第I部 安全・安心社会の確立に向けた国土交通行政の展開 

(1)事故・トラブル

 安全の確保は交通分野における最優先課題であるが、最近、JR西日本福知山線列車脱線事故、東武鉄道伊勢崎線竹ノ塚駅付近での踏切事故等の社会的影響の大きな鉄道事故、航空分野における客室乗務員の非常口扉の操作忘れ、管制ミスによる閉鎖滑走路への着陸等の安全上のトラブル、船舶やバスにおける様々な事故等、国民の運輸の安全に対する信頼を揺るがすような事故・トラブルが発生している。

1)鉄道事故
 平成17年に鉄道分野では、土佐くろしお鉄道列車脱線事故(3月)、JR西日本福知山線列車脱線事故(4月)、JR東日本羽越線列車脱線事故(12月)と、乗客・乗務員に死者が生じる事故が発生した。

(ア)JR西日本福知山線列車脱線事故
 平成17年4月25日、JR西日本福知山線尼崎駅〜塚口駅間で列車が脱線し、107名が死亡、549名が負傷するという、近年例を見ない極めて重大な事故が発生した。
 国土交通省は、JR西日本に対し4月28日に「安全性向上計画」の策定を指示、5月31日の同計画提出後、取組状況等を確認するための保安監査を実施し、11月15日に同計画の着実な実施に向けた勧告を行った。一方、JR、大手民鉄及び公営事業者に対しては、5月6日に列車ダイヤ、自動列車停止装置(ATS)等鉄道施設及び車両に係る総点検の実施を指示した。
 また、この事故を契機に、急曲線における速度超過防止用ATS等の緊急整備、運転士の資質向上の検討、技術基準の見直し等法令改正も含めた鉄道輸送の安全性向上策を推進していくこととしている。
 一方、航空・鉄道事故調査委員会では、委員、鉄道事故調査官を現地に派遣するなどして調査にあたり、再発防止対策等の検討が早急に必要であると考えられることから、9月6日に調査の経過報告を行うとともに、ATS等の機能向上、事故発生時における列車防護の確実な実行、列車走行状況等を記録する装置の設置と活用、速度計等の精度確保について国土交通大臣に対して建議を行った。現在は事故原因等についての最終的な結論を得るため、引き続き調査を進めている。

 
JR西日本福知山線列車脱線事故現場



(イ)JR東日本羽越線列車脱線事故
 平成17年12月25日、JR東日本羽越線砂越(さごし)駅〜北余目(きたあまるめ)駅間において列車が脱線し、5名が死亡、32名が負傷する事故が発生した。
 これを受け、国土交通省は、翌26日に全国の鉄軌道事業者に対し、鉄道輸送の安全確保及び風速計に係る緊急総点検の実施を指示した。また、同事故の重大性にかんがみ、鉄道強風対策協議会を開催し、鉄道における気象観測、運転規制、防風対策のあり方等、強風対策についてソフト・ハードの両面から検討を進めている。
 一方、航空・鉄道事故調査委員会は、委員、鉄道事故調査官を現地に派遣するなど、現在事故原因等について調査を進めている。

 
JR東日本羽越線列車脱線事故現場



(ウ)土佐くろしお鉄道列車脱線事故
 平成17年3月2日、土佐くろしお鉄道宿毛(すくも)線宿毛駅構内において、特急列車が駅到着の際、減速せず車止めを乗り越え、駅舎の壁に衝突、前2両が脱線し、運転士が死亡、乗客9名及び車掌が負傷した。
 これを受け、国土交通省では翌3日に、駅の終端防護用設備や終端駅における運転取扱い等について緊急に再点検を行い一層の安全確保を図るよう、全国の鉄軌道事業者に指示するとともに、3月29日には、緊急に取り組むべき高速度で走行する線区の終端駅における行き止まり線の終端防護用ATSの機能向上等を指示した。
 一方、航空・鉄道事故調査委員会は、委員、鉄道事故調査官を現地に派遣するなど、現在事故原因等について調査を進めている。

2)踏切事故
 平成17年3月15日、東武鉄道伊勢崎線竹ノ塚駅構内の第37号踏切において、列車が接近中に踏切保安係が踏切遮断機を操作したため、踏切道内に立ち入った通行者が列車と衝突し、通行者2名が死亡、2名が負傷した。
 これを受け国土交通省では、第1種手動踏切(注1)を有する鉄軌道事業者に対し、踏切保安係による踏切遮断機の確実な操作について徹底を図るよう指導を行った。
 このようなピーク時1時間当たりの遮断時間が40分以上のいわゆる「開かずの踏切」における死傷事故等を踏まえ、国土交通省では「開かずの踏切」等緊急的に対策が必要な踏切約2,100箇所について、踏切対策のスピードアップを図っていくこととしている。

