第I部 東アジアとの新たな関係と国土交通施策の展開 

4 企業の海外進出と地方部への影響

(製造業の海外進出と国内工場立地の減少)

 我が国の製造業企業は、東アジア諸国・地域の成長とともに海外進出を進めてきている。海外現地法人数は、2002年度(平成14年度)末現在で6,918社と1980年度(昭和55年度)末の3.6倍に増加し、東アジア諸国・地域には約6割が立地している。特に、近年の中国への進出は著しく、現地法人数は1990年度(平成2年度)末から2002年度末までの間に6.9倍となっている(注)
 海外進出の進展とともに海外生産比率も高まっている。製造業の海外生産比率(国内全法人ベース)は1980年度(昭和55年度)には2.7%であったが、2002年度(平成14年度)には17.1%まで上昇している。

 
図表I-3-2-14 製造業海外現地法人数及び海外生産比率の推移

製造業海外現地法人数及び海外生産比率の推移を見ると、製造業海外現地法人数は1980年度末で1,914件、2002年度末で6,918件である。また、海外生産比率は1980年度で2.7%、2002年度で17.1%である。
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 製造業の海外生産が進む中、国内の新規の工場立地は地方部を中心に減少してきた。工場立地件数は1989年(平成元年)をピークに減少に転じ、1992年(平成4年)以降は急速に減少した。このような地方部を中心とした工場立地の減少は、大都市圏に比べて豊富な土地や安価な労働力という地方部が工場誘致を進めるに当たっての魅力が、企業活動の地球規模化が進む中でそれだけでは東アジアをはじめとする海外の地域に比べると劣ってしまうことが一因と考えられ、地方の発展を工場誘致により実現することが難しくなってきている。

 
図表I-3-2-15 工場立地件数の推移

工場立地件数の推移を見ると、1990年は全体が3,775件、うち地方部が3,143件であるが、2003年は全体が1,052件、うち地方部が745件である。
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 2003年(平成15年)の工場立地件数は前年に比べて増加に転じており、国内の景気回復、海外設備投資の一巡、製造業における国内外の機能分担への取組みなどを背景に、国内への立地回復の兆しが出てきていると言われている。
 国際協力銀行が実施した「我が国製造業企業の海外事業展開に関する調査」(2003年度(平成15年度)実施)によれば、海外への事業展開により国内事業を縮小すると回答した企業は15.6%に過ぎず、企業においては国際的な分業体制を念頭に置いた事業の構築を図っていると考えられる。同調査では、4割の企業が他の製品・分野の生産への取組みにより海外への移管分を補うと回答しており、我が国の企業が国際的な立地の最適化を図りつつも国内の立地を維持していくための取組みを進めていることがうかがえる。同調査では、今後の国内での取組みとしては、「より付加価値の高い製品・サービスへの特化」や「新規生産分野への取組み」という回答が多い。

 
図表I-3-2-16 海外事業展開が国内事業に与える影響

海外事業展開が国内事業に与える影響について、中期的な国内事業における取組み姿勢を見ると、全体538社のうち、33.1%が進出販売先マーケットの維持・拡大のための投資であり、国内事業展開への影響は無いとし、8.2%がそもそも海外生産する製品は国内製品と異なるため、国内事業展開への影響は無いとし、40.3%が従来の国内生産品目が海外拠点の生産に移管されるものの、国内においては他の製品・分野の生産に取り組むことによって移管分を補うとし、15.6%が海外生産が国内生産を代替するため、国内事業は縮小するとしている。
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図表I-3-2-17 国内での「他の製品・分野への取組み」

国内における他の製品・分野への取組みの詳細を見ると、84.3%がより付加価値の高い製品・サービスへの特化であり、6.0%が汎用製品の生産拡大であり、48.1%が新規生産分野への取組みであり、13.4%が現在、具体的方策につき検討中である。
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 このように、我が国の製造業企業は、今後、国内外の生産拠点の機能分担を進めていく中で、国内の拠点においては、新規商品の研究開発、付加価値が高く技術の流出防止が重要な基幹的な部品の生産、海外拠点の生産活動を支える支援拠点等の役割を強化していくと考えられる。このような展開を進めていく上では、企業と大学等の研究機関などとの連携により新たな価値を生み出していくこと、また、国内外の優れた研究者の誘致や我が国の優れたものづくりの技術の継承を図っていくことなどが重要である。


(注)ここでの中国は、1998年度以降は香港を含む。

 

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