第4章 心地よい生活空間の創生
第1節 豊かな住生活の実現
1 住生活基本計画(全国計画)の推進
本格的な少子高齢社会の到来等、社会情勢の変化に伴い、現在及び将来における国民の豊かな住生活を実現するため、「住生活基本計画(全国計画)」に基づき、1)良質な住宅ストックの形成及び将来世代への承継、2)良好な居住環境の形成、3)多様な居住ニーズが適切に実現される住宅市場の環境整備、4)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保という4つの目標の達成に向け、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を推進している。21年度においては、関係省庁による「住生活安定向上施策推進会議」を開催し、住宅と福祉、防犯等他分野との連携施策を中心に施策の実施状況を取りまとめた。
(1)住宅の長寿命化への取組み
平成21年6月に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行された。これは、住宅を長期にわたり良好な状態で使用し続けることができるよう、その構造や設備について、一定以上の耐久性、維持管理容易性等の性能を備えた住宅(「長期優良住宅」)の普及を図るもので、ストック型社会への転換に向けた取組みの1つである(21年度認定戸数:57,127戸)。このほか、20年度から、ストック型社会における住宅のあり方について、民間等の優れた提案を公募・採択し、長期優良住宅等の普及啓発に寄与する事業に対し支援を行う「長期優良住宅先導的モデル事業」(21年度採択件数:113件)等を実施している。
(2)良質な住宅ストックの形成と将来世代への承継
1)住宅リフォーム市場の環境整備
消費者が安心してリフォームを実施できる環境を整備するため、リフォーム見積相談制度や各地の弁護士会における専門家相談制度の創設、相談員の拡充等による電話相談体制の強化に向けた取組みを進めている。また、マンション大規模修繕工事を対象としたリフォーム工事瑕疵保険制度を平成21年12月に、多様なリフォーム工事を対象とするリフォーム工事瑕疵保険制度を22年3月に、それぞれ認可し販売が開始された。同時に、消費者が工事業者を選択する際の参考とするべく、保険に加入している工事業者のリストを公開することとしている。
また、リフォームを促進するため、リフォームに係る様々な情報の提供等を行うリフォネットの普及や、住宅履歴情報の整備・普及を推進している。
このほか、22年1月にエコリフォーム(窓の断熱改修又は外壁、屋根・天井若しくは床の断熱改修)又はエコ住宅の新築により、省エネ・環境配慮に優れた商品等に交換できるポイントを発行する住宅版エコポイント制度が創設され、エコリフォームの推進等に取り組んでいる。
図表II-4-1-1 住宅リフォーム市場規模の推移(推計)
2)マンション管理の適正化と改修・建替えの円滑化
マンションのストック戸数は約562万戸(平成21年末現在)に達し、国民の重要な居住形態となっているが、適切な維持管理を行っていく上での様々な課題や老朽マンションの増加等への対応が必要となっている。
21年度は、マンションの維持管理・再生について、ソフト面やハード面のあり方を見直す管理組合等を対象に支援するとともに、地域レベルの相談体制の整備等を推進する「マンション等安心居住推進事業」を実施している。また、マンション管理に関し、基礎的な資料を得ることを目的として、約5年に一度実施している「マンション総合調査」の結果を21年4月に公表した。
さらに、老朽マンションについては、その改修及び建替えを円滑に行うため、補助、融資、税制措置等の活用促進を図っており、21年10月1日までに「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」を活用したマンション建替事業の実績は、全国で49件となっている。
図表II-4-1-2 マンションストックの推移
(3)多様な居住ニーズが実現される住宅市場の環境整備
1)住宅の品質確保の促進
「住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品質確保法)」に基づき、新築住宅の基本構造部分に係る10年間の瑕疵担保責任を義務づけるとともに、新築住宅及び既存住宅に対し、耐震性、省エネ対策、シックハウス対策等、住宅の基本的な性能を客観的に評価し、表示する住宅性能表示制度を実施している。平成20年度の実績は、設計図書の段階で評価した設計住宅性能評価書の交付が200,097戸、現場検査を経て評価した建設住宅性能評価書(新築住宅)の交付が192,606戸、建設住宅性能評価書(既存住宅)の交付が308戸となっている。
建設住宅性能評価を受けた住宅に係る紛争については、指定住宅紛争処理機関が裁判によらず迅速かつ適正な処理を図ることとしており、住宅紛争処理支援センターがその支援業務を行っている。同センターは、住宅全般に関する様々な相談も受け付けている。20年度の実績は、指定住宅紛争処理機関における紛争処理の申請受付件数は33件、住宅紛争処理支援センターの相談受付件数は12,956件となっている。
2)住宅金融
