第1章 未曾有の大震災と国土交通省の総力対応
第1節 東日本大震災の発生
1 巨大地震、大津波、原子力緊急事態の複合災害
(我が国観測史上最大の巨大地震)
2011年3月11日午後2時46分、戦後最大の自然災害となる東日本大震災をもたらした巨大地震注1が発生した。三陸沖(牡鹿半島の東南東約130km付近)の深さ24kmで発生した地震は、我が国観測史上最大となるマグニチュード9.0であった。全世界でみても、1960年のチリ地震や2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震等に次ぐ、1900年以降4番目の巨大地震となった。
図表1 1900年以降の世界の巨大地震
図表2 地震エネルギーの大きさの比較
この地震により、新潟県中越地震以来6年半振りとなる最大震度7が宮城県栗原市で観測されたほか、宮城、福島、茨城、栃木の各県で震度6強など広い範囲で強い揺れを観測した。
図表3 東北地方太平洋沖地震の震度分布図
この巨大地震は、太平洋プレートと陸のプレートの境界での海溝型地震であり、震源域は、岩手県沖から茨城県沖までに及び、長さ約450km以上、幅約200kmの断層が、最大20〜30m程度のすべり量の規模で破壊されたことによるものと推定されている。断層の破壊は、宮城県沖から始まり、岩手県沖の方向、福島県・茨城県沖の方向に伝播し、3分程度にわたり継続したものと考えられている。この破壊により、震源直上の海底は東南東に約24m移動し、約3m隆起した。
(広域にわたる大津波の襲来)
この巨大地震を受け、気象庁では、地震発生から3分後に岩手、宮城、福島の太平洋沿岸に津波警報(大津波)を発表したのを始めとして、3月13日夕方の津波注意報解除まで全国の沿岸部に津波警報又は注意報を発表した。巨大地震によりもたらされた津波は、北海道、東北、関東地方にかけての太平洋沿岸を中心に、北海道から沖縄県まで、日本海側を含む広い範囲に押し寄せた。
図表4 東日本大震災における大津波の状況
気象庁により国内の津波観測点で記録された津波の高さの最高値は、福島県相馬で9.3m以上(地震発生から1時間5分後)であり、そのほか、宮城県石巻市鮎川で8.6m以上(地震発生から40分後)等となっているが、津波により観測施設が損壊したところでは観測された以上の津波が到達した可能性もある。気象庁では、津波の痕跡等から津波の高さを調査したところ、最高では、岩手県大船渡市で16.7mと推定している。
また、岩手県宮古市の田老地区では、高さ約10mの防潮堤を越えて津波被害が広がっているほか、各種の大学や研究機関による津波被害の調査が行われ、岩手県の宮古市等で30m以上の遡上が確認されている注2ことなどから、地域によっては観測値を上回る高さの大津波が襲来し、甚大な被害につながったものと考えられる。
図表5 東日本大震災における津波の高さ
図表6 東日本大震災における各地の津波痕跡高
図表7 津波の高さについて
図表8 東日本大震災における津波の第1波、最大波の到達時刻と最大の津波の高さ
この大津波は、三陸海岸の入り江に点在する漁村集落等のまちをのみ込んだほか、我が国有数の穀倉地帯である仙台平野では海岸線から5km程度もの範囲を広く覆うなど、広域にわたり浸水被害をもたらした。また、名取川、阿武隈川等を遡上し、北上川では河口から約49kmまで水位変化したところもあった。
国土地理院が撮影した被災地の空中写真注3等に加え、現地踏査により被災状況を調査注4したところ、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の6県62市町村における浸水面積は約535km2と、東京の山手線内側の面積の約8.5倍にまで及んでおり、このうち4割超が浸水深2m以上となった。
図表9 東日本大震災における津波による浸水域
図表10 東日本大震災における市区町村別の津波浸水範囲の土地利用別面積
また、津波は、約1日かけて太平洋を広く伝播し、米国(ハワイや本土太平洋沿岸等)や南米諸国等にまで到達し、各地でも被害をもたらした注5。
図表11 東日本大震災における津波の太平洋における伝播の状況
(余震、その他の地震の頻発)
今般の本震に先立つ2日前の3月9日には、本震の震源近くの三陸沖を震源とするマグニチュード7.3、最大震度5弱(宮城県北部)の地震が発生し、その後その余震とみられる地震が継続していた。
本震後も、岩手県沖から茨城県沖にかけて、震源域に対応する長さ約500km、幅約200kmの広範囲で余震が頻発しているほか、震源域に近い海溝軸の東側でも余震が発生している。8月11日時点で、最大震度6強が2回、6弱が2回、5強が8回、5弱が27回、4が153回等となっている。4月7日には、宮城県沖を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宮城県北部・中部で最大震度6強を観測した。また、4月11日及び12日には、福島県浜通りを震源とするマグニチュード7.0、6.4の地震により、福島県浜通り等で最大震度6弱を観測した。これらの大きな余震により、死者・負傷者を出す被害が発生した。
東日本大震災の震源域では、今後も引き続き規模の大きな余震が発生するおそれがあり、強い揺れや高い津波に見舞われる可能性があるとして、気象庁では注意を呼びかけている注6。
図表12 東日本大震災における余震の状況
図表13 海域で発生した主な地震の余震回数
また、今般の巨大地震に伴って、宮城県の牡鹿半島で水平方向に5m以上の変動が観測されるなど、東北・関東・甲信越地方の広い範囲で地殻変動が生じた注7。余震域の外側の東北地方から関東・中部地方にかけて、地震活動が高まっている地域があり、今般の地震の影響である可能性がある。
