第4節 産業の活性化 

7 不動産業の動向と施策

(1)不動産業を取り巻く状況
 不動産業は、全産業の売上高の2.3%、法人数の10.6%を占めている重要な産業の1つである。不動産市場は、これまで好調であった首都圏のマンション市場で、資材価格・地価の上昇や個人所得の伸び悩みにより成約率が低下し、在庫が増加するなど、市況の悪化が見られる。また、不動産証券化市場は、これまで順調に拡大を続けてきたが、平成19年のサブプライムローン問題の発生を契機として、現在下落基調に転じている。

(2)「宅地建物取引業法」の的確な運用
 宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。
 国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳格な監督処分を行っており、平成19年度の監督処分件数は356件(免許取消し191件、業務停止73件、指示92件)となっている。
 また、21年10月1日に施行される「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」により、新築住宅を引き渡す宅地建物取引業者等には、瑕疵担保責任の履行を確保するための資力確保措置(供託又は保険加入)や行政庁への届出等が義務付けられることになっており、円滑な施行に向けた取組みを進めている。
 さらに、犯罪による収益の移転防止を図り、併せてテロ資金供給防止条約等の的確な実施を確保する「犯罪による収益の移転防止に関する法律」が20年3月から全面施行され、宅地建物取引業者にも顧客等の本人確認、疑わしい取引の届出等が義務付けられたことを受け、業界団体とも連携しつつ、同法への的確な対応に向けた取組みを進めている。

(3)マンション管理業者による適正な管理の確保
 マンションストックの増大に伴い、その適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や業務規制を実施している。また、マンション管理業者による法令遵守の向上を促進し、不正行為の未然防止を図る観点から、マンション管理業者に対する立入検査を実施している。

(4)不動産市場の活性化
1)不動産市場の現状
 国民経済計算によれば、我が国における不動産市場(土地市場も含む。以下同じ)の市場規模は、平成19年末現在で、法人所有、個人所有、国・地方等の公的セクター所有の総計で約2,230兆円となっているが、その中でも、不動産証券化の市場規模が引き続き拡大している。Jリート(不動産投資法人)、不動産特定共同事業、特定目的会社等により証券化された不動産の資産額累計は、18年度末には約33兆円、19年度末には約42兆円と拡大している。
 Jリートは、豊富な資金を使った不動産の取得や耐震改修等の不動産の価値向上を通じて我が国の都市整備等にも大きく寄与しており、20年12月末現在、41銘柄のJリートが上場し、約711万口、約2兆6,553億円の不動産証券が流通している。また、保有不動産の用途は、オフィス、住宅、商業施設等に加え、新たにインフラ施設も取得されるなど多様化が進んでいる。一方で、昨年のサブプライムローン問題の発生を契機として、市場は下落基調に転じており、20年4月から12月末までのJリートによる物件取得数は前年同期と比べ71%減少している。
2)不動産市場の条件整備
 不動産証券化は、投資単位の小口化を可能にし、約1,500兆円といわれる個人金融資産を不動産市場に呼び込むことにより、その活性化を促進するものであり、土地の流動化、経済の活性化にも大きく貢献するものである。
 しかしながら、不動産市場の透明性が確保されていなければ、市場に対して長期・安定的な資金が流入せず、不動産市場の持続的な発展も望めない。
 このため、国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、取引価格等の調査・公表を行っている。この調査は、平成17年度から三大都市圏の政令指定都市を中心に開始し、18年度は、調査対象地域を全国の政令指定都市を中心に開始し、19年度からは全国の県庁所在都市など地価公示対象地域において調査を実施している。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等をインターネット(土地総合情報システム(注1))を通じて公表している(21年1月現在の情報提供件数は、483,401件、アクセス件数は、7,092万件以上)。
 
図表II-5-4-11 土地総合情報システム

図表II-5-4-11 土地総合情報システム

 19年10月からは、公表内容に最寄り駅までの所要時間、前面道路の幅員・方位・種類、容積率等を追加し、取引価格情報を公表する地区単位毎に地価公示価格等を見ることができるようにしている。
 さらに、オフィス・賃貸マンション等の不動産の管理に係る収益費用の情報を収集し、我が国の不動産市場のファンダメンタルズを示すような指標をインターネット上で公表するための不動産市場データベースの構築を20年度より進めている。
 また、指定流通機構(レインズ)(注2)が保有する取引価格情報の加工情報を、19年4月より不動産取引情報提供サイト(注3)を通じて提供している。さらに、宅地建物取引業者が取り扱う物件情報を、網羅的に消費者へ提供する不動産統合サイト(不動産ジャパン)(注4)を不動産業界が一体となって整備しており、国土交通省としても引き続きこの取組みを支援している。
3)税制の活用
 平成21年度税制改正においては、経済対策として土地需要を喚起する観点から、21、22年に取得した土地等に係る譲渡益課税の特例(土地等の譲渡益に係る1,000万円特別控除、保有する土地等の将来譲渡益に係る課税の繰延べ)を創設し、21年度より引き上げることとされていた土地売買及びJリート等の不動産取得に係る登録免許税の税率を据え置くとしているほか、土地・住宅に係る不動産取得税の特例、Jリート等に係る不動産取得税の特例及び事業用資産の買換え特例等について、適用期限を延長することとしている。
4)事業用定期借地権の活用
 社会経済情勢の変化に伴う土地の利用形態の多様化に対応するため、平成20年1月1日より事業用定期借地権の存続期間の上限を20年以下から50年未満に延長する改正借地借家法が施行されている。
5)新しい時代に対応した不動産市場の構築に向けて
 Jリートによる海外不動産投資を可能とするため、海外投資不動産についての不動産鑑定士による鑑定評価の標準的手法を示す海外投資不動産鑑定評価ガイドラインを平成20年1月に公表した。また、国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会において、社会の変化に対応したよりよい鑑定評価について検討を行っている。
 また、19年5月の社会資本整備審議会答申に基づき設置された「投資家に信頼される不動産投資市場確立フォーラム」では、関係業界、有識者、行政等が連携して、不動産投資市場の健全な発展を図るための基本認識等が6月にとりまとめられるとともに、引き続き下落基調に転じている我が国不動産投資市場の新たな活性化策について検討を進めている。
 さらに、不動産証券化に関する講習会及び社会実験への支援を通じ、地方における証券化のノウハウ蓄積と人材育成を図り、地方不動産証券化市場の裾野を拡大することで、土地の流動化と地域の活性化を促進している。


(注1)http://www.land.mlit.go.jp/webland/
(注2)宅地建物取引業者が指定流通機構に物件情報を登録し、業者間で情報交換を行う仕組み。成約した物件の取引価格情報等は指定流通機構に蓄積される。
(注3)http://www.contract.reins.or.jp/
(注4)http://www.fudousan.or.jp/

 

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