民間金融機関による相対的に低利な長期・固定金利住宅ローンの供給を支援するため、(独)住宅金融支援機構では証券化支援業務を行っている。当業務には、民間金融機関の住宅ローン債権を集約し証券化するフラット35(買取型)と民間金融機関自らがオリジネーターとなって行う証券化を支援するフラット35(保証型)があり、フラット35(買取型)における22年3月末までの実績は、買取申請件数313,047件、買取件数219,216件で、338の金融機関が参加している。また、フラット35(保証型)における22年3月末までの実績は、付保申請件数17,621件、付保件数10,988件で、4の金融機関が参加している。証券化支援業務の対象となる住宅には、耐久性等の技術基準を定め、物件検査を行うことで住宅の質の確保を図るとともに、証券化支援業務の枠組みを活用し、耐震性、省エネルギー性、バリアフリー性及び耐久性・可変性の4つの性能のうちいずれかの基準を満たした住宅の取得に係る、当初10年間(長期優良住宅等については当初20年間)の融資金利を引き下げる優良住宅取得支援制度を実施している。
一方、機構の直接融資業務は、災害対応、密集市街地建替、子育て世帯・高齢者向け賃貸住宅等、政策的に重要でかつ民間金融機関では対応が困難な分野に限定して実施している。21年6月には、「経済危機対策」の一環として、証券化支援業務(買取型)における融資率上限の引き上げ等の対策を実施している。また、22年2月には「明日の安心と成長のための緊急経済対策」の一環として、優良住宅取得支援制度における当初10年間の金利引下げ幅を拡大(0.3%→1.0%)する等の対策を実施している。
図表II-4-1-3 証券化支援事業(買取型)スキーム図
3)住宅税制の充実
厳しい経済情勢の下、裾野の広い住宅投資を促進することによって景気回復を目指すための時限措置として、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、所得制限(贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下)を付した上で、非課税枠を平成22年は1,500万円、23年は1,000万円に拡大する。
あわせて、住宅取得等資金の贈与に係る相続時精算課税制度の特例について、2,500万円の特別控除に1,000万円を上乗せする特例を廃止し、65歳未満の親からの贈与も対象とする特例を2年延長する。
4)既存住宅流通市場の環境整備
質の高い既存住宅を安心して売買できる市場環境の整備のため、既存住宅の性能表示制度の普及や、不動産取引価格等の情報提供及びその内容の充実、既存住宅の質を考慮した価格査定マニュアルの普及等を推進している。
また、多様な消費者ニーズに対応した既存住宅売買に係る保険の商品化を進めており、平成21年12月に社会実験としての商品を認可し販売が開始された。さらに、新築住宅の売買に転売特約を導入し、保険加入住宅の転売後も保険を継続できるようにした。
図表II-4-1-4 既存住宅流通シェアの国際比較
5)賃貸住宅市場の整備
賃貸住宅市場においては、戸建て住宅、マンション等の持家ストックの賃貸化等を通じたストックの質の向上を図るため、定期借家制度の普及、サブリース事業(注)の適正化等の環境整備に取り組んでいる。
6)街なか居住の推進
少子高齢化の進展に伴って、高齢者や子育て世帯等を中心に歩いて暮らせるまちづくりが求められるとともに、中心市街地の空洞化が進む中、街なか居住の推進によるにぎわいの再生が必要となっている。このため、ゆとりある生活を実現し、職と住が近接した都市構造の形成、居住機能を含む多様な都市機能が複合した魅力ある市街地への更新を図る必要があることから、総合設計制度(平成20年3月末現在3,126件)、高層住居誘導地区(20年3月末現在2地区)、用途別容積型地区計画(20年3月末現在41地区)、「中心市街地の活性化に関する法律」に基づく中心市街地共同住宅供給事業等により、都心部や中心市街地における住宅供給を誘導・促進し、街なか居住を推進している。
7)木造住宅の振興
木造住宅の市場競争力の強化、木造住宅生産の主要な担い手である中小住宅生産者の技術力の向上等を図るため、木造住宅に係る技術開発、住宅生産者と木材生産者とが連携した木造住宅生産体制の整備等の取組みを推進している。
(4)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保
1)公的賃貸住宅等の供給
高齢者世帯、障害者世帯、子育て世帯等各地域における居住の安定に特に配慮が必要な世帯を対象とした良質な賃貸住宅の供給を促進するため、公営住宅を補完する制度として地域優良賃貸住宅制度を位置づけ、公的賃貸住宅等の整備等に要する費用に対する助成や家賃の減額のための助成を行っている。
また、解雇等により住居の退去を余儀なくされる者に対する住宅セーフティネットを確保するため、全国のハローワークと連携の下、離職者が利用可能な公営住宅や都市再生機構賃貸住宅等の関連情報の一元的提供を行うワンストップサービスの推進や地域住宅交付金を活用した家賃助成等の取組みの推進等離職者の居住安定確保に向けた対策を講じている。
図表II-4-1-5 主な公的賃貸住宅の趣旨と実績
2)民間賃貸住宅の活用
民間賃貸住宅のセーフティネット機能の向上を図る観点から、あんしん賃貸支援事業により、地方公共団体、NPO・社会福祉法人、関係団体等と連携しながら、高齢者、障害者、外国人、子育て世帯等の入居を受け入れる民間賃貸住宅の情報を提供し、様々な居住支援を行うことにより、入居の円滑化と安心できる賃貸借関係の構築の支援に取り組んでいる。
(注)賃貸住宅管理会社が建物所有者(家主)等から建物を転貸目的で賃借し、自ら転貸人となって転借人に賃貸する事業