第4節 交通分野における安全対策の強化 

1 公共交通機関における安全管理体制の構築・改善

 平成17年上半期に公共交通機関において多発したヒューマンエラーに起因すると見られる事故・トラブルを受け、「運輸の安全性の向上のための鉄道事業法等の一部を改正する法律(運輸安全一括法)」に基づき、陸・海・空の運輸事業者に対し、「安全管理規程」の作成・届出、「安全統括管理者」の選任・届出等が義務付けられている。これにより、経営トップ主導により現場までが一丸となった安全管理体制を事業者が構築し、国がその実施状況を確認する「運輸安全マネジメント評価」を行う運輸安全マネジメント制度が導入されている。この制度は、品質管理に関する国際規格であるISO9001等のマネジメントシステムで推奨される事項等を参考にしており、安全最優先の方針の下、経営トップ主導によって構築した安全管理体制を国が評価し、輸送の安全のための取組みをPDCAサイクルによって継続的に向上させるもので、従来からの保安監査と車の両輪として実施することにより、公共交通機関等のより一層の安全の確保を図ろうとするものである。
 
図表II-6-4-1 運輸安全マネジメント評価の実施イメージ

図表II-6-4-1 運輸安全マネジメント評価の実施イメージ

 22年10月から23年9月末までに、運輸安全マネジメント評価を延べ1,415社(鉄道158社、自動車97社、海運1,147社、航空13社)に対して実施した。制度導入後、これまでに実施した評価結果を総括したところ、事業者の運輸安全マネジメントに係る取組みは大きく変化し、社内における情報伝達やコミュニケーションの充実、事故やヒヤリ・ハット情報の収集・活用の促進、教育・訓練の充実等について特に顕著な改善が見られ、本制度導入による効果が現れてきている。このような取組みを一層効果的なものとするため、運輸事業者に対するセミナーの地方展開及び運輸安全取組事例の情報収集の強化等運輸安全情報発信の充実を図っている。
 
図表II-6-4-2 大手事業者における運輸安全マネジメント制度の導入効果(平成22年10月〜平成23年9月)

図表II-6-4-2 大手事業者における運輸安全マネジメント制度の導入効果(平成22年10月〜平成23年9月)
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 22年度に行った政策レビュー等を踏まえ、運輸審議会運輸安全確保部会での審議を経て、23年12月に「運輸の安全確保に関する政策ビジョン」を公表した。この政策ビジョンにおいては、今後の国の安全確保政策の方向性として、1)依然として啓発・普及の必要性が高い中小事業者については、従前からの第三者認証機関による安全マネジメント評価実施に加えて、啓発普及活動の段階において、保険会社等の民間リスク管理ビジネスとの連携推進、2)大手・中堅事業者に対しては、運輸安全マネジメント評価において事業者の取組内容の実効性・有効性に重点を置くとともに、各交通モードの担当局による安全監査においても安全管理規程が現場で実際に機能しているのかという視点により重点を置くこと等を通じて、事業者による安全管理の実効性の確保3)マネジメント評価を行う人材についての職員育成プログラムの強化等の検討、の三点について示しており、今後はこれらの取組みを進めることで、安全確保政策の更なる高度化・深化を目指すこととしている。

 

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