(8)既存の住宅ストックの有効活用

イ 公営住宅ストックの現況と入居管理の適正化
1) 公営住宅ストックの数
 平成10年度末現在、地域別の管理戸数(約215万戸)は表2-VI-9のとおりであり、公営住宅に対する需要の大きい三大都市圏は全体の約46%に当たる約100万戸となっている。また、ストックの状況を構造別にみると中高層耐火構造の住宅が162万戸と全体の約75%を占めている。公営住宅全体としては、中高層化が進む中で規模の拡大や質の向上が図られている。
2) 応募状況
 公営住宅の応募状況については、大都市地域における応募倍率は依然として高水準であり、三大都市圏の公営住宅で平均約6.5倍となっている。
3) 入居管理の適正化
 公営住宅を住宅に困窮する低額所得者に的確に供給するためには、その整備を促進するとともに、既存公営住宅の適正な維持・管理とその有効活用を図る必要がある。このため、事業主体においては引き続き入居者の募集、選考等の入居関係事務の厳正な執行、入居者の保管義務違反の是正等を図るとともに、国は、事業主体による公営住宅の適正な管理のために必要な指導をすることとしている。
ロ 公共賃貸住宅ストックの計画的改善
 急速な少子・高齢化の進展に的確に対応し、良質な公共賃貸住宅の供給を図るためには、建替え、改善等による設備等の更新を推進していく必要がある。
 このため、公営住宅については、平成12年度より、
 1)地方公共団体等による「公営住宅ストック総合活用計画(ストックの総合的な活用のための方針・方策(改善・建替等)を定めた計画)」等の策定の推進
 2)規模増や高齢者向け設備の設置等の様々な観点から個別的に補助を行う現行の既設公営住宅改善事業の制度体系を見直し、「公営住宅ストック総合活用計画」等に基づき計画的に改善を行う体系への再編、また、従来推進してきた建替事業に加え、躯体を残して内装等について全面的な改善を行うとともに共用部分のバリアフリー化等を行う「トータルリモデル事業」に係る助成制度の整備を行う「公営住宅ストック総合改善事業」の創設
により、公営住宅ストックの総合的な活用による効率的な供給を促進することとしている。また、低コストでコンパクトなエレベーターの技術開発を推進し、公営住宅ストックの約半数を占める中層の階段室型共同住宅へのエレベーター設置を推進することとしている(図2-VI-16)。
 改良住宅等のうち居住水準の低いものについては、既設改善事業を積極的に行なってきたところであるが、今後は特に計画的な改善事業を推進していく必要があるため、公営住宅と同様に、平成12年度において計画的・重点的に改善を行う「改良住宅ストック総合改善事業」を創設する。
 公団賃貸住宅においては、従来から、主に居住水準の向上を図るため、2戸を1戸にする改造や住戸内設備の改善を実施してきたが、新公団においては、昭和40年代に供給した住宅を中心として空家発生時にLDK化等の住宅性能等の向上を図る「リニューアル事業」や、床段差の解消等の性能向上と家賃の軽減を図る「高齢者向け優良賃貸住宅事業」を実施し、既存ストックの有効活用を行っている。また、建設後相当期間を経過したものについては、居住性能が近年の生活水準に対応しなくなっていることから、立地条件が良く住宅需要が高い地域に存するものなど、居住水準の向上や敷地の適正な利用を図る必要性が高いため、順次建替えを実施することとしており、昭和61年度から平成11年度末までに、162団地(79,124戸)につき事業着手したところである。
 公社賃貸住宅については、既存ストックの質的向上を図るため、平成11年度までに、38団地(3,287戸)において建替えを実施したところであり、引き続き既存ストックの建替え・改善を推進することとしている。
ハ マンション管理の適正化の促進
 分譲マンションは、昭和30年代から都市型居住形態として普及し始め着実に増加の一途をたどり、平成11年末のストックは約369万戸にも達し、約1,000万人が居住しているものと推計されている。
 今後さらにその数は増加することが見込まれるとともに、築後相当年数が経過したマンションや適時適切な修繕がなされないこと等による老朽マンションが増えることが見込まれている。
 一つの建物を区分して所有するという分譲マンションは、共同居住の住まい方についての意識の希薄さ、多様な価値観を持った区分所有者間の意思決定の難しさ、建物構造上の技術的判断の困難さ、建物を区分して共同所有するというマンションの特性に起因した権利・利用関係の面での複雑さ、さらには賃貸化・事務所化したマンションや等価交換方式のマンションでは一層その複雑さが増していることなど、建物を維持管理していく上で、非常に多くの課題を有している。また、これらの課題の中には、区分所有法等の現行法規だけでは解決できないような高度な課題もある。
 そこで、平成12年度において、我が国の都市型居住形態として急速に普及してきたマンションについて、国民がマンションを生活の場として安心して購入し、継続して暮らすことができるよう生活者の視点に立ち、マンション管理に関する相談・支援体制の強化、マンション修繕積立金を住宅金融公庫で受け入れる制度の創設、マンション管理業者の適正化・育成など総合的なマンション対策を実施する。
