3 航空ネットワークの整備
(1)国内航空
1)現状と課題
国内航空政策においては、空港整備等のハード面の施策と規制緩和による競争促進等のソフト施策を組み合わせ、ネットワークの拡充を図っている。近年は、路線数が減少傾向、1路線当たりの年間平均運航回数が増加傾向にある。
図表II-5-1-5 航空ネットワークの推移
これは、航空会社が、路線数の量的な拡大から転換し、需要動向等を勘案し、路線の集中を図ってきているものと考えられる。このような中、路線が集中する東京国際空港(羽田)の容量拡大に伴う第1段階(22年10月の供用開始から半年後までの間)における国内線発着枠2.7万回(=1日37便)の配分については、地方航空ネットワークの維持・充実や新規航空会社の競争条件の公平性を確保する内容で行った。今後も、国民生活、経済社会活動にとって真に必要な航空輸送サービスを確保していくことが求められている。
2)国内航空ネットワークの充実のためのソフト施策
地方航空ネットワークの形成・充実を図るため、着陸料の軽減措置や発着枠の配分の工夫を行っている。東京国際空港(羽田)の発着枠の配分については、航空会社評価枠注1の評価項目に地方路線を含む全国的な航空ネットワークの形成・充実への貢献度を取り入れている。また、少便数路線(1日3往復以下の路線)を減便する場合には他の少便数路線にのみ転用を認めるほか、平成17年度以降に配分した新規優遇枠注2により運航している路線を減便する場合は、東京国際空港(羽田)の着陸料が軽減されている路線に転用する場合を除き、当該減便に係る発着枠を回収する制度を導入し、地方路線の維持を図っている。
このほか、23年度税制改正においては、航空会社の競争力強化を図るため、航空機燃料税を23年度から25年度までの3年間、現行の26,000円/キロリットルから、18,000円/キロリットルに引き下げることとされた。
(2)国際航空
1)現状と課題
我が国には、平成23年1月現在、本邦航空運送事業者(日本航空、全日本空輸グループ及び日本貨物航空)に加え、40の国・地域から計81の外国航空企業が乗り入れ、国際航空ネットワークを形成している。22年度における我が国の国際航空輸送需要は、経営再建中の日本航空が国際線を大幅に合理化した影響があったにもかかわらず、世界経済の回復基調を受け、おおむね堅調に推移した。
国際民間航空機関(ICAO)の推計によると、アジア・太平洋地域は、2005年(17年)からの20年間で年平均5.8%の航空輸送量の成長が見込まれ、2025年(37年)には世界最大の航空市場に成長するとされている。この輸送量の成長を取り込むことが、我が国の航空企業にとっての大きな課題であるとともに、成長著しいアジア地域からヒト・モノ・カネを呼び込み、持続的な成長を図ろうとしている我が国にとって非常に重要である。
2)オープンスカイ
我が国を中心とする国際航空ネットワークの強化のため、政府の「新成長戦略」に基づき、首都圏空港(羽田・成田)の容量拡大に取り組みつつ、首都圏空港を含めたオープンスカイ注3を戦略的かつ積極的に進めていくこととしたところである。
これを受けて、平成22年10月には、米国との間で首都圏空港を含むオープンスカイ第1号を実施した。今後は東アジア・ASEANの国・地域を最優先に交渉を推進することとしており、同年12月に韓国と、23年1月にシンガポールと、それぞれ首都圏空港を含めたオープンスカイについて、航空当局間で合意した。
(3)首都圏空港(成田・羽田)における国際航空機能の拡充
平成22年に、成田は約2万回、羽田は昼間約3万回と深夜早朝約3万回の計約6万回、合計約8万回の国際定期便が実現し、首都圏空港の国際線発着回数は大幅に増加した。
成田においては、同年3月以降、マカオ、アブダビ、ドバイ、カタール及びカルガリーに新規路線が開設され、この他にも世界の主要都市との間で増便が実現した。
羽田においては、同年10月より、昼間時間帯においては、近距離アジア・ビジネス路線として、ソウル、上海、北京、台北、香港に国際定期便が就航し、深夜早朝時間帯においては、バンコク、クアラルンプール等アジアの主要都市や、ロサンゼルス、サンフランシスコ、パリ等欧米の主要都市に国際定期便が就航している。また、深夜早朝時間帯及びリレー時間帯においては、貨物便の就航も可能となった。
(4)空港運営の充実・効率化
空港政策の重点を整備から運営へシフトさせ、既存ストックの活用、高質化、利便の向上を中心に取り組むため、改正「空港法」により、空港ターミナルの的確な運営を確保するための制度、空港と周辺地域・関係者の連携を強化する協議会制度等を設け、空港運営の更なる充実・効率化を図っている。
また、国土交通省成長戦略会議において、国が管理する空港の経営を抜本的に効率化するため、空港経営の一体化、民間への経営委託ないし民営化により「民間の知恵と資金」が投入される仕組みの構築を指向すべきとする方針が示された。これを踏まえて、平成22年12月に有識者による「空港運営のあり方に関する検討会」が立ち上げられ、経営一体化や民営化等の具体的手法について議論を進めているところである。
(5)空港整備の現状
1)首都圏空港の整備
