第1節 産業の活性化

1.交通産業の動きとその活性化策

(1)鉄道事業の動向及びJRの完全民営化

1)鉄道事業の動向

(ア)事業者の取組み
 鉄道事業では様々な規制緩和が行われた後、平成12年3月には旅客輸送の需給調整廃止等を含む改正鉄道事業法が施行された。
 このような中、各事業者によるサービス改善への取組みが行われている。まず、運賃については、改正法において上限認可制の下での事前届出制がとられているが、これを活用して184事業者中54事業者が値下げを行っている(注1)。また、利便性向上のため携帯電話による予約サービス、民鉄共通の乗車カード(パスネット等)などが導入されてきた。さらに、視覚障害者誘導システムの試行や女性専用車両の導入等、障害者や女性に配慮した取組みも行われている。また、鉄道貨物輸送においても、荷主のニーズに対応するための情報システムの整備やトラックへの積み替えの効率化等の取組みが行われてきている。

(イ)輸送の動向
 12年度の旅客輸送は、全体として依然伸び悩んでいるものの、改善傾向が明確になっている。JRについては、12年3月にデビューした「ひかりレールスター」の好調等により新幹線が3年ぶりに増加したこともあって全体の輸送量がほぼ下げ止まった。また、民鉄についても、東京圏の新線開業等により定期外旅客が増加し、全体伸び率の下げ幅を縮小した。一方、JR、民鉄とも、景気の低迷による雇用調整や少子化による通学者の減少により定期旅客が減少している。このように定期外旅客が増加する一方定期旅客が減少し、全体として横ばいになる傾向は13年度においても続いている。

図表II-9-1 鉄道旅客輸送の動向
図表II-9-1 鉄道旅客輸送の動向



 鉄道貨物輸送は長期的に低迷しており、12年度もトンキロベースでは前年割れとなったものの、トンベースでは前年比増加に転じた。この要因としては中部国際空港建設に伴う土砂運搬により特に車扱が増加したことが大きいと考えられるが、事業者の取組みを反映してコンテナ輸送が増加したことも一因であると推測される。13年度に入ってからも、景気低迷により貨物輸送全体が低迷する中で鉄道貨物輸送はトンベースで比較的堅調に推移してきたが、13年8月以降は景気の悪化等により減少となった。

図表II-9-2 鉄道貨物の輸送動向
図表II-9-2 鉄道貨物の輸送動向



2)JRの完全民営化に向けた取組み
 昭和62年4月1日の国鉄の分割・民営化により誕生したJR各社については、累次の閣議決定により「できる限り早期に純民間会社とする」ことが求められていた。このうちJR東日本、JR東海及びJR西日本のJR本州三社については、発足以来、安定的に経常黒字を計上し、平成2年度より継続的に配当を行うなど、順調な経営を続けてきた。また、5年10月にはJR東日本が、8年10月にはJR西日本が、9年 10月にはJR東海が、それぞれ株式の上場を果たし、株価も堅調に推移するなど、純民間会社とするための条件が整ったといえる状況に至った。
 他方、JR各社については、一般の民営鉄道会社とは異なり、国鉄改革の中で誕生したという経緯がある。例えば、国鉄改革において、国鉄の長期債務の大半を日本国有鉄道清算事業団に承継させた上で、国鉄の鉄道のネットワークを極力維持しつつJR各社とも健全な経営が行えるよう事業用資産の承継等を行ったほか、運賃、線路使用料等においてJR各社間の協力・連携体制が採られた等の経緯がある。こうした国鉄改革の趣旨に則った事業運営は、これまでJR会社法(注2)の枠組みの中で行われてきたが、JR本州三社が純民間会社となった後も、国鉄改革が最終的に完了したと判断されるまでの間、引き続き行われる必要がある。
 このような背景を踏まえ、JR会社法の一部改正を行った。その内容は以下のとおりである。

(ア)JR本州三社を特殊会社として規制しているJR会社法の適用対象から除外する。これにより、JR本州三社の会社の財務、人事、事業計画等の面において一層自主的かつ責任のある経営体制を確立する。

(イ)国土交通大臣は、一定の事項についてJR本州三社が事業運営上配慮すべき指針を策定し、必要な場合に指導、助言等を行うことができることとする。この指針制度により、JR本州三社がJR会社法の適用対象から除外された後も、国鉄改革の趣旨に則った事業運営が行われるようにする。

 なお、現在日本鉄道建設公団が保有するJR本州三社の株式のうち未売却分については、株式市場の動向等を踏まえ、順次売却する予定である。

図表II-9-3 JR本州三社のJR会社法の適用対象からの除外
図表II-9-3 JR本州三社のJR会社法の適用対象からの除外



(注1) 平成13年8月現在。
(注2) 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律。

 

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