第I部 活き活きとした地域づくりと企業活動に向けた多彩な取組みと国土交通施策の展開 |
(5)地域の基幹産業を活かした事例
千葉県富浦町 〜枇杷倶楽部プロジェクト〜
富浦町は、房総半島の南端近くに位置し、農業・漁業と夏期の海水浴客でにぎわってきた人口約5,700人の町である。房州ビワを250年以上前から栽培し、代表的な産地となっている。
富浦町では、基幹産業である農漁業と観光が、産業の低迷、観光ニーズの多様化などによって、いずれも右肩下がりの状況となり、また、若者の流出や少子高齢化など過疎化が大きな課題となっていた。
このような状況の中、町長が強いリーダーシップを発揮して、役場内に町産業活性化プロジェクトチームが結成された。地域に点在する豊かな自然、農業・漁業の地場産業、房州うちわなどの伝統工芸、里見氏や日蓮等の由来が残る歴史などの資源を結び、面として活用していこうとするエコミュージアムの概念を取り入れた事業の実施が検討された結果、「枇杷倶楽部プロジェクト」が誕生し、その拠点となる「道の駅とみうら・枇杷倶楽部」が平成5年にオープンした。
拠点施設である「道の駅とみうら」、花摘み試験園である「花倶楽部」、イチゴ狩りが楽しめる「苺試験園」、温室と露地の「枇杷狩り試験園」が分散配置され、体験型の観光客を誘致するために品種改良や栽培方式までも見直す観光農業システムづくりに取り組んでいるほか、市場に出荷できない枇杷の規格外品を加工して、ジャムやソフトクリーム、ゼリーなどの独自商品の開発も行っている。この商品開発の成功で、これまで廃棄されていた出荷規格外の枇杷にも商品価値が生まれ、市場価格暴落時には加工用原料として買い支えることもできるようになった。なお、「花倶楽部」は平成15年に町内2つ目の道の駅に登録された。
<道の駅とみうら>
また、枇杷や花の栽培農家、民宿、飲食店などの小規模な観光事業者と連携し、南房総に点在する観光資源を一つに束ねて旅行業者に情報を発信し、集客の分配や代金精算などを一括して行う「一括受発注システム」と呼ぶ仕組みを構築し、観光バスツアーなどの団体客を誘致している。
さらに、文化事業として、子供達の豊かな心を創造するための「人形劇フェスティバル」の開催や、地域の誇り探しの探訪会「ウオッチング富浦」、地元知識人を講師に招いてお茶を飲みながら話を聞く「枇杷倶楽部茶論」などの取組みを行っている。
枇杷倶楽部プロジェクトは、施設全般の管理、文化事業等の公共性や地域波及効果の高い分野を町が、売店の営業や観光客の誘致等の営利事業を町全額出資の第三セクター「(株)とみうら」が担当しており、黒字運営を目指した効率的な事業運営に成功している。
これらの取組みの結果、年間4千台の観光バスツアーの誘致に成功し、道の駅とみうらの利用者は年間67万人にのぼり、(株)とみうらの経営も黒字経営を続け、町の人口の約1%に相当する雇用の創出や枇杷関連の商品開発による地元農業の生産の安定化など地域への波及効果も大きい。また、こうした事業活動を通じて、高度なノウハウを持つ人材を地域内に育てる結果となり、地域活力向上の原動力となっている。
さらに、町内の民間企業による物販・飲食施設の開業、道の駅での販売を目指した住民による商品開発など、地域づくりの取組みが広がっている。
<花摘み体験>
和歌山県龍神村 〜産業の6次化〜
龍神村は、林業を基幹産業とし、「龍神林業まつり」を開催するなど、林業の振興を図ってきた。しかし、林業が低迷している現況の中で村の活性化を図るため、「龍神林業まつり」を「翔龍祭」に改め、林業、農業、観光、商工業、福祉等を合体させたイベントとして実施した。こうした村の様々な産業が一体化した取組みを進めることで、住民の意識の変化が促され、農産物を特産品に加工し、観光の一端を担う住民グループが現れるなど、住民・民間による村づくりの動きにつながっている。
<翔龍祭>
広島県甲山町 〜6次産業による都市農村交流〜
甲山町は、中山間地域にあり、花、温泉、文化財等の地域資源を活かし、農林業や観光など1次・2次・3次産業が組み合わさった「第6次産業」による交流人口の拡大に取り組んでいる。町が整備し、住民主導の協議会が運営管理する総合交流ターミナルでの農産物直売所や加工施設の開設、都市部での店内販売、農業体験等のグリーンツーリズム、環境保全型農業の推進などに取り組んでおり、農産物の売上げも増加し、交流人口も拡大しており、地域住民の雇用にもつながっている。
