第II部 国土交通行政の動向 

(2)国際海上輸送網の基盤の強化

 アジア諸国の経済力の向上、国際的な水平分業の進展により、我が国とアジア諸国との相互依存関係が強まる中で、我が国においてはジャストインタイム(注1)に対応した多頻度・小ロット輸送の必要性等、物流ニーズの高度化への対応がますます重要になっている。
 しかしながら、我が国の海上輸送の現状をみると、アジアの主要港が中継コンテナを積極的に取り込むことにより(注2)コンテナ取扱量を飛躍的に増加させている中で、大型コンテナ船に対応した岸壁の大水深化や、港湾コスト、リードタイム(注3)等のサービスレベルがアジア諸国の主要港に対して遅れをとっているため、欧米との長距離幹線航路(基幹航路)の寄港便数は減少している。我が国の港湾が基幹航路から外れた場合、我が国から欧米等へのコンテナ貨物は釜山港等アジア主要港での中継を強いられることとなるため、物流コストの増加等により我が国の産業競争力が低下するおそれがある。産業競争力の強化のためには、経済活動の基盤となる港湾機能の向上が重要であり、荷主のニーズに対応した物流サービスの提供を可能とするための施策を総合的に展開していくことが必要である。
 このため、スーパー中枢港湾プロジェクトを始めとして、ハード・ソフト施策を有機的に組み合わせることにより、効率的で安全な海上輸送システムの構築に取り組んでいる。

1)スーパー中枢港湾プロジェクトの推進
 スーパー中枢港湾プロジェクトは、アジア主要港をしのぐコスト・サービス水準を実現するため、我が国にはこれまで類を見ない3バース以上の大規模コンテナターミナル(特定国際コンテナ埠頭)を単一の事業者により一体的・効率的に運営させるほか、港湾におけるIT化、24時間フルオープン化等の取組みにより、港湾コストの約3割低減及びリードタイムの1日程度への短縮を目指すものである。その推進に向けて、平成17年7月に改正された「港湾法」に基づき、京浜港、名古屋港及び四日市港、大阪港及び神戸港を指定特定重要港湾(スーパー中枢港湾)に指定するとともに、17年度から、特定国際コンテナ埠頭を運営する民間事業者(認定運営者)に対する岸壁及び背後ヤードの長期貸付制度や荷さばき施設の整備にかかる無利子貸付制度を創設した。
 今後は、埠頭公社の改革によるターミナルの管理運営効率化や内航海運・道路・鉄道等マルチモーダル物流ネットワークの整備等を通じて、スーパー中枢港湾全体の機能の高度化を図っていく。

 
図表II-5-3-2 スーパー中枢港湾プロジェクトの推進

スーパー中枢港湾プロジェクトは、アジア主要港湾をしのぐコスト・サービス水準の向上を、図るためのものである。具体的には、大規模コンテナターミナルを単一事業者により、一体的・効率的に運営させるなどにより、港湾コストを、釜山港、高雄港並みに、約3割低減させ、リードタイムを現状の3日から4日を、シンガポール港並みのいちにち程度へと短縮することを目指すものである。

2)国際港湾の機能向上
 国際海上コンテナ貨物やチップ、木材、石炭等バルク貨物(注4)の増加に対応するため、国際海上輸送ネットワークの拠点となる中枢・中核国際港湾(注5)や地域の拠点となる港湾において国際海上コンテナターミナルや多目的国際ターミナルの整備を行うとともに、IT化の推進等利便性向上に向けた取組みを推進している。これらハード・ソフト施策の推進により、我が国産業の国際競争力の強化と国民生活の安定を支える物流体系の構築を図っている。

3)海上ハイウェイネットワークの構築
 浅瀬等の存在により航行に支障のある主要国際幹線航路の整備・保全等のハード施策や、高速航行船舶の技術要件の検討等のソフト施策を組み合わせることにより、船舶航行の安全性と海上輸送の効率性を両立する海上ハイウェイネットワークの構築を図っている。

4)対東アジア物流への対応
 時間的、距離的に国内物流と大差ない圏域で行われている対東アジア物流については、高度化・多様化するニーズに対応するため、貨物の国際海上輸送と国内輸送との接続を円滑に行うための港湾施設や物流施設の整備を進め、スピーディかつシームレスな物流ネットワークを構築することとしている。

5)港湾ロジスティクス・ハブの形成
 経済のグローバル化に対応するため、高度荷さばき施設等の整備を推進し、国際物流と国内物流の結節点として、コンテナターミナルと近接した港湾ロジスティクス・ハブを形成することとしている。

 
図表II-5-3-3 港湾ロジスティクス・ハブ

国際物流と国内物流の結節点として、コンテナターミナルに近接した、高度荷さばき施設等の整備を推進することとしている。


(注1)工程間仕掛在庫を減らすため、必要なときに必要なものを必要なだけ必要な場所に届ける生産方式・在庫管理方式のこと
(注2)シンガポール港では取扱コンテナ個数(TEU)の8割、高雄港では5割が中継コンテナ
(注3)船舶の入港から貨物の引き取りが可能となるまでの時間
(注4)穀物、石炭、鉱石等のように、粉粒体のまま包装せずに積み込まれる貨物のこと。ばら積み貨物とも言われる。
(注5)国際海上輸送ネットワークの拠点となる中枢国際港湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾及び北部九州の4地域)とこれを補完する中核国際港湾(北海道、日本海中部、東東北、北関東、駿河湾沿岸、中国、南九州及び沖縄の8地域)のこと

 

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