ニ 賃貸住宅市場の活性化
 民間賃貸住宅は、平成10年の住宅・土地統計調査によれば、約1,205万戸と、全住宅数の約4分の1を占めており、借主の居住の安定と貸主の経営の安定を図ることは、住宅政策上重要な課題の一つとなっている。
 平成11年12月9日、自由民主党、自由党及び公明党の三党議員提出の「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法案」が民主党を含む四党の修正を経て成立、同月15日公布され、定期借家制度の創設を盛り込んだ借地借家法の改正部分のみ周知期間をおき平成12年3月1日から施行されたところである。
 従来型の借家契約が、正当事由が存在しない限り家主からの更新拒絶ができず、自動的に契約が更新されるのに対し、定期借家契約は、契約で定めた期間の満了により、更新がなく借家契約が終了するものである。平成12年3月1日以降は、従来型の借家契約と定期借家契約が併存し、当事者の意思によりいずれを選択することも可能であるが、法施行前にされた住宅の賃貸借契約については、定期借家契約への切替えはできないこととされている。
 この定期借家制度の円滑な普及を図るため、「定期賃貸借標準契約書」を策定するとともに、相談体制の充実を図っている。さらに、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の策定等を通じて、賃貸住宅居住のルールの明確化を図ることとしている。
 このほか、賃貸住宅経営・管理の適正化を図るため、賃貸住宅経営マニュアル、計画修繕マニュアル、契約・管理マニュアル等の作成を行ってきている。
ホ 中古住宅流通市場の活性化
1) 中古住宅流通のための環境整備
 成熟社会における住宅の確保の支援や環境問題への対応の観点から、中古住宅流通市場の活性化を通じて、良質な住宅ストックを適切な維持管理と円滑な循環により、社会全体として有効に活用していくことが重要である。
 このため、良質な住宅ストックの供給の促進と併せて、中古住宅の性能評価やリフォーム実施記録等を蓄積・活用する履歴情報活用システムの整備などを通じて、住宅所有者による適切な維持管理・リフォームを促進し、既存ストックの質の維持・向上を行うとともに、市場においては維持管理の状態に応じて、適正に評価されるような環境整備の方策につき検討を行うこととしている。
2) 中古住宅に係る住宅金融公庫融資
 住宅金融公庫においては、築後25年以内の中古マンション等に対し貸付けを行っている。また、そのなかでも、維持管理が良好な優良中古マンションに対しては、償還期間を30年に延長するなど融資条件の優遇を行っている。
 さらに平成12年度からは、維持管理が良好で、かつ、一定の規格に適合する新築並みの良質な中古マンションに対し、新築並みの融資額とするとともに償還期間を35年に延長することとした。
ヘ リフォ-ム市場の活性化
1) リフォームのための体制整備
 我が国の住宅ストックは、量的には一応の充足に達しているものの、質の面で改善を必要としているものも多く、また、国民のニーズの高度化・多様化に伴い、住宅の規模や設備のみならず、インテリア等の充実に対する要望も高まっている。
 このような住宅事情の変化と住宅ニーズの動向を踏まえ、既存住宅ストックの有効活用が大きな課題となっており、このためには、増改築、維持・修繕等の住宅リフォームの促進及び関連産業の育成を図ることが重要である。
 このため、(財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターの活用等により、リフォーム事業者等に関する情報提供サービス制度をはじめ、増改築相談員、マンションリフォームマネジャーといった人材の育成・普及、リフォーム関連相談会の開催、コンクール等による普及啓発を推進するとともに、平成11年11月に、リフォーム推進に向けた具体的な方策を検討する場として、業界団体、地方公共団体、学識経験者、消費者等で構成する「リフォーム推進協議会」を設置した。また、金融・税制上の措置の活用、都道府県等の行う住宅リフォーム促進施策に対する助成の実施等を推進することとしている。
2) リフォームに係る住宅金融公庫融資
 住宅金融公庫融資では、既存住宅ストックの有効活用による居住水準向上の一環として、住宅の増改築、維持修繕に対する住宅改良貸付を実施している。また、平成12年度には、中古住宅の購入と一定の良質な住宅(バリアフリー住宅、省エネ住宅)へのリフォームを併せて行う場合、中古住宅融資についてリフォーム後の状態で融資条件を決定するとともに、リフォーム融資に係る償還期間を中古住宅融資の償還期間まで延長する優遇制度を創設した。


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