<総合交流ターミナル「甲山いきいき村」>
徳島県牟岐町 〜観せる漁業としてのスキューバダイビング〜
牟岐町は、従来から漁業が盛んであったが、近年の漁獲量の低迷、水産物の価格下落、漁業従事者の高齢化等に対応し、地域特性を生かした観せる漁業への取組みとして、スキューバダイビング事業を実施している。運営には、地元漁業協同組合が参画し、海洋環境の保護やトラブル防止を図るとともに、漁協や地域住民に収益を還元し、雇用の促進、地場産業の拡大等にもつながっている。
<スキューバダイビング事業>
宮崎県綾町 〜自然生態系農業〜
綾町は、昭和63年に「自然生態系農業の推進に関する条例」を制定し、合成化学物質の利用を排除した農業を目指して町全体で取り組み、現在では400を超える農家が自然生態系農業を実践している。農産物は食の安全を求める消費者の信頼を獲得し、産地直送を中心に販売されている。また、学校給食など町内の公共的な施設で利用される食材のほとんどが町内の農産物で賄われ、地産地消の取組みともなっている。
<有機農産物の生産状況>
福岡県北九州市〜北九州エコタウン事業〜
北九州市は、関門海峡に臨み、九州の玄関口としての役割を担う人口約100万人の政令指定都市である。かつて繁栄した石炭産業や鉄鋼、化学を中心とした基礎素材型産業を基盤とした経済構造からの転換を進めている。
北九州市では、モノづくりのまちとしての人材や技術の蓄積、公害克服で培われた市民・企業・行政の連携を活かし、環境保全と産業振興を両立させる新たな地域施策として、「あらゆる廃棄物を他の産業分野の原料として活用し、最終的に廃棄物をゼロにすること(ゼロ・エミッション)」を目指し資源循環型社会の構築を図る「エコタウン事業」に取り組んでいる。
事業の推進にあたっては、産官学で構成する「北九州市環境産業推進会議」において基本的な取組みの方向を定め、広大な埋立地、港湾施設や最終処分場に近接するなど優位性を持つ若松区響灘地区において環境・リサイクル産業を誘致するなど具体的な取組みに着手している。なお、環境産業の推進に際して以下の3つの取組みを柱に戦略的に施策を展開している。
行政としては、積極的な情報公開による市民との双方向のリスクコミュニケーション(対話を通じたリスクに関する情報の共有)や、市の窓口の一本化による手続の迅速化を図るなどの取組みを行っている。
○教育・基礎研究への取組み
大学や研究機関が集積した北九州学術研究都市を中心に、環境政策理念の確立、基礎研究、人材育成等に取り組んでいる。
○実証研究への取組み
企業、行政、大学が連携し、環境・リサイクルの新技術を実証的に研究するプロジェクトが行われている。都市ごみの生分解性プラスチック化技術、最終処分場管理技術などについて24の実証研究施設が開設され、平成16年1月現在12施設が稼働中である(12施設については既に終了)。
○事業化への取組み
環境・リサイクル産業の事業化が展開されており、平成16年1月現在、20施設が稼働し、700人弱の雇用を創出している。「総合環境コンビナート」では、ペットボトル、家電、OA機器、自動車、蛍光管、医療用具、建設混合廃棄物のリサイクル企業が立地している。また、「響リサイクル団地」では、地元中小・新興企業による食用油、有機溶剤、古紙、空き缶等のリサイクル事業や、自動車解体事業の高度化への市による支援が行われている。
<北九州学術研究都市>
<総合環境コンビナート>
さらに、リサイクルに加え、リユース(再使用)やリビルド(再構築)など、新たな環境産業の誘致や、構造改革特別区域である「北九州市国際物流特区」とも連携した企業誘致に取り組んでいる。
香川県直島町 〜自然・文化・環境の調和したまちづくり〜
直島町は、島内に製錬所のある立地を活かし、島しょ部では初めてのエコタウン事業に取り組んでいる。近隣のごみ処理施設や豊島廃棄物等の中間処理施設から発生する溶融飛灰、廃棄家電製品、自動車のシュレッダーダスト等からの金、銀、銅、鉛、亜鉛等貴重な金属の回収、熱回収による発電のための施設整備を行うとともに、地元住民、事業者、行政が協力して、ごみ減量化、緑化、エコツアーの誘致、環境学習の推進など環境と調和したまちづくりによる地域活性化に取り組んでいる。
<産業廃棄物中間処理施設(香川県直島環境センター)>