第II部 国土交通行政の動向 

第2節 地球温暖化対策の推進

1.現状と取組みの方向性

 地球温暖化問題については、1997年の気候変動枠組条約第3回締約国会議で採択された京都議定書において、日本は二酸化炭素(CO2)を始めとする温室効果ガスの排出について2008年から2012年までの間に基準年(1990年)比6%の削減を行うことが定められた(代替フロンであるHFC等の一部の温室効果ガスについては1995年比)。その後、京都議定書の運用に関する細目を定める文書の合意を受けて、平成14年3月に、内閣総理大臣を本部長とする地球温暖化対策推進本部において、我が国における京都議定書の約束を達成するためのこれからの対策をとりまとめた新たな「地球温暖化対策推進大綱」が決定された。
 同大綱の決定により我が国として地球温暖化対策を着実に推進する枠組みが構築されたことから、平成14年6月、国連に京都議定書の受諾書を寄託した。また、京都議定書の国内担保法である「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律」が同月に公布された。
 我が国全体のCO2排出量の2割を占める運輸部門については、何も対策をとらなければ、2010年の時点では1990年比で約4割もCO2の排出が増加すると見込まれており、大綱では、90年比17%増(ほぼ95年比と同レベル)に抑制するため、2010年時点で約4,530万t−CO2の排出削減と見込まれている各施策の推進が求められている。このため、1)低公害車の開発普及、2)交通流対策、3)モーダルシフト・物流効率化、4)公共交通機関の利用促進等に係る対策の強化を推進している。また、民生部門(業務その他部門及び家庭部門)においては2010年において90年比2%減に温室効果ガス排出を抑制するため、全体で約8,350万t−CO2の排出削減が必要とされ、そのうち約3,560万トン−CO2と大きな割合を占める住宅・建築物分野についても省エネルギーの取組みを推進する必要があり、断熱性の向上、空調設備等の効率化などの取組みを推進している。
 しかし、運輸部門では、同部門からのCO2排出量の約5割を占める自家用乗用車の走行量の増加・大型化等により、2001年度末までに排出量が既に約23%増加(90年度比)しており、自動車からのCO2を抑制することは依然として大きな課題となっている。また、業務その他部門では2001年度末までに約31%増加(90年度比)、家庭部門では同じく約19%増加(90年度比)となっている。2004年度には、これまでの対策・施策を踏まえて地球温暖化対策推進大綱の評価・見直しが行われることとなっており、現在、現行対策・施策の効果を検証するとともに、必要に応じた新規対策・施策や対策・施策の強化の検討を行っている。

 
図表II-8-2-1 国土交通省の地球温暖化対策

運輸部門については、二酸化炭素を約4600万トン削減することを目標に自動車交通対策としての低公害車の開発普及や交通流対策、環境負荷の小さい交通体系の構築としてのモーダルシフト・物流の効率化や公共交通機関の利用促進など、民生部門については、約3500万トン削減を目標に断熱性の向上や空調設備の効率化などの対策を行っている。その他、一酸化二窒素対策としては、下水汚泥の高温焼却、二酸化炭素吸収源対策として都市緑化等の推進があげられる。

 運輸部門及び住宅・建築物分野は、いずれも国民生活や我が国経済活動の基礎をなすものであり、CO2排出抑制のために交通量やエネルギー消費量の規制といった直接的手段を講じることは、CO2の排出削減効果以上に国民生活や経済活動に与える悪影響が大きいと懸念される。従って、国土交通行政における地球温暖化対策については、自主的取組みや優遇措置、技術開発の推進等を基本として、国民生活や経済活動への悪影響を最大限回避しつつ進めていく必要がある。
 また、京都議定書では、先進国における温室効果ガス削減目標の達成に係る柔軟措置として、1)クリーン開発メカニズム(CDM)、2)共同実施(JI)、3)排出量取引が定められており、他国における排出削減量及び割当量の一部を利用できるようになっている。これらの仕組みは総称して京都メカニズムと呼ばれ、そのうちCDMは開発途上国における排出削減プロジェクトへの先進国の技術・資金等の支援により実現された排出削減量を当該先進国の削減量として計上できる制度である。また、JIは支援先が先進国等である場合の同様の制度であり、排出量取引は先進国等との間で排出枠等の取引を行う仕組みである。これらは、民間事業者等の参加も認められており、事業の承認等一定の手続きを経た上で排出削減量を獲得することができる。京都メカニズムの活用は、地球温暖化対策推進大綱においても、京都議定書の約束を費用効果的に達成するための重要なツールとして位置付けられている。
 我が国も京都メカニズムを円滑に活用し得る環境を整備するため、関係省庁からなる京都メカニズム活用連絡会を設置した。国土交通省は、関連する分野の案件について、CDM及びJIのプロジェクトの開始から京都議定書に基づく排出削減量の発行に至るまでの側面支援を行うべく、JI及びCDMに関する申請・相談窓口を設置している。また、国内外の専門家によるワークショップ(研究集会)を開催(平成15年3月)して運輸分野のCDMに関する意見・情報交換を図るほか、運輸分野及び住宅・社会資本整備分野のプロジェクトの案件形成を目指した調査を実施している。

 

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