第I部 安全・安心社会の確立に向けた国土交通行政の展開 

(2)建築確認・検査制度等の総点検と再発防止策の検討

 建築確認・検査は、平成10年の「建築基準法」改正により民間機関も行えるものとされた。その趣旨は、7年の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、当時、行政だけでは十分な実施体制が確保できない状況の下で、官民の役割分担の見直しにより的確で効率的な執行体制の創出が必要なことから、一定の審査能力を備えた公正中立な民間機関も建築確認・検査を行えることとし、特定行政庁は違反是正等、本来行政でしかできない事務にその能力を振り向けるというものであった。
 この結果、完了検査の実施率が上昇(平成10年度:約38%→16年度:約73%)するとともに、違反建築物件数が大幅に減少(10年度:12,283件→16年度:7,782件)するなど、建築確認・検査の民間開放そのものは合理的な政策選択であったと考えられる。
 しかしながら、今回の偽装問題の判明により、指定確認検査機関だけでなく特定行政庁においても「建築基準法」に違反した構造設計が行われた図書を見過ごすなど、十分な審査が行われていなかった事実が明らかになるとともに、今回の事件を契機として国土交通省等が行った緊急点検においても、一部の指定確認検査機関及び特定行政庁において審査上の不備が確認された。このため、今回の問題は、民間開放に伴い発生した問題ではなく、建築確認・検査制度そのものに内在する問題と言わざるを得ない。
 このような状況にあって、社会資本整備審議会建築分科会においては、「構造計算書偽装問題に関する緊急調査委員会」における調査検討等も踏まえながら、建築確認・検査制度等の点検と再発防止策の検討を行い、平成18年2月、「建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について」の中間報告を取りまとめた。この中間報告で掲げられた課題は以下のとおりである。
1)建築確認・検査制度の課題
  ○今回の偽装の一部は、迅速な審査で偽装を見破ることは困難
  ○膨大なコンピューターによる構造計算の全過程を書面のみで迅速に審査することは困難
2)指定確認検査機関制度の課題
  ○指定確認検査機関の公正中立性の確保等、要件の強化が必要
  ○役員、株主、確認検査員等の情報開示が必要
  ○特定行政庁による指定確認検査機関に対する監督権限の強化が必要
3)建築士制度の課題
  ○違法行為を行った建築士に対する罰則が不十分
  ○建築士事務所の業務実績、所属するすべての建築士の氏名、実務経験等について情報開示がなされていない
  ○建築士の専門分化の実態に対応して分野別の資格者の位置付けと責任分担等について十分な検討が必要
4)瑕疵担保責任制度の課題
  ○住宅の売主等による瑕疵担保責任の確実な履行を担保するための措置が必要
5)住宅性能表示制度の課題
  ○住宅性能表示制度の利用は任意であるため適用率が低い
  ○住宅性能評価においても、指定住宅性能評価機関が構造計算書の偽装を見抜けなかった
6)確認申請書等の保存期間の課題
  ○特定行政庁等における建築確認申請書等の長期の保存が必要

(悪質リフォーム問題)
 悪質リフォーム問題については、悪質な「訪問販売によるリフォーム工事」による消費者被害が社会問題となっており、全国の消費生活センターには、ここ数年、年間9,000件前後「訪問販売によるリフォーム工事」の相談が寄せられている。国民の豊かな住生活を実現するためには、住宅ストックの有効活用が重要であるため、消費者が安心して適切なリフォームを実施できるよう、各都道府県・政令指定市ごとにリフォーム相談窓口を設置するなど、関係府省が連携して環境整備を総合的に進める必要がある。

(不正改造問題)
 全国チェーンのビジネスホテルの多数の物件において、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)」や「建築基準法」、駐車場法に基づく条例等の規定に適合した建築物を完成させ、完了検査を受けた上で、車いす使用者用駐車施設の撤去や、指定された容積率を超える増築が行われ、結果として関係規定に違反した状態で建築物が使用されていたという事案が判明した。本件については違反是正や処分等厳正に対処するとともに、本件に見てとれるバリアフリー化に対する意識の低さに対し、教育活動や広報活動等を通じた「心のバリアフリー」を推進することが必要である。

 

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