第2節 持続可能で活力ある国土・地域づくりの推進 

第2節 持続可能で活力ある国土・地域づくりの推進

 我が国は、人口減少、少子高齢化、財政制約、国際競争の激化に加え、地球環境問題や震災を契機としたエネルギー制約に直面している。これらの課題を克服し、我が国の明るい将来を築くため、持続可能で活力ある国土・地域づくりを推進することが不可欠である。そのための基本方針として、「4つの実現すべき価値、8つの新たな政策展開の方向性」を平成23年11月に取りまとめた。国土交通省がもつ現場力、統合力、即応力を最大限に発揮して、タテ(現場業務から制度論まで)、ヨコ(分野の多様性)、ソト(他府省との連携)への広がりをもった施策を展開している。
 
図表196 4つの実現すべき価値、8つの新たな政策展開の方向性

図表196 4つの実現すべき価値、8つの新たな政策展開の方向性

 今回の国民意識調査においては、持続可能な国土・地域づくりについて大事だと思うことについて、「災害に強い住宅・地域づくり」を選択した者が最多で53.5%、その後、地域の集約化(42.3%)、地球温暖化対策(40.0%)が続いている。
 
図表197 持続可能な国土・地域づくりで大事だと思うこと

図表197 持続可能な国土・地域づくりで大事だと思うこと
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 国土交通省としては、「国民の安全・安心を守る」という社会資本整備の最も重要な使命を再認識するとともに、震災を契機としたエネルギー制約等の困難な課題にも対応した、「持続可能で活力ある国土・地域づくり」に取り組んでいかなければならない。

(都市の低炭素化の促進に関する法律案)
 東日本大震災を契機とするエネルギー需給の変化や国民のエネルギー・地球温暖化に関する意識の高揚等を踏まえ、市街化区域等における民間投資の促進を通じて、都市・交通の低炭素化・エネルギー利用の合理化等の成功事例を蓄積し、その普及を図るとともに、住宅市場・地域経済の活性化を図ることが重要となっている。このような状況を背景として、「都市の低炭素化の促進に関する法律案」を平成24年2月、第180回国会に提出した。同法案の主な内容は以下のとおりである。
1) 都市機能の集約化と公共交通機関の利用促進等
 今日の我が国は、人口減少局面にもかかわらず、低密度に都市の拡散が進行している状況も見られる。特に地方都市では、自家用車への依存が高まっており、バスをはじめとする公共交通機関の利用の減少・サービス水準の低下が進んでいる。このような状態は、自家用車を利用できない者には不便を強いるものであり、今後の一層の高齢化をかんがみると、都市機能の集約と公共交通機関の利用促進対策が課題である。
 本法案においては、集約都市開発事業(民間による都市機能の集約を図る事業)を市町村長が認定する制度を創設するとともに、バス路線の新設、鉄道駅の整備等により公共交通機関の利用促進を図る事業を認定する制度を創設して、過度に自家用車に依存しない都市の構造への転換を目指したまちづくりを推進するものである。
2) 緑の管理・未利用エネルギーの利用等の促進
 都市の低炭素化を進めるため、建築物や自動車の省エネルギー性能の向上とともに、温室効果ガス吸収源としての緑地の保全や緑化の推進、下水熱等の未利用エネルギーの有効活用、都市公園や港湾等の空間スペースを活用した太陽光パネル、蓄電池等の設置による再生可能エネルギーの活用を進める必要がある。
 このため、本法案では、樹林地等に係る管理協定制度の特例措置、民間事業者による下水の取水許可の特例措置を設けるとともに、都市公園や港湾における占用許可の特例措置等を設けている。
3) 建築物の低炭素化
 建築物の省エネルギー性能は、エネルギー消費を通じ、民生部門(家庭部門及び業務部門)のCO2排出量に長期にわたり大きな影響を与える。このため、本法案では、建築物の低炭素化を促進するため、優れた省エネ性能等を有する低炭素建築物の認定制度を創設するものとする。
 認定を受けた建築物に対しては、税制特例や容積率の特例等のインセンティブを付与し、その取得等を支援する。
 