東京国際空港(羽田)は、平成16年度より進められてきた再拡張事業の各施設が完成し、22年10月21日、新しい4本目の滑走路であるD滑走路及び国際線地区の各施設(旅客ターミナル、貨物ターミナル、エプロン)が供用開始され、発着枠が30.3万回から37.1万回(うち国際線は昼間・深夜早朝各3万回)に拡大した。同年10月31日からは、32年ぶりに本格的な国際定期便が就航し、「24時間国際拠点空港化」の第一歩を踏み出した。
図表II-5-1-6 東京国際空港(羽田)の再拡張概要
図表II-5-1-7 東京国際空港(羽田)の発着回数
今後は、25年度中に見込まれる国内線・国際線を含めた発着容量44.7万回への増枠及び昼間6万回+深夜早朝3万回の合計9万回への国際線枠の増枠を達成するため、エプロンの整備、国際線旅客ターミナルの拡充を着実に推進する。また、深夜早朝に就航する長距離国際線の機材の大型化に必要なC滑走路延伸等の機能向上事業を推進していく。これにより、旺盛な首都圏航空需要に対応するとともに、充実した国内線ネットワークを活かして、内・際ハブ機能を強化していく。
成田国際空港は、21年10月に北側への延伸により2,500m平行滑走路が供用開始し、22年3月には発着枠が20万回から22万回に拡大した。また、旺盛な首都圏の国際航空需要に対応するために更なる発着枠の拡大が強く求められている中、22年10月には発着枠の30万回への拡大に関する地元合意が実現した。これを踏まえ、今後は、管制方式の高度化や施設の拡充整備等により着実に発着枠を拡大し、オープンスカイを進め、アジアのハブ空港としての地位を確立していく。
図表II-5-1-8 成田国際空港の施設概要
図表II-5-1-9 成田国際空港における発着回数・旅客数
2)関西国際空港・中部国際空港の現状
関西国際空港は、平成19年の2本目の滑走路供用開始により、我が国初の完全24時間運用可能な国際拠点空港となった。しかしながら、関空会社は1.3兆円を超える負債を抱え、会社経営を圧迫していることから、国土交通省成長戦略において「バランスシートの改善による関空の積極的強化」策が示され、その具体的取組みとして、関空・伊丹の経営統合を行うこととしている。
中部国際空港では、国際ビジネスジェット格納庫の整備等を通じ利用者利便の向上を図り、更なる需要拡大に取り組んでいる。
3)一般空港等の整備
一般空港等については、ハード・ソフト施策の組合せや既存空港の有効活用を中心とした質的充実に重点を移し、滑走路新設・延長に係る新規事業については、真に必要なものに限って事業化することとしている。平成22年度は新石垣空港の滑走路移設・延長事業を実施するとともに、既存空港の機能保持のため、更新・改良等を実施している。また、抜本的な空港能力向上のため、那覇空港では現滑走路より1,310m沖側に位置する滑走路増設案について環境アセスメント手続を実施し、福岡空港では総合的な調査を踏まえ、現空港内での滑走路増設案について具体的な施設配置等の検討を実施している。
4)空港等機能高質化事業
国際競争力強化、地域競争力強化及び空港利用者の利便増進のため、空港等機能高質化事業として、旅客ターミナルの再編や整備、就航率の向上、航空物流機能の強化等を推進している。
(6)航空交通システムの整備
1)運航の効率性向上
飛行経路の複々線化による容量拡大、経路短縮による飛行時間や燃料費の削減、運航条件の改善等による空港就航率の更なる向上のため、広域航法(RNAV)を平成23年度末までに国内主要路線へ導入することとし、全国の空港・航空路への設定を順次進めており、22年10月より高々度をRNAV専用とするスカイハイウェイを実施している。また、訓練空域の弾力的な運用を進めるとともに、交通流や交通量の予測や制御精度の向上等、航空交通管理(ATM)センターの機能を充実・強化し、きめ細かな交通管理を行うことで、全国の航空路の混雑緩和や空中待機の減少を図っている。
2)新たな航空交通システムの構築
長期的に増大が見込まれる航空交通需要や多様化するニーズへの対応が求められているとともに、ICAOや欧米において、世界的に相互運用性のある航空交通管理(ATM)に関する長期計画が取りまとめられていることから、我が国においても、2025年(平成37年)を見据えた将来の航空交通システムに関する長期ビジョンCARATS注4を策定した。CARATSにおいては、高度な統合されたシステムにより出発から到着までの航空機の軌道を最適化する航空交通管理への変革を中核としており、平成22年度はCARATSの実現に向けたロードマップ等について産学官の関係者で検討を進めた。
注1 航空会社の事業活動について一定の評価項目による評価を基に配分する発着枠
注2 新規航空会社の参入促進又は事業拡大に優先的に配分する発着枠
注3 航空会社の新規参入や増便、航空会社間の競争促進による運賃低下等のサービス水準の向上を図るため、国際航空輸送における企業数、路線及び便数に係る制約を二国間で相互に撤廃することをいい、近年、世界の多くの国がこれを進めている。
注4 Collaborative Actions for Renovation of Air Traffic Systems