第3節 産業の活性化 

8 建設産業の活力回復

(1)建設産業の現状
 建設産業は、国民生活に不可欠な住宅・社会資本の整備・維持管理、除雪や災害発生時の対応等、地域の経済・社会を支える役割を果たしており、国内総生産・全就業者数の約1割を占める基幹産業の一つである。しかしながら、建設投資の急激な落ち込み、価格競争の激化といった課題に直面し、建設産業を取り巻く環境はかつてないほど厳しい状況にある。
 
図表II-5-3-13 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移
図表II-5-3-13 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移
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(2)建設産業戦略会議の開催
 我が国の建設産業は、建設投資の減少等により厳しい状況に直面しており、地域の災害対応等が困難になるなど、様々な問題が指摘されている。このような状況を踏まえ、建設産業戦略会議を平成22年12月に開催し、23年1月に「建設産業の再生と発展のための方策に関する当面の基本方針」を取りまとめた。同基本方針においては、I.地域社会の維持に不可欠な建設企業の再生、II.建設生産を支える技能・技術の承継の確保、III.大手・中堅企業による技術力・事業企画力の発揮、IV.過剰供給構造の是正の4つの方針を掲げている。また、建設産業の現状等について定量的な分析を行いつつ、具体策の検討を進めており、今後、建設産業の再生と発展のための方策について取りまとめる予定である。

(3)公正な競争基盤の確立
 建設投資が急激に減少する中で「技術力・施工力・経営力に優れた企業」が生き残り、成長するための競争を実現するためには、建設業者における法令遵守の徹底を始めとする公正な競争基盤の確立が重要である。このため、従来より、下請取引等実態調査や立入検査等の実施、建設工事の請負契約を巡るトラブル・苦情等の相談窓口「建設業取引適正化センター」の設置等により、建設業における元請・下請間の取引の適正化に取り組んでいる。また、平成22年度には建設業の適正取引を推進するための「建設業取引適正化推進月間」(11月)を創設し、更なる法令遵守の徹底に向けた取組みを推進している。

(4)建設業への金融対策
1)地域建設業経営強化融資制度
 地域建設業経営強化融資制度は、元請建設企業が、公共工事請負代金債権を担保に事業協同組合等又は一定の民間事業者から工事の出来高に応じて融資を受けられるとともに、出来高を超える部分についても、保証事業会社の保証により金融機関から融資を受けることが可能となるものであり、これにより元請建設企業の資金繰りの円滑化と金利負担等の軽減を図っている。
 本制度は平成20年11月から実施しているが、22年12月には、対象工事に病院、福祉施設、PFI等の公共性のある民間工事を追加した上で、事業期間を22年度末から23年度末まで延長した。
 
図表II-5-3-14 地域建設業経営強化融資制度
図表II-5-3-14 地域建設業経営強化融資制度

2)下請債権保全支援事業
 下請債権保全支援事業は、ファクタリング会社が、下請建設企業等が元請建設企業に対して有する工事請負代金等債権の支払を保証する場合に、保証時における下請建設企業等の保証料負担を軽減するとともに、保証債務履行時のファクタリング会社の損失を補償することにより、積極的な債権の支払保証を促進する事業である。
 本事業は平成22年3月に創設されたが、同年12月には、保証の対象となる元請建設企業に係る要件を大幅に緩和した上で、事業期間を22年度末から23年度末まで延長した。
 
図表II-5-3-15 下請債権保全支援事業
図表II-5-3-15 下請債権保全支援事業


(5)ものづくり産業を支える「人づくり」の推進
 建設産業は、技術者・技能者がその能力をいかに発揮するかによって生産の成否が左右されるものであり、「人」が支える産業である。しかし、厳しい雇用環境の中、建設産業就業者の高齢化は急速に進展しており、建設技術・技能の承継を円滑に推進するためには、現場における施工効率や品質の向上に寄与する人材を育成・評価することで建設業の魅力を高めることが必要である。
 このため、作業管理・調整能力等を有し、基幹的な業務に従事する登録基幹技能者の確保・育成・活用を推進している。登録基幹技能者数は、平成23年1月末現在で27,397人(27職種)となり、経営事項審査における加点評価や公共工事における総合評価落札方式(試行工事)における活用等を実施している。
 また、地域の建設業界と工業高校等が連携して行う、建設技術者・技能者による生徒・教員への実践的指導等の取組みを支援し、その成果の普及を図ることで、若年者の建設業への就労を推進している。

(6)建設産業の振興
 平成22年度補正予算事業として、建設企業が連携の強化を図り、技能者等を新規に雇用することにより、維持管理、エコ建築、耐震、リフォーム等の成長が見込まれる市場の開拓を図る事業を支援するため、「建設企業の連携によるフロンティア事業」を創設した。また、農林業、観光分野等の団体や地方公共団体との連携により、地域活性化や新事業展開を図ろうとする建設企業を支援する「建設業と地域の元気回復助成事業」を引き続き実施した。
 さらに、中小・中堅建設企業の新分野進出や経営革新、経営基盤強化の取組みを円滑化するため、関係省庁とも連携して、必要な情報の提供や経営相談を一元的に実施するワンストップサービスセンターを各都道府県に設置している。特に、建設企業の成長分野展開については、中小企業診断士等のアドバイザーによる相談回数を増やすなど、相談体制の充実を図っている。
 そのほか、建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)については、建設コンサルタント登録規程等における技術者要件の見直しや暴力団排除・指導監督強化により、建設関連業の登録制度の適切な運用を図り、優良な建設関連業の育成と健全な発展に努めている。

(7)建設機械の現状と建設生産技術の発展
 我が国における建設機械の保有台数は、平成19年度で約92万台注1であり、建設機械の購入台数における業種別シェアにおいては、リース・レンタル業が約58%、建設業が約17%となっている。
 なお、建設業における死亡災害のうち、建設機械等によるものは約16%を占め、近年では建設機械の技術進歩により事故原因注2も変化している。このため、建設機械施工安全技術指針の改定、建設機械施工安全マニュアルの策定等を行い、建設機械施工の安全対策を推進している。
 また、建設業の諸課題(低い生産性、熟練労働者不足、施工品質の確保等)を解決し、ICT(情報通信技術)を活用した革新的な施工技術である情報化施工の普及促進を図るため、「情報化施工推進戦略」に基づき、現在、普及の課題となっている施工管理基準等の整備や設計データの標準化を行うなど、受発注者間の環境整備に取り組んでいる。

(8)建設工事における紛争処理
 建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。平成22年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では40件(仲裁6件、調停25件、あっせん9件)、都道府県建設工事紛争審査会では112件(仲裁19件、調停64件、あっせん29件)となっている。


注1 主な機種:油圧ショベル約655千台、車輪式トラクタショベル約153千台、ブルドーザ約48千台
注2 建設機械の安全装置(過負荷防止装置等)や補助装置(クレーン機能等)の不適切な使用等による事故等


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