そのうち、3月12日には長野県北部を震源とする地震により長野県北部で最大震度6強が観測された。また、3月15日には静岡県東部を震源とする地震が発生し、静岡県東部で最大震度6強が観測され、それぞれ負傷者や建築物、交通施設等の被害をもたらしている。
図表14 東日本大震災に伴う地殻変動
(我が国史上最悪の原子力緊急事態の発生)
今般の巨大地震は東北地方の太平洋沿岸部に立地し稼働中であった5箇所11基の原子力発電所の原子炉を緊急自動停止させる事態となった。東京電力(株)(以下、「東電」)の福島第一原子力発電所では、大津波により非常用を含む全電源が喪失し、原子炉の炉心冷却機能が停止するなど、我が国史上最悪の原子力緊急事態注8をもたらした。
この事故により周辺地域に放射性物質が放出される事態となり、国際原子力・放射線事象評価尺度注9で、チェルノブイリ事故と並び最も危険度の高いレベル7にまで至る状況となった。
東電福島第二原子力発電所における原子力緊急事態を含め、政府により、事態の推移に応じ周辺地域に対し住民の避難指示等が示されるところとなった。東電福島第一原発から半径20km圏内及び東電福島第二原発から半径10km圏内の住民は避難することとされ、また、東電福島第一原発から半径20〜30km圏内の住民については、屋内待避、その後自主避難が呼びかけられた。さらに、大震災から1ヶ月後の4月11日からは、放射性物質の積算線量が高水準の地域ではおおむね1ヶ月で計画的に避難させるなどの対応が示された。4月22日からは、東電福島第一原発から半径20km圏内が、原子力災害対策特別措置法に基づく「警戒区域」に設定され、当該区域への立ち入りは原則禁止となり、東電福島第二原発周辺の避難区域は半径8km圏内に変更された。
これらの地域及びその周辺においては、地震、津波に加え、深刻な原子力発電所事故の影響を被ることとなり、複合的な大災害の状況となった。
東電福島原発は東京圏を始めとする東電管内の電力エネルギーの15%を担っており、その事故は東京圏を始めとする地域の電力供給を支えてきた福島県の地域生活を脅かす事態となるとともに、その影響は電力供給不足という形で東京圏を始めとする地域にも及ぶところとなった。
図表15 東電福島第一原子力発電所の事故の状況
図表16 東電福島原子力発電所事故における警戒区域等
注1 気象庁は、この地震を「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」と命名した。また、4月1日の持ち回り閣議において、この地震による震災の名称は「東日本大震災」とすることとされた。
注2 東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ(
http://www.coastal.jp/ttjt/)による速報値(2011年7月5日参照)。
注3 国土地理院では、震災翌日から、災害現場の航空写真を撮影し、順次ホームページで公開したほか、浸水範囲概況図を公表するなど、震災で被災した地域の地理空間情報を速やかに提供するとともに、地殻変動の状況監視に努めた。
注4 調査結果は、現時点までに把握できた範囲のものであり、原発事故に係る警戒区域など、被災地の条件により現地調査ができていない地域については、地方自治体等からの提供資料や空中写真判読等により把握している。これらの区域では、今後、引き続き調査を行うなど、詳細な把握を進めることとしており、今後数値に変更があり得る。
注5 米国(カリフォルニア州、ハワイ州)、チリ、エクアドルでそれぞれ最大2mを超える津波が観測された。この津波により、米国カリフォルニア州で死者が1人発生したほか、係留していたヨットが転覆するなどの被害が報告されている。
注6 2004年12月26日に発生したインドネシア・スマトラ島沖地震(マグニチュード9.1)では、その後5年半の間に周辺地域でマグニチュード7以上の地震が6回発生した(M9.1の地震発生同日にM7.2、翌年7月にM7.2、2008年2月にM7.4、2009年8月にM7.5、2010年5・6月にM7.2・7.5)。
注7 国土地理院がGPS連続観測により地殻変動を分析した結果、牡鹿半島で本震発生時に東南東方向に約5.3mの移動、約1.2mの沈下がみられた。
注8 1999年の茨城県東海村のJCO臨海事故を教訓に制定された原子力災害対策特別措置法に基づき、原子力施設において、原子炉の正常な機能が失われたり、異常な放射線量に達するなどの事象が発生した場合には、直ちに内閣総理大臣に報告され、内閣総理大臣は直ちに原子力緊急事態宣言を発出するとともに、内閣総理大臣を本部長とする原子力災害対策本部を設置することとされている。
注9 国際原子力・放射線事象評価尺度(International Nuclear Event Scale:INES)は、1992年に国際原子力機関(IAEA)及び経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)において策定された原子力施設等の事故・故障等に係る事象の評価尺度。レベル0からレベル7までの8段階で設定され、最も深刻な事象であるレベル7は、計画された広範な対策の実施を必要とするような、広範囲の健康及び環境への影響を伴う放射性物質の大規模な放出が起きていることを表し、過去には1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所の事故に対して認定されている。