第4節 産業の活性化 

8 建設産業の活力回復

(1)建設産業の現状
1)建設産業の現状
 建設業は、住宅・社会資本整備の直接の担い手であり、国内総生産・全就業者数の約1割を占める基幹産業の一つである。しかしながら、急激な建設投資の減少や価格競争の激化に加えて、鋼材や燃料油等の資材価格の急激な変動や金融機関の融資姿勢の厳格化といった課題に直面しているとともに、昨今の不動産業の業況悪化による影響なども受けており、建設業を取り巻く経営環境はかつてなく厳しい状況にある。
 
図表II-5-4-12 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移

図表II-5-4-12 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移
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2)地域実態の緊急調査の実施
 平成20年8月から9月にかけて、地域の建設業の実情、金融機関の融資姿勢の把握等を行うため、全国9ブロックの建設業協会、地元金融機関等に対して緊急実態調査を実施した。地域の建設業界からは主に、公共事業予算の確保・増加と受注機会の確保、金融の円滑化、地方公共団体の入札契約制度の改善を求める声が多く寄せられた。

(2)公正な競争基盤の確立
 建設投資が急激に減少する中で「技術力・施工力・経営力に優れた企業」が生き残り、成長するための競争を実現するためには、建設業者における法令遵守の徹底をはじめとする公正な競争基盤の確立が重要である。このため、さらなる法令遵守の徹底を目的として、平成19年に策定した「建設業法令遵守ガイドライン」を20年9月に改訂し、工期面における元請業者と下請業者間に係る法令違反行為を追加し、さらに例年実施している下請取引等実態調査の見直し等、下請適正取引の推進に取り組んでいる。

(3)経営基盤の強化への取組みの促進
1)地域建設業緊急支援対策
 公共投資への依存度が高い地域を中心として厳しい経営環境に直面している中小・中堅建設業者の経営力の強化は喫緊の課題となっている。政府において取りまとめられた「安心実現のための総合対策」(平成20年8月29日)等に基づいて、以下の各施策に取り組んでいる。
(ア)地域建設業経営強化融資制度の創設
 建設業の資金調達の円滑化を図るため、建設業者が公共工事発注者に対して有する工事請負代金債権について未完成部分を含め流動化を促進すること等を内容とした地域建設業経営強化融資制度を創設し、平成20年11月から開始した。
 本制度は、建設業者が、公共工事請負代金債権を担保に事業協同組合等又は一定の民間事業者から出来高に応じて融資を受けられるとともに、保証事業会社の保証により、工事の出来高を超える部分についても金融機関から融資を受けることが可能となる制度である。なお、本制度を利用する建設業者は、国の助成により、金利負担等の軽減が図られる。
 
図表II-5-4-13 地域建設業経営強化融資制度

図表II-5-4-13 地域建設業経営強化融資制度

(イ)経営力の強化
 地域の中小・中堅建設企業が保有する人材や、機材、ノウハウ等を活用し、農業・林業・観光・福祉・環境等の異業種との連携により、建設業の活力の再生や、地域活性化に資する取組みを支援する建設業と地域の元気回復事業を創設した。
 また、従来より、経営診断、計画策定支援等の関連するサービスを一元的に提供する「ワンストップサービスセンター」を各都道府県に設置し、関係省庁と連携して支援しているが、これに加えて、建設業者からの複雑かつ高度な経営相談に的確に対応するための建設業緊急相談窓口の設置や、企業に対する弁護士等の専門家の派遣制度を創設した。
2)建設産業の振興
 中小・中堅建設業者の継続的協業関係の確保により経営力・施工力を強化するため、経常建設共同企業体の適切な活用を促進している。また、中小・中堅建設業者の組織化、事業の共同化を推進しており、事業協同組合等(注1)による共同事業の活性化や事業革新活動を促進している。
 専門工事業は、現場における施工力を保持し、建設産業を根底で支えるという重要な役割を果たしており、専門工事業の施工力が建設生産物の品質を直接左右することから、それぞれの専門分野における施工力を向上させることが求められている。平成20年度においては、経営力向上に向けて原価管理の徹底による利益追求意識の醸成等を目的とした経営力向上研修会の開催やテキストの関係団体への配布等の普及・啓発を図った。
 また、建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)は、建設投資が減少している中、業務成果の品質確保等を図るとともに技術力と人材を経営資源とする知的産業として、適正な競争市場への参加と新たな業務領域の拡大に取り組んでいる。国土交通省では、建設関連業の登録制度の適切な運用等を通じて、優良な建設関連業の育成と健全な発展に努めている。

(4)ものづくり産業を支える「人づくり」の推進
 建設産業は、技術者・技能者がその能力をいかに発揮するかによって生産の成否が左右されるものであり、「人」が支える産業である。しかし、建設産業就業者の労働条件等の悪化が進むとともに、就業者の高齢化が急速に進展しており、技術・技能の承継が困難になっている中、優秀な人材の確保・育成とその適切な評価を行う環境整備が不可欠である。
 このため、施工現場で直接生産活動に従事する技能者のうち、作業管理・調整能力等を有し、基幹的な業務に従事する者を基幹技能者として位置付け、その確保・育成を図っている。平成20年度より国土交通大臣の登録を受けた登録基幹技能者講習の修了者については、経営事項審査において加点評価を実施しており、平成20年12月末現在で約5,300人が講習を修了している。
 また、「建設業人材確保・育成モデル構築事業」として、地域の建設業界と工業高校等が連携し、建設技術者・技能者による生徒への実践的指導、生徒の企業実習等取組みや、「建設技能者確保・育成モデル構築事業」として、総合工事業者と専門工事業者とが連携した取組みに対し、支援を行っている。
 
図表II-5-4-14 年齢層別就業者数(構成比)の比較(平成20年)

図表II-5-4-14 年齢層別就業者数(構成比)の比較(平成20年)
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(5)建設機械の現状と建設生産技術の発展
 我が国における建設機械の保有台数は、平成19年度で約92万台(注2)と推定されており、購入者別の販売台数シェアで見ると、リース・レンタル業者が58%で、建設業者の17%よりも高い。
 建設機械施工技術者の技術力確保のため、「建設業法」に基づく建設機械施工技士の資格制度があり、20年度までに1級・2級合計約16万人が取得している。
 建設業における死亡災害のうち、建設機械等によるものは約14%を占め、近年では建設機械の技術進歩により事故原因(注3)も変化している。このため、建設機械施工安全技術指針の改定、建設機械施工安全マニュアルの策定等を行い、建設機械施工の安全対策を推進している。
 また、建設業の諸課題(低い生産性、熟練労働者不足、施工品質の確保等)の解決を目的として、ICTを活用した革新的な施工技術である情報化施工の普及促進を図るため、「情報化施工推進戦略」を20年7月に策定した。本戦略に基づき、現在普及の課題となっている施工管理基準等の整備や設計データの標準化を行うなど、受発注者間の環境整備に取り組んでいる。

(6)建設工事における紛争処理
 建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。平成19年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では60件(仲裁6件、調停47件、あっせん7件)、都道府県建設工事紛争審査会では156件(仲裁30件、調停99件、あっせん27件)となっている。


(注1)建設業の事業協同組合:4,766組合、協業組合:38組合、企業組合:144組合
(注2)主な機種:油圧ショベル約655千台、車輪式トラクタショベル約152千台、ブルドーザ約48千台
(注3)建設機械の小型化(狭小現場に対応させた小型バックホウ等)による重心位置の変化や、補助装置(障害物検知装置等)の不適切な使用等による事故等

 

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