1.国土交通省の責務

 我が国は、世紀の節目と同時に社会経済の大きな変革期を迎えている。
 社会のあり方の基礎となる人口構造については、本格的な少子・高齢社会が到来しつつある。生産年齢人口の割合が減少する中で、いかに生き生きとした社会を実現するか、我が国の知恵が問われている。経済の面では、20世紀後半のような右肩上がりの成長が期待できる時代から、より安定的な成熟型の時代への移行期を迎えた。例えば、地価も例外ではない。本来その土地が有する収益力を拠り所とする、言わば、地に足がついた事業活動の展開が求められている。また、世界に目を転じると、地球温暖化への対応など、地球環境を大切にするという観点から、我々の行動様式を再構築することが強く要請されている。将来の人類のためにも、貴重な環境や資源の消費が厳しく監視される時代となった。
 このような転換期である新世紀の幕開けと時を同じくして、北海道開発庁、国土庁、運輸省、建設省の旧4省庁統合により、国土交通省が誕生した。この新しい組織に課せられた任務は、国土政策、社会資本整備、交通政策等を総合的に推進することである。すなわち、21世紀にふさわしい経済社会システムを確立していくために、かけがえのない国土をどのようにデザインすればよいのか、具体的なビジョンを描き、各種の基盤整備や交通政策などを総合的に融合・展開してそのビジョンを具体化していくことである。
 言い換えると、これら国土交通行政の推進により、新しい時代においても国民や企業が持つ潜在力を自由に発揮できるよう、活動の「場」、「空間」を整えていくこと、それが国土交通省が果たすべき役割である。
 それでは、この役割を果たすため、具体的にはどのような目標に向かって進んでいくべきであろうか。国土交通省では、統合にあたり、広く国民の意見を伺いながら、変革の時代に新組織が一体となって任務を遂行するための標となるべき国土交通行政の目標として、 次の5つの項目を設定した。
 1) 自立した個人の生き生きとした暮らしの実現
 2) 競争力のある経済社会の維持・発展
 3) 安全の確保
 4) 美しく良好な環境の保全と創造
 5) 多様性ある地域の形成
こうした組織全体の目標の設定など誕生の経緯や統合の主な成果については、第I部第1章で紹介する。
 続く第2章では、20世紀を振り返り、戦後の社会資本整備や交通政策の展開が、我が国の経済発展や国民生活の質の向上に大きく貢献してきたことを見る。一方で、新世紀に移行した現在、1)高度経済成長期のひずみなど20世紀から残された課題や、2)経済の活性化、地球規模で深刻化する環境問題、少子高齢社会の到来など近年顕在化してきた課題等、国土交通省が取り組むべき課題が山積していることを確認する。
 第II部ではこれらの課題を12項目に整理し、克服に向けての具体的な取組みを課題別に紹介する。省を挙げてこうした取組みに力を注ぎ、「5つの目標」を達成して国民の期待に応えることこそが、21世紀の国土交通省に課せられた責務に他ならない。


 

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