第2節 急がれる次なる災害への備え 

4 広域的な大規模災害による被害軽減に向けた課題

(被害状況を想定した課題解決型の対応体制の備え)
 東日本大震災においては、巨大地震、大津波に加え、原発事故が重なり、未曾有の広域・複合災害となり、次から次へと発生する事態への緊急対応が求められた。阪神・淡路大震災以降、政府の初動・危機管理体制や広域的な救急救援の支援体制、官民での各種の災害協定など、防災体制の強化が進められてきたが、とりわけ今般のような広範囲にわたる大規模災害においては、事前のハード・ソフト対策では対応できない様々な事態が発生しうることも想定し、被害が生じた中でも救われる命や暮らしを守ることを第一義に、あらかじめ緊急的、重点的に取り組むべき課題を洗い出した上で、迅速かつ効果的に対応できる体制の備えを充実していくことが求められる。
 例えば、被害状況把握や捜索救助活動での関係機関間での連携、緊急輸送網を確保するための陸海空での応急復旧への戦略的な対応、電力や鉄道等が停止することも想定した膨大な数の避難者や帰宅困難者の避難場所の確保や移動支援、広範囲に点在する避難所その他の被災者への緊急支援物資輸送や被災地の生活・経済活動の正常化を図る効率的な物流、大量の応急仮設住宅の迅速な供給のための建設用地や資材、人員の確保など、改めて今般の大震災の教訓を検証し、官民の連携・協力体制の強化を図っていく必要がある。

(災害時の命綱となる広域交通・物流ネットワークの確立)
 今般の大震災への応急対応に際して、最も求められた取組みの一つが、人命救助活動とともに、大震災で助かった命が避難生活で苦境に立たないような交通・物流ネットワークの早期確保であり、災害に強い広域的な交通・物流ネットワークの重要性が改めて認識された。
 今後発生が想定される首都直下地震や東海、東南海、南海地震においても広域にわたる甚大な被害が生じるおそれがあり、広域的な交通・物流ネットワークは災害時の命綱となる。その確保のためには、ハード面、ソフト面での総合的な対策が求められる。

 ハード面では、交通・物流を支えるインフラ施設が直接被災しないよう、重要性に応じた耐震化等の対策が急がれる。また、一部が被災した場合にもネットワークとして機能するような多重ルート(リダンダンシー)の確保を考慮に入れた総合的な交通・物流体系の形成を地域の実情に応じて進めていく必要がある。

 ソフト面においても、時々刻々変わる被災状況や被災地ニーズとあいまった物資の備蓄・調達・管理状況等の把握・共有化、陸海空の連携のとれた十分な量の輸送手段や人員等の調達等に関し、被災地における情報インフラや地方自治体自体の被災等の可能性も考慮に入れつつ、GPS等の情報通信技術の活用も含め、官民の連携体制のあり方や災害時の交通情報等の収集・提供・共有体制の充実について平常時から検討し、災害時に迅速に行動に移せる仕組みを構築していくことが求められる。

(災害に強い国土・地域構造への転換)
 これまで述べてきた様々な災害対策の見直し・強化や広域的な交通・物流ネットワークの強化と合わせて、国土や地域、まちのあり方そのものについても、改めて広域的な大規模災害に耐えうる観点からの検討が求められる。
 戦後、東日本大震災のような規模の災害が発生しなかった時代に、右肩上がりの人口の増加、急激な経済成長を背景に、災害に危険な地域に都市が拡大し、また、東京を頂点とする太平洋ベルト地帯に人口や諸機能が集中する一極一軸型の国土構造が形成されてきた。
 その一方で、今般の大震災以前において、我が国は、人口減少や少子高齢化、膨大な財政赤字、アジアの急成長等を背景とする国際競争の激化など、国土や地域を巡る社会経済環境の構造的な転換期を迎え、持続的な成長のあり方を模索する渦中にあった。
 こうした課題を踏まえ、これまでも一極一軸型の国土構造の是正が必要とされてきたが、改めて、今般の大震災を踏まえ、一極一軸型の国土構造による大災害に対する国土条件の脆弱性についての懸念も生じており、諸機能の分散、バックアップのあり方に関する検討も含め、国民の命と暮らしの安全・安心が揺らぐことがないような災害に強い国土・地域構造への再構築が求められている。

 国土全体においては、東日本大震災により甚大な被害を受けた東北地方等の復興・発展を含め、各地域の発展にも資する形で分散自立的に様々な機能の分担・補完関係が構築されることにより、日本全体として活力が高まり、災害にも強いしなやかな国土構造への再構築を更に推進していく必要がある。
 また、各地域の地域づくり、まちづくりにおいても、各種の災害対策はもとより、東日本大震災を契機として、より根本から、地域をめぐる様々な状況変化も見据えつつ、地域全体の災害リスクを低める減災の観点から、住まい方や土地利用、各種施設の空間的な配置等のあり方を見直すことも考えていく必要がある。
 国土交通省においても、津波防災まちづくりの新たな制度等により、地域が主体となった災害に強い地域づくり、まちづくりを全国で支援していくこととしている。


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