第4節 産業の活性化 

7 不動産業の動向と施策

(1)不動産業を取り巻く状況
 不動産業は、全産業の売上高の2.5%、法人数の10.7%を占めている重要な産業の一つである。
 不動産市場は、首都圏のマンション市場において、平成21年1月まで14箇月連続で1万戸を超えていた在庫が21年秋には7,000戸を下回るとともに、成約率が上昇するなど、一部に変化の兆しが見られなくはないものの、依然として全体的に厳しい状況が続いている。
 また、不動産証券化市場は、19年以降下落基調にあったが、21年の春先には東証リート指数が回復基調をみせた。

(2)宅地建物取引業法の的確な運用
 宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。
 国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳格な監督処分を行っており、平成20年度の監督処分件数は382件(免許取消し176件、業務停止86件、指示120件)となっている。
 また、21年10月1日に施行された「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」により、新築住宅を引き渡す宅地建物取引業者等には、瑕疵担保責任の履行を確保するための資力確保措置(供託又は保険加入)や行政庁への届出等が義務付けられたことを受け、同法の的確な運用に向けた取組みを進めている。
 また、犯罪による収益の移転防止を図り、併せてテロ資金供与防止条約等の的確な実施を確保するために制定された「犯罪による収益の移転防止に関する法律」が宅地建物取引業者にも顧客等の本人確認、疑わしい取引の届出等を義務付けており、業界団体とも連携しつつ、同法への的確な対応に向けた取組みを進めている。

(3)マンション管理業者による適正な管理の確保
 マンションストックの増大に伴い、その適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や業務規制を実施している。また、マンション管理業者による法令遵守の向上を促進し、不正行為の未然防止を図る観点から、マンション管理業者に対する立入検査を実施している。

(4)不動産市場の活性化
1)不動産市場の現状
 国民経済計算によれば、我が国における不動産市場(土地市場も含む。以下同じ)の資産額は、平成20年末現在で、法人所有、個人所有、国・地方等の公的セクター所有の総計で約2,300兆円となっている。Jリート(不動産投資法人)、不動産特定共同事業、特定目的会社等により証券化された不動産の資産額累計は、19年度末には約42兆円、20年度末には約45兆円となっている。また、近年拡大していた証券化された不動産資産額の年度実績については、19年度は過去最高の約8.9兆円であったが、20年度は約3.1兆円と大幅に減少している。
 Jリートは、豊富な資金を使った不動産の取得や耐震改修等の不動産の価値向上を通じて我が国の都市整備等にも大きく寄与しており、22年3月末現在、38銘柄が上場し、約972万口、約2兆9,514億円の不動産証券が流通している。Jリートによる物件取得件数は前年同期(4月〜12月)と比べ67%減少しているが、21年10月には約15ヶ月ぶりにJリートによる公募増資が行われ、その後も公募増資が相次いだことにより物件取得の動きが増えつつある。また、19年以降下落基調にあった東証リート指数も(最安値:20年10月28日704.46)21年の春先には回復基調をみせ、22年3月末時点では948.90となっている。
2)不動産市場の条件整備
 国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、取引価格等の調査・公表を行っている。この調査は、平成17年度から三大都市圏の政令指定都市を中心に開始し、現在は全国に拡大して実施している。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等をインターネット(土地総合情報システム(注1))を通じて公表している(22年1月現在の提供件数は、768,397件、Webアクセス数は、約1億件)。
 さらに、不動産市場の透明性・信頼性の向上を図るためにオフィス・マンション等の賃貸不動産の管理に係る収益費用の情報を収集し、不動産市場データベースとして20年度からインターネット上で公表している。
 また、指定流通機構(レインズ)(注2)が保有する取引価格情報の加工情報を、不動産取引情報提供サイト(注3)を通じて提供している。さらに、宅地建物取引業者が取り扱う物件情報を、網羅的に消費者へ提供する不動産統合サイト(不動産ジャパン)(注4)を不動産業界が一体となって整備しており、国土交通省としても引き続きこの取組みを支援している。
 
図表II-5-4-12 土地総合情報システム

図表II-5-4-12 土地総合情報システム

3)税制の活用
 平成22年度税制改正においては、住宅以外の家屋に係る不動産取得税の特例措置やJリート及びSPCに係る登録免許税の特例措置について、適用対象等を見直したうえ延長が認められた。(注5)
4)事業用定期借地権の活用
 社会経済情勢の変化に伴う土地の利用形態の多様化に対応するため、事業用定期借地権の存続期間の上限を20年以下から50年未満に延長する改正借地借家法が施行されている。
5)新しい時代に対応した不動産市場の構築に向けて
 平成21年3月の国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会報告に基づき、鑑定評価業務等の手順を統一的に整備する(価格等調査ガイドライン)など、鑑定評価の質や信頼性の向上に取り組んでいる。また、証券化対象不動産の鑑定評価に関し、不動産鑑定業者への立入検査等を行っている。
 関係業界、有識者、行政等を構成員として設置された「投資家に信頼される不動産投資市場確立フォーラム」では、同年7月に、合併を始めとしたJリートの再編、Jリートのガバナンス強化の必要性、Jリートのファイナンス、個人投資家、年金等による不動産投資の促進等、Jリートを中心とした我が国不動産投資市場の活性化策が提言され、22年2月以降、同年3月末までに、Jリートの合併が3件行われた。
 不動産証券化に関する講習会の開催や、事業者へのアドバイス等の支援を通じ、地方における証券化のノウハウ蓄積と人材育成を図り、地方不動産証券化市場の裾野を拡大することで、土地の流動化と地域の活性化を促進した。
 地球環境問題への対応における不動産分野の役割が大きいことから、ESG(環境、社会、企業統治)を投資判断に組み込む責任不動産投資の国際的な潮流を踏まえつつ、環境不動産の経済的価値に関する情報整備等のあり方について検討を行っている。


(注1)http://www.land.mlit.go.jp/webland/
(注2)宅地建物取引業者が指定流通機構に物件情報を登録し、業者間で情報交換を行う仕組み。成約した物件の取引価格情報等は指定流通機構に蓄積される。
(注3)http://www.contract.reins.or.jp/
(注4)http://www.fudousan.or.jp/
(注5)住宅以外の家屋に係る不動産取得税の特例措置は、平成24年3月31日まで延長のうえ、廃止。


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む