2.指摘についての考え方

(1)公共投資の規模等

1)財政の持続性との関係
 公債残高の急増、公債依存度の上昇など、我が国の財政の収支の状況は悪化しており、財政の持続可能性を懸念する声がある。「基本方針」では「我が国の財政は(中略)もはや持続可能な状態ではない」とされている。
 近年の財政収支の悪化をもたらした要因としては、(a)累次の経済対策や、社会保障関係費の増大による歳出の増加、(b)景気の低迷や減税の実施による税収の減少等が指摘できるであろう。これらの歳出・歳入の両面にわたる複合的な要因があいまって財政収支の悪化を招いているのであり、公共投資のみに財政赤字の原因を求めるのは適切ではない。

図表I-3-1 建設公債・特例公債の発行額推移
図表I-3-1 建設公債・特例公債の発行額推移



図表I-3-2 社会保障関係費と公共事業関係費の推移(補正後)
図表I-3-2 社会保障関係費と公共事業関係費の推移(補正後)



 いずれにせよ、こうした厳しい財政事情の中、歳出全般にわたる聖域なき見直しが必要となっており、公共投資についても同様である。地方財政についても、地方債現在高が増加する中、普通建設事業費、とりわけ単独事業の規模が大きく減少しているが、前述の公共事業に対する様々な指摘に応える意味からも、国・地方ともに、さらなる事業の重点化やコスト縮減等に努めていかなくてはならない。

図表I-3-3 地方公共団体の普通建設事業費の推移
図表I-3-3 地方公共団体の普通建設事業費の推移



2)公共投資の規模
 我が国の公共投資の規模については、「改革と展望」において示された方針を踏まえ見直しを行うこととしており、その際には、(i)公共事業の重点化や各種事業の融合・提携により、効率的な社会資本整備に努めるほか、(ii)民間の賃金・ノウハウの活用、既存ストックの有効利用などにより、限られた投資規模で最大限のニーズを満たすための工夫が不可欠である。
 他方、我が国の公共投資額が過大であるという論拠として、公的固定資本形成(IG)の対GDP比が使われることがある。我が国の公的固定資本形成の対GDP比率は5%台(一般政府ベース)であり、欧米より高いのは事実である。このことは、主に社会資本整備の歴史的発展段階の違いや地勢的・自然的な国土条件の違い等から説明できる。欧米に比べ社会資本整備の歴史が相対的に浅い我が国においては、社会資本整備が短期間に急速に進められてきた結果を反映したものである。また、平野部が少なく地震も多い等の国土利用上の厳しい条件に耐え得るため、社会資本の整備の必要性や整備費用が相対的に高くならざるを得ないことを反映している。

3)景気対策としての公共投資
 バブル崩壊後、90年代を通じて、公共投資は景気の下支え役として、大きな役割を果たしてきた。また、公共事業の担い手である建設業は、バブル崩壊後もその就業者数が平成9年まで一貫して増加を続け、雇用の受け皿として機能した。
 ここで留意すべきは、公共投資のこのような役割は、地域によって異なっていることである。近年、県民1人当たり公的固定資本形成額と県民1人当たり所得との負の相関が強まっており、所得の低い地域ほど公共事業への依存が高まっている。したがって、公共投資額が減る場合、建設業就業者の円滑な労働移動を促進する一方で、建設企業の新分野等への進出の支援による雇用確保・創出等を図ることが、地方圏において特に重要である。

図表I-3-4 政府建設投資額、建設業雇用者数の対前年増減値の推移
図表I-3-4 政府建設投資額、建設業雇用者数の対前年増減値の推移



図表I-3-5 政府建設投資1億円による就業誘発者数
図表I-3-5 政府建設投資1億円による就業誘発者数



 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む