図表198 都市の低炭素化の促進に関する法律案

図表198 都市の低炭素化の促進に関する法律案

(中古住宅・リフォーム市場の環境整備)
 住宅市場については、これまでの新築中心の住宅市場から、リフォームにより住宅ストックの品質・性能を高め、中古住宅流通により循環利用されるストック型の住宅市場に転換することを目指すべきである。
 中古住宅は新築住宅以上に物件ごとの品質等に差があると考えられることから、物件の品質・価格に関する情報、他物件との比較が可能となるような情報等が消費者に提供される必要がある。また、多くの消費者の中古住宅に対する不安は、その品質が分からないことにあり、消費者が住宅の品質に関する客観的な情報を把握し、良質な住宅の選択が可能となる環境の整備を図ることが重要である。
 リフォームについても、専門知識や経験の少ない消費者が、リフォーム内容の検討やリフォーム事業者の選定等を適切に行うことが可能となるよう、リフォームの工事費用、事業者の施工実績や評判等に関する情報が提供される必要がある。また、消費者が自らのニーズに合った適切なリフォームを行うことができるよう、リフォームの進め方やその効果・メリットについて周知を図るほか、リフォームに係るトラブルの防止とトラブル時の消費者支援を図ることが重要である。
 また、既存の住宅ストックの質の向上により、住宅の選択の幅を広げるため、既存住宅ストックの質の向上に資するリフォーム等に対して支援を行うほか、長期優良住宅制度の改善等により質の高い住宅への既存住宅の改修を促進し、市場において流通しやすくする必要がある。また、人口減少・高齢化の中で、老朽化による維持管理が問題となるおそれの高い、マンション、民間賃貸住宅及び高齢者の持家について、その適切な維持管理や有効活用に向けた取組みを進めることやライフサイクルに応じた住み替えの促進が重要である。
 さらに、消費者の多様なニーズに対応できる中古住宅・リフォームの提供体制の整備を図るため、宅地建物取引業者のコンサルティング能力や中小建設事業者の技術力等の向上を支援するとともに、事業者の対等な関係の構築を図りつつ、多様な業種の事業者の参入・連携等の取組みを促進する。また、中古住宅の品質等を適切に把握するための検査技術やリフォームのコストダウン等のための建材・工法等の開発を促進する。
 住宅は、生活の基盤であるとともに、都市や街並みの重要な構成要素であり、その資産価値の維持・向上は、建物としての性能や品質の向上とともに、住生活を支えるサービスも含めた良好な住環境や美しい街並みとあいまって実現される。このため、市街地の安全性・防災性を確保しつつ、良好な住環境の整備や美しい街並みの整備を図ることが重要である。
 これらの観点から、中古住宅流通・リフォーム市場の整備に向け、1)「中古住宅流通市場の環境整備」、2)「リフォーム市場の環境整備」、3)「既存住宅ストックの質の向上の促進」、4)「中古住宅流通・リフォーム市場の担い手の強化」、5)「住環境・街並みの整備」の5つの施策の柱に沿って、それぞれの取組みを総合的に推進し、新成長戦略に盛り込まれた2020年(平成32年)までに中古住宅流通・リフォーム市場の規模倍増(20兆円)の目標の実現を目指す。
 
図表199 中古住宅・リフォームトータルプランの概要

図表199 中古住宅・リフォームトータルプランの概要

(自動車と家庭・業務の省CO2・省エネルギー管理の一体的推進)
 自動車と家庭・業務の省CO2・省エネルギー管理の一体的推進を図るため、自動車のエネルギー消費と家庭・業務のエネルギー消費を一体的に管理する省エネシステムの開発等を支援する。これにより、EV等(電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、超小型モビリティ)の普及や自動車と家庭・業務の合理的な省CO2・省エネ対策の一体的な推進につなげるものとする。
 
図表200 自動車と家庭・業務の省CO2・省エネルギーの一体的推進

図表200 自動車と家庭・業務の省CO2・省エネルギーの一体的推進

(学校の復興とまちづくりの連携の推進)
 学校と地域づくりとの関わりの深化、環境への配慮及び防災対策等の観点から、東日本大震災により被災した学校の復興とまちづくりの連携を強化・推進する。具体的には、文部科学省、農林水産省と連携し、地域・学校の安全・安心な立地の確保、学校施設と公益的施設との複合化、ゼロ・エネルギー化・木質化等を推進するエコスクールの整備、地域の防災・避難拠点の整備等を推進する。
 
図表201 学校の復興とまちづくり(復興のイメージ)

図表201 学校の復興とまちづくり(復興のイメージ)

(サービス付き高齢者向け住宅の供給促進)
 我が国においては、高齢化が急速に進む中で、高齢の単身者や夫婦のみの世帯が増加しており、介護・医療と連携して、高齢者を支援するサービスを提供する住宅を確保することが極めて重要である。平成23年10月、厚生労働省と共管の制度として、都道府県・政令市・中核市の長への登録制度である「サービス付き高齢者向け住宅制度」を新たに創設し、その供給促進のために、民間事業者等に対し、補助・税制・融資による支援を行っている。
 公的な事業主体においても本制度の活用に向けた検討が具体化している。例えば、東京都の住宅供給公社では、地域における高齢者や待機児童の増加という状況に対応するため、団地の建替えを機に、介護関連施設や保育所等の誘致と合わせて、高齢者向け賃貸住宅の供給を行う方針を明らかにしている。

事例:向原住宅(東京都板橋区)
 住宅団地の建替えにより創出した用地において、約50戸のサービス付き高齢者向け住宅の整備を行う予定。
事業予定地:東京都板橋区向原
予定事業期間:平成24〜25年度
敷地面積:5.3ha
管理戸数:840戸
 


 

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