民の意見を結集する場として開催するものであり、都市の状況に応じた議論を行うため、都市圏ごとに開催することとしている。平成12年2月には東京圏を対象とする懇談会の第1回会議が、引き続いて5月には第2回会議が開催された。また、京阪神地域を対象とする懇談会については、5月に第1回会議が開催された。
ロ 都市計画制度の見直し
1) 背景
現行都市計画法制定後30年を経過し、都市への人口集中の沈静化、モータリゼーションの進展など、都市をめぐる経済社会環境は大きく変化している。こうした状況を踏まえ、今日の安定・成熟した社会に対応し、地域が主体となって、地域ごとの課題に的確に対応し得る柔軟性と透明性を備えた制度となるよう、都市計画制度全般について大幅な見直しを行う「都市計画法及び建築基準法の一部を改正する法律」が平成12年5月に成立した。
2) 見直しの主な内容
イ)都市計画に関するマスタープランの充実
都市計画マスタープラン(従来の市街化区域及び市街化調整区域の整備、開発又は保全の方針)を拡充し、都市計画区域の整備、開発及び保全の方針として、すべての都市計画区域で策定することとする。
ロ)線引き制度及び開発許可制度の見直し
i)線引きするか否かを、原則として、都道府県が判断(都市計画マスタープランにおいて決定)できることとする。
ii)市街化調整区域について、農林漁業との調和を図りつつ、一定の要件を満たす区域を定め、住宅等の立地を可能にする(併せて、線引き時点で既に宅地であった土地における建築行為の特例を合理化する。)。
iii)開発行為の技術基準について、条例による強化又は緩和、最低敷地規模に関する規制の付加を可能にする。
iv)線引きしない都市計画区域(非線引き都市計画区域)内の用途地域が定められていない地域について、良好な環境の保持を図るため、「特定用途制限地域」を定め、騒音、振動、交通混雑等良好な環境確保に支障がある特定の用途の建築物等の建築を制限できることとする。また、用途地域が定められていない地域において、土地利用の状況に応じ建築物の容積率、建ぺい率等を選択できることとする。
ハ)既成市街地の再整備のための新たな制度の導入
i)土地の高度利用を図るべき商業地域内の一定の地区において、関係権利者の合意に基づき、他の敷地の未利用容積の活用を可能とする「特例容積率適用区域制度」を導入する。
ii)隣地側に壁面線の指定等がある建築物について、許可により建ぺい率制限を緩和することとする。
ニ)都市計画区域外における開発行為及び建築行為に対する規制の導入
i)相当数の住居等の建築が現に行われている等の地域について、農林漁業との調和を図りつつ、市町村が「準都市計画区域」を指定し、用途地域等の土地利用に関する都市計画を決定できることとする。
ii)都市施設を整備する立体的な範囲を都市計画に定め、建築制限の特例を設ける。
iii)都市計画区域外の一定規模以上の開発行為について、開発許可制度を適用することとする。
ハ 中心市街地活性化施策の推進
1) 背景
中心市街地は、商業、業務、居住等の都市機能が集積し、長い歴史の中で文化、伝統を育み、各種の機能を培ってきた「街の顔」ともいうべき地域である。しかしながら、近年のモータリゼーションの進展への対応の遅れ、商業を取り巻く環境変化等から、中心市街地が空洞化しており、その対策が重要な課題となっている。
2) 施策の内容
このため中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律(以下、「中心市街地法」)が平成10年7月施行された。
中心市街地法に基づく市町村の取組みを支援するため、市町村からの相談等に対する統一窓口を建設省、通産省、自治省が中心になって設置するとともに、市街地の整備改善及び商業等の活性化に関する具体の事業に対して、関係省庁連携による総合的・集中的な支援を行うための連絡協議会を設置するなど、国としての支援体制を整備している。
建設省としても、中心市街地における市街地の整備改善等を行うため所要の予算を確保し、
・街なか再生を促進する区画整理、再開発等の面整備
・道路、公園、駐車場等の都市基盤施設の整備
・定住人口の回復に資する住宅等の整備
を推進するとともに、平成12年度に創設されるまちづくり総合支援事業の活用などにより、市町村等による中心市街地活性化への取組みを、引き続き積極的に支援することとしている。
ニ 交通バリアフリー法の成立
高齢者、身体障害者等が公共交通機関を利用して移動する際の利便性や安全性を向上するため、鉄道駅等の旅客施設及び車両について公共交通事業者によるバリアフリー化を推進するとともに、鉄道駅等の旅客施設を中心とした一定の地区において、市町村が基本構想を作成し、旅客施設、駅前広場、周辺の道路等のバリアフリー化を重点的・一体的に推進する「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」が平成12年5月に成立した。
ホ 地域の創意工夫を活かしたまちづくり
1) まちづくり総合支援事業の創設
地域の創意工夫を活かした地域が主役のまちづくりを強力に推進するため、中心市街地の活性化等の課題に対して、地域と国が協力して積極的に問題の解決に取り組むこととし、まちづくりに必要な事業をパッケージで一括助成し、市町村の裁量を大幅に拡大する「まちづくり総合支援事業」を創設する。
2) 下水道・都市公園事業における統合補助金の創設
公共下水道(大規模な事業、水質保全等広域的影響を及ぼす事業、終末処理場又はポンプ場を除く)、都市公園(防災公園、大規模公園、国体等国家的事業関連公園を除く)について、具体の事業箇所・事業内容を市町村が主体的に定められるようにするため、公共下水道等統合補助事業、都市公園等統合補助事業を創設する。
