第1節 交通ネットワークの整備 

3 航空ネットワークの整備

(1)オープンスカイの推進
1)国際航空を巡る現状と課題
 我が国には、平成24年1月現在、本邦航空運送事業者(日本航空(株)、全日本空輸(株)グループ及び日本貨物航空(株))に加え、38の国・地域から計82の外国航空企業が乗り入れ、国際航空ネットワークを形成している。23年度における我が国の国際航空輸送需要は、東日本大震災後一時的に減少したものの、その後は回復に向かった。
 国際民間航空機関(ICAO)の推計によると、アジア・太平洋地域は、平成17年からの20年間で年平均5.8%の航空輸送量の成長が見込まれ、平成37年には世界最大の航空市場に成長するとされている。この輸送量の成長を取り込むことが、我が国の航空企業にとっての大きな課題であるとともに、成長著しいアジア地域からヒト・モノ・カネを呼び込み、持続的な成長を図ろうとしている我が国にとって非常に重要である。

2)オープンスカイの推進
 我が国を中心とする国際航空ネットワークの強化のため、政府の「新成長戦略」に基づき、首都圏空港(羽田・成田)の容量拡大に取り組みつつ、首都圏空港を含めたオープンスカイ注1の枠組みの構築を、東アジア、ASEANの国・地域を最優先に推進してきたところであり、これまでに米国、韓国、シンガポール、マレーシア、香港、ベトナム、マカオ、インドネシア、カナダ、オーストラリア、ブルネイ、台湾、英国、ニュージーランド及びスリランカの計15箇国・地域との間でオープンスカイに合意した(平成24年3月現在)。
 今後も引き続き、その対象をアジア、欧州をはじめとする世界の各国・地域へと拡大し、国際航空ネットワークの一層の拡充を図っていく。

(2)国内航空ネットワーク
1)国内航空を巡る現状と課題
 国内航空政策においては、空港整備等のハード面の施策と規制緩和による競争促進等のソフト施策を組み合わせ、ネットワークの拡充を図っている。近年は、路線数が減少傾向、1路線当たりの年間平均運航回数が増加傾向にある。これは、航空会社が路線数の量的な拡大から転換し、需要動向等を勘案し、路線の集中を図ってきているものと考えられる。
 このような中、路線が集中する東京国際空港(羽田)の容量拡大に伴う第1段階(22年10月の供用開始から半年後までの間)における国内線発着枠2.7万回(=1日37便)について、地方航空ネットワークの維持・充実や新規航空会社の競争条件の公平性を確保する内容で配分を行った。今後も、国民生活、経済社会活動にとって真に必要な航空輸送サービスを確保していくことが求められている。
 
図表II-5-1-5 航空ネットワークの推移

図表II-5-1-5 航空ネットワークの推移
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2)国内航空ネットワークの充実のためのソフト施策
 地方航空ネットワークの形成・充実を図るため、着陸料の軽減措置や発着枠の配分の工夫を行っている。
東京国際空港(羽田)の発着枠の配分については、航空会社評価枠注2の評価項目に地方路線を含む全国的な航空ネットワークの形成・充実への貢献度を取り入れている。また、少便数路線(1日3往復以下の路線)を減便する場合には他の少便数路線にのみ転用を認めるほか、平成17年度以降に配分した新規優遇枠注3により運航している路線を減便する場合は、東京国際空港(羽田)の着陸料が軽減されている路線に転用する場合を除き、当該減便に係る発着枠を回収する制度を導入し、地方路線の維持を図っている。
 このほか、23年度税制改正においては、航空会社の競争力強化を図るため、航空機燃料税を23年度から25年度までの3年間、現行の26,000円/キロリットルから、18,000円/キロリットルに引き下げた。

(3)空港運営の充実・効率化
 空港政策の重点を整備から運営へシフトさせ、既存ストックの活用、高質化、利便の向上を中心に取り組むため、「空港法」により、空港ターミナルの的確な運営を確保するための制度、空港と周辺地域・関係者の連携を強化する協議会制度等を設け、空港運営の更なる充実・効率化を図っている。

(4)空港整備の現状
1)首都圏空港の整備
 東京国際空港(羽田)は、再拡張事業によるD滑走路及び国際線地区の供用開始(平成22年10月)から約1年半が経過し、発着枠が39万回(昼間35万回+深夜早朝4万回、24年3月時点)まで拡大した。
 今後も新成長戦略等に基づき、引き続き24時間国際拠点空港化を着実に推進していくために、国際線9万回への増枠に必要な国際線地区の拡充、発着枠44.7万回への増枠に必要なエプロン等の整備、長距離国際線の輸送能力増強に必要なC滑走路延伸事業等を着実に推進していく。こうした取組みを通じ、昼間においてもアジア長距離や欧米を含む高需要・ビジネス路線を展開することで、旺盛な首都圏航空需要に対応するとともに、充実した国内線ネットワークを活用した内・際ハブ機能を強化していく。
 
図表II-5-1-6 東京国際空港(羽田)の主要整備事業

図表II-5-1-6 東京国際空港(羽田)の主要整備事業

 成田国際空港は、23年10月から同時平行離着陸方式が開始されるとともに、年間発着枠が22万回から23.5万回に、24年3月には、25万回まで拡大した。また、23年10月に、ビジネスジェット専用駐機場が増設されるとともに、発着枠及び駐機場の空き情報のウェブでの開示が開始された。さらに、24年3月には、ビジネスジェット専用ターミナルが整備された。
 
