第1節 豊かな住生活の実現 

第4章 心地よい生活空間の創生

第1節 豊かな住生活の実現

1 住生活基本計画(全国計画)の推進

 本格的な少子高齢社会の到来等、社会情勢の変化に伴い、現在及び将来における国民の豊かな住生活を実現するため、「住生活基本計画(全国計画)」(平成18年9月閣議決定)に基づき、1)良質な住宅ストックの形成及び将来世代への承継、2)良好な居住環境の形成、3)多様な居住ニーズが適切に実現される住宅市場の環境整備、4)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保という4つの目標の達成に向け、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を推進している。20年度においては、関係省庁による「住生活安定向上施策推進会議」を開催し、住宅と福祉、防犯等他分野との連携施策を中心に施策の実施状況を取りまとめるとともに、社会経済情勢の急激な変化に対応し、住宅投資の活性化による内需主導の持続的成長が求められていることを踏まえ、住宅ストックの質を確保する観点から、長期優良住宅の普及及び省エネ改修等のリフォームを緊急的かつ重点的に促進するため、「住生活基本計画(全国計画)」の変更を行った。

(1)住宅の長寿命化への取組み
 平成20年11月に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が成立した。これは、住宅を長期にわたり良好な状態で使用し続けることができるよう、その構造や設備について、一定以上の耐久性、維持管理容易性等の性能を備えた住宅(「長期優良住宅」)の普及を図るもので、ストック型社会への転換に向けた取組みの1つである。20年度は、ストック型社会における住宅のあり方について、民間等の優れた提案を公募・採択し、長期優良住宅等の普及啓発に寄与するモデル事業に対し支援を行う「超長期住宅先導的モデル事業」(20年度採択件数:88件)等を実施している。

(2)良質な住宅ストックの形成と将来世代への承継
1)住宅リフォーム市場の環境整備
 リフォームを促進するため、リフォームに係る様々な情報の提供等を行うリフォネットの普及や、住宅履歴情報の整備・普及を推進している。また、平成20年度から、住宅金融支援機構の証券化支援業務では、既存住宅の取得に対する融資限度額の見直し(改修費用の上乗せ)、同機構によるリフォーム費用に対する死亡時一括償還型融資制度では、融資対象の追加や融資限度額の引上げ等を行った。
 なお、悪質リフォームの社会問題化を踏まえ、消費者が安心して適切なリフォームを実施できる環境を整備するため、各地域にリフォーム相談窓口が設置されるよう取組みを進めるとともに、建設業法に基づく事業者への指導・監督の徹底、住宅リフォームに関する情報提供の強化等に取り組んでいる。
 
図表II-4-1-1 住宅リフォーム市場規模の推移(推計)

図表II-4-1-1 住宅リフォーム市場規模の推移(推計)
Excel形式のファイルはこちら

2)マンション管理の適正化と改修・建替えの円滑化
 マンションのストック戸数は約545万戸(平成20年末現在)に達し、国民の重要な居住形態となっているが、適切な維持管理を行っていく上での様々な課題や老朽マンションの増加等への対応が必要となっている。計画的な維持修繕を促進するため、「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」を20年6月に策定した。また、老朽マンションについてはその改修及び建替えを円滑に行うため、補助、融資、税制措置等の活用促進を図っており、20年10月1日までに「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」を活用したマンション建替事業の実績は、全国で45件となっている。さらに20年6月に社会資本整備審議会住宅宅地分科会にマンション政策部会を設置し、管理組合による計画的な管理等の推進や老朽マンションの再生の促進等を内容とする答申を21年2月に取りまとめた。
 
図表II-4-1-2 マンションストックの推移

図表II-4-1-2 マンションストックの推移
Excel形式のファイルはこちら

(3)多様な居住ニーズが実現される住宅市場の環境整備
1)住宅の品質確保の促進
 「住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品質確保法)」に基づき、新築住宅の基本構造部分に係る10年間の瑕疵担保責任を義務付けるとともに、新築住宅及び既存住宅に対し、耐震性、省エネ対策、シックハウス対策等、住宅の基本的な性能を客観的に評価し、表示する住宅性能表示制度を実施している。平成19年度の実績は、設計図書の段階で評価した設計住宅性能評価書の交付が217,450戸、現場検査を経て評価した建設住宅性能評価書(新築住宅)の交付が204,228戸、建設住宅性能評価書(既存住宅)の交付が1,595戸となっている。
 建設住宅性能評価を受けた住宅に係る紛争については、指定住宅紛争処理機関が裁判によらず迅速かつ適正な処理を図ることとしており、住宅紛争処理支援センターがその支援業務を行っている。同センターは、住宅全般に関する様々な相談も受け付けている。19年度の実績は、指定住宅紛争処理機関における紛争処理の申請受付件数は28件、住宅紛争処理支援センターの相談受付件数は8,626件となっている。
2)住宅金融
 平成19年4月、独立行政法人住宅金融支援機構が設立された。同機構の主業務は、民間金融機関による相対的に低利な長期・固定金利住宅ローンの供給を支援する証券化支援業務で、15年10月に民間金融機関の住宅ローン債権を集約し証券化する買取型を開始した。20年10月末までの実績は、買取申請件数214,577件、買取件数152,655件で、337の金融機関が参加している。また、19年1月から民間金融機関自らがオリジネーターとなって行う証券化を支援する保証型を開始し、20年10月末時点で4機関が参加している。証券化支援業務の対象となる住宅には、耐久性等の技術基準を定め、物件検査を行うことで住宅の質の確保を図るとともに、証券化支援業務の枠組みを活用し、耐震性、省エネルギー性、バリアフリー性及び耐久性・可変性の4つの性能のうちいずれかの基準を満たした(20年10月より2要件基準を緩和)住宅の取得に係る融資金利を当初5年間0.3%引き下げる優良住宅取得支援制度を実施している。一方、機構の直接融資業務は、災害対応、密集市街地建替、子育て世帯・高齢者向け賃貸住宅等、政策的に重要でかつ民間金融機関では対応が困難な分野に限定して実施している。
 
