(6)建設労働対策

 建設産業が、今後予想される高齢化・少子化による熟練労働者不足に適切に対応し、健全な発展を遂げていくためには、雇用労働条件の改善を図るとともに、優秀な人材の確保・育成を図ることが重要な課題である。このため、以下のような人材対策を推進しているところである。
イ 雇用労働条件改善のための施策
 平成9年4月から全ての事業場において週40時間労働制が適用されたが、建設省としても、週40時間労働制に対応した工期の設定や積算の実施、変形労働時間制等の周知徹底のためのキャンペーンを通じて、労働時間の短縮を実効性あるものとすべく官民一体となって取り組んでいる。
 また、建設業における現場労働者を対象とした建設業退職金共済制度について、毎年10月の「建設業退職金共済制度加入促進強化月間」等を通じて制度ヘの加入促進、履行確保の徹底を図ってきている。平成11年3月には、制度の仕組みをより客観性・透明性の高いものとするため、労働省及び勤労者退職金共済機構と共に改善方策を取りまとめ、当該改善方策に基づき、平成11年度より建設業界、公共工事発注機関等と協力して制度の改善を積極的に進めているところである。
ロ 人材確保・育成のための施策
1) 建設産業人材確保・育成推進協議会等の活動
 建設業界団体、関係行政機関等から構成される「建設産業人材確保・育成推進協議会(平成5年8月設置)」において、建設産業への入職促進、人材の育成・定着等を円滑に推進するための全国的なキャンペーンを実施するとともに、各都道府県において、工業高校生等の建設生産活動への理解を深めるための現場見学会や現場実習によるインターンシップ(就業体験)の推進(平成11年度実績:現場見学会10,222人、現場実習13,942人日)、工業高校等進路指導教師等との懇談会等を実施している。
2) 基幹技能者育成事業
 優秀な技能者の育成により、現場施工の生産性向上とこれを通じた雇用労働条件の改善を図るため、平成8年7月、現場施工、作業管理において中心的な役割を果たす「基幹技能者」の位置付けやその確保・育成・活用に関する基本指針が策定された。これを受けて、複数の専門工事業団体が基幹技能者の育成方策等を含んだ「技能開発計画」の策定に着手(平成12年3月末現在19団体が策定に着手し、13団体が策定済み。)するとともに、基幹技能者に係る民間資格の整備を進めている(平成12年3月末現在5職種)。
3) 優秀施工者建設大臣顕彰の実施
 建設工事の施工に直接従事している技能者の中から、特に優秀な技能、技術を持ち、後進の指導、育成等に多大な貢献をしている者を建設大臣が顕彰し、その誇りと意欲を増進させるとともに社会的評価の向上を図るため、優秀施工者建設大臣顕彰を平成4年度より実施しており、平成12年度までの顕彰者(建設マスター)は2,414人となっている。
4) 研修等の実施
 建設産業に従事する技能者の確保・育成を図るため、(財)建設産業教育センターにおいて、建設業者団体等のニーズを踏まえつつ、新入社員研修等技能者養成のための事業を実施している。
5) 業種横断的な教育訓練の実施
 建設産業界が中心となって開校した、建設技術者・技能者養成のための教育訓練施設としては全国最大規模の富士教育訓練センターでは、全国的・業種横断的教育訓練を行っているほか、従来の教育訓練機関にはない基幹技能者や多能工といった、建設産業界が今後、重点的に確保していかなければならない人材の教育訓練を先駆的、モデル的に行っている。
 本センターでは、平成11年度、132の教育訓練コースにおいて、5,741人日の教育訓練を実施したところである。
ハ 建設機械オペレータの技術力向上
1) 建設機械施工の現状
 現在、国内における主要建設機械の保有台数は約106万台に達しており、これら建設機械による施工により良質な社会資本整備を推進するには、現場における適正な施工技術を確保する必要がある。このため、建設機械施工技術者には、日進月歩である施工技術の知識を常に身につけていることが要求される。また、近年の環境に対する意識の高まりから、全国地方公共団体に寄せられた騒音・振動に関する苦情のうち、建設工事に起因した苦情は、騒音については4分の1、振動については2分の1を占めていることから、建設機械施工における環境保全への十分な配慮が必要となっている。
 一方、建設業における事故災害はたびたび社会問題となってきた。これまでの官民による取組みにより、死亡者数では昭和48年の年間2,440名から平成10年には725名へと減少しているものの、年千人率(在籍労働者1,000人当たりの年間災害による死亡者数)は全産業の2倍以上となっており、また死亡者数の約15%が建設機械に起因するものとなっている。
2) 建設機械施工技術検定
 これらの問題に対応するためには、建設機械施工技術者の技術力確保のため、資格制度等により、必要な知識と技術を習得し、仕事に対する自覚、意欲、責任感等を持った技術者を育成していくことが必要である。建設機械施工技術者に関する資格としては、建設業法に基づく建設機械施工技士がある。この資格は学科試験及び実地試験の合格者に対して授与されるものであり、昭和35年から平成11年までに1級及び2級合わせて約118,000人が取得しており、その育成、活用は建設業における死傷者がここ20年間に半減したことにも寄与していると考えられる。
 また、国内における建設機械のオペレータは約60万人と推定されるが、日進月歩の施工技術に対応した建設機械施工を的確に実施していくためには、管理、指導的役割を担う技術者を確保していくことが望ましく、2級建設機械施工技術研修を実施し、平成11年度までに約10,000名の研修修了者が輩出されている。
3) 外国人を対象とした建設機械施工研修評価試験制度
 我が国は世界でも最先端の建設機械施工技術を有しており、海外からの研修生も増加している。これら研修生は、「研修」の在留資格により建設機械施工に関する技術及び知識の習得をしているが、平成5年度より「技能実習制度」が創設され、研修成果、在留状況の良好な者は「特定活動」の在留資格で実習を行うことにより、より高度な技術を身に付けられるようになった。この研修成果の評価制度として、学科及び実技試験からなる建設機械施工研修評価試験制度が平成5年度に発足し、平成11年度までに353名の合格者が実習に移行している。
4) ハイグレード・オペレータの育成
 また、電子機器制御により施工中に品質管理を一体的に行う建設機械が台頭したことから、施工の効率化、合理化を図るため、このような建設機械を扱えるオペレータ(ハイグレード・オペレータ)の育成を図る。
ニ 公共事業労務費調査
 公共工事の予定価格の決定に当たっては、予算決算及び会計令において、取引の実例価格等を考慮して適正に定めることとされている。このため、建設省は、農林水産省、運輸省と共同で、所管の公共工事等に従事する建設労働者の賃金実態を調査する「公共事業労務費調査」を実施し、その結果をもとに「公共工事設計労務単価」を決定している。なお、透明性確保のため、公共工事設計労務単価及び調査対象工事件名等を公表している。