図表II-5-1-7 東京国際空港(羽田)の発着可能回数(昼間時間帯)

図表II-5-1-7 東京国際空港(羽田)の発着可能回数(昼間時間帯)
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図表II-5-1-8 成田国際空港の施設概要

図表II-5-1-8 成田国際空港の施設概要

 今後も、地元合意を踏まえ、年間発着枠を24年度中に27万回まで拡大するとともに、27万回実現と併せて、オープンスカイを推進していく。さらに、最短で26年度中に30万回まで拡大するとともに、更なる国際ネットワークの強化、国内フィーダー路線の拡充、24年度の早い時期でのビジネスジェットの発着枠及び駐機場の使用申請のウェブ化、LCC注4の受入体制を強化することにより、アジア有数のハブ空港としての地位を確立していく。
 
図表II-5-1-9 成田国際空港における発着回数・旅客数

図表II-5-1-9 成田国際空港における発着回数・旅客数
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2)関西国際空港・中部国際空港の現状
 関西国際空港は、平成19年8月に2本目の滑走路を供用開始し、我が国初の完全24時間運用可能な国際拠点空港となった。現在、我が国初の本格的LCCであるPeach Aviation(ピーチアビエーション)(株)等の需要に対応すべく、LCCターミナル及び駐機場等の整備が進められている。これらの取組みを通じて、引き続き、国際競争力の強化を図っていく。
 中部国際空港は、17年の供用開始以後、民間主導の効率的な空港運営の利点や内・際乗継の便利さを活かし、低コストで利便性の高いサービスの実現に向け取り組むとともに、将来の完全24時間化を見据え、地元関係者を中心に、一層の利用拡大に取り組んでいる。

3)一般空港等の整備
 一般空港等については、ハード・ソフト施策の組合せや既存空港の有効活用を中心とした質的充実に重点を移し、滑走路新設・延長に係る新規事業については、真に必要なものに限って事業化することとしている。平成23年度は新石垣空港の滑走路移設・延長事業を実施するとともに、既存空港の機能保持のため、更新・改良等を実施している。また、抜本的な空港能力向上のため、那覇空港では現滑走路より1,310m沖側に位置する滑走路増設案について環境アセスメント手続を実施し、福岡空港では総合的な調査を踏まえ、現空港内での滑走路増設案について具体的な施設配置等の検討を実施している。
4)空港等機能高質化事業
 国際競争力や空港後背地域の地域競争力強化のため、既存ストックを活用し、空域・航空路の抜本的な再編等による空港等の機能高質化を推進している。

(5)航空交通システムの整備
1)新たな航空交通システムの構築
 長期的に増大が見込まれる航空交通需要や多様化するニーズへの対応が求められているとともに、国際民間航空機関(ICAO)や欧米において、世界的に相互運用性のある航空交通管理(ATM)に関する長期計画の検討が進められていることから、我が国においても、平成37年を見据えた将来の航空交通システムに関する長期ビジョンCARATS注5を策定した。CARATSは、高度に統合されたシステムにより出発から到着までの航空機の軌道を最適化する航空交通管理への変革を中核としており、23年3月にはその実現に向けたロードマップも策定した。23年度は、CARATSの実現に向けた取組みとして、産学官の連携の下、ロードマップに記載された具体的な施策の導入計画や費用対効果分析手法等の検討を行った。
 具体的には、飛行経路の複々線化による容量拡大、経路短縮による飛行時間や燃料費の削減、運航条件の改善等による空港就航率の更なる向上のため、広域航法(RNAV)を23年度末までに国内主要路線へ導入し、引き続き、より高規格なRNAVや小型航空機用のRNAVの導入・展開について検討を進めている。また、一時的な水平飛行を行うことなく継続的な上昇・降下が可能となる運航方式の導入・展開や、管制官とパイロットの間の定型的な通信のデータリンクを使用した自動化、平行滑走路における監視能力の向上等のための検討も実施している。その他、情報管理や航空気象に係る施策の検討も進めている。

2)首都圏空港の容量増大への対応
 首都圏空港・空域の容量拡大による航空交通サービスの充実を図るため、東京国際空港(羽田)においては、平成22年10月より4本の井桁配置の滑走路を使用し、他の滑走路に離発着する航空機の間隙を縫って航空機の離発着を行うといった、これまでと全く異なる運用方式を導入しており、今後は年間44.7万回の発着容量の実現に向け、新たな運用方式の慣熟を着実に進めていく。
 成田国際空港においても、年間30万回の発着容量の実現に向け、現行の2本の滑走路を前提としつつ、騒音影響区域を広げずに発着能力を拡大するため、我が国では初、世界的にも例の少ない同時平行離陸方式を23年10月より導入しており、今後は新たな運用方式の慣熟を着実に進めていく。


注1 航空会社の新規参入や増便、航空会社間の競争促進による運賃低下等のサービス水準の向上を図るため、国際航空輸送における企業数、路線及び便数に係る制約を二国間で相互に撤廃することをいい、近年、世界の多くの国がこれを進めている。
注2 航空会社の事業活動について一定の評価項目による評価を基に配分する発着枠
注3 新規航空会社の参入促進又は事業拡大に優先的に配分する発着枠
注4 ローコストキャリアー:格安航空会社
注5 Collaborative Actions for Renovation of Air Traffic Systems

 

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