3)航空分野における安全上のトラブル

(ア)航空会社関係
 我が国の航空会社(注2)においては、旅客の死亡に至る航空事故は昭和60年8月の日本航空の墜落事故以来20年間発生していない。しかしながら、平成17年に入ってから、新千歳空港、小松飛行場等において立て続けに発生した管制指示違反、客室乗務員の非常口扉操作忘れ、誤った高度計の指示に従った飛行、福岡空港におけるエンジントラブルによる引き返し等、重大な事故につながりかねないヒューマンエラー(注3)や機材不具合に起因する安全上のトラブルが続発した。
1)管制指示違反
 平成17年1月22日、新千歳空港において、日本航空ジャパン機が、先行着陸機が滑走路から離脱する前に、管制官の離陸許可を受領せずに離陸滑走を開始したため、管制官の停止指示を受け、離陸滑走を中止した。
 また、同年4月22日、小松飛行場において、エアーニッポン機が離陸のために滑走路に進入したが、管制官の離陸許可を受領せずに離陸滑走を開始したため、管制官の停止指示を受け、離陸滑走を中止した。
2)客室乗務員の非常口扉操作忘れ
 平成17年3月16日、日本航空インターナショナル機の出発時に、客室乗務員が非常口扉のドア・モードを変更すべきところ、この操作を失念し、そのまま出発させた。
3)誤った高度計の指示に従った飛行
 平成17年6月5日、全日本空輸機において、2系統装備されている高度計システムのうち、1系統に不具合が生じたため、長崎空港離陸後に機長側と副操縦士側の高度計の指示に不一致が生じた。機長は、誤って不具合が生じた高度計システムに切り替えて飛行を継続したため、実際の飛行高度が管制指示より5千フィート高い状態であったことが判明した。
4)福岡空港におけるエンジントラブルによる引き返し
 平成17年8月12日、JALウェイズ機が福岡空港を離陸し上昇中、NO.1エンジンが不調になり、エンジンを停止した上で福岡空港に引き返し、地上において落下部品片により2名が軽傷を負った。
 これらのトラブルを受けて国土交通省では、日本航空グループに対して事業改善命令の発出等の措置を講じるとともに、「抜打ち立入検査」の導入による航空会社の監視・監督の強化を図った。そのほか、監査専従部門を設置することとするなど、航空会社に対する監視・監督体制の抜本的強化等についての検討を行っている。

(イ)管制関係
 平成17年4月29日、東京国際空港(羽田)において閉鎖中の滑走路に、帯広空港発の航空機が管制官の着陸許可を受け着陸し、後続の航空機も滑走路に進入中であったが、引き継ぎの管制官からの滑走路閉鎖の情報に基づき着陸のやり直しを行い、他の滑走路に着陸するというトラブルがあった。
 これは、事前の情報周知の不備により、当時管制業務を担当していた管制官全員が滑走路閉鎖の事実を失念していたために発生したものであり、国土交通省では、再発防止のため、航空情報の収集及び管理に関する確認体制を明確化するマニュアルの策定、滑走路等の運用制限に係る情報処理システムの整備等の対策を講じ、実効性のある情報の伝達・確認システムの確立に努めている。
 このほかにも、同年8月16日に新潟空港、9月23日に宮崎空港において管制官とパイロットとの間における飛行計画の承認の授受に関してトラブルが発生し、11月2日には大阪国際空港において管制官から着陸許可が発出されず、航空機が着陸をやり直すトラブルが発生するなど管制関係のトラブルが続発した。
 これらのトラブルを受け、国土交通省では管制官の思い込みによるミスを防ぐための体制を確立することを目的として、管制業務監査等を行い再発防止に努めている。

4)船舶・バスによる事故
 旅客船関係では、平成17年5月1日、フェリー「なるしお」が長崎県五島列島宇久島(うくしま)の宇久平(うくたいら)港沖合防波堤先端部に衝突し、乗客23名が負傷した。
 これを受け国土交通省は、同船を所有する九州商船の特別監査を行い、5月17日に安全確保命令を発出した。
 また、貨物船関係では、平成17年7月15日、タンカー「旭洋丸」とケミカルタンカー「日光丸」が三重県熊野市沖で衝突、「旭洋丸」の積荷から引火性が高く、毒性のある危険物が流出したことにより船舶火災が発生し、乗組員6名が死亡、1名が重傷を負った。
 海上保安庁では、巡視船艇・航空機、特殊救難隊、機動防除隊等により、消火活動、行方不明者の捜索、船体及び危険物の沿岸への漂着防止等を実施した。
 なお、これらの事故について、海難審判庁では、事故発生後直ちに現地に赴いて調査を開始し、現在原因を明らかにするために審理を進めている。

 
熊野市沖タンカー衝突現場



 さらにバス関係では、平成17年4月28日、大阪発仙台駅前着予定の高速バスが福島県の磐越自動車道上り線を走行中、運転者の脇見により、中央分離帯に接触し横転した。この事故により、乗客3名が車外に投げ飛ばされ死亡、他20名が重軽傷を負った。
 この事故を受け国土交通省は、高速バス事業者各社に対し、道路交通法等の法令遵守、乗客に対するシートベルト着用の励行等安全対策の徹底に関する指示を行うとともに、事故を起こした近鉄バスの監査・行政処分を行った。

 
磐越自動車道におけるバス横転事故現場




(注1)踏切保安係を配置して、遮断機を閉じ、道路を遮断するもの
(注2)特定本邦航空運送事業者(客席数が100又は最大離陸重量が5万キログラムを越える航空機を使用して航空運送事業を経営する本邦航空運送事業者)
(注3)人間と機械が協調して目的を達成するためのシステム(ヒューマン・マシン・システム)の中で、人間の側が自分に割り当てられた仕事、あるいは人間の運転者等に期待された能力の水準を満たすことに失敗したため、システム全体がトラブルを起こしたり、動作停止状態になったりしたもの

 

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