3) 都市再開発関連公共施設整備促進事業の統合補助金化
市街地再開発事業等に関連して実施される公共施設の整備について、具体の事業箇所・事業内容を地方公共団体が主体的に定められるようにするため、都市再開発関連公共施設整備促進事業の統合補助金化を行う。
ヘ 土地の有効利用と都市の再構築
1) 都市再生推進事業の創設
大都市リノベーションをはじめとする第5次の全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」の戦略等を受け、国が積極的に責任と役割を果たしつつ地方公共団体や民間等多様な主体の参画を得て戦略的に都市の再生・再構築を進めるための枠組みが求められているため、平成12年度においては、従来の市街地整備に関する各種の補助事業制度を一部拡充の上再編し、都市の再生を推進するための事業制度として「都市再生推進事業」を創設する。
2) 都市基盤整備公団における土地有効利用の促進
大都市地域における居住環境の向上と都市機能の増進を図るため、地方公共団体、民間事業者など多様な事業主体との協力及び役割分担の下、必要な市街地の整備改善等を推進する。
3) 地域振興整備公団における地方都市圏の再構築事業への重点化
地域社会の経済、文化等の中心としてふさわしい地方都市の開発整備を行うため、必要な事業を推進する。また、地方都市開発整備事業については、平成12年度新規事業より、高次都市機能の集積促進、地域産業の受け皿づくり等を通じた地方都市圏の再構築を図る事業へと重点化する(地方都市圏再構築タイプの創設)。
ト 都市の防災機能の強化
1) 防災公園の整備促進
安全で安心できるまちづくりを推進するため、避難地、防災活動の拠点となる防災公園の整備を推進するとともに、既設の防災公園の機能の総点検を実施し、災害応急対策施設の整備による防災公園の機能アップ等を行う。
また、防災上危険性の高い大都市地域の既成市街地において、都市基盤整備公団が地方公共団体の要請を受け、市街地の整備改善と一体的に防災公園を緊急に整備する防災公園街区整備事業を引き続き推進する。
2) 都市の浸水対策の強化
地下街・ビルの地下施設等地下空間利用が発達している都市の中心部においては、豪雨等により、地下街等へ雨水が侵入し、甚大な被害が発生する恐れがある。そのため、地下空間利用が高度に発達しており、災害が発生する恐れのある地区において、局所貯留・排水施設の設置、排水ポンプ車の配置を行うとともに、下水道事業を集中的に実施し、浸水に対する安全度の向上を図る。
3) 既成市街地の防災性向上を図る都市再生区画整理事業(緊急防災空地整備事業)の推進
既成市街地の防災性向上を図るため、既成市街地における土地区画整理事業が予定されている地区において、将来的に公共施設に充当する用地を防災空地として緊急に整備し、安全な市街地の形成と土地区画整理事業の促進を図る。
チ 既成市街地の整備改善
1) 福祉空間の形成に資する再開発事業の推進
福祉空間の形成に資する再開発事業を推進するため、鉄道駅、バスターミナル等の交通結節点と一体的に又は隣接した立地で施行される社会福祉施設等を導入する市街地再開発事業について、住宅型プロジェクトに該当しなくとも建築主体工事費の一部を補助対象事業費に上乗せできる措置を適用する。
2) 商業系再開発事業への支援の充実
商業系再開発事業を推進するため、市街地再開発事業において大規模小売店舗立地法の指針で定められた必要駐車台数が標準駐車場条例の附置義務相当台数を上回る場合、当該必要台数分の駐車場整備にも助成する。
3) 既成市街地での都市再生区画整理事業の推進
少子高齢社会の進展に伴い喫緊の課題となっているバリアフリーに配慮した安全・安心な歩行空間の確保、老人福祉施設や保育施設等の立地の促進を図るため、既成市街地での土地区画整理事業において、地区計画等により歩道等と一体として利用できる公開空地を整備する場合に補助対象・補助限度額の拡充を図るとともに、地区内に公益施設が立地する場合に補助限度額を拡大する。
4) 住宅街区整備事業の拡充
工場用地の集約化・土地利用転換を通じた良好な中高層住宅街区の形成を図る事業を推進すべく、施設住宅区以外の土地で工場敷地となっていたものに係る除却・移転補償費等土地整備費を補助対象に追加する。
リ 都市基盤整備の着実な推進
1) 踏切道等総合対策事業の創設
都市活動を円滑・効率的にするため、連続立体交差事業等によるボトルネック踏切の除却等による地域づくりと併せて鉄道の高速化を支援する。同時に採択基準を見直し、踏切対策を緊急的・総合的に実施する。
2) 都市再生交通拠点整備事業の再編・拡充
自由通路、地下街、駐車場等の公共的空間を総合的に整備し、交通処理の円滑化、公共交通機関の利便性の向上、高齢者を含む歩行者の移動の快適性を向上させ、都市施設や土地利用再編による都市の再生を推進するため、駅等で自由通路、交通広場等を整備する都心交通改善事業を再編し、駐車場、駐車場有効利用システム、整備計画策定の一環として行う交通実験を補助対象に追加するとともにNPO、まちづくり協議会を計画策定補助事業者に追加する。
3) 国営飛鳥歴史公園の区域拡充
飛鳥地方における歴史的風土の保存及び活用を図るため、歴史的風土審議会答申等を踏まえ、国営飛鳥歴史公園において、キトラ古墳及びその周辺に約16haの新たな地区の設定を行う。
4) 公共下水道管渠の補助対象範囲の運用改善
同一規模市町村間における補助対象率の格差を是正するため、公共下水道の管渠の整備に際して、補助対象率が同一規模の市町村の平均的な補助対象率に比較して著しく差異がある市町村に係る補助対象範囲の弾力的な運用について、現状を踏まえた運用改善を進める。