第4節 交通分野における安全対策の強化 

3 海上交通における安全対策

 過去5年間を見ると、海難に伴う死者・行方不明者数は、減少傾向にあるが、海難に遭遇した船舶の隻数(海難船舶隻数)は、ほぼ横ばいで推移していることから、更なる安全対策の推進が必要である。

(1)船舶の安全性の向上及び船舶航行の安全確保
1)船舶の安全性の向上
 船舶の安全に関しては、国際海事機関(IMO)を中心に国際的な基準が定められており、現在は、平成22年から23年に予定されているSOLAS条約(注1)の改正に対応するため、国内法令改正等に取り組んでいる。また、サブスタンダード船(注2)の排除のため、ポートステートコントロール(PSC)(注3)を実施している。
2)船舶航行の安全確保
 船舶の高速化等海上交通環境の変化に対応し、船舶航行の安全を確保するため、新たな情報技術を活用し、航行管制・情報提供システムの充実強化を図るため、航路標識の改良・改修を610箇所で実施した。また、避難港の整備を下田港等6港で実施している。
 平成21年7月に「港則法及び海上交通安全法の一部を改正する法律」が公布され、船舶の危険防止のための航行援助の充実や海域特性に応じた新たな航法の設定等が講じられることとなった。22年7月1日の施行に向けては、21年11月に、第19回交通政策審議会海事分科会が開催され、同法による新制度の施行のため、新たな航法の設定を行う海域や船舶の危険防止のための航路外での待機の指示を行う船舶の大きさ等の基準の考え方について答申を受け、適切な運用を実施するための準備を進めている。
 このほか、引き続き海図等の充実を図るとともに外国人船員に対する海難防止対策の一環として英語表記のみの海図を刊行している。また、衝突事故原因の大半を占めるヒューマンエラーの防止を図るため、「協調型航行支援システム(SCAS)」(注4)の調査研究等も実施している。加えて、Class-B AIS等の簡易型電子航海機器の有効性評価を開始した。さらに、(独)海上技術安全研究所に設置した「海難事故解析センター」において、事故解析に関する高度な専門的分析や重大海難事故発生時の迅速な情報分析・情報発信を行っている。
 また、衝突海難の84%は「見張り不十分」と関連して発生していることを踏まえ、航海当直において見張り機能の向上を図るために、20年9月より自動操舵装置の適正使用促進に向けた実務検討会を開催し、21年7月にガイドラインを策定・公表した。
 水先制度に関しては、近年における水先制度をめぐる社会情勢の変化に対応するため、水先法及び関係法令の改正を行い、東京湾、伊勢三河湾及び大阪湾水先区を統合した。これにより船艇費等の削減、乗継ぎの解消による混雑の緩和が見込まれ、より船舶交通の安全の確保及び運航能率の増進が期待される。
 さらに、輸入原油の8割以上が通航する我が国にとって極めて重要な海上輸送路であるマラッカ・シンガポール海峡については、「協力メカニズム」の下、我が国政府として同海峡沿岸国の支援要請プロジェクトに協力するとともに、我が国産業界等及び日本財団から航行援助施設基金(注5)への協力を行ったところである。21年10月の同メカニズムにおける第2回協力フォーラムにおいても我が国は、同メカニズムを持続可能な枠組みとするよう沿岸国・利用国・民間セクターが連携して更なる努力をしていくことが重要である旨提言した。今後も引き続き、同海峡の世界一の利用国として、これまで培った知見と沿岸国との良好な関係を活かし、官民連携して同海峡の安全対策に積極的に協力していくこととしている。

(2)乗船者の安全対策の推進
 乗船者の事故における死者・行方不明者のうち半数以上は海中転落によるものである。転落後に生還するためには、まず海に浮いていること、また、その上で速やかな救助要請を行うことが必要である。このため、海上保安庁では、ライフジャケットの常時着用、防水パック入り携帯電話等の適切な連絡手段の確保、海上保安庁への緊急通報用電話番号「118番」の有効活用の3つを基本とする自己救命策確保キャンペーンを実施して普及・啓発に努めている。ライフジャケットについては、平成21年における小型船舶(漁船・プレジャーボート等)からの海中転落による乗船者の死亡率が、着用の場合15%、非着用の場合48%であることからも明らかなように、その着用が海中転落事故からの生還に大きく寄与している。このため、大型連休や夏季期間中には集中的な安全推進活動を実施するほか、年間を通じてライフジャケット着用を推進している。

(3)救助体制の強化
 海上保安庁では、迅速かつ的確な救助を行うため、24時間体制で遭難周波数の聴守及び緊急通報用電話番号「118番」の運用を行うなど、事故発生情報の早期把握に努めている。また、特殊救難隊、潜水士等の救助技術・能力の向上を図るとともに、ヘリコプターからの降下・吊り上げ救助技術、潜水能力、救急救命処置能力を兼ね備えた機動救難士の配置の拡充、救急救命士による救急救命処置の質を医学的観点から保障するメディカルコントロール体制の充実・強化、高性能化を図った巡視船艇・航空機の整備等、救助・救急体制の充実・強化を図っている。加えて、マリンレジャー振興等の拠点である「海の駅」を活用した地域の防災・救難体制の強化について検討を行っている。


(注1)海上における人命の安全のための国際条約
(注2)国際条約の基準に適合していない船舶
(注3)寄港国による外国船舶の監督
(注4)操船意志を相手船に伝達することにより、相手船と協調して衝突回避を可能とする新たな航行支援システム
(注5)マラッカ・シンガポール海峡に設置されている灯台等の航行援助施設の代替又は修繕等に要する経費を賄うために創設された基金


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