図表II-4-1-3 証券化支援事業(買取型)スキーム図

図表II-4-1-3 証券化支援事業(買取型)スキーム図

 20年12月には、世界的な金融市場の混乱等を受け、「住宅・不動産市場活性化のための緊急対策」として、計画的なまちづくりに寄与する新築の分譲住宅の建設資金融資や地方の優良な都市開発事業への資金支援等の事業者支援を図るとともに、21年度より耐震性、バリアフリー性等が優れた住宅の取得について金利優遇期間を延長するなど住宅需要の喚起のための住宅取得者の負担軽減策を取りまとめた。

3)住宅税制の充実
(ア)住宅ローン減税制度の延長及び拡充等
 中堅勤労者等における無理のない負担での住宅取得を支援することにより、国民生活の向上等を図るとともに、昨今の経済情勢を踏まえ、経済効果の大きい住宅投資の促進による内需拡大の観点から、良質な住宅投資に対する支援を拡充することで良質なストック形成への誘導を図るため、住宅ローン減税制度の適用期限を延長するとともに、最大控除可能額の過去最高水準までの引上げや、個人住民税からの控除制度を導入することとした。
(イ)長期優良住宅や住宅リフォームに係る税額控除制度の創設
 経済情勢の悪化等を踏まえ、省資源で国民生活の質的向上を図り得る住宅への投資に金融資産を誘導し、省資源なストック型社会への転換と持続的な内需拡大による経済成長の実現を図るため、長期優良住宅の新築等や既存住宅の各種改修に係る税額控除制度を新たに講ずることとした。
4)既存住宅流通市場の環境整備
 質の高い既存住宅を安心して売買できる市場環境の整備のため、既存住宅の性能表示制度の普及や、不動産取引価格等の情報提供及びその内容の充実、既存住宅の質を考慮した価格査定マニュアルの普及等を推進しているとともに、平成20年度より、既存住宅について経年劣化の状況等を簡易に評価する手法の検討を開始している。
5)賃貸住宅市場の整備
 賃貸住宅市場においては、戸建て住宅、マンション等の持家ストックの賃貸化等を通じたストックの質の向上を図るため、定期借家制度の普及、サブリース事業(注)の適正化等の環境整備に取り組んでいる。
6)街なか居住の推進
 少子高齢化の進展に伴って、高齢者や子育て世帯等を中心に歩いて暮らせるまちづくりが求められるとともに、中心市街地の空洞化が進む中、街なか居住の推進によるにぎわいの再生が必要となっている。このため、ゆとりある生活を実現し、職と住が近接した都市構造の形成、居住機能を含む多様な都市機能が複合した魅力ある市街地への更新を図る必要があることから、総合設計制度(平成19年3月末現在3,006件)、高層住居誘導地区(19年3月末現在2地区)、用途別容積型地区計画(19年3月末現在39地区)、「中心市街地の活性化に関する法律」に基づく中心市街地共同住宅供給事業等により、都心部や中心市街地における住宅供給を誘導・促進し、街なか居住を推進している。
7)木造住宅の振興
 木造住宅の市場競争力の強化、木造住宅生産の主要な担い手である中小住宅生産者の技術力の向上等を図るため、木造住宅に係る技術開発、住宅生産者と木材生産者とが連携した木造住宅生産体制の整備等の取組みを推進している。

(4)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保
 平成19年7月に制定された「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」の趣旨を踏まえ、公的賃貸住宅の供給及び民間賃貸住宅の活用等を図ることとしている。
1)公的賃貸住宅等の供給
 住宅市場において十分に供給されない住宅サービス等について、適切に市場を補完するため公的賃貸住宅制度等を活用して良質な賃貸住宅が供給されている。平成19年度には、公営住宅制度を補完する公的賃貸住宅(特定優良賃貸住宅・高齢者向け優良賃貸住宅)制度を再編して、地域優良賃貸住宅制度を創設し、子育て世帯、高齢者世帯等各地域における居住の安定に特に配慮が必要な世帯等を対象とした良質な賃貸住宅の供給を促進している。
 また、解雇等により住居の退去を余儀なくされる者に対する住宅セーフティネットを確保するため、全国の主要なハローワークと連携のもと、地方公共団体、都市再生機構等においても、公営住宅や都市再生機構賃貸住宅等の空家情報の提供や空家の貸出し等離職者の居住安定確保に向けた対策を講じている。
 
図表II-4-1-4 公的賃貸住宅等の趣旨と実績

図表II-4-1-4 公的賃貸住宅等の趣旨と実績

2)民間賃貸住宅の活用
 民間賃貸住宅のセーフティネット機能の向上を図る観点から、あんしん賃貸支援事業により、地方公共団体、NPO・社会福祉法人、関係団体等と連携しながら、高齢者、障害者、外国人、子育て世帯等の入居を受け入れる民間賃貸住宅の情報を提供し、様々な居住支援を行うことにより、入居の円滑化と安心できる賃貸借関係の構築の支援に取り組んでいる。


(注)賃貸住宅管理会社が建物所有者(家主)等から建物を転貸目的で賃借し、自ら転貸人となって転借人に賃貸する事業

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む