第II部 国土交通行政の動向 

(2)都市環境インフラの再生

1)大都市圏における貴重な自然環境の保全・再生・創出
 首都圏においては、関係行政機関及び地方公共団体からなる自然環境の総点検等に関する協議会で、平成16年3月、自然環境の保全・再生・創出を総合的に考慮した水と緑のネットワークを形成するための基本方針となる「首都圏の都市環境インフラのグランドデザイン」が取りまとめられた。
 平成17年度は、グランドデザインの中で保全すべき自然環境の一つとして位置付けられた三浦半島地域の小網代地区を「近郊緑地保全区域」に指定するとともに、他の地域でも新たな指定に関する検討を進めている。また、モデル地域を選定し、行政や市民団体の協働によるワーキンググループにおいて、自然環境の保全・再生・創出のための具体的な事業手法を検討している。さらに、関係主体が相互に利用できる自然環境に関する総合的なデータベースの整備を行っている。
 近畿圏においても、「近畿圏における自然環境の総点検等に関する検討会議」等において保全すべき自然環境の抽出結果を取りまとめ、自然環境の再生・創出を含めた総合的な近畿圏の都市環境インフラの将来像の検討を進めていく。

 
小網代近郊緑地保全区域(神奈川県三浦市)



2)臨海部における緑の拠点の形成
 都市再生プロジェクト第三次決定の「臨海部における緑の拠点の形成」を受け、その先導的事例として、東京港中央防波堤内側における「海の森構想」、大阪湾堺臨海部における「共生の森構想」、大阪湾尼崎臨海部における「尼崎21世紀の森構想」の取組みが進められている。
 こうした臨海部の大規模緑地の整備は、廃棄物海面処分場跡地の有効活用、地球温暖化対策及びヒートアイランド対策に加え、臨海部で失われた水と緑のネットワークの構築、生態系の回復、環境学習の場や自然とのふれあいの場の拡大につながるものと期待されている。整備に当たっては、計画検討の段階から、市民ボランティア・NPO等と行政との協働が図られている。

3)都市の緑の拡大
 ヒートアイランド現象の緩和、樹木による二酸化炭素(CO2)の直接的な吸収・固定による地球温暖化の防止、多様な生物の生息生育基盤の確保等を目的とした、良好な自然環境の保全と創出による緑豊かな都市環境の実現が求められている。このため、道路・河川・公園等の事業間連携により効率的・効果的に緑を生み出していく「緑の回廊構想」や、都市公園の整備、「特別緑地保全地区」等の指定等の多様な手法により都市の緑地を確保する緑地環境整備総合支援事業等を総合的・計画的に推進し、緑とオープンスペースの確保を図っている。
(ア)公園緑地の整備
 都市における自然再生、多様な生物の生息生育基盤の確保等を行う自然再生緑地整備事業、クールアイランドや風の道の形成等都市環境を改善するため重点的な緑地の整備及び緑化を行う緑化重点地区整備事業等、都市環境の改善や生物多様性の確保等に資する公園緑地の整備を推進している。
(イ)都市緑化・緑地保全の総合的・計画的推進
 市町村が策定する緑地の保全や緑化の推進に関する総合的・基本的な計画である「緑の基本計画」に基づき、建築行為など一定の行為の規制により樹林地等の保全を図る「特別緑地保全地区」の指定や建築敷地の緑化について固定資産税の軽減措置が受けられる緑化施設整備計画認定制度の活用により、都市緑化・緑地保全を積極的に推進している。

4)河川の再生
 大都市における水循環の主軸である主要な河川について、河岸の再自然化、水質の改善、親水空間の整備等により、河川の再生を重点的に推進している。
 平成17年度においては、東京都心部の渋谷川及び古川における環境の再生、大阪圏の大和川における環状道路と一体的な高規格堤防の整備、道頓堀川における環境の再生、広島市の太田川における水の都を再生するための親水護岸等の整備を行っている。

5)海の再生
 東京湾等の閉鎖性海域では、これまで地方公共団体を始め各行政機関において、環境改善のための施策が行われてきたが、流入する窒素、りん等の汚濁物質により富栄養化が進み、赤潮や青潮(注1)が発生し、生息生物に多大な影響を与えるなど、環境改善が進んでいない状況にある。
 このような状況を受け、東京湾においては「東京湾再生のための行動計画」に基づき、また、大阪湾においては「大阪湾再生行動計画」に基づき、関係機関と連携の下、陸域対策(注2)、海域対策(注3)及びモニタリング(注4)の各種施策を推進している。
 さらに、今後、他の閉鎖性水域においても、「全国海の再生プロジェクト」として、地方公共団体等の関係機関との連携の下、連絡・調整会議を順次設置し、再生のための行動計画の策定等、閉鎖性海域の環境改善に向けた取組みを推進していくこととしている。


(注1)海底に堆積した植物プランクトンの死骸等が分解される時に大量の酸素が消費され、極端に酸素不足となった海水が風などで海面付近へ浮上した際に海水が青白く見える現象
(注2)水質総量規制制度に基づく事業場への規制等の実施、下水道の整備(高度処理の推進)、地域事情に応じた農業集落排水施設の整備、浄化槽等の各種生活排水処理施設の整備、河川直接浄化、湿地や河口干潟の再生、森林の整備・保全等の水質改善事業
(注3)干潟・藻場の再生・創出、汚泥の除去や覆砂による底質の改善、環境整備船等による浮遊ゴミ・油の回収等
(注4)水質測定、人工衛星を利用した赤潮等の常時監視と発生